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夜明けのソラの契承者 封印楽園都市  作者: やたか なつき
一章
13/34

12


「倒せていなかったみたいね」

「そのようだ」

 シリンは香音を庇いながら、香音はシリンの背に隠れながら、走っていく。

追ってはいる。だが、その差は縮まらない。

時折、牽制するように攻撃が放たれるが、それは問題にはならない。

「このまま追うべきか」

「誘われているとか?」

「かもしれない」

「なら、立ち止まってみるとか?」

「妙案だ」

 シリンは、そう言うと、歩道から外れ、林の中へと入り込む。

大樹の幹を背に、周囲の気配を探る。

「私はここで待ってるから、シリンは追いかけて」

「だが」

「拉致があかないでしょ?」

 シリンは、数瞬、考え、そして、小さく頷いた。

「絶対に動かないこと」

「わかりました」

 香音が頷くと、シリンは身を投げるように駆け出し、瞬く間に闇へと紛れた。

 音が消え。虫たちの鳴き声がゆっくりと広がっていく。

香音は、瞳を瞑り、息を潜め、耳を済ませる。

奏でられる自然の交響曲は、ただ美しく快かった。

鼓動、吐息。己の音を意識し、心を鎮める。

凪の中に沈もうとする。その時だった。

 香音は、その異変に、はっとした。

静穏は、前触れもなく、失われていた。

惑うしかない。

低い音と共に、空気が揺れ、木々がざわめく。

この周囲からではない。

遠く彼方から響いた轟音の残滓が世界を一転させていた。

「何が起きているのかしらね」

 風紀委員の言葉、襲撃者の影、そして、シリンの存在。

考えても、そこに答えはない。

「待つしかないか」

 すぐに駆け出したくはあったが、シリンのことを考えると、そうもいかない。

香音は静かに、身を潜める。

再び訪れようとした静穏は、またしても破られる。

 草木を揺らす音がした。

乱れた足音が近づいてきていた。

香音は、そっと様子を窺う。

目は闇に慣れてきていたが、それでもはっきりしない。

顔や姿は曖昧で、ただ輪郭からそこにいるのが人であるということが判った。

 呼吸音は荒い、怪我をしているのかもしれない。

人影は腹部を抑えているようにも視えた。

「逃げられないぞ」

 誰かの声が響いた。

 人影は声に怯えるように揺れ、そして、地面に蹲った。

身を隠そうとしたのか、いや、そうではない。

すぐに立ち上がり、走りだそうとした。

だが、それは許されなかった。

その背を閃光が撃ち抜いていた。

 何が起きたのか、香音には解らない。

ただ、吐き出しそうになった音を、どうにか堪えた。

口元を抑え、胸の鼓動を鎮める。

 人影は、崩れるように地面に倒れ込み、起き上がる様子はない。

恐ろしい場面に、遭遇しているのではないか?

そんな不安が、香音の背筋を冷たく撫ぜる。

「助けてやったというのに、手間を掛けさせないで欲しい。

我々の存在が知られると、まずいのは解るだろう?」

 女性か、或いは、若い男性か、そんな高い声だった。

姿は視えない。

「うっ、ぐっ」

 人影は、小さく呻き声を上げ、そして、動かなくなった。

「確保した。連れて帰る」

 声は虚空に語りかけると、人影を軽々と持ち上げ肩に載せた。

「白兵戦では話にもならないか、由々しき問題ではあるな」

 声はやれやれと呟き、そして、足音は去っていた。

やがて、虫たちが歌いはじめ、それから、香音は深くため息をついた。

「まったく、何が起きているのかしらね」

 香音は、へなへなと座り込むと、呆れるように呟き、天を仰いだ。

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