094:ディープなダンジョンへようこそ!
「……物怪が出るのじゃ」
「モノノケぇ?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
「ほ、本当じゃ! 見た者だってたくさん居るのじゃぞっ!!」
怪訝な顔をする俺に対してオウカ姫は抗議の声を上げたものの、これだけモンスターだの魔王四天王だのが出てくる世界なのに、今さらオバケを怖がる理由が無いわけで。
「まあモノノケが出てくるにしても、今回は好都合だよ。そいつが元凶だったら俺たちがぶっ倒せば良いだけだしな」
「ぶっ倒……! え、えええっ!?」
目を白黒させるオウカ姫がなかなか可愛らしいな。
「まあ、救世主様も居るんだから気にすんな。何とかなるさ」
俺に救世主様と呼ばれたレンが微妙に困った顔をしていたのはさておき、俺たちは資料庫の前までやってきた。
ぱっと見た感じは何の変哲もない、単なる白塗りの蔵である。
ふとアンジュの方を見ると、目をつぶりながらブツブツと何かを呟いていたものの、それからしばらくして首を傾げた。
『ココ、ホントにオバケなんて出るの?』
どうやらアンジュの『邪悪センサー(自称)』にも反応が無いらしく、悪意のある魔物が出てくる可能性は無いと考えて良さそうだ。
「何を言うか! 誰も居ないのに話し声が聞こえたり、いきなり棚から本が落ちてきただの、家来達も怖がって……妾も怖い」
どうやら強がりたい意志を恐怖が上回ってしまった様子。
「まあ、ついて来るのは良いけど本当に危ないと思ったら姫だけでも逃げてな?」
そう言ってオウカ姫の頭をぽんぽんしてから、俺は資料庫のドアを開けた。
<ウルシュ国立図書館 別館資料庫>
……そして「ろくろ首」とオウカ姫の目があった。
「あら姫様~」
「くぁwせdrftgyふじこlp;@:!!!!!!!!!!!!!!!!」
オウカ姫は声にならない悲鳴を上げながら俺に飛びつくと、そのままグッタリと脱力してしまった。
これは……恐怖のあまり失神しちゃったみたいだ。
俺はオウカ姫をお姫様抱っこ(洒落じゃないよ)で抱えた。
「タイミング悪かったね……」
「あ、あの、どうしたのでしょう~?」
ろくろ首(の張り子)を抱えていたルルーさんが、困り顔でオロオロしていた。
◇◇
「くっ、殺せ……!」
『そういうのは姫騎士が言わないと様にならないよ』
「お前は何を言っているんだ」
まさかの失態に真っ赤な顔で恥ずかしがるオウカ姫に向かってヘンなコトを呟くアンジュに呆れつつ、俺たちは資料庫を漁っていた。
「ろくろ首、のっぺらぼう、子泣き爺に砂かけ婆ねぇ。これじゃ資料庫と言うよりお化け屋敷だな」
「あっ! 私が小さい頃に、この首の長い人が見せ物小屋に居るって話を聞いたことありますっ」
さすが古典妖怪だけあって、江戸育ちのレンでも知っているようだ。
でも、ろくろ首を見せ物にしちゃって良いのか江戸時代!
「こんな気味の悪い物ばかり並べておったら、物怪が寄り付くのも当然じゃろう……」
ろくろ首の正体が張り子だったと知って、幽霊の正体見たり枯れ尾花……とはならず、先ほどの一件でオウカ姫はさらに恐怖が倍増してしまったようだ。
小さな女の子にヘンなトラウマを残しちゃったかなぁ。
と、そんなコトを考えていると……
『ぬああああああああっ!!!』
アンジュがヘンな悲鳴を上げながら本棚の下に手を突っ込んでいた。
「何やってんの?」
『ポケットから飴出して食べようと思ったら、一緒にポケットに入れてた小銭が転がって、そのまま本棚の下にぃぃぃっ!!!』
「ゲーセンで筐体下に100円落とした小学生かお前はっ!!」
『うわーん! 意味分からないけど、うわーーーんっ!!』
涙目で騒ぐアンジュに呆れつつレンとエアリオが本棚を持ち上げてずらすと、そこには1000ボニー硬貨が1枚。
ちなみに1000ボニー硬貨1枚の価値は、だいたい「そこらの露店で薄いパンにハムを包んだヤツが食える金額」だ。
『うわーん! ありがとうぅぅぅぅぅー!!!』
『い、いや別にそれほどでも……っておい! 飛びつくな! 涙と鼻水があああーーーーー!!!』
アンジュに飛びつかれ、袖が湿っぽくなって本気で嫌そうな顔をしているエアリオに苦笑しつつ、ふと床に目をやると……あれ?
「そこだけ床の色が違うくね?」
俺が靴底で埃を払うと、取っ手の付いた木枠のようなものがあった。
「床下収納ですかね?」
レンが取っ手を握ってそれを引き上げると、その下から狭い階段が現れた。
おお、隠し通路だ……!
「やっべー、こういうのすげー好きだわ」
『やっぱりタケルもそう思う? なんかテンション上がるよね』
1000ボニー硬貨を大事そうに財布に入れながらアンジュはウンウンと肯く。
『で、誰から入るの?』
オバケが出ると噂の建物の本棚の下に隠された秘密階段とか、RPGなら強武器とか召喚魔法を覚えるスクロールが手に入る展開だったりするのだが、ぶっちゃけ先頭を歩きたいかと言われると微妙だ。
「天使パワーとやらでここに魔物が居ないのはチェック済みなんだろ? お前から行けよ」
『は? か弱い女の子から先に行かせるとか、タケルそれでもキンタマ付いてんの?』
「言い方ァ!!!」
というわけで、毎度おなじみの取っ組み合いが始まったものの、そんな俺たちの横をひょうひょうとロロが階段に一歩踏み出した。
『どのみちキミらは明かりの魔法を使えないだろう? それで真っ暗な中を歩くのは無理だよ』
ごもっとも。
その言葉に頷いた俺を見て、ニコリと笑ったロロはこちらを見ながら階段を降りて行く。
『ボクは洞窟暮らしが長かったから、こんな暗がりなんてどうってことな……きゃんっ!』
よそ見しながら歩いたせいで、ロロは階段で足を滑らせて尻餅をついてしまった。
だが重要なのはそこじゃない!!!
『今、きゃんって言った!! ロロが、きゃんって!!』
「高い声が意外と可愛らしいっ!」
俺とアンジュの反応に、ロロは真っ赤な顔をフードで隠しながら再び階段を登ってきて、賢者の杖で俺の頭をポカポカ叩く。
「いててっ! だって、いつもの淡々としたボクっ娘ボイスに慣れてるからギャップ萌えが……!」
『ばっ、ばかぁ! もう知らないっ!』
いつもとは違う口調のまま、ロロはプンプンと怒りながら再び階段を降りていってしまった。
「ちょ、待てよっ!」
そして俺は、どこかの木村さんみたいな口調でロロの後ろを追いかけた。





