096:SAKURA SEED
【ウルシュ予言書プログラム アップデータv1.0→1.1差分パッチ】
そのメッセージを見た俺とアンジュは思わず息を飲んだ。
「これで予言書の内容が変わる……のか?」
俺が恐る恐るInstall/Accestボタンに触れると、画面にインストールログが流れ、Completed!と表示された直後、魔導書が燃え上がった!
「うっお!」
そのまま一瞬で燃え尽きると、跡には煤だけが残っていた。
「野郎、意地でも解析させないつもりか……」
『せめて本が白紙になるとか、プログラムが消えるようにすれば良いのに。もしも地下室に可燃性ガスが溜まってたら、今ので私たち全員火ダルマだったよね……』
こっわ!
これ作ったクソ天使野郎は考え無し過ぎるだろ!!
「それはともかく、早く城に戻ろう! 予言書の内容を確認しないとっ!」
◇◇
そして資料館を急いで飛び出した俺たちが城に戻ると、城主サクヤや家臣達が皆オロオロと慌てていた。
「母上!」
「お、オウカっ! これを……!」
それまでダークブラウンのハードカバー本だった予言書が真新しくなり、その色は……
「未来を示す予言書が青本とか、コレ考えた奴は随分と悪趣味だな」
『全くね……』
だが、その青本をサクヤやオウカが開こうとしてもびくともせず、どうやら封印が施されている様子。
恐らくこのパターンは……
「レン、試しにやってみてくれ」
「えっ、私ですか?」
わざわざ救世主が助けに来ると予言書に書かれていたにも関わらず、これまで特にレンが力を発揮できる見せ場が無かったわけで。
せめて新しい予言書の封印解除の役目が割り当てられていないと、いくら何でもあんまりだろう。
そしてレンが恐る恐る青本に手を触れると……
「うわあっ!!」
突如青本から放たれた凄まじい閃光に慌ててレンは手を引いたが、それから自分の手をまじまじと見つめている。
「タケル様……」
「大丈夫かっ!?」
駆け寄った俺を見たレンは目線をキョロキョロと動かし、困惑した顔のまま口を開いた。
「タケル様……これは、どういう意味なのでしょうか……?」
そう言いながらレンが近くにあった紙に書いたそれは……
山田タケル(管理者)
生命 九九九九
魔力 九九九九
「『……っ!?』」
これは紛れもなく俺のステータスだ!
「レンの見えているモノは、この通りに書かれているのか?」
「あ、はい。タケル様の左上にはこれらの文字が、あと右上や真下にも『能力』や『環境設定』? などと書かれています」
俺の管理者権限とは違い、どうやらレンに与えられたものは常時表示方式か。
「レン、試しにシステムコンソール起動と言いながら手を前にやってみてくれ」
俺の指示に従って、レンは先ほど予言書に触れた時と同じように、再び恐る恐る手を前に伸ばした。
「……システムコンソール、起動」
すると、レンの目の前に和風RPGテイストなメニュー画面が表示された。
「タケル様、これは……?」
「やっぱりか。予言書のアップデートって、要するにレンに対する能力付与の意味だったんだな」
しかも俺のステータス表示をはじめ、漢字で書かれたオリジナルUIへのカスタマイズ付きとか、最初からレンが能力を得ることを想定して設計しているのは間違いない。
『レン、そこの"技能"っ書かれたヤツ開いてみてくれる?』
アンジュの出した指示に従ってレンが開いたメニューは、恐らく俺のシステムコンソールにおける「スキルウインドウ」だ。
だが、バカみたいに強火力の魔法がビッシリ並んだ俺のものとは違い、レンに与えられたスキルはただひとつ……
【未来予知】
『なるほどね……』
「俺も薄々予想はしていたけどな」
そこに書かれた言葉の意味を理解出来たのは、この場に居るごく一部の者だけだが、その意味を理解できた内の一人、オウカ姫が口を開いた。
「レンよ。苦労をかけてすまぬが、それで妾を視てくれぬか?」
「……はい」
レンは不慣れな手つきでゆっくりとUIを操作し、それからオウカ姫に手をかざす。
それからしばらく目線を宙に泳がせた後、ハッとした顔でオウカ姫の両肩を掴んだ!
「オウカ姫! この地域の桜が散るのはいつ頃ですか!!!」
「さ、桜ならとうに満開を過ぎて、散り始めておるが……」
その言葉に、レンの顔から血の気が引いてゆく。
「タケル様急いでっ! このままじゃオウカ姫の命がっ!!」
「っ!?」
俺たちはレンと共に世界樹に向けて駆け出した。
◇◇
世界樹に向かいながらレンの口から出た言葉は、俺たちの思いもよらないものだった。
「世界樹というのは名ばかりで、その正体は……人々の魂を喰らう化け物です」
――曰く、この世界が誕生した時から世界樹は人々の命を吸い上げて成長してきた。
――曰く、今年その世界樹の天寿が尽きて枯れ果てる。
――曰く、巫女となる者に種子を宿し、自らの花が散り枯れた時、その者の魂を使って新たな世界樹が生まれる……
「世界樹そのものがラスボスかよ」
「まだ種子が落ちる前なら、それをどうにかすればオウカ姫を助けられるかもしれません」
つまり、レンの未来予知を使ったとしても回避する手段までは見えていないということだ。
しばらくして俺たちは世界樹の前までやってきたわけだが……。
「すげえ……』
世界樹と呼ばれるだけあって、その巨大さは桁外れだった。
そして、高層ビルのようにそびえ立つその大樹からは景色を薄桃色に染めるほどの桜吹雪が散っていた。
そんな世界樹を見て、レンが叫んだ。
「体力 五百八、五百七、五百六……もう時間がありませんっ!!」
それを聞いた俺も慌てて世界樹に照準を合わせてステータスを表示する。
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NAME:Yggdrasill
TYPE:World tree of the cherry blossoms
HP:503 SP:9999
STR:999 AGI:999 VIT:999 INT:999 DEX:999 LUK:999
GOLD:0
ITEM :The seed
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前回見た時は全て「???」と伏せられていたステータス表示が全てアンロックされ、全てのパラメータが表示されているのだが、これまた酷いチート状態だった。
HP値だけはレンの読み上げていた値と同じで、後は全てカンスト。
アイテム欄に書かれた『The seed』が要するにオウカ姫の命を奪う種子だろう。
「オ……オウカ姫の左上に書かれている数字も減ってます」
レンの言う通り、オウカと世界樹のHPは完全にシンクロしていた。
前にロロがオウカ姫の状態異常を調べた時に『この子の年齢が何故か2112歳って表示されてるんだよ』と言っていたが、つまり世界樹の生命力とオウカの命が対になっているというヒントだったのだろう。
「……迷ってる暇はねえな!」
俺は世界樹に向かって両手をかざし、伝家の宝刀を発動する!
「脆弱性解析ツール起動!!」
世界樹のHPがゼロになるとオウカ姫が死ぬのであれば、約8分で減算処理を探し出し、HPの減算ルーチンをハックすれば良いだけの話だ。
もしくは世界樹のHPを強制的に上書きして、延命する方法だってあるだろう。
クソ天使野郎の思い通りになんぞしてたまるものか!!!
「アタッチ、ターゲット、ユグドラシル!!」
俺の宣言が辺りに響き……
【非対応アーキテクチャです。プロセスの解析に失敗しました】
「……え?」
HP 480、479、478……。
呆然と立ち尽くす俺のシステムコンソールには、淡々と死の宣告のカウントダウンが表示されていた。





