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「状況を報告する。
転送後に逃げた者を確保した。
他の者たちは既に移送を開始している」
「こちらも、どうにかなりました」
通話で伝えられた若い女性の言葉に、ソウマは疲れたように応えた。
「怪我はないか?」
「どうにか、相手が手加減をしてくれたお陰ですが」
「こちらの不手際を詫びる他ない」
「彼女たちにも経験は必要ですからね。
いい機会でした」
「実戦訓練というわけか」
「負けて得られるものもあります」
「ああ、そうだな」
顧みるように、女性は応じた。
「しかし、驚く他ない。
装備は限定されていたとはいえ、
帝国の精鋭部隊が手も足も出ないとはな」
「地球人類文明の科学は、帝国に大きく遅れを取っています。
警戒を怠っていても、不思議ではありません。
それに風紀委員は、学園の精鋭ですからね。
彼女たちの異能は、全く強力で、不条理なものでした。
どうにもならないのが、自然です」
「気を遣っているのか?」
「いつも気を遣っていますよ?」
「だろうな」
ため息をつくような応え。
辟易とした表情が自然と思い描かれる。
「さて置き、現実は現実として、受け入れるしかあるまい。
幸いなことに犠牲者もいない」
「誤解を恐れずに言えば、理想的な展開ではあるかもしれません。
異能について、話しをする機会が得られました」
「異能。地球人類が身に宿した科学技術に依らない特異な力か。
俄には、信じられん話だ」
「だからこそ、話す機会を窺っていたと、ご理解を頂ければ嬉しいです」
「信じよう。だが、不快ではあるな」
それは、個人的な感情の話である。
だからこそ、厄介だった。
「謝ります」
「赦そう。だが、そうだな。貸しにしておこう」
「返せるように、心がけます」
「励むがいい」
二つの声は、軽やかに踊っていた。
「近いうちに、お時間を頂きたいと考えています」
「わかった。陛下に伝えよう」
「では、今夜はこれにて――」
「待て」
通話を切ろうとしたソウマを、ふと声が遮る。
「何でしょうか?」
「詫びはした。だが、まだ礼を言っていない」
「そうでしたか?」
「感謝を」
「どういたしまして」
ソウマは、謝意を受け入れる。
「出会いに感謝を。共に歩めることを嬉しく思う」
交錯する思惑によって紡がれた一つの夜が終わりを告げる。
黎明。
まだ、天には星が輝いている。
まだ、夜明けは遠い。
だが、新たなる夜明けは、はじまろうとしていた。




