#7 メカフェチ草食ケモボーイ・ミーツ・メカウルフガール
山羊のような巻角の少年が軽くリズムを取る。イヤホンから漏れるのは椎名林檎の曲だ。
東へと向かう列車で華やいだ街に来た彼にはまさにぴったりなナンバーだ。
だが、曲に乗りすぎたのがいけなかった。
「次はー南森町ー南森町ー」
「わあっ、どこここ?乗り過ごしちゃったのかな?」
彼は知らない駅名に驚き、そそっかしくもそこでおりてしまったのだ。
しかし地下鉄の駅とは知らぬものには迷宮に近い。
よくわからないまま出てしまった地上への出口は、しかもかなりガラの悪い地帯に通じていた。
「うわあ……戻ろうかな……」
賢明にも引き返そうとした彼に物売りが声をかけた。
壊れかけたサイバネ義足をつけた人間の男だ。傷痍軍人だろうか?
「お嬢ちゃん、パソコンに興味はないか?ここならちょっと人には言えんようなブツでもそろっとるよ」
「いや、あの。ぼく男です。んんっ?でもこれは珍しいですねー。んふー、あはぁ……こういうマニアックなもの、ぼく好きですね……」
巻角の少年は怪しいパソコンパーツを手に目を潤ませ頬を赤く染めて身体をよじらせる。
彼は重度のメカフェチだった。
少女か少年に見える姿の半獣人が、欲情したような姿でメカを漁る。何か背徳的なものを感じる光景だ。
「おっと、お兄ちゃんやったか。兄ちゃん機械好きか?ほんなら、あっちの路地を右に曲がってみ。
もっと沢山機械が置いてあるで。よかったら見てってくれや」
「えふぅ……んあっ……えっ、ほんとですか?ありがとうございます!あっ、でもぼく大事な用事があるんです!
オーサカものづくり展に行かなきゃいけなくって……谷町四丁目の駅に行きたいんですけど、知りませんか?」
「それやったら左の路地をがーっと行ってやっぱ右をどーん!や。せやけど……」
物売りは背後の鞄を取り出して開ける。中には沢山のがらくたが入っていた。
指輪にペン、バックルや十字架、時計にキーホルダー。土産物屋にありそうなものばかりだ。
「護身用具くらい買っていかんと、あかんでー。ガラの悪い土地やさかい。案内代思うて買うてえな」
「んんっ!これは……コルトT-12!?こっちはあの伝説のバックルガン!?はぁん!すっごい……」
「お、おう。解るか。全部仕込み銃や。話のタネにでも買っててえな。せや、贈り物にもええで。都会で流行りの奴や」
「えへぇ……じゃあ、これとこれ!ください!」
「まいど」
彼が選んだのは十字架と指輪だ。どちらにも極めて小さいが銃が入っている。
「うふふ……んふ……ありがとうございます!」
彼はつややかな黒髪を揺らしながら、ご機嫌で指輪をつけて裏路地へと入っていった。
「さて……行ったか」
物売りはガラケーを取り出し、どこかへ電話をかける。
「ああうん、兄貴、ええ情報や。せや、カモでな。ヤギ系のショタや。見た目はええから売れるで。
見たとこ弱そうやしな。メカフェチやから、脳も何か売れる違うか?まあそこは兄貴に任すわ。
ほな、うん。よろしゅう」
つまり、ものの見事に欺されたのだ。悪所へは行くべきではない。
■
90年代に魔術と妖怪の存在が暴露されてから、世界は狂いっぱなしだ。
いくつもの戦争、科学と魔術の混交による爆発的な技術発展。
いまや魔法はカルチャースクールで習うモノで、妖怪は外国人並みによく見かける存在となった。
山羊角の少年、角船シーパもまた、そんな時代によくいる魔道科学を研究する異種族の一人だ。
■
「んふふ……うふ……」
幸せそうに仕込み銃をいじり回すシーパだったが、分解しないだけの理性はあった。
さらなる嗜好を満たしてくれるものづくり展の存在があるからだ。
「さ、急がないと……明日のものづくり展に間に合わない!」
言われたとおりの道を進むが、どんどんと暗い路地へと入る。
やがて、彼はがたくた置き場のような路地に入ってしまった。
「あはっ、こういうジャンク、いいなあー。でも道がまたわからなくなってきましたよ……」
「ぼっちゃん、ぼっちゃん。道が知りたいね?ここらのことならなんでも知ってるよ」
テレビといくつものガラクタが集まったものから声がする。ぶぅん、とブラウン管が点灯し口の映像が映る。
「わっ、ひょっとして付喪神さんですか!?いいなあー、ぼく、そういう人好きなんですー」
「そうかそうか……もう少し近くにおいで?」
「はい!身体に不便な所はないですか?僕、整備なら大得意です!資材さえあれば改造もできるんですけど、しましょうよ!」
シーパは不用意に路地裏の住人に近づきすぎてしまった。
「そうかそうか……ぼっちゃんのような可愛い子にいじって貰えるとうれしいよ……
だけどなあ、わしらにも相応に金が要るんでなあ、恨まんでくれよ?
なあに、売り払う前に機械ならではの歓びを味あわせてやろう!」
テレビゴミのケーブルや鉄パイプでできた触手が迫る。
「うわっ、あぶないですよー……分解!」
しかしシーパとてこの魔境の時代を生きるもの。
ポケットからニッパーとドライバーを出して一瞬で迫ってくる触手を「分解」してしまう。
技術者の恐るべき早業であった。
「わしの手がぁああ!おれのよくも小僧!」
「僕は悲しいです。時間さえあれば、機械の人とそういうことも、嫌じゃないんです。
でも、売られるのはごめんです!僕に機械を壊させるなんてさせないでください」
さらにマイナスドライバーを何本も手にはさんで構える。
「人の手を壊しておいて、はいそうですかと下がれると思うかぁ!」
がらくたの手がさらに電流を発する。
電流を彼は対電磁繊維製白衣で受け流し、手がすらりと動くと、テレビゴミはあっという間に解体されてしまった。
「てめえよくも……テレビのじいさんを」
「へへへ……かわいいなあ……メカが好きなのかい?たっぷり気持ちよくさせてやるからねえ……」
「いやいや、いっそ俺たちの仲間になるのはどうだい?生身の肉は売っちまうからさ」
振り返ると背後の道はすでに沢山のがらくたを元にした妖怪たちで取り囲まれていた。
「ううう……悲しいです、とても悲しいです……
こんな素敵なメカさんをバラさなきゃいけないなんて……うわぁーん!」
涙ぐみながらシーパは次々に襲い来るガラクタ付喪神を分解していく。
しかし彼は技術者であって戦闘者ではない。すぐに息切れしてしまう。
体力はあっても、作業に使う力と戦闘に使う力は違うのだ。
「あうっ……!いたいぃ……いたい!いたいです!」
次第に傷が増えていく。ケーブルのムチで叩かれ、電気コードで電流を流される。
「へへへ、手間かけさせやがって!」
「ここまでやられたんだ、売る前に徹底的に壊してやるぜ!」
シーパはここに至り、どうやら自分が致命的な状況にあると解ってきた。
このままではじり貧で死ぬ。今までは技術者としての自信とメカへの愛でなんとか戦っていたが、しだいに恐怖がわき出てくる。
「いや、いやぁ……」
シーパが恐怖と疲労に膝を屈しかけたその時!
「おいおいてめえら……まーたろくでもない事やってるみたいだねえ!
カツアゲ程度なら見逃してやったけど、身柄さらうってなったら穏やかじゃないね」
「げえっ灰狼の姉御!」
ビルの屋上から機械の巨体が振ってきた。
ケンタウロス体型の狼型サイボーグは手に持ったトラバサミのような武器であっという間に付喪神たちを蹴散らしていく。
「おのぼりさんに手ぇ出してんじゃねえぞてめえら!
これ以上暴れるってんならアタシが相手になるよ?」
「へへへ、そんな……八百万にたてつこうなんて思ってませんわ。
すいやせんでした。そのガキは姉御が好きにしてくださいよ」
付喪神たちは一転してへりくだる。
八百万とは、この時代で妖怪達の市民権を管理する団体であり、自警団でもあった。
つまり、IDが惜しいならばたてつくべき相手ではない。物理的にも戦える相手ではない。
「そういうこった!このガキは責任持ってあたしが表まで送り届ける!手ぇ出すんなら容赦は無いと思え!」
機械の狼の身体にさらに人の胴体が乗っている。口には狼の牙を模したマスク、頭には狼の獣耳。
異形だが、美しい機械の野獣。凜々しい言動。
「わああ……」
シーパはメカフェチで、胸の豊満な女性が好きだった。そして草食獣と肉食獣。
どストライクである。
「あんた、災難だったね。迷い込んだのかい?
まともなところまでは送り届けてやるから、背中に乗りな」
ああ、なんて綺麗な人なんだろう。
その暴力的な人工筋肉の太ももで蹴られたらどうなるだろう。
その機械の牙で食べられたら、きっと何一つ抵抗できないに違いない。
そう被食者の本能とメカフェチの性癖は一つの倒錯した恋心を導き出した。
「なんて、きれいな人だ……」
「え?アタシ?アタシがかい?」
灰狼はシーパを見下ろした。
小さくってかわいらしい。小ぶりな身体、童顔な顔、美しくねじれた角。
潤んだ瞳に紅に染まる頬、こんな小さな少年にそんな目で見られたらうずいてしまう。
なんて、美味しそうな少年だろう。灰狼はショタコンであった。
「……ぁっ」
「……ふーん?」
草食獣と肉食獣の目があった。
互いの目は、口よりも能弁に「あなたは美しい」と語っていた。
その瞬間、シーパの身体がぶるりと震えた。
ただ見られただけでシーパの脳と身体は白くべとつくモノをはき出していた。
「まあ、その……なんだ。乗っていきな」
「はい……」
犬科の鋭敏な鼻で灰狼はそれに気づいていたが、沸いてきたのは嫌悪感ではなく、欲情。
聡明な戦士は、いかに合法的に口説くか、と言うことに脳のリソースを使い始めた。
「これすごい……東亜工業のベース素体に、VV社のユニバーサルジョイント、
そこにボストン・ダイナミクスの新製品を改造してつっこんでる……すごい、すごい……」
そろりそろりと宝石に触れるようにシーパは灰狼のケンタウロス部分をつい触ってしまう。
「ひゃっ、一応感覚は繋がってるんだよ。あんまりくすぐったくしないでおくれ?」
「あっ、すいません、すいません!えっと、助けてくれてありがとうございます」
灰狼がひょいとシーパを掴んで背中に乗せる。その際、つい自然に頭を撫でてしまう。
「そう、それでいいんだよ。いい子だね」
「えへへ……」
「よーし捕まりなよ。遠慮はいらないよ」
「わ、わあ……」
手と手を掴んでわざと自分の胸のすぐしたにあてさせる。シーパの体温が上がるのが感覚で分かった。
わざとゆっくり走りながら表通りへと進んでいく。
「それで、あんたどうしてこんな所に迷い込んじまったんだい?」
「実はですね……」
シーパは話した。魔道機械の研究が好きなこと、オーサカものづくり展に明日行くこと。
少年のような姿は種族特性であり、成人していること。
展示会場の近くで宿をとっていたが、降りる駅を間違えてここまで来てしまった事。
早口でまくし立てる様子に灰狼は艶然と微笑みながら聞いていた。
「へえ、そうなのかい。じゃああんたは宿を探してるんだね?」
「えっと、そうです……ぁ、はう……」
メカフェチと肉食獣の美しさ、そして人としての美人さ、それらをまとめて性欲というミキサーにぶち込む。
そんな感情で一杯一杯になってるシーパは逆に興奮しているそぶりを見せない恥じらいを見せた。
草食獣のそんないじましい姿に肉食獣は騎馬の震動とその豊満な胸に手をあてさせてアタックを試みる。
「その、変なこと聞くけどさ。あんた、あたしみたいな機械の女が好きなのかい?」
シーパの心が雨に波立つ池とするならば、そこに大岩が投げ込まれた。
性欲と期待、失望されたくないという恋心、それら全てがごちゃごちゃになった中で、彼の本能は誘いに乗る道を選択した。
「大好きです!その精密だけど力強い駆動系も、むちむちした外殻も、グリースの匂いも……
機械も、たくましい女の人も、肉食獣系の人も、全部好きです!」
ぼん、と双方の顔が真っ赤に染まる。
「そ、そうかいそうかい……実はさ、あたしも可愛い男の子が好きでねえ……
とくに草食獣のその横に裂けた瞳で見つけられるとたまらないんだ……
なあ、あたしたち気が合うと思わないかい?」
「……そう、ですね」
一歩一歩、互いに確かめながら理性という階段を降りていく。
「あのさ……展示会は明日なんだろ?」
「はい……」
「あたしん家、泊まるかい?泊まりなよ」
「いいんですか……?あのその僕は」
「恥をかかせないでおくれ?お互い、成人してる男と女だろ。そういう意味さ」
ばくばくばく、と互いの鼓動が伝わる。とても早い。
「はい……お願い、します!」
「うん、うん……!じゃあ善は急げだ!」
ウォーン……!と夜の街に雌狼の遠吠えが響いた。
びりびりとした咆吼にしびれながら、ああ、きっとこれは間違いじゃない、とシーパは納得した。
出会ったときからきっとこうなるしかなかったと。
■
なお、彼らのプレイはとても筆舌に尽くしがたい。
ただ、彼らはとても素晴らしい夜を過ごした。もうそれでいいではないか。
■
「じゃあ、気をつけるんだよシーパ」
「はい、フランさん!ありがとうございました、行ってきます!あの、これ……」
シーパは自分のアドレスが書かれた名刺を渡そうとした。
灰狼のフランは静かに首を振った。
「あんた、明日には故郷に帰るんだろう?
なら、お互い良い思い出、行きずりの関係……それでいいのさ。
じゃあな、がんばれよ!」
自らの未練を断ち切るようにフランはさっと駆けだした。あっというまに遠ざかっていく彼女の背中をシーパはずっと見ていた。
だが、やがて自らの目的を思い出してものづくり展会場へと歩いて行った。
やるべきことがある、やりたいことがある。だから、この目に流れるのは、きっと涙じゃない。
■
ものづくり展はすばらしいものだった。強化拡充外骨格、さらに大きなパワーローダー。
ナノマシンにマイクロマシン。先端技術は彼に大きな刺激を与える。
魔導ゴーレムのブースでは白熱した有意義な議論ができた。
いろいろと便利な最新製品のお試し版を買えた。
「たのしかったなあー……」
楽しかった。楽しかったが……どこかで、あの人狼の声が、匂いが、脳裏に残っていた。
こんなことは初めてだった。いつもメカのことになると理性もぶっとんで集中できるのに。
「ああ、そっか。これが、恋ってやつなのかな……」
初恋はグリースの味がした。甘くもほろ苦く、ずっと後味が残る……そんなものだ。
予約していたホテルへと歩く背中はとても、その姿以上に小さかった。
■
「これと、これを組み合わせてー……それから、呪文をインストール……」
シーパはホテルのベッドでナノマシンや最新機器をいじっていた。メカいじりはもう10年以上にもなる趣味だ。
気分が乗らなくても自然にやっている。
だが、なぜだろう。ベッドがこんなにも広い気がするのは。
「あーだめだめ。良い思い出……そう、しなくっちゃ」
じわ、と視界がにじむ。この草食系はその童顔の通り興奮しやすく、泣きやすいのだ。
その時、奇跡がやってきた。
窓ガラスを突き破って鋼の巨体が入ってきたのだ。
「ちっ……逃げな!巻き込まれるよ一般人はすっこんで……!シーパ!なんで!?」
「フランさん!?どうして!」
それは奇跡だった。このビルがたまたま物理防御結界がない、この時代珍しいビルだったこと。
たまたまフランの入れるほど大きな窓があったこと。
そして、シーパの部屋に傷ついたフランが飛び込んできたこと。
どれか一つでもずれていれば成立しなかった。
るいは、この時代無数にいるどこかの神性の粋な計らいか。
「ちょっとしくじっちまってさ……逃げな。あと1分もすれば敵が入ってくるよ。
あたしならなんとかするさ……逃げろ!」
肉食獣の咆吼に草食獣の本能が逃げろと言っているが、それでもシーパは踏みとどまった。
「1分、それだけなら時間があるんですね!?」
「シーパ、何を……?」
シーパは工具を取り出した。
そして奇跡はもう一つ。彼が購入した中にはサイボーグの修理改造用ナノマシンがあったこと。
今まさにそれの整備をしていたこと。
チャラい友人の術士から符型ゴーレムのお札を譲り受けていたこと。
「30秒で直して見せます!ついでに改造します!」
「ちょ、ま、あんっ」
そこからのシーパの技は神がかっていた。
電脳も使いいくつもの工程を同時進行で秒単位でやっていく。
改造を含めてジャスト1分。技術者と雄としての本気であった。
「あんた、本当にすごい技師だったんだね……これならいけそうだよ!」
「はい……僕からできるのは、これくらいですけど……!」
「十分さ!さあ、ここからはあたしの仕事だ!」
灰狼はひときわ高く吼えると、窓から外へと飛んでいった。
■
それから先にはとくに語るべき事はない。
改造により大幅にスペックアップしたフランは敵をあっという間に倒しきった。
途中、『不明なユニットが接続されました』と電脳が言っていたが些細なことだろう。
「なんだいこれ!?」
「フランさんのための武器です、使ってください!」
「やっぱあんただったかい、ええい……使ってやるさ!」
不明なユニットを承認すると、赤熱する巨大チェーンソーが出てきたり。
「おお……すごいじゃないかい!」
「ほかにもあります!マルチプルパルスを使ってみてください!」
「なんか周りが焼け野原になったんだけど」
「すごいでしょ!?」
フランもちょっと引くレベルの火力の改造がしてあったり。
まあ、とにかく力を合わせて有利に戦った。もうそれでいい。
■
戦いが終わり、フランが事務連絡や後処理をしているとたたたっとシーパがトランクケースを持ってホテルから出てきた。
「フランさん、すいません……ホテルから、追い出されちゃいましたー」
シーパの目は潤んで、その白い頬は赤く染まる。
「そうかい、迷惑かけたね……うん、それなら仕方ないね」
フランは舌でぺろりと唇を舐めた。
「はい、仕方ないですよね」
「うんうん、じゃあ泊まっていこうか」
「はい!」
ちょっとかなり長い昨夜の延長戦が行われたのは言うまでも無い。
■
しかし楽しい時間とは短いもの。やがて、梅田駅。
改札前でフランとシーパは別れを告げていた。
「あの……やっぱり、これ、受け取ってください」
「……そうだね、あんたには負けたよ」
シーパが名刺を出す。今度はフランもさっとメモを取り出して、自らのアドレスを書いて、交換した。
「んん?角船?九州の曽良場に住んでる?あんた、知り合いにボーって狼男いないかい?」
「えっ、いますけど。ボー・ヴォルフ君のことですか?」
「アタシのフルネーム、ボー・フラン・ヴォルフ。あいつは多分ボー・ロイド・ヴォルフ。違うかい?」
「もしかして、ボー君のお姉さん……?」
「はっはっは!そうかそうか、ボーのダチの角船ってあんたかい!そうかぁ……」
フランは何か気まずそうだが、シーパはむしろうれしかった。
「僕、曽良場に帰っても、きっとまた大阪に来ます!絶対、絶対連絡します!フランさん、お元気で!また、いつか……」
「うん、またいつかね」
二人はそれぞれの道へと戻っていく。シーパはまたあの椎名林檎の曲を聴いていた。
それはもっともっと大昔の曲のリメイクなのだが。
東京へ行った男が、田舎で待つ彼女を忘れていく曲。都会の絵の具に染まって行く曲。
だが、彼らはきっとそうならないだろう。なぜなら男は西へ帰り、都会にいるのは彼女の方なのだから。
そんな、あてもないジンクスでも、この神秘と驚異あふれる世の中ならあり得ることだ。
「こーいーびとーよー……」
たとえば、山羊の彼氏と狼の彼女、なんてのもきっと成立する。
驚異と脅威に満ちたこの時代でも、恋人同士が交わす言葉に変わりなんてあるわけがないのだから。




