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猫イモウト  作者: 須羽ヴィオラ
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第四章 オンガエシ #2

 人間が望むことなら、大概はできる。


 それなら…、

―私のことを好きな三笠くんを出して―

 と言おうと思ったけど、止めた。

 夢から醒めたあとに、余計に空しくなると思うからだ。


 それじゃ…

―翠と仲直りしたい―

 って…。

 この願いも、なぁ。

 夢の中だけ、仲直りしてもしょうがないし…。

 現実の翠との仲直りは、人頼みじゃなくて、自分の力でやらなくちゃいけない。


「そうそう、忘れとった」

 髭猫が、ベッドの上で腹を出して寝転がり、横腹を前足で掻いている。

 本当にやる気あるのか、この髭猫?

「願いの数は三つじゃ。気前いいじゃろ、儂って」

―ああ、そうですか。どうせ、夢ですからねぇ―


「それと…」

―まだ、あるの? 夢のくせにくどいなぁ―

「願いの内容は猫に関係すること。これ大事なことだから」

「えーっ? 猫に関することって、どういうこと?」

「猫に関することは、猫に関することじゃよー」

 と髭猫が腹這いでノビをしながら喋る。

 遊んでるんじゃないの、この猫。


 髭猫は、全部の足を延ばして横たわっている。

 両目は瞑ったままで、しっぽの先だけがピクピクと動く。

 完全に眠る気でいるだろ、この猫。何しに来たんだ。

「なんでも有りにすると、あとが大変じゃからの。ふぁぁー」

 と欠伸のついでに付け足した。


「その辺、はっきりしてくれないと、お願いできないんだけどなぁ」

 と皮肉たっぷりに言ってみる。

 どうせ聞いてないだろうけど。


 すると、髭猫は私の方に顔を向けて

「それなら、願いの言葉の中にネコが入っておれば良いことにしよう」

 と大義そうに口を動かした。


『叶えられる願いは三つ』

『お願いの言葉の中にネコが入っていること』

 纏めると、こういうことね。


 さっき、「人間が望むことなら大概できる」とか言ってたけど、願い言葉の中に

ネコを入れるとなると、大したお願いできないじゃない。

 これじゃ、さっぱり恩返しの意味なんか無いじゃないの。まったく、もう。


 って、怒ってもしょうがないか。夢だから…。

 そうだ。どうせ、夢なんだ。

 一夜限りの、夢物語。

 なんでも構わない。好き勝手なことを願おう。


 そうだ。

 翠に猫になって貰おう。

 それなら、私たち喧嘩しなくて、仲良くできる。

 翠だって、いっぱい私に甘えられて、うれしい筈だよ。

 私も、翠のこと沢山可愛がれるし。

 それがいい。


「ネコさん、ネコさん。願い事が決まりました」


「はいよ。どっこらしょ」

 と髭猫が大儀そうに起き上がって姿勢を正す。

 といっても、猫座りだけど。


「私の妹の翠を、猫にしてくださーい」

 軽やかに願い事を唱える。

「妹を…猫にね…。そりゃ、あんまり感心はせんの…」

「えっ」

「本とにそれで良いんじゃな?」


 念を押されて、ちょっと後ろめたい気持ちが湧いてきた。

 だけど、どうせ夢なんだからと思い直し。

「それで、お願いします」

 と元気よく答えた。

「それなら…」

 その言葉を残して、髭猫は目の前から消え去った。

 まるで黒板消しで、黒板に書かれた文字が消えるように。


「あれ? 願い事は…」

 猫の居なくなった部屋はいつもの私の部屋。

 電灯の豆球の明かりだけの薄暗い部屋。

 あれ、もう夢から覚めた?

 なんだ、つまんないの。


 と思っていたら、私の部屋が白っちゃけてきた。

 暗い部屋がすべて灰色に変わる。

 ベッド、壁、勉強机、カワセミのポスターやぬいぐるみ。

 すべての物の色が灰色。そして白へと変わっていく。

 そして、私の意識さえも…。


 なに。なにが起こってるの…。

 その疑問も…

    やがて…

       白い闇の中に…

          掻き消え…


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