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星空を頂く庭園で、大きくもなく小さくもない円卓を三人の男女が囲んでいた。
一人は、荘厳なドレスを纏った白い少女。ヴェールで隠された相貌からは、思うところを伺い知ることはできないが、薄く覗く唇は怪しい微笑みを湛えている。
一人は、軍服を着こなす若い女性武官。こちらも少女と表していい程に年若くみえるが、身に纏う空気に幼さはない。冷静であることを印象づけるように表情は動かない。
一人は、スタンドカラーの黒いジャケットを身に纏った青年男性。やや困ったように口元を綻ばせているが、一方で、その様子には底の知れない余裕があった。
三者三様ではあるが、皆、それなりにくつろいでいる。
それぞれの特徴的な服装を無視すれば、気心の知れた若者たちが、有閑を燻らせているように視えなくもない。
だが、それを許す環境ではない。
時折、現れては消える給仕の所作は、恭しく厳かである。
食卓、椅子、食器。
整然として並ぶ調度は、そのことごとくが洗練されており、場が特別であるとことを静かに主張している。
何より、ここに仰ぐ星座は、地球から観測できるものではない。
「またお会いすることができ嬉しく思います。陛下」
「こうして言葉を交わすのは暫くぶりであったな」
黒い男の言葉に、陛下と呼ばれた少女が答える。
少女こそ、この御座船の主であり、リムスベルト帝国の全てを支配する皇帝アイリスフィアである。
「その後、お身体は?」
「すこぶる健康だ。卿に陵辱されたお陰でな」
「はは、お手柔らかに」
「胸の傷も残っておらぬ。確かめるか?」
「それは、またの機会に」
アイリスの挑発的な言葉を、黒い男は軽やかに躱す。
一方で、反応してしまったのは、軍服の女性である。
一瞬、真顔になり、そして、取り繕うように、手元のティーカップに手を伸ばす。
わかりやすい。
「クノス、どうかしたか?」
「いえ、陛下」
アイリスは優しくない。
しっかりと追い込んでいく。
クノスと呼ばれた、軍服の女性武官は平静を装う。
装うが、その耳は微かに色づいていた。
「では、話を始めようか」
アイリスが指先で小さく合図を送ると、控えていた給仕たちが、そそと引き払っていく。
給仕であり、護衛である女官が、こういった状況で、皇帝の傍から離れるのは異例である。
「お心遣いありがとうございます」
「なに、余は包み隠さず話してもらいたい。
その環境を整えただけのことだ」
言うまでもなく、その前提として、アイリスは黒い男を信頼していた。
ついでに言えば、護衛がどれだけ控えていようと、意味がないことも知っていた。
それは女官らも知るところであり、それ故に、抵抗はなかった。
「誰かしら連れてくるやもと考えたが、一人か」
「せめて我々の存在に気づいてもらってからではないと」
黒い男は、どこか困ったように嘯くが、そこに容赦はない。
まだ参加する資格はないと暗に告げていた。
「なかなかに手厳しいな」
「それに、私も、地球人類ですからね。一応は」
「一応か、では」
アイリスは、それを質すべきかを考え直し、言葉を接ぐ。
「いや、何でもない」
「そうですか、とにかく、私は、兼任ということで、ご理解ください」
太陽系には、三つの文明国家が存在しており、この会議には三人の出席者がいる。
だが、それぞれが異なる文明の代表者として、出席しているわけではなかった。
アイリスとクノスは、それぞれリムスベルト帝国の皇帝とその補佐として、ここにいる。
黒い男は、古代宇宙文明の遺産を継ぐ契承者として、そして、地球人類文明の自称管理者として、ここにいる。
自称管理者という言葉は、伊達ではない。
地球人類は、誰の助けを借りることなく、自身の足だけで歩んでいると信じている。
黒い男の顔を知る者はいない。
黒い男の名がソウマであると知る者はいない。
大国を動かす政治指導者。金融システムを支配する大資本家。信仰を触媒として崇拝される宗教家。
地球人類を実質的に支配している者たちの姿は、ここにはない。
まだ、彼らは、地球というゆりかごの中で眠っている。
「この日が楽しみで、仕事も手につかなかった。
眠れない日々が続いたほどだ。
聞かせてくれるのだろうな?」
アイリスは、挑むように告げ、妖しく微笑みかける。
「ええ、そのために集まったのですから」
ソウマは、穏やかに、静かに応じた。
その表情に、確かな決意が滲んでいた。




