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093:R.O.D-Read or dash-

<ウルシュ国立図書館>


『到着~っと!』


 アンジュが一番乗りで図書館の入り口に飛び込むと、どこかの博士が作ったメガネっ娘ロボットのように両手を広げながら奥に走って行った。


「おーい、図書館で騒ぐなよー」


『うほほーい』


 返事まで真似しなくてもよろしい。


「しかし、凄い書物の数ですね……」


「これほどの規模のものは、私も生まれて初めてです……」


 リーリアとルルーさんが目を白黒させながら眺めている目線の先には、広大な空間にビッシリと並んだ本棚の数々。

 正直なところ、俺は「どうせ図書館と言っても田舎のちっちゃい建物に巻物とか木簡もっかんを平置きしてるんだろ?」とかナメていたのだが、このウルシュ国立図書館は俺の前居た世界の名だたる図書館にすら引けを取らないレベルの高さだった。


 入り口で呆然としながら驚く俺たちを見たオウカ姫は、家来達にレンの自慢話をした時と同じポーズでエッヘンと胸を張りながらニヤリと笑った。


「そもそも製本技術を確立したのは我がウルシュ国じゃからな。他国で本を見かけたら、その多くはウルシュの技術によって作られていると思って良かろう。それに、余所よそに渡しとらん技術だって山ほどあるしな」


「へぇ-、どうしてそんなに製本技術が~~って、聞くまでも無いか……」


 この国の未来を導いてきた予言書は最後に姫の死をもってその役目を終えるわけだが、姫の死を回避するための研究はもちろんのこと、それと平行して「予言書の続き」に関する研究も行われてきたはず。

 前の世界の人類が錬金術の追求によって化学力を高めたように、この国の民は予言書の解析をもって独自の製本技術を高めることが出来たと考えれば、この大図書館のレベルの高さは説明がつく。


 逆行工学技術リバースエンジニアリングは正攻法ではないと否定的に見られることも多いけど、それによって得られる知識だってたくさんあるわけで。

 特に、予言書のような人知を超えたオーバーテクノロジーに関しては、それを解析するだけでも多くの技術革新が生まれるものなのだ。


「文献によると、この国が生まれて間もなく予言書が書かれたらしい……しかし、お主はレンとはまた違った強者のようじゃの。この図書館が生まれた経緯を、あっさりと推測しおった。仲間達からの信頼も厚い。惜しむらくは……」


「惜しむらく???」


 首を傾げた俺の顔を、オウカ姫がじっと見る。


「いかんせん、容姿がわらわの好みではないのぉ」


『ぷっ! うひゃひゃひゃひゃ!! ブヒャヒャヒャヒャヒャ!!!』


 オウカ姫の一発がツボに入ったアンジュがバカ笑いしながら転げている。

 ……ふむ。


『ねえねえ! 現れた女の子が軒並み自分に惚れると自惚うぬぼれたところに現実を突きつけられるのってどんな気持ちっ? ふひひっ!! ひぃーっ』


 ふむ、なかなか言葉で表現するのは難しいけど、ひとつ言えるのは……


「図書館ではお静かに!!!」


 そのままバカ天使をジャイアントスイングで窓の外に放り投げた。

 うむうむ、これで良い。


「お、おいっ! 小娘がものすごい勢いで飛んでいったぞ!! あれは大丈夫なのかっ!???」


 オウカ姫が心配そうにオロオロしている姿がなかなか新鮮だ。


「いつもの事なので大丈夫だと思いますよ」


 苦笑しながら答えるレンに、オウカ姫はさらに困惑する。


「う、うーむ……。あっ、念のため伝えておくが先程の発言は、お主の容姿が悪いという意味ではないぞっ! わらわの好みは、もっとこう……こんな武人なのじゃ!」


 そう言いながらオウカ姫が指差した本の表紙に描かれていたのは、某メーカーの三国志の張飛ちょうひのようなゴツい髭面。


『なるほど、タケルとは正反対だね。今回は私のステータス強化は期待できないね』


 いつの間にか戻ってきたアンジュが残念そうに呟くのを見て、オウカ姫はさらに驚愕した。



◇◇



『これといった手掛かりは見つかりませんわね……』


 メリーザは本を棚に戻してから、立ち並ぶ本の背表紙を俯瞰ふかんしつつ溜め息を吐いた。

 国立図書館に来てから既に2時間ほどが経過しているが、今のところ収穫無し。

 そもそもこの世界の文字が読めない俺にとって、今回のようなミッションは何も出来るコトが無いのが寂しい限りだ。


『んー、ボクが読み書きを教えようか?』


 ロロが分厚いハードカバーの本を読みながら話しかけてきた。


「んだなー。ロロ先生様々なら教え方上手そうだし、どこか教育向けの本棚無いかな~……って、お前は何を読んでるんだ? やけに分厚い本だけど」


『ん? ああ、どうやらこの国の人が書いた小説みたいだね。過去や未来に飛んで人々を救う冒険モノで、なかなか面白いよ』


 相変わらずロロはマイペースで笑ってしまう。

 それにしても、異世界にもタイムトラベル系の小説があるとは、どこの世界でも人類は同じようなコトを思いつくんだなぁ。


『でも、過去を変えちゃったら未来の自分はどうなるんだろうね? もし過去に戻ろうとする自分を邪魔したら過去を変える事が出来なくなるし、でもそうなると邪魔しないから過去に戻れるし、はてはて???』


「俺の前居た世界でも、そこで矛盾が起こって世界が壊れるとか別の世界に分岐するから影響無いとか、色々な説があったなー」


『へー、それじゃあもしタケルがそれを実現出来た時は、是非とも結果を教えておくれ』


「ははは、さすがに俺のスキルでもそんな器用なコトは無理だよ」


 そんなたわいもない話をしながらふと遠くの本棚の辺を見ると、珍しい組み合わせが居た。


「なるほど、家臣をあざむくには良い手じゃな」


『ただしこの手はそんなに何度も使えませんの。ここぞという時にお使いくださいませ』


 何だか悪巧みの臭いがする談義に盛り上がっているのは、メリーザとオウカ姫のふたり。

 お嬢様キャラとお姫様キャラで相性が良いのかしら?


 ……って、そうじゃなくて!!


「お姫様に何吹き込んでるんだよ……」


 呆れながら俺が声をかけると、オウカ姫がトトトッと走って近づいてきた。


「実はタケル様にお伝えしたいことがあるのじゃ……。夕刻に、裏の湯浴み場で待っておるぞ! これは他の者には内緒じゃぞっ!」


「アンタさっき俺を振ったばかりだろう。……なるほど、それで警備兵をそこまで誘導して、その間に脱走か。さすがに可哀想だからその手はやめなさい」


 さっきの口ぶりからして、実際にメリーザは過去にその手口で脱走に成功した様子だったが、ジト目で突っ込む俺の言葉に、ふたりはギクリとした顔で気まずそうに目を逸らした。


『お前ら何やってんだ?』


 本棚1本分を調べ終えたエアリオが呆れ顔でやってきた。


『魔ぉ……タケル様、こちらの棚を調べ終えましたが、参考になりそうなものは見つかりませんでした』


 エアリオがうっかり俺のコトを魔王様と呼びそうになりつつも、オウカ姫の姿に気づくや否や、即座に対応してギリギリセーフ。


「ありがとうエアリオ。……ところで、リーリアとルルーさんとクロー見なかったか? さっきから姿が見あたらないんだけど」


『ああ、3人は既に一通り本棚を調べ終わって別棟の書物庫に行ってますね。そちらにはかなり古い書もあるそうなので』


 なるほど、そういった場所の方が古文書的なモノも見つかる可能性もあるな。


「そんじゃ、俺たちもそこに行ってみるかなー。姫様も来る?」


「え゛っ!?」


 俺の言葉に対し、何故かオウカ姫が嫌そうに顔をしかめた。


「なんかすげー嫌そうだけど、書物庫に姫様渾身のポエムノートとか隠してんの?」


「そんなもん無いわ馬鹿者! それに、ポエムなんぞ書こうものなら、母上が全国民に配りかねぬっ!! そのような事態になり得る危険な行動など出来ぬっ」


 オウカ姫の鬼気迫る顔に、それが冗談ではないと俺は即座に気づいた。

 つーか、黒歴史ノートを全国民に配られるとか、姫様キツ過ぎるな。


「あの書物庫はな……出ると噂なのじゃ……」


「出るって?」


 俺の質問にオウカ姫は青ざめながら答える。


「……物怪もののけが出るのじゃ」

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