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夜明けのソラの契承者 封印楽園都市  作者: やたか なつき
二章
26/34

12


 星空を頂く庭園で、大きくもなく小さくもない円卓を三人の男女が囲んでいた。

一人は、荘厳なドレスを纏った白い少女。ヴェールで隠された相貌からは、思うところを伺い知ることはできないが、薄く覗く唇は怪しい微笑みを湛えている。

一人は、軍服を着こなす若い女性武官。こちらも少女と表していい程に年若くみえるが、身に纏う空気に幼さはない。冷静であることを印象づけるように表情は動かない。

一人は、スタンドカラーの黒いジャケットを身に纏った青年男性。やや困ったように口元を綻ばせているが、一方で、その様子には底の知れない余裕があった。

三者三様ではあるが、皆、それなりにくつろいでいる。

それぞれの特徴的な服装を無視すれば、気心の知れた若者たちが、有閑を燻らせているように視えなくもない。

 だが、それを許す環境ではない。

時折、現れては消える給仕の所作は、恭しく厳かである。

食卓、椅子、食器。

整然として並ぶ調度は、そのことごとくが洗練されており、場が特別であるとことを静かに主張している。

何より、ここに仰ぐ星座は、地球から観測できるものではない。

「またお会いすることができ嬉しく思います。陛下」

「こうして言葉を交わすのは暫くぶりであったな」

 黒い男の言葉に、陛下と呼ばれた少女が答える。

少女こそ、この御座船の主であり、リムスベルト帝国の全てを支配する皇帝アイリスフィアである。

「その後、お身体は?」

「すこぶる健康だ。卿に陵辱されたお陰でな」

「はは、お手柔らかに」

「胸の傷も残っておらぬ。確かめるか?」

「それは、またの機会に」

 アイリスの挑発的な言葉を、黒い男は軽やかに躱す。

一方で、反応してしまったのは、軍服の女性である。

一瞬、真顔になり、そして、取り繕うように、手元のティーカップに手を伸ばす。

わかりやすい。

「クノス、どうかしたか?」

「いえ、陛下」

 アイリスは優しくない。

しっかりと追い込んでいく。

クノスと呼ばれた、軍服の女性武官は平静を装う。

装うが、その耳は微かに色づいていた。

「では、話を始めようか」

 アイリスが指先で小さく合図を送ると、控えていた給仕たちが、そそと引き払っていく。

給仕であり、護衛である女官が、こういった状況で、皇帝の傍から離れるのは異例である。

「お心遣いありがとうございます」

「なに、余は包み隠さず話してもらいたい。

その環境を整えただけのことだ」

 言うまでもなく、その前提として、アイリスは黒い男を信頼していた。

ついでに言えば、護衛がどれだけ控えていようと、意味がないことも知っていた。

それは女官らも知るところであり、それ故に、抵抗はなかった。

「誰かしら連れてくるやもと考えたが、一人か」

「せめて我々の存在に気づいてもらってからではないと」

 黒い男は、どこか困ったように嘯くが、そこに容赦はない。

まだ参加する資格はないと暗に告げていた。

「なかなかに手厳しいな」

「それに、私も、地球人類ですからね。一応は」

「一応か、では」

 アイリスは、それを質すべきかを考え直し、言葉を接ぐ。

「いや、何でもない」

「そうですか、とにかく、私は、兼任ということで、ご理解ください」

 太陽系には、三つの文明国家が存在しており、この会議には三人の出席者がいる。

だが、それぞれが異なる文明の代表者として、出席しているわけではなかった。

アイリスとクノスは、それぞれリムスベルト帝国の皇帝とその補佐として、ここにいる。

黒い男は、古代宇宙文明の遺産を継ぐ契承者として、そして、地球人類文明の自称管理者として、ここにいる。

 自称管理者という言葉は、伊達ではない。

地球人類は、誰の助けを借りることなく、自身の足だけで歩んでいると信じている。

黒い男の顔を知る者はいない。

黒い男の名がソウマであると知る者はいない。

 大国を動かす政治指導者。金融システムを支配する大資本家。信仰を触媒として崇拝される宗教家。

地球人類を実質的に支配している者たちの姿は、ここにはない。

まだ、彼らは、地球というゆりかごの中で眠っている。

「この日が楽しみで、仕事も手につかなかった。

眠れない日々が続いたほどだ。

聞かせてくれるのだろうな?」

 アイリスは、挑むように告げ、妖しく微笑みかける。

「ええ、そのために集まったのですから」

 ソウマは、穏やかに、静かに応じた。

その表情に、確かな決意が滲んでいた。

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