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猫イモウト  作者: 須羽ヴィオラ
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第六章 ネコモリサマ #2

 公園を出てから気が付いたけど。

 町中で自転車の二人乗りは、けっこう恥ずかしい。

 知ってる同級生に見られたら、どうしよう。

 だんだん、恥ずかしさが増してくる。

 それに、もしも三笠君の彼女さんに、この様子を見られたら。

 なんて酷い人と蔑まれるだろう。

 あるいは、件の噂好きの二人に、この光景を見られたら。

 なんて厚かましい人と陰口を叩かれるだろう。


―下ろしてください。やっぱり、歩いていきます―

 そう喉元まで出かかった。でも、止めた。

 今は、そんなことを言ってはいられない。

 私がどんなに蔑まれようが、どんなに陰口を叩かれようが、構わない。

 いまは、一刻も早く翠を人間に戻さないと。

 その手がかりになるかも知れない猫守神社に一秒でも早くたどり着かないと。


 ○


「さぁ、着いたよ」

 三笠君が自転車を止める。

 昨日、私が事故に遭いそうになった交差点だ。

 私と三笠君は自転車を降りる。

 信号は、赤だ。

 この交差点を渡って、そのまま真っ直ぐ進めば私達の高校に着く。


「えーと、猫守神社って…?」

 通いなれた道なので、この辺りの様子は私も知っている。

 でも、猫守神社なんて聞いたことが無い。

「すぐ分かるよ」

 その答えと被るように、信号が青に変わる。

 二人して横断歩道を渡り始めると、

「今度は転ばないように気をつけてね」

 と三笠くん。

―もう、意地悪なんだから―

 と頬を膨らませると

「からかってるんじゃないよ…。ほんとに心配してるんだ」

 と真顔で言われた。


 私の早合点でした、ほんと御免なさい。

 私は三笠くんのとなりで、また小さく赤くなる


 横断歩道を渡り終えると、三笠くんは

「こっち」

 と右手の方に進んでいく。私もそれに従う。

「この通りは、昔は街道の宿場町だったんだよ」

 と三笠くんの解説。

 その話は、郷土の歴史とかで小学生くらいの頃に聞いた記憶がある。


 大通りから暫く進むと、土蔵や商家の連なる古い町並みに変わる。

 それぞれ、何がしかの商いを営んでいるのだろうが、看板がないので何屋さんか

外からでは分からない。

 数軒分進んだところで、三笠くんが自転車を停める。

 そこは、「和菓子 仁連にれ屋 本店」の看板のある店の前だった。

 古い町並みの景観に合わせて、土蔵風の建物になってはいるが、最近立てられた

店舗のように見て取れる。だいたい、入り口からして自動ドアだ。

 軒の上に掲げられた古色蒼然の看板が、老舗であることを静かに主張している。


 三笠君は、ここだよ、といいながら店の中に入っていく。

 えーっ? 猫守神社に行くんじゃなかったの?

 疑問に思いながらも、私は自転車の前籠から翠を抱き上げ、三笠君に続き、店の

中に入っていく。

 店の中は意外に広い。正面にショーケースがあり、中にはドラ焼き、饅頭、葛餅

などなど、いろいろな菓子類が飾られている。

 右手には小さなテーブルと椅子が置かれ、小さな喫茶室になっている。

 きっと、ここで食べていくお客さんもいるのだろう。


 店内には誰もいない。

「こんにちわー」

 と三笠君が声をあげる。

「はーい。ただいま参ります」

 若い女の人の声だ。


 バタバタを足音が聞こえ、ショーケースの向こう側のドアが開く。

「お待たせしました」

 かわいらしい着物に袴のスタイルの女の子が現れた。

 これが店員の制服なのだろう、頭には頭巾を被っている。


「あら、聖真くん。久しぶり」

 店員が親しげに声をかけてくる。

「どうも、御無沙汰してます…。素子もとこさん」

 と三笠君が頭をさげる。


 どういうこと? なんで下の名前で呼んでるの? この二人知り合いなの?


 店員さんが私の存在に気がついたようだ。

 私は小さく頭を下げて、こんにちは、と口を動かす。

「あれあれあれ」

 店員さんは素っ頓狂な声を上げ、ショーケースの間を抜け、私の目の前にやって

来る。

「だれだれだれ!? こちらの彼女? 紹介してよ、聖真くん」

 と言いながら、私の様子を頭の天辺から爪先まで、舐めるように観察する。

―近い。顔が近い―

 と、引き気味になる。


 三笠君はすかさず

「こちら、同級生の濱野美寿穂さん。こちらが仁連屋の若女将の仁連素子さん」

 と私を紹介してくれた。

「若女将じゃなくて、マスコット・ガールとか言ってよ、せめて看板娘とか」

「じゃぁ、それで……」

「じゃぁ、って何よ? まぁ、いいや。ところで、こちら三笠君の彼女さん?」

 えー。なんでそうなるの? 私は、素子さんの方が彼女さんなのかと思った。

 でも、さっき「久しぶり」とか言ってたから違うのかな?

 あーちゃんは、一昨日、三笠君と彼女さんが一緒のとこを見たって言ってたし。


「い…、いやぁ」

 三笠君が曖昧な返事をする。

「あぁー、怪しい。濱野さん、可愛いもんね。すごく」

 素子さんは、またまた私を嘗め回すように観察する。

 私は、手を左右に振って懸命に否定する。

 だけど、それは可愛いを否定してるのであって、私が三笠くんの彼女である事を

否定しているわけではないんだけど…。そのこと、分かってくれてるかな。

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