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夜明けのソラの契承者 封印楽園都市  作者: やたか なつき
一章
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「何も起きないね」

「そうだな」

 香音の足取りは軽やかだ。

シリンの表情も穏やかだ。

二人の深夜徘徊は既に日常になっていた。

 何故、襲われたのか?

偶然か、或いは、必然か。

探し求めるように、二人は歩きはじめた。

それすらも未だ答えは判然としない。

 寮に門限はなく、深夜の外出を咎められることはない。

学生の自由な生活を尊重する姿勢が、ここにも現れている。

前提として、島内の治安が極めて良いからこそのことだ。

事件発生の前後には、一時的な制限が課されることもあるが、現状ではそうなっていない。

香音とシリンは、襲われたことを学園に報告してはいなかった。

「学園に相談したほうがよかったのかな?」

「正気を疑われるだけだろう」

「うーん、そうだよね」

 香音は、出会いの夜を思い返し、首をひねる。

「ただ襲われたとか、そういう曖昧な説明しかできそうにないし」

 不可視の刃による攻撃。

あれがどういう現象であったのか、襲われた当事者でさえ理解できていない。

「健全に生きてきたつもりなのに、不本意だわ」

 香音の言葉に嘘はない。

そういう存在だと悟られた覚えもない。

少なくとも、自覚してはいない。

「シリンは?」

「ない筈」

「筈ね」

 深夜徘徊をはじめることを提案したのは、シリンである。

理由がわからない以上、自らの身を囮にして、敵を誘うしかない。

それが、シリンの主張であった。

「標的は、私か、香音か」

「或いは、偶然かも? 誰でもよかったとか」

「かもしれない」

「それに考えても、意味がないのかも」

「どういうことだ?」

「どかーんとしたでしょ? あれで倒しちゃったのかも?」

「かもしれない」

「だから、私たちは、ただ夜の散歩を楽しんでいるだけ」

 香音は、縁石に跳ぶと、サーカスの綱渡りのように手を広げて歩いてみせる。

「いやなのか?」

「いいえ」

 香音は、きっぱりと否定する。

むしろ、この凪のような時間が、ずっと続いて欲しいとさえ思っていた。

「襲われて、捕まえて、どうするの?」

「話を聞く」

「それから?」

「考える」

「シリンは、面白いわ。

考えているようで、考えてない」

「答えが出せないことを考えても意味がない」

「確かに、そうかもしれません」

 とりとめのない会話を続けながら、二人は夜道を歩いて行く。

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