097:ありがと
【非対応アーキテクチャです。プロセスの解析に失敗しました】
システムコンソールに表示されたメッセージに、タケルは一瞬呆然と立ち尽くしたものの、すぐに顔を上げて世界樹に向かって飛びかかった!!
だが、タケルの放ったSTR999の拳は、世界樹に触れるか触れないかのところで静止した。
【フラグ回収が完了していません】
「ちくしょう……!!!」
タケルは世界樹の前に膝をついてうなだれ、地面に拳を叩きつけた。
……今までずっとその力を武器に戦ってきた人に対し、それをいきなり重要な場面で全否定とか、開発者の悪質なやり方には反吐が出る。
私はその怒りをぐっと抑えつつ、タケルの肩にそっと手を置いた。
『タケル、離れてて』
「アンジュ……?」
私は皆に世界樹の前から離れるよう指示し、それから私の隣に眠そうな目をした友が並んだ。
『ロロ、よろしくね』
『うん、任せて』
私と共に世界樹の前へ移動したロロが賢者の杖を地面に突き立てると、懐に入れていたキラキラと輝く宝石をいくつも周りに放り投げて、その周りに魔法陣を描き始めた。
そんなロロに対し、私はひたすら神聖術をかけ続ける。
「お前ら、何をするつもりだ……?」
『私達の全力を、あのクソッタレの大木におみまいしてやろうかと』
『友情パワーだね』
『なんかそれ恥ずかしいからイヤ』
私とロロの返事の意味に即座に気づいたタケルが驚いた顔をしている。
「お前、マジか……?」
『うん』
その意味に気づいていないリーリアは不思議そうに首を傾げていた。
「アンジュちゃんは一体何を……?」
タケルは一瞬、躊躇いつつ渋々と口を開いた。
「ロロの魔法で世界樹を焼き払うつもりなんだよ」
「えええっ!? た、確かにそれならオウカ姫を救う事は出来そうですが……」
「でも、ここが天界行きの唯一の入り口なんだよ」
タケルの言葉を聞いて、ついにその意味に気づいたリーリアが泣きそうな顔で私の両肩を掴んだ。
「アンジュちゃんが天界に戻れなくなっちゃうじゃない! そんなの駄目だよ!!」
やっぱりこのおねーさんは思った通りの反応をしてくれた。
でも、私は首を横に振ってそれを否定する。
『そこのお姫様ってば、生まれてから今までずっと死ぬ死ぬ言われてて、その子を見殺しにしておきながら、私だけ無事に天界に帰還してめでたしめでたし。アンジュちゃんの大冒険はオシマイ~……って? そんなの許せるもんか! 私の美学に反する!』
それに、この世界にはみんなが居るから。
天界に帰れなくたって、きっと何とかなるだろう。
「お前、いつからそんな熱いキャラになったんだよ」
『うっさいなー! タケルが私をバカ呼ばわりして、ロロがヘタレ呼ばわりしてただけで、最初からこうだよっ!!』
不満をブーブー言いながらタケルをポカポカ叩いていると、準備を終えたロロがおかしそうに笑った。
『あはは。そんなアツい親友から直々のお願いなのだから……全力で行かないとね』
魔法陣を描き終えたロロは、いつもより大きな声で魔法の詠唱を始めた。
周囲の異常な空気に何かを察したのか、世界樹の枝葉に止まっていた鳥達や獣が一斉に飛び立ち、空を真っ黒に染め上げる。
詠唱が終盤にさしかかるにつれてロロの足下の地面が大きくひび割れ、賢者の杖の先端に付いた宝石が真っ赤に焼けるような色に変化してゆく。
魔法陣の周りに吹き荒れる魔力の渦に触れた周りの草木は黒く朽ち、タケルがそれらに手で触れると砂になって崩れ落ちた。
「エアリオが前に牧場でやった時と同じ……?」
あの時は牧場の草木が一斉に枯れて大事になってしまったのだが、今回はそれよりもかなり強力な感じだ。
『私の呪いにも同じ手法を使うものもありますけど、強力過ぎる魔法を放つには術者の魔力だけでなく周りの木々の命を奪うものもあるのです……』
メリーザがその表情に恐怖を滲ませながら、ロロの詠唱を見つめていた。
『ここまで全力で放つのはボクも初めてだよ。でも………この一撃で決めてみせる!!』
ロロは世界樹の天辺を睨みながら渾身の一撃を放った。
『フレアストーム!!!』
魔王四天王最強として君臨し、巨大な山すらも一撃で貫く攻撃魔法を自在に操るウィザード・ロロウナの放った渾身の一撃は、天を焼き尽くすかの如く巨大な炎の嵐となって世界樹を包んだ!
『世界樹の種とやらがオウカ姫の命を奪うのなら、我が炎でその種ごと全て焼き払ってやる!!!』
◇◇
それからしばらく炎の嵐が世界樹を焼き尽くした。
炎が止むと、そこには黒く焼け焦げた巨大な炭の塊があった……。
「すげえ……」
本気で驚いたタケルの顔を見て、ロロは御満悦の様子。
だが、先ほどの一撃で力を使い果たしたロロは自力で立っていられないらしく、ずっと私にもたれ掛かったままだ。
『ロロ、大丈夫?』
『全然大丈夫じゃないよ全く! 賢者の杖なんて名ばかりのインチキだ。バカみたいに魔力吸い上げてくるし、あの陰湿女の杖なだけあってロクなもんじゃないね』
この口振りなら問題なさそうだ。
私たちの顔に再び笑顔が戻ったその時……!
「世界樹の生命力がまだ残ってます!! あと三百三十九!!」
『っ!!?』
レンの叫ぶ声にロロが慌てて世界樹の方へ振り返ると、その真上には火球が蠢いていた。
【緊急警報! 天界関係者によるゲートへの攻撃が検出されました。内乱行動と判断し、自動迎撃モードに移行します】
そのアナウンスの意味にいち早く気づいたクローが私達の前に飛び出すと、両前脚を前に突き出した。
『ホーリーシールド!!!』
世界樹から巨大な火球が投げ落とされると同時に防御壁の展開に成功。
すんでの所で火球を防ぐことが出来たものの、勢いは止むことなくジリジリとシールドの表面を蝕んでいる。
しかも、タケルのシステムコンソールに表示された世界樹のHPは残り327……これがゼロになるとオウカ姫が死に、そもそもシールドが破られたらその時点で全滅だ。
どうすれば良い! どうすれば……!!
「リーリア、行け!」
『はい!!』
タケルの声が響くと同時にリーリアの瞳が澄んだ青から真紅に変わり、足下からは強烈な魔力の渦が吹き出していた。
その隣にルルーが並び、分厚い魔導書を開きながら二人で同時に詠唱を読み上げた。
『『エレメンタルシールド!!!』』
二重に張られたバリアが火球を消し飛ばし、再び辺りは静けさを取り戻した。
……って、何これ? 何この超展開っ!?
『えーっと、今のは何……?』
私が唖然としながらタケルに訊ねると、頭をポリポリとかきながら答えた。
「前にスタックの街で色々あって、リーリアはハイエルフにクラスチェンジしてたんだよ。システムコンソールと脆弱性解析ツールを使わないといけないし、時間制限付きだけど」
『そう言うのは伏せてないでさっさと話さんかいっ!!!』
これだからタケルはっ!!!
だけど、これで少しは時間が稼げる。
『クローとリーリア、ルルーの三人は防御を継続で! エアリオ、メリーザ、あとタケルも追撃でアレに攻撃をお願い!!』
私はロロの体力を回復するためにひたすら支援スキルをかけ続ける。
……しかし、ふと後方を見るとオウカ姫が辛そうな顔で俯いていた。
「皆が頑張っておるのに、何も出来ぬのが歯痒い。妾がここまで無力とは……」
「大丈夫ですから、皆を信じて……」
近接攻撃が主のレンが世界樹に攻撃するにはシールドの外へ出る必要があるものの、さすがにそんな無茶はさせられないと、タケルの指示でレンにはオウカと共に安全な場所に待避してもらった。
『タケル、思いっきり強いヤツを一発お願い!』
私の指示にタケルはスキルウインドウを操作して魔法を放った。
「……フレア!!!」
さすがチート能力だけあって、その一発で世界樹の上半分が丸ごと吹き飛んだ。
これなら行けるか……!?
だが、私の期待も虚しく世界樹の上には次のメッセージが表示された。
【自動迎撃モードレベル1の解除を検出。レベル2にシフトします】
そして世界樹の真上には先ほどとは比べものにならないほど巨大な火球が……。
「マジかよ……!!!」
それが投げ落とされた途端、凄まじい轟音と共にクローとルルーの張った防御壁が一瞬で消し飛んで、残すはリーリアの一枚だけになった。
『た、たたた、タケルさーーーんっ!!』
リーリアが涙目になりながら必死に抑えているものの、猛スピードでシールドの表面が削られる様子からして、これが破られるのも時間の問題だろう。
この超巨大な火球に向かってタケルがファイアピラーを数発撃ち込んだものの、あっさりと蒸発してしまった。
「なんつー馬鹿げた火力!! しかも世界樹のHPは残り130、時間もねえ! どうすれば、どうすれば……!!」
焦りながら空に向かって攻撃スキルを連発するタケルに対して、私は咄嗟に手を握った。
「っ!?」
『あの火球に何か出来ない? 世界樹が駄目でも、アレがもしこの世界の攻撃魔法なら……!!』
私の言葉にハッと何かに気づいたタケルが、すぐに脆弱性解析ツールを立ち上げて叫んだ。
「アタッチ、プロセス、ファイアボールレベル2!!」
世界樹の時とは違い、無事にアタッチに成功したらしく処理は正常に進行している。
しかし、それから間もなくしてリーリアの防御壁が破られた!
よく見るとリーリアの瞳の色が澄んだ青色に戻っており、どうやらハイエルフとしての活動限界になってしまった様子だ。
「ごめんなさい……」
リーリアはその場にぱたりと倒れたものの、タケルはシステムコンソールの一点を凝視していた。
そして次の瞬間!
【Analyze successful】
「間に合ええええええええええっ!!!」
タケルが叫びながらSTOPを叩くと、それと同時に火球が空中で静止した。
「世界樹は駄目でも、そのクソデカい火の玉はハッキングOKなのな……」
でも、まだ火球を止めただけで世界樹は健在だ。
しかも残りHPは113しかないし、あと2分弱で止めなければ……。
……だが、そんな悩みすらも吹き飛ばすメッセージが表示された。
【自動迎撃システムレベル2の停止を検出。最終防衛体制に入ります】
再び機械的なアナウンスが流れると、今度は大量の火球が天を埋め尽くした。
「パワーインフレってレベルじゃねーな……」
タケルの呟きに、仲間達が皆その場にへたり込んだ。
……いや、一人だけ諦めてないヤツがいた。
『さて、休憩完了っと』
『ロロ……』
渾身の一撃を防がれ、魔力も尽き果てたはずのロロだけは、まだ諦めていなかった。
『まったく、ここで逆転する方がカッコイイのに、みんな諦めるのが早いんじゃない?』
ロロは地面に突き立てていた賢者の杖を強く握ると、それをブンブンと振り回しながら世界樹に向かって歩いた。
『ボクみたいな天才魔法使いは最後まで奥の手を用意してるものさ』
そして真っ黒に焼け焦げた世界樹へ向かって杖を構えたロロは、聞こえないほどに小さな声で詠唱を始めた。
その直後、何かに気づいたレンが叫んだ。
「タケル様! ロロの命が……!!」
急いでタケルがシステムコンソールを開くと、そこに表示されていたロロのステータスは……
HP:0
SP:0
「……っ!!!」
私とタケルは一心不乱に走ってロロの肩を掴もうとしたが、その手前で魔法障壁に行く手を阻まれた。
タケルが全力で殴っても金属質な音が響くだけで、それが破ることは出来ない。
「おい、ロロっ!!!」
大声で呼びかけても、ロロは振り返らない。
『こんなの無いよ! 女の子を見殺しにしてまで天界に帰るつもりはないとは言ったけど、ロロが助からなきゃ意味ないじゃないか!!』
魔力障壁の前にうなだれた私の頭に、ロロがそっと手を置いた。
それからちらりと横目だけをこちらに向けて、いつも通りの眠そうな目で笑った。
『ありがと』
ロロの笑顔に私はたまらず涙し、その場に崩れ落ちた。
『タケル。アンジュの事、任せたよ』
再び世界樹に向き直したロロは賢者の杖を高々と掲げ、最期の言葉を口にした。
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『神の炎』
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直後、ロロの握る賢者の杖の宝石が砕け散り、荒れ狂う炎が全てを焼き尽くした。





