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「白面様、よろしければ、私とも、お相手を」
振り返れば、レアが怪しく微笑んでいた。
感情のない瞳に青い炎を燻らせ、睥睨していた。
ソウマの視線は奪われていた。
その瞳は、視てはならぬものを視ていた。
そこには病んだ少女が在った。
だが、それではない。
視てはならぬものは、そこにはないものであった。
両の掌から、解き放たれた眩い光。
世界を覆う光。
万華鏡が如き無限が、ソウマの意識を優しく抱擁する。
墜ちる。
――墜ちていく。
瞬間、頭蓋の中で銃爪が引かれたかのようなすさまじい衝撃が襲った。
「警告:精神障壁87層までを貫通。復元開始」
耳鳴りの中で、ソラの声が響き、ソウマは我へと還る。
「すさまじいものです。私ではなければ、精神病院送りといったところでしょう」
レアは、遂に、感情を顕にする。
奥歯を噛み、ソウマを睨みつける。
「一体、何者だというのですか」
「敵ではないことは確かです」
「信じろと?」
「信じるものは救われると言いますよ?」
レアの背を氷の手が撫ぜた。
その言葉は、レアの過去を抉るものだった。
――教会。十字架。聖典。
「「「「魔女」」」」
悪意の言葉が唱えられる。
フラッシュバックした光景が声がレアの安定を奪う。
「私は、赦さない。
赦すわけにはいかない。
この学園の平穏を乱す者を、逃れてきた者たちに仇なす者を。
私が、私が、私が、守らなければならない!」
レアの叫びが、夜に響き、その掌に灯火が宿る。
「検索:対象の特徴から異能を照会。
――該当。
『夢幻燈華』に合致。
燦爛する灯火を起点とした精神攻撃。
視覚野から深層意識に潜入し、影響下に置かれた者を行動不能に陥れます」
「つまり、視なければ――」
それは、炎の蛇が頭の中でのたうち回るかのような、凄絶な痛苦だった。
苦悶の言葉すら許されない。
「警告:精神障壁132層までを貫通。神経回路を遮断。隔離」
「そこまで甘くはないか」
それは如何なる理か。
そも異能に理などない。
それを思い知らされ、ソウマは苦く笑う。
笑ってしまう。
笑うしかないくらい一方的な蹂躙だった。
だが、ソウマの膝は折れない。
ただ、静かに、確かに、一歩ずつ、歩みを進めた。
そして、辿り着いた。
そこには、膝を震わせ怯える少女がいた。
「私は、貴方を傷つけません」
知らず零れていた涙を拭う指先は優しく、瞳を覗く瞳は澄んだ色をしていた。
それは、かつて、自身を救った者の姿を、レアに想起させた。
「あっ、ああ――」
声を震わせ、そして、レア・リヒターは、静かに意識を失った。




