かめんをつけたよ
ママからたんじょうびにかめんをプレゼントされた。
「これであなたはヒーローよ」
ママはいった。
ぼくは部屋でママからプレゼントされたかめんをつけた。
鏡をみた。
力がわいてくるきがした。
声が大きくなった。
背も少し伸びたきがした。
手足も大きくなったきがした。
髪の毛も伸びたきがした。
気のせいかな。
そんなことはない。
ぼくは
鏡の前で一回転した。
なにかが変わったきがした。
そうだ。
一度、かめんをはずそう。
ぼくはかめんをはぞうとした。
が、
かめんははずれない。
なんどやってもはずれなかった。
このままずっとはずれないのかな。
このままずっとはずれなかったらどうなるのだろう。
歩けば目立つかな。
犬にほえられちゃうかな。
むしろ、犬と友達になれるかな。
学校では人気者になれるかな。
女の子となかよくなれるかな。
頭がよくなるかな。
ぼくの本当のかおは忘れられちゃうかな。
目も、口も、ホクロも、歯も、みんなの記憶から消えちゃうのかな。
ぼくはかめんをはずそうとした。
やはり、はずれなかった。
それでいいのかもしれない。
有名になってるひとはみんなかめんをつけている。
スポットライトをあびているひとはかめんをつけている。
おじいちゃんやおばあちゃんや、ママだってパパだって、なにかしらのかめんをつけている。
ぼくのは見えるかめんであって、みんなのは見えないかめんなんだ。
ぼくは、そうおもっている。
なら、見えるかめんのぼくは、少しだけ、とくをしているのかもしれない。
世界のどこかで、ぼくのようにかめんがはずれなくて、なやんでいるひとがいるかもしれない。
ぼくと同じようなひとがであったとき、なかまとして手と手をとりあうのかな。
そして、手と手をとりあう数をふやしていって、たのしくわらいあうのかな。
それはいいかもしれない。
ひとつだけもんだいが。
かめんをつけたままだと、ごはんが食べれない。
水ものめない。
大好きなケーキも食べれない。
フルーツも食べれない。
どうしよう。
かめんの口にあなをあければいいのかな。
かめんに傷をつけると、本当のぼくのかおを傷つけているようで、かなしくなる。
傷をつけるのは、いたみをともなうんだな。
ああ、そうか。
ぼく一人だけが、かめんがはずれなかったら、逆に仲間はずれにされちゃうのかな。
たくさんの人に指をさされちゃうのかもしれない。
たくさんの傷をつけられちゃうかもしれない。
スポットライトをあびたり、
有名になるなんて夢のはなしだ。
ぼくは少しこわくなった。
その場にうずくまった。
ねこのように、
まるくなった。
なみだがながれた。
ぼくはかめんをはずそうとした。
はずれなかった。
ぼくは、なにかいけないことをしたのだろうか。
かんがえてもかんがえても、こたえは見つからなかった。
ぼくはつかれた、
目をとじた。
「あら、大好きなケーキ食べないの?かめんをつけたままねむっちゃダメよ」
ママはぼくのかめんをはずした。
はずれた。
ぼくはケーキを食べた。
誕生日にケーキを食べなかったバチがあたったのかもしれない。
ケーキはおいしかった。
ぼくはかめんをもう一度、つけた。
鏡をみた。
ぼくはかめんをはずそうとした。
あれ
あれ
あれ
やはりはずれなかった。
ぼくは、かめんをつけたまま生きようかな、と思いはじめた。