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086:ロロとアンジュ

『ストラ様と呼びなさい下民』


 そいつは、いつもの眠そうな瞳のまま、いつもとは違う口調で冷淡に吐き捨てた。


「油断したな……。この手のアイテムは呪われてるのがパターンじゃないか」


『……は? 今、ボクの神聖な力を呪いって言ったの?』


 そいつが睨みながら俺に向かって杖を降ると同時に、一瞬耳鳴りがしてから少し身体が重くなった。


『ほう、そこに転がってる連中の何倍も強力な一発を軽々とオートガードかい。キミは何者なのかな?』


 魔王四天王が身動き取れなくなるヤツよりも強力なシロモノをいきなり人に向かってぶっ放すとか、前評判通りのイカレっぷりだなコイツ。


「放浪の世直し旅をしている二代目魔王だよ」


 適当に答える俺に、そいつは『何言ってんのアンタ?』と言いたげな感じの呆れ顔になった。


『二代目って……あのクソジジイ、いつの間にか死んでたのか』


 魔王を倒した場にストラも居たはずだろうに、それを知らないというコトは「この杖に罠を仕掛けた時点で記憶がストップしている」と考えるのが自然だろうか。

 となると、今ロロの身体で喋っているコイツはストラ本人では無いのかもしれない。


『これの正体はストラの残留思念かな。ロロの身体のままならパーティメンバーだからステータス見れるかも』


「ナイスアイデアだアンジュ。そんじゃ、いっちょ……」



-----

NAME:Lorona

TYPE:Wizard (Endemic species)

HP:471 SP:7323

STR:1 AGI:1 VIT:1 INT:999 DEX:999 LUK:1

GOLD:0

ITEM

 魔術師の杖

 魔術師のローブ

 革の靴

-----



「能力はロロのままだな……。さすがに意識を乗っ取られてもそれは変わらないのか」


『つまり意識を乗っ取られただけで強さはそのままってこと……だなっ!』


 エアリオが俺に敬語を使うのを忘れたまま飛び上がり、空中でスキルを発動した。


『ダークストライク!!』


 エアリオの十八番おはこである剣技を発動し、そいつに向かって全力で叩きつけた!

 暗い洞窟に砂煙が広がり、地面が砕ける音がする。


「お、おい!」


 俺が慌てて声を上げたものの、間髪入れずにメリーザが詠唱を終わらせて呪文を発動させる。


『カースパライズダスト!!』


 砂煙が黒い霧に包まれた。

 名前から察するに呪い&麻痺効果がありそうというか、もの凄く致死性が強そうなヤバい色をしている。


「え、えええ……」


 困惑する俺を後目しりめに、レンが全力疾走からの拳を放ち、洞窟内に凄まじい打撃音と衝撃が広がる!


「おいおいおい! ロロは大丈夫なのか!?」


 俺の心配を余所に、エアリオとメリーザは戦闘態勢のまま一点を凝視している。


『魔王様……以前、私たちの序列を説明しましたでしょう?』


 メリーザの言葉に、俺はレンの方へ向いたまま頷く。

 魔王四天王の強さは下から順にメリーザ、エアリオ、レン、そして最強がロロ。


『ロロは胸の大きさ順だなんて茶化しておりましたが……あの子が一番強いというのは、本当なのですわ』


 そう言ってメリーザの視線の先で硬直しているレンの表情は焦りと……恐怖。

 砂煙が晴れたそこには、眠そうな目のまま杖で軽々とレンの拳を受け止めている残留思念ストラ の姿があった。

 ロロにはレンの打撃を受け止めるほどの腕力は無いはず……となると、アレも何かの防御スキルだろうか。

 腕力や体力が無さを魔力と魔法のパワーだけでゴリ押しすればカバー出来るなんて、まるで出来の悪い旧作RPGみたいだ。


『やっぱり三下の三匹は弱いな。勝手が違ってうまく力を出せてない状態のボクにも勝てないのかい? キミらより、この身体の持ち主一人の方がよっぽど強いよ……ねっ』


 ストラの言葉と同時に何かを察知したレンがすぐにその場に屈むと、レンのすぐ後ろにあった岩が砕けた。

 どうやら何かのスキルを使ったようだが、いわゆる無詠唱魔法というヤツだろうか。


 そんな中、俺は初めてロロに出会った時の言葉を思い出していた。



『ボクの力は争いを生むだけで何の意味も無いよ。それに、魔王配下のボクの姿を見たら、皆が怯えてしまうだろう……?』



 魔王四天王3人が全力で襲いかかっても一切ダメージを与えられないガードの堅さに加えて、山に一撃でトンネルを開通させるレベルの攻撃魔法が使えたりと、ロロの強さは完全に桁違いだ。

 そんなロロ相手ですらナメプをしていたとされる賢者ストラが、一体どんな強さなのか想像もつかない。


『さすが逃げる能力だけは一丁前だね!』


 残留思念ストラは残忍な笑いを浮かべながら、わざと当たらないようにレンの周辺に衝撃波をいくつも放つ。

 だが、その衝撃で杖の台座が砕け散り、破片がレンの腕に当たった。


「痛っ……!」


 レンは腕を押さえながらうずくまり、袖口からは薄らと血が流れているのが見えた。


「レンちゃんっ!」


 リーリアとルルーさんが慌てて駆け寄り、レンにヒールをかける。

 幸い傷は浅かったらしく、ふたりは安堵の溜め息を吐いた。


「おいてめえ! いい加減にしろよ!!」


 俺が怒りの表情で残留思念ストラに向かって怒鳴るも、完全スルー。

 コイツ、マジで性格悪いな。


『………』


 そんな中、今まで静かだったアンジュが無言のまま残留思念ストラ に向かって近づいて行った。


「お、おいっ、あぶねーぞ!」


『んー、まだボクに逆らうヤツが……って、あれ? 天使様が何でこんなところに居……』


 残留思念ストラがまだ話している最中に、アンジュがそいつの目の前でボソリと呟いた。


『君、勇者に求愛してフラれたでしょ?』


『っっっっー!!!!!!』


 アンジュの一言いちげきをくらって、それまで余裕たっぷりだった残留思念ストラ の顔が引きつる。


『その八つ当たりで、こんなトラップを仕掛けたんだろうけど、陰湿にも程がある』


『ギクっ!』


 果たして、特定動作を256回繰り返さないと入れない場所に杖を隠して、そこにロロがたどり着けたのかはいささか疑問ではあるが、例のロリコン魔王はそれを解ける程の技量があったということだろうか。


『ぶっちゃけ、君の愛情表現は重すぎる感じがするよ。勇者は鈍いんじゃなくて、意図的にその話題を避けていたのかもね』


『ぐっふ……』


 ザクザクと容赦なく切り込むアンジュに、残留思念ストラ は大ダメージを受けている様子。


『君の恋愛事情については既に済んだコトだから今さらどうしようもないのだけどね。でも、だからといって大切な仲間たちを傷つけられて黙っていられないんだよ』


 淡々と話すアンジュのその顔は怒りに満ちていた。

 俺とケンカをしているときのそれとは全く違う、目の前にいる相手の存在を全否定するかのような冷たい瞳だ。


『……それに、私の友達の顔でそういうクソッタレな行動されるとムカつくんだよ』


 そうアンジュが言うとブツブツと呟いてから残留思念ストラ の頭に手を乗せた。


『ひぃっ!?』


『別に殺しはしないよ。元のところに帰って、大賢者様とやらに失恋の思い出を噛みしめてもらうだけさ……ディスペル!!!』


 アンジュの手から光が拡散し、そのままロロはアンジュの腕の中に倒れ込んだ。

 腕の中に倒れたロロを抱きしめて……


『うわっ! お、重っ!!』


 さっきまでのカッコいい雰囲気はどこへやら、そのまま二人ともビターンッ!とひっくり返ってしまった。

 辺りには何とも言えない空気が流れる。


『ううぅ……』


『……レディに重いとか、全く失礼だなキミは。やっぱりお子様だね』


『重いのは事実だからね。その胸に付けてる固まり二つが原因だと思うよぅ』


 倒れて抱き合ったままふたりは皮肉を応酬し、それから笑った。



Flag No.25 雪原の洞窟で賢者の杖を入手せよ! CLEAR



◇◇



『やっぱりあのクソ女は嫌いだ』


『全面的に同意しますわ』


 雪道を歩きながらエアリオとメリーザがぼやいている。

 まあ、あの性格と口の悪さで毎回ナメプされたら、そりゃ嫌だわなぁ。


『なあに、悪いことだけじゃ無かったさ』


 そんな意外な言葉を口したのは、なんと身体を乗っ取られた張本人ロロだった。

 しかも、ちゃっかりとストラの杖を拝借して装備している。


「一番嫌がってたはずなのに、一体どういう風の吹き回しだ?」


『うーん、そうだねぇ……』


 ロロはくるりと後ろを振り返り、少し真剣な顔で……


『大切な仲間たちを傷つけられて黙っていられないんだよ』


 バターンッ!!!


 ロロのセリフと同時に、アンジュがその場に倒れた。


『なかなかの名ゼリフが聞けたのも良かったけど、何よりボクを友達だと思ってくれていると分かったのが一番の大収穫だね』


『アアアアアアァァアッ!! きこえない、きこえなーーいっ!!』


 両手で赤面した顔を隠しながら地面で転がるアンジュを見てロロは嬉しそうに笑う。


『これからもヨロシクね、親友(アンジュ)

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