表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫イモウト  作者: 須羽ヴィオラ
16/39

第六章 ネコモリサマ #1

「うーむ」

 私が全てを話し終わったあと、三笠くんが発した第一声はそれだった。

 ひょっとすると溜息だったかもしれない。

 三笠くんは、困ったような顔つきで腕組みしている。

 この様子では、やはり信じて貰えなかったようだ。

 話すべきではなかった、体の中で後悔の念が重苦しく固まる。


「濱野さんは、カモノハシって知ってる?」

 いきなり三笠くんが、全く関係ない話を始めた

「カモノハシ? えーと。鳥みたいな嘴のある動物で、卵から生まれる変な哺乳類

だったかな」

「そのカモノハシなんだけど、オーストラリアで発見された後、イギリスに剥製が

送られたんだ。でも、多くの科学者は作り物だといって誰も信じてくれなかった。

鴨の嘴とビーバーの身体を合わせた偽物だって言ってね」


 私は、三笠くんの顔を見つめる。

 その顔は、困惑の顔から普段の明るい三笠くんの顔に変わっている。

「けど、カモノハシは本当に居る。濱野さんの話も、俄かには信じられないけど、

濱野さんが言うんだから、本当なんだと思う」


 信じてもらえた。

 それも、三笠くんに信じてもらえた。

 その事が嬉しくて、また泣きそうになる。


 ミャ。

 翠が膝の上で起き上がり、私を見上げて一声鳴いた。

 そうだ、こんな事で喜んだり泣いたりしてる場合じゃない。

 一刻も早く、翠を人間に戻さなくちゃいけない。

 そのためには、恥ずかしがったり、遠慮なんかしていられない。

 今は、一人でも協力者が居て欲しい。

 えーい。ダメ元で。


「信じて貰えて嬉しいです。それで…、厚かましいお願いなんだけど。私と一緒に

翠を元に戻す方法を考えて貰えませんか」

 私の願いが届いて欲しい、そんな思いで三笠くんの目を覗き込む。

「うん。そのつもり」

 とあっさりOKの返事。


 その事が嬉しくて、私の目から、また涙が溢れ出す。

 三笠くんの優しさが胸に沁みる。

 頬をつたう涙を拭いながら顔をあげ

「ごめんなさい。泣いてばかりで」

 やっとの思いで、声をだす。


「いいんだよ。心細かったんだよね…」

 ずるいよ、三笠くん。そんなこと言われたら、もっと涙が出てきちゃうよ…。


 ミャ、ミャ。

 膝の上の翠が、鼻先で私のお腹を小突く。

 両手で涙を拭って、フンっとお腹に力を入れる。

 翠の瞳に 

「大丈夫。もう、泣かない。三笠君と一緒に、翠を人間に戻す。必ず」

 と誓った。


「それじゃ、行こうか?」

 と三笠くんが手を差し伸べてきた。

「エッ…と…、どこへ?」

「濱野さんの話だと、まず最初に髭の猫を見つけなくちゃないよね」

「それが…、私、その猫がどこにいるか全然見当がつかないの…」


「あぁ、それなら、今の話で、だいたいの当てはついたんだ」

―すごい! 今の私の話だけで、だいたい見当がついちゃうの?ー

 三笠くんって天才?

 ていうか、ひょっとしてオカルト系の人?

 多分、私がビックリした顔で見つめていたからだろう。

「いや…、その…、単なる当て推量かも知れないんだけど…」

 アセアセしながら、三笠くんが弁明する。


「それでも当てがあるだけ良いです。一体、どこに行けば…」

 と問うと、三笠くんは咳払いをしてから

猫守ねこもり神社じんじゃ

 と答えた。


「猫守神社?」

 初めて聞く名前。どこにあるの、そんなもの。


「まぁ、普通の人は知らないと思うよ」

 と事もなげに三笠くん。

 それを知ってる三笠くんは普通じゃないってこと?

 やっぱり三笠くんって、オカルトの人なの??


「そこに行ってみよう。昨日、濱野さんが事故に遭いそうになった場所の近く」

 えーっ! あそこに。

 私が三笠くんに醜態を晒した場所だ、正直あんまり行きたくない。

「そうか。あの……、僕は昨日のこと、全然気にしてないから……。何とも思って

ないから」

 いや、気にしてるのは私だし、何とも思ってるのも私だし。

 でも、また三笠くんがアセアセしてる。なんでだろ。


「とにかく行こう。早く翠ちゃんを元に戻さなくちゃ」

 そうだ、私のことなんか、どうでも良い。

 翠を抱えて、うん、と言って立ち上がる。


「じゃぁ、これで行こう」

 と言って三笠くんが、自転車のサドルをバンバンと叩く。

 えーと…。

 次に何をして良いか分からず、私が躊躇していると

「翠ちゃんはこっちだね」

 と言いながら、私の腕の中から翠をすくいあげ、自転車の前かごに入れた。

 翠は嫌がる様子も見せずに、前かごの中できちんと猫座りしている。


 三笠君は、前かごに入っていてリュックを体の前側に着け、

「ここに乗って」

 と自転車の荷台を指差した。


―私と二人乗りなんかして良いの? 三笠君には彼女がいるんじゃ―

 と躊躇していると、三笠君が

「…僕の運転じゃ心配?」

 と聴いた。

「いいえ」

と答えて、横座りで荷台に納まる。


「じゃぁ、行くよ」

 自転車が走り出す。

 私は三笠君とくっつかないように、体を小さくする。

 けれど、三笠君が体を動かすたびに、三笠君の背中と私の腕が触れてしまう。

―なんだか、三笠君の彼女さんに悪いなぁ―

 と思いながらも、私はその背中の温もりを、心地よく感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ