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それを船と認識した瞬間、朦朧としていた意識は覚醒していた。
「どうすればいい?」
自問自答を繰り返す。
考えながら、状況を精査する。
ヘルメットに内蔵された光波測距儀を起動し、距離を計測した。
宇宙では、遠近感が失われる。
視覚から齎される情報だけで距離を判断することは難しい。
体積、距離、速度、角度。
確かな情報と不確かな情報。
全てを鑑み、船へと至る手段を検討する。
構想し、試算し、演算し、検算した。
そして、答えは導かれた。
時間は多くはない。
やり直すことはできない。
失敗は許されない。
だが、迷いはなかった。
辿りつけたとして、中に入ることができるかもわからない。
それでも、ここで終わりを待つよりは、正しい在り方であるという確信があった。
一瞬の邂逅。
そこに全てを賭け、私は、踏み出した。
推進装置は、正確に機能した。
最も適当であろうと推定した軌道をなぞり、身体を泳がせる。
視線は、外さない。
船を凝視する。
逸らせば、失われてしまう。
そんな気がした。
それは永遠のように感じられる旅路だった。
断続的な加速を経て、既に身体は、宇宙でなければ、ありえない速度へと達している。
だが、近づいているという、実感を得られない。
星も、船も、そこにあって、変わらない。
時の流れが一定であることすら疑わしい。
だが、それも、終わる。
現在にあっては、過去は一瞬である。
いつからか、船は、そこにあった。
既に、視ようとしなくても、視えるほどに、確かなものとして、眼前に在った。
距離が失われ、眩むような速度の差が、顕になる。
次はない。
躊躇う時間はない。
船と身体を繋ぐ、接着アンカーを射出し、奥歯を噛む。
間もなく、身体を凄まじい衝撃が襲った。
相対速度の差が、耐衝撃装置の限界を超え、ワイヤーを軋ませる。
加速に耐えながら、推進装置を使い、体勢を立て直す。
やがて、最後の嵐は去り、それは成った。
一歩。
私は、叡智の結晶に足跡を刻んだ。
点と点の邂逅。
それは人類には、成し得ないはずの事象。
奇跡であった。