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夜を疾走する一団があった。
数は十、何れも黒い装束に身を包み、陣形を組み替えながら矢のように駆けていく。
その侵攻は異様そのものであるが、それを咎める者はいない。
彼らの姿は世界と同化していた。
透過された輪郭。
影すらない影に気づく者はいない。
微かな足音だけが彼らの存在を物語っていた。
彼らの存在を咎める者はいない。
その筈であった。
故に、彼らは、進路上のそれについて、立ちはだかっているという認識に至らず、
ただ鎮座していると考え、軽やかにやり過ごそうとした。
それは然るべき判断だった。
彼らが装備する熱光学迷彩は、極めて高度なものであり、
学園が配備する最新鋭の光学探知システムを持ってしても、その存在を捉えることは不可能である筈だった。
事実、そうであるからこそ、ここへと至れている。
だが、それは、あろうことか、彼らの接近を感知し、迎撃行動へと移行した。
それとは、学園が有する最新鋭の多脚戦車である。
蟹、或いは、蜘蛛を単純化したかのような流線型は、どこか愛嬌を感じさせる。
そんな印象に反し、その戦闘力は、極めて強大である。
学園は、多脚戦車の保有を警備のためとしているが、その性能は旧来の軍事兵器のそれを凌ぐ。
多脚戦車の背部に装備された多連装ランチャーから投射された円筒は電磁スモークを撒き散らし、周囲の空間を瞬く間に帯電させる。
同時にチャフが撒き散らされ電波状況を撹乱する。
瞬間、崩れたモザイクのような亡霊が現れる。
まるで高度に再現された仮想世界が壊れてしまったかのような、そんな錯覚を想起させる不安な姿だった。
完全に熱光学迷彩が無効化されたわけではない。
だが、そこに何かがいることを視認できるという必要十分な効果を成した。
即座に多脚戦車の射撃統制システムは、現れた標的に照準をロックする。
前腕に装備されたガトリング砲の銃身がゆっくりと回転を始める。
だが、そこまでだった。
多脚戦車が捉えていた視界は斜めに傾き、姿勢制御システムが異常を叫ぶ。
想定外の状況は彼らの歩みを、一瞬、にぶらせた。
だが、それだけのことだった。
彼らは獲物を狙う狩人であり、怯える鼠ではない。
モザイクの人影は、加速した。
多脚戦車の懐へと跳び、抜き放たれた青い刃は、前脚の関節をたやすく切断した。
巨大な鉄塊は、轟音と共に前のめりに倒れ、小さく地面を揺らす。
崩れもがく多脚戦車を前に、モザイクの人影は銃を構え、銃爪を引く。
晒された天板装甲に、三条の光刃が矢継ぎ早に突き刺さった。
多脚戦車は、上空に向けて、多連装ランチャーから特殊弾を投射する。
そして、それが最後の抵抗となった。
装甲を貫徹した熱量は、統制システムを破壊しつくし、多脚戦車はあっけなく沈黙した。
それは技術格差から考えて、なるべくしてなった結果であった。




