089:和装はどうにも落ち着かない
ウルシュ城主サクヤとの謁見を終えた俺たちは、宿屋に戻って作戦会議を開いていた。
『世間知らずのお姫様なんて、魔王様のカッコイイ姿を見れば一発でイチコロですっ!』
エアリオが鼻息荒く俺を賛美したものの、それを見たアンジュは溜め息を吐いた。
『こんなクソ地味な平民に惚れる物好きがそうそういるもんか』
「言い方ァ!!! ……って、ムカつくけどこればかりはコイツの意見で正しいと思うよ。お前らのは魔……色眼鏡がキツ過ぎるだけだからな」
前にロロから「自分が魔王だから惚れたとは絶対言うな」と釘を刺されていたコトを咄嗟に思い出した俺は、すんでのところで言葉を飲み込んだ。
ロロも俺の状況に気づいたらしく、満足そうにウンウンと頷いた。
『ボク、タケルのそういうトコがけっこう好きだよ?』
『いきなりロロが魔王様に告白をっ!!?』
焦るメリーザを見てニヤリと笑うロロ。
まったくコイツらは……。
「それはともかくとして、今回の一件が終われば32番目のフラグ回収で折り返しだ。しかも姫様の命までかかってるんだから、絶対に成功させるぞ」
『でも、まさかこんな近くにあるなんてね』
アンジュが不安そうに窓の外にある一本の桜の大樹を眺めている。
「それについては俺も同感だよ。このフラグ回収マッピングを考えたネブラとかいうヤツは頭がオカシイとしか思えないな」
そう言いながら窓の外にシステムコンソールを向けて、遠くにそびえ立つ大樹のステータスを表示すると…
- Status List -
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NAME:Yggdrasill
TYPE:World tree of the cherry blossoms
HP:???? SP:????
STR:??? AGI:??? VIT:??? INT:??? DEX:??? LUK:???
GOLD:???
ITEM :nothing
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何だと思う? これはね、ミ○プルーンの苗木……じゃなくて何とビックリ世界樹です。
名前も王道中の王道「ユグドラシル」ときたもんだ。
「まさか世界樹が桜だなんて、風情がどうこうというよりも想定外すぎるわ」
『今の時期は綺麗だから良いけど、夏の毛虫とか冬の落ち葉とか凄そうだよね?』
うーん……。
距離としては俺たちの宿から5~6kmくらい離れていると思うのだけど、それが肉眼で見えてしまう規模のデカさという時点で完全に規格外なわけで。
そんな大樹から振ってくる大量の毛虫と落ち葉……イヤすぎるなぁ。
とにかくアレが俺たちの最終目的地であり、アンジュが天界に帰るためのターミナルシステムもそこにあるわけだ。
だが、フラグ回収リストを表示すると……
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No.01 魔王復活
No.02 目覚めた暗黒騎士エアリオとの遭遇
No.03 クラスタの街で大魔術師の扉を開ける
No.04 スレーブの街を奴隷の少女から救う
No.05 木を動かしてみよう
No.06 北西の森に生えるマンドラゴラの根から薬を作ろう!
No.07 マンドラゴラでフォレス村を救え!
No.08 スタックの街を救え!
No.09 オースの街を洪水から救え!
No.10 迷いの森で迷い子を救う
No.11 ガンブルーの街でギルドクエスト「キンイロキノコの採取」を達成せよ
No.12 カジノのポーカーでブタを引け
No.13 クラスタ中央美術館の「女神の涙」を救え!
No.14 別の術者からスクリプトの効果を受けるべし
No.15 王女ユリアンナを救え!
No.16 マウティ山に隠された秘宝を発見する!
No.17 トープ村で生贄の巫女を救出せよ!
No.18 砂漠に花を咲かせましょう
No.19 マンイーターを退治せよ!
No.20 天才画家の子孫の恋愛を成就するべし!
No.21 氷の魔女のなくし物を発見せよ!
No.22 身分差に悩む令嬢の恋を叶えよ → 原因不明の病に倒れた少女を救え
No.23 獣神ティーダにありがたいお言葉を賜る
No.24 呪われた温泉宿を救え!
No.25 雪原の洞窟で賢者の杖を入手せよ!
No.26 高度5000m以上から単身ダイブ
No.27 日照りの島に雨を降らせよう
No.28 空中でスクリプトを記述する
No.29 血文字でスクリプトを記述する
No.30 風のイタズラで運命の出会いを演出
No.31 運命の出会いによって恋愛成就
No.32 姫の命を救え! (NOT CLEARED)
No.33 ???????????(UNLOCKED)
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回収済みは31個で、No.33はまだアンロックされていない。
「世界樹の近くまで来たのにフラグが半分しか回収出来てないって、どういうコトなんだろうなぁ」
今まで世界中を旅してきて未訪問なのは海を隔てたマイア大陸の東部エリアと、俺たちの居るエレク大陸の南西の島々くらいなのだけど、これまで訪問した国々と比べると猫の額みたいなものだ。
そこに残り32個のフラグがあるとしたらあまりにも密度が高すぎるわけで、今まで巡ってきた街の周辺で再びイベントが起こるということなのだろうか?
俺とアンジュがウーン……と二人で悩んでいると、向かいに居たリーリアが別の理由で悲しそうな顔になった。
「あそこに着いたらアンジュさんとお別れなのですね……何だか少し寂しいです」
リーリアの言葉にアンジュは一瞬ハッと真顔になったものの俺を横目で見てすぐにニコニコ笑顔に戻った。
『大丈夫だよ。今回はタケルに一方的に巻き込まれたのが原因で往復の権限を持ってないだけだから。帰ったら週イチくらいで遊びに来るよっ! 天使のパワー見せちゃうよっ!!』
何故かアンジュは自信満々に胸を張りながらピースサイン。
「週イチとか、お前どんだけこの世界が気に入ってんだよ」
俺に突っ込まれてようやく自分の言った言葉の意味に気づいたらしく、ガラにもなく真っ赤になってアンジュは照れた。
『天使様に気に入られるなんて、ボク達はとても光栄だね』
からかわれたアンジュが真っ赤な顔のままロロをポカポカ叩いているのが少し微笑ましい。
「明日は再び城に出向いて情報収集だ。あのヒキコモリな姫様とどうにか話す機会があれば良いんだけどな……」
『タケルなら元ヒキコモリとして意気投合出来るかもよ?』
「俺は単なるインドア派なだけで、断じてヒキコモリではない」
『うっへぇ……』
そんなやり取りをしながらウルシュ滞在一日目の夜は過ぎていった。
◇◇
<ウルシュ城内>
翌日、俺たちは再び城に訪問したわけだが、さすが救世主様と呼ばれるだけあってレンの待遇は凄まじいものだった。
「ようこそおいでくださいましたっ!」
「さあ、こちらのお召し物にお着替えくださいませっ!」
どうやら城の使いの方々としては、レンの「日本刀 」「旅人の服 」「革の靴」の3点セットがお気に召さないらしく、来て早々に奥へ連れて行かれてしまった。
その状況にエアリオとメリーザが何故か戦々恐々としている。
『くっ、これで凄く可愛らしい格好で出てきて魔王様がイチコロという展開が私には見えるっ!』
『わ、私達はどうすれば……どうすればっ!!? もう脱ぐしか……!?』
「いや、脱ぐなって」
というか君ら、逆境に弱すぎません?
そしてニコニコ笑顔だったリーリアの肩を、ロロがポンポンと叩いた。
『リーリアたんも焦るべきだと思うよ』
「た、たん??? あの、ロロさん、それは一体どういう意味で……あっ!」
『あらあらこれは~♪』
ルルーさんが嬉しそうに見つめたその先には、女中に連れられたレンの姿が。
着物に身を飾ったその格好はまさに日本美人、まるでおとぎ話の「かぐや姫」のようだ。
艶やかな服に対してセミロングの髪が少し不釣り合いではあるが、もしこのまま髪を伸ばせば世の男共を一撃で魅了するくらいの逸材だと断言できる。
なるほど、確かにコレは……"くる"ものがある。
「あの……私、こういうのは慣れてなくて……その……」
「たまには良いじゃないか、似合ってるよ」
なんか今までこういうシーンで全部「似合ってる」しか言ってない気がするけど、まあ仕方ない。
ヘンな言葉で水を差すのは野暮ってもんだ。
それに下手に意識するとコチラも色々と困ってしまう。色々とね。
だが、似合っていると言われたレンが一瞬固まった後、顔を真っ赤にして涙目に。
「あわわわわわあああわわああああーーっ!!!」
そのまま不思議な声を出しながら逃げだそうと駆け出したものの、裾を踏んづけてズデーンッ!と転んだ。
そしてリーリアが引きつった笑顔でそれを見つめている。
「……」
『ボクの言った意味、もう分かるよね?』
「あの可愛さは規格外……いや、これはもはや反則ですよっ! 私ですら持ち帰って屋敷の寝室に飾りたくなるくらいっ!! タケルさんなら持ち帰ってもおかしくありません!!!」
お前は何を言っているんだ。
だが、それを見たアンジュはやれやれと呆れ顔で俺を指差してきた。
『私の見込みではまだまだ力不足は否めないね。でも、このまま髪を伸ばして黒髪ロングになればタケルの趣味にストライクするから、最有力嫁候補に昇格だよぅ!』
「冷静に俺の趣向を分析するの止めてくれませんかねっ!? いや、確かに事実なんだけどさっ!!」
そんな俺の言葉を聞いたレンが驚いた顔になり、それからボソリと呟いた。
「髪……伸ばそう」
『『「っ!!!!?」』』
レンの宣言にエアリオとメリーザとリーリアの3名が驚愕する。
ははは、どうしたものか……。
「ふふふ、やはり私の目は確かでした」
嬉しそうに笑いながら城主サクヤが現れ、すぐに昨日と同じ真面目な顔に戻った。
「さて、今日もお伺い頂けたということは……娘のオウカのことですね」
その言葉に一同が肯いたものの、サクヤは溜め息を吐いた。
「実はオウカの姿が今朝から見えなくて。門番達の前は通らなかったそうなので、きっと窓から逃げ出したのだと思います」
それを聞いたアンジュが手をポンと打つ。
『これで壁を蹴破ってたら第二章だったのにね。クリフトとブライ呼んでこなきゃ』
「お前、何作目までやったんだよ……」
『6から先ってあるの?』
なるほどスー○ァミ版で知識は止まってるのか。
ってそうじゃなくて!!
「姫様が行方不明って、何気に一大事じゃないですか!? 捜索はっ!?」
焦る俺を見て、サクヤは苦笑しながら手をパタパタ振った。
「いえいえ、あの子ったら昔から嫌な事があると、城の外に出ちゃうんですよねぇ。城や町の周辺は魔物も出ませんし、しばらくすれば帰ってくるでしょう」
サクヤの言葉に俺とアンジュは顔を見合わせた。
「どう思う?」
『パターン的に事件の予感かな……』
「だよなっ!」
そして外に出てオウカを探そうと一歩踏み出そうとしたところ、レンに裾をクイクイと引かれた。
「あの……タケル様」
「???」
「私、どうすれば……?」
どうすればって……あっ!
レンの服装はちょっと走ろうとするだけですっ転ぶような和装なので、これでは姫様探しどころか外を歩くのもままなるまい。
「………」
「………」
「………留守番ヨロシクっ!!!」
「がーーーーんっ!!!?」
というわけで、俺たちはしょんぼりするレンを残し、城の外へ姫様探しへ向かうのであった。





