087:時代劇だよ全員集合!
<四季の彩りに満ちた国 ウルシュ>
「「こ、こ、これはっ……!!!」」
俺とレンは広がる光景を目の当たりにして驚愕した。
雪原を越えた俺たちがやってきた新たな国は、ちょうど花が満開の季節だったのだが、辺りにはひらひらと花吹雪が舞っている。
川沿いに等間隔で植えられたその花の色は薄桃色で、それは俺達ふたりのよく知るものだった。
「桜……だよな?」
「だと……思いますっ! うわーっ! うわあーっ!!」
レンは興奮しながら天を仰いで桜並木を眺めていて、何だかとても微笑ましい。
『魔王様、その花は何か特別なものなのですか? 私にはよくわかりませんが……』
俺はともかくとして、レンらしからぬ超ハイテンションな様子に皆が不思議そうにしている。
「特別なもの……と言えばそうだなぁ。俺の生まれた国では縁起の良いものだったし、春にはこの樹の下で宴会する文化もあったな」
この方、花見で宴会なんて一度もやったことないけどね。
「私の周りでは梅が好まれていましたが、個人的には桜の儚げな雰囲気が好きですね」
「そういや昔は花見は梅だったんだっけな。でも、桜の儚げな雰囲気が好きというのは分かるなぁ」
そんな感じでレンと談笑していると、桜の木の陰から、まるで事件現場を目撃した家政婦のような雰囲気でメリーザがこちらを眺めていた。
『恋愛レベルお子様以下だと思って油断しておりましたわ……。同郷のなんやらの効果で魔王様と一気にお近づきになるなんて……くっ、一生の不覚!』
「お子様以下って……。確か私の方が年上ですよね?」
『1歳差なんて人生経験においては誤差ですわよっ』
魔王四天王とは思えない超低レベルな争いに苦笑するレンと不満そうなメリーザを微笑ましく思いつつ、俺たちはウルシュ城下町の門をくぐった。
◇◇
「いやはや、一体誰の仕業なのだろうねぇ」
「私も驚きました……」
宿に到着した俺たちは「畳」に敷かれた座布団に座って、ちゃぶ台でお茶を頂いている。
宿の中もそうだけど、まるで時代劇のセットを見ているのかと錯覚してしまうほどの街並みは、この世界において完全に異質だった。
まあ、レンにとっては「懐かしの風景」なのかもしれないけども。
「私たちが魔王の眷属として人々と争っていた頃は、ここにこんな国は無かったと思うのです。あったとしても、記憶に残らないくらい小さな村くらいかと……」
「となるとレンとほぼ同時期にこの世界にやってきた人が、戦いが終わってから建国したと考えられるのか。しかし、ここまで本気で文化を輸入するとは、すげー根性してんな」
俺の言葉に珍しくアンジュが苦笑する。
『さすがにここまで露骨だと笑うしかないけどね。文化レベルで完全に上書きするほどの無茶をやらかすヤツなんて、相当変わり者だねぇ』
アンジュはそう言いながら、押入に敷いた布団に寝っ転がりながら首を傾げている。
お前はドラ○もんか。
「タケルさんやレンちゃんの居た世界は、こんな風景だったのですね」
リーリアが部屋から外の街並みを見て目を細める。
残念ながら観光地ですらこんな街並みは残っておらず、撮影所などの「作り物」しか残っていないのだけど、それをバカ正直に言うとレンが悲しみそうなので軽く肯くだけにしておいた。
『ところで、この街では何をすれば良いにゃりかねぇ?』
肩に乗っかってきたクローに促され、俺はシステムコンソールを起動して再び目的を確認した。
Flag No.32 姫の命を救え!
「命を救えとか、大事過ぎて正直不安だよ。病に倒れた姫様の病気を治すためにモンスターがたくさん居る山に薬を取りに行く的な王道RPGイベントだったら楽勝なんだけどなぁ」
『それよりも、裏路地を歩いてたら家出中のメリーザそっくりなお姫様が……みたいな展開を期待したいよぅ』
「そんな偶然が何度も起こってたまるか」
アンジュのボケに華麗にツッコミつつ、ふと部屋の隅を見ると一枚の紙が置かれていることに気づいた。
前回の旅行客の交流ノートが発端で、エアリオからの質問責めにえらい苦労させられた記憶が一瞬頭をよぎったものの、見たところちゃんとした印刷だったので試しに手に取ってみた。
「おおすげえ、瓦版だ! さてさて内容は……地震でお城の橋が破損したから渡る時は気を付けろ……みたいな感じのコトが書いてあるのかな? 何かすげー読みづらいけど」
「えっ!?」
驚いたリーリアが慌てて俺の横に立ち、瓦版を覗き込むと……
「よ、読めません……!!」
「っ!?」
今度はリーリアの言葉に驚いたレンが瓦版を手に取り、それを見て驚愕した。
「発行元 ウルシュ城 西之丸印刷殿……」
レンが読み上げた辺りは筆文字が達筆過ぎて読なかっ……
「日本語っ!!!?」
◇◇
再び町に出た俺たちは商店などを一通り回ってみたものの、使われている言語は今までの国々と同じ「共通語」だったので、日本語で記述されていたのは例の瓦版ただひとつ。
となると、あの瓦版は町民のためのものではなく「旅人に意図的に見せるために意図的に刷られたもの」なのだろう。
その意図は恐らく「読めたヤツは連絡しろ」というコト……。
というわけで俺たちは城前にまでやってきた。
個人的には門番が甲冑を装備していることを期待してワクワクしていたのだけど、どうやら武具製造の技術は伝来しなかったらしく、普通の鎧姿だった。
「あの~、つかぬことをお伺いしますが……」
「おう、ゾロゾロと綺麗なねーちゃん連れたぁ珍しいな。ここのお偉いさんは女系だから買い手はつかねえぞ?」
門番の言葉にリーリアがムッとした顔になる。
「私達はそんな不純な目的で来た訳ではありませんっ! どこをどう見ればそう見えるのですかっ!」
憤慨するリーリアの言葉に、門番は困った顔で一人を指差した。
その先に居たのは、久々に魔女っ娘コスプレ……じゃなくて正装に身を包んだメリーザの姿。
「「あー……」」
『あー……って、どういう意味ですのっ!?』
まあ、魔女っ娘の服装はちょっと際どいスリットとかヒラヒラとか付いてるからね、仕方ないね。
そんなこんなで俺が遠い目をしながらふと天守閣を見上げると、ちびっ子がコチラをじーっと見ていた。
試しに軽く手を振ってちびっ子にアピールすると、慌てて引っ込んでしまった。
『タケルの性的趣向にとやかく言うつもりはないけど、あんな小さい子までストライクゾーンなんて、身の危険を感じるよ……』
「お前を襲うくらいなら猫の方がマシだわ」
『にゃんと! ついに私もヒロイン枠の仲間入りにゃりねっ!!』
ふたりと一匹の漫才にルルーさんが大ウケする中、レンが気を取り直して門番に訊ねた。
「あの、これを発行している西之丸印刷殿はこちらの城内にあるのでしょうか?」
瓦版の端っこを指差しながら問いかけるレンに、門番は驚愕した。
「あ、あ、あんたはこの文字が読めるのかいっ!?」
「はい、それが何か……?」
レンがそう答えるや否や、門の中からドドドドッ! と人の群が押し寄せてきた。
「予言書の内容通りだ!」
「救世主様だ!!」
「うおおおーっ!!」
突然の騒ぎに門前は騒然となり、それから俺たちは城内に連行されていった。





