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076:地味系ヒロインにテコ入れを

「メアリー! しっかりして、メアリーっ! 誰かっ、誰かお医者様をっ!!」


 倒れた少女の母親らしき人が助けを求めて叫んでいる。


「タケルさんっ! 行きましょうっ!!」


 素早く駆け出したリーリアに一歩遅れ、俺は慌てて追いかけた。


「大丈夫ですかっ!?」


「リッ、リーリア様っ!!」


 駆け寄って来たリーリアに対して一瞬困惑の表情を浮かべた母親だったが、すぐに腕の中のメアリーを抱きしめながら心配そうな顔に戻った。


「タケルさん! 回復魔法は使えますかっ!?」


「た、たぶんっ!」


 確かシステムコンソールのスキルリストにヒールがあったはず……。

 俺は何となくそれっぽい身振り手振りでメアリーに手をかざして呪文を唱えた。


「ヒール!」


 緑色の光がメアリーを包み……そのままパシュッと軽い音を立てて消えてしまった。

 ……ヒールが効かない?


「この子が倒れた要因は、どうやら外傷や衰弱が要因では無いようですね……。身体の中に悪質な病素びょうそが入ってしまったようです」


「……っ!?」


 リーリアが悲しそうに呟くと、女性は絶句した。


「ビョーソって何?」


「えっとですね。この世界では不摂生をしたり手洗いやうがいを怠ると、病素が身体に入り込んで病にかかってしまうのですよ。風邪程度の弱いものであれば神に祈りを捧げて安静にするだけで居なくなるのですが、いきなり健康な人が倒れる程の病素となると、生死に関わるほどの重い病なのです……」


 まさかのファンタジー設定……というか医療技術があまり進んでいなくて、よく分からない病気を全部そう呼んでいるのかもしれない。

 健康な人がいきなり倒れるとなると、心筋梗塞、脳卒中、心室細動……うーむ、この世界にAEDは無いし、どうしたものだろう。


「その病素とやらを一発でバシッと倒したりできる魔法は無いのかなぁ」


 俺の言葉にリーリアはハッとした表情に変わる。


「病素を取り除く魔法は……エルフが使えると聞いたことがありますっ!!!」


「エルフ……リーリアのお母さんとルルーさんかっ!!?」


 ちなみにお二方は現在、仲良くティータイム中だったはず。

 俺はメアリーをお姫様抱っこで抱えながら、全速力でリーリアの屋敷に移動した。



◇◇



『ごめんなさい。その魔法は習得していないのです』


『リーリアごめんなさいね……私もなの』


 ルルーさんが習得している魔法はいずれも解析や研究のためのものばかりで、リーリア母の習得している魔法は旦那さんを援護するための補助魔法ばかりだった。

 というか、病素を取り除ける程の魔法は、エルフの中でも『大魔法使い』と呼ばれる程に強い魔力を持つ者しか使えないらしく、もしも使えたのならエルフ族の中でも『聖女』と崇められる程だそうで、人里にやって来るような変わり者なこの二人に使えるようなシロモノではないそうな。


 その事実を知ったリーリアはガクリとうなだれた。


「うぅぅ……本当に申し訳ありません」


 リーリアは涙を流しながらメアリーの母親に頭を下げた。


「そ、そんなっ! リーリア様が私のような庶民に頭を下げるなんて……」


「庶民とか身分の差などは関係ありませんっ! ……今この場で病に苦しむ人を助けることの出来ない自分の無力さがとても悔しいのです……」


 リーリアの言葉につられ、メアリー母も涙を流して項垂うなだれる。


「病素は身体に入り込むモノ……か」


 俺は溜め息をひとつ吐いて、それから皆から一歩離れた。

 しばらくロロとふたりの秘密にしておく予定だったのだけど、背に腹は代えられない。


「これから俺がやるコトは、絶対に他言厳禁な」


「「『『え……?』』」」


 皆がポカンとする中、俺は白い壁面に手をかざした。


脆弱性エクスプロイト解析ツール起動!」


 そこに表示された16進数ダンプやプログラムコードに、全員……いや、凄く嬉しそうな顔で『うっひ!』とか言っているルルーさんを除いた他の3人が不思議そうな顔をしてる。

 さすがヒキコモリ研究者なだけあって、こんな状況でも興味津々で目を輝かせるとは、根っからの理系だなぁ。


 ……それはさておいて!!


「この屋敷に存在するオブジェクトで、病気に関するものを……」


 …あれ? 病気? 病気って英語で何だっけ???

 シック……スペルがわかんねーぞ。

 身体に入り込む……あー、コレかな。


"virus"


 試しにウイルスに関するコードを屋敷内にサーチをかけると該当が2件。

 ……あれ? なんで2件???


「はて? なんで2つ? 屋敷内に病気かかってる人が他に居るのかな???」


 そんなコトを言いながら俺が該当箇所のコードを開くと、こんなコトが書かれていた。



#Protected-area

extra_skill : disable

antivirus_process : disable



「保護領域で追加スキルとアンチウイルス機能を無効化ねぇ……」


 ……まあ、こういうのはサクッと書き換えるに限るよね。



#Protected-area

extra_skill : enable

antivirus_process : enable



「……メアリーの容態は?」


 俺の言葉を聞いた母親がベッドに横たわるメアリーを揺すったものの、これといって変化は無い様子。

 うーん、さっき書き換えたコードは未使用のものだったのかな。

 俺が腕を組んでウーン…と悩んでいると、俺の肩がぽんぽんと叩かれた。


『あの、タケルさんは……何をしたのですか?』


 不思議そうな顔をしたリーリアが俺を見つめて……って、あれ?


「リーリアの瞳って赤色だっけ?」


『はい?』


 そう言われて部屋に置かれていたスタンドミラーを見たリーリアが仰天してひっくり返った。


『ひゃあっ! 黒目が赤いです! すっごく赤いです!! なんですかこれっ!? 私、何かの病気ですかっ!!!?』


 俺に飛びついてきたリーリアが涙目でオロオロしている。

 うおぅ、ちょっとドキドキしてしまうぞ。


「も、もしかするとリーリアの真の力が目覚めてるパターンとか、そんなだったりして~……」


 俺が茶化しながらステータスモニタを起動すると……



-----

NAME:Lilia

TYPE:hi-elf (unlocked)

HP:5122 SP:9999

STR:67 AGI:15 VIT:70 INT:999 DEX:30 LUK:1

GOLD:3,111,241

ITEM

 貴族の帽子

 貴族の服

 貴族の靴

-----


「うわすげえ! SP9999のINT999って何これ!? なんだコレ!!? ハイエルフ!?!?」


『えっ、えっ、えっ???』


 さすがの俺も困惑してしまい、リーリアと二人揃ってオロオロしている。

 と、とりあえず、気を取り直してっ!!

 俺はエルフふたりの方を向いて問いかけた。


「あのー、つかぬコトをお伺いしますが、ハイエルフという名前に心覚えはありませんかね?」


『エルフの伝承に登場する、幻の種族ですね』


『その力は神にも匹敵するとされ、かつて魔王を倒した勇者一行のひとりがその力を持っていたとか持っていなかったとか』


 ルルーさんの説明が超絶アバウトだけど、なんだかスゴイ感じだ!

 んで、その種族名がリーリアのステータスリストに表示されているわけでして。


 ……これは、まさかのチートヒロイン爆誕の瞬間なのか?


「えーっと、リーリアって回復魔法って使える?」


 俺の質問に、リーリアは首をブンブンと左右に振る。


『私はエルフの血が薄いのでその辺はサッパリダメなのですよっ! 少し攻撃魔法は使えますけど、正直苦手ですね……』


 自信無さそうにショボーンとした顔で応えるリーリアだったが、足下からはユラユラと湯気のように魔力がほとばしっているのが見える。


「ルルーさん、病素を取り除く魔法の呪文ワードと名前は分かりますか?」


 俺の質問にルルーさんはニコリと笑い、荷物袋から一冊の分厚い本を取り出した。


『これぞエルフに伝わる伝説の書物、呪文大辞典スペルブック! 特別大サービスでリーリアさんにお貸し出ししますね』


 そう言うと、病素を排除するための魔法が書かれていると思われるページを開き、スペルブックをリーリアに手渡した。


「そんじゃリーリア、宜しく頼む!」


 俺の言葉に、さらにリーリアはオロオロと困惑した表情になる。


『そ、そそそそ、そんなっ!? 私が回復魔法なんて……』


 泣きそうな顔で俺にすがるリーリアに、俺は笑いながら頭をぽんぽんとしてやった。


「さっきは無力さが悔しいとか言ってたろ? せっかくそれを払拭できるチャンスが来たんだから、やってみなって」


 俺の言葉に一瞬だけ唇を噛みしめて、それから軽く『ふぅ』と溜め息を吐いたリーリアは、ルルーさんから受け取った本を眺めながらブツブツと呟き始めた。

 その単語の中に『あんちどーと』とか『でふぃにしょんでぃーびー』とか、明らかに英単語らしきものが混ざっているのが不思議だ。

 そして『あろう』と発言した直後、俺のシステムコンソールを上書きするように巨大な魔法陣が出現し、リーリアとメアリーの周りが青白い光で覆われた。



『……removal!!』



 リーリアの魔法が放たれると同時に、メアリーの身体から真っ黒なモヤが吹き出して魔法陣に吸い込まれてゆく。

 俺達はしばらくそれを呆然と眺めていたが、数十秒くらいでモヤの流出が収まり、それから魔法陣が砕けて光となって消えた。


「……終わった、のか?」


 呟く俺の方を振り向いたリーリアの瞳は……青色。

 綺麗な瞳だなぁ……などとそんなコトを思っていると、腕の中にパタリとリーリアがもたれかかってきた。


「お、おいっ!!! 大丈夫かっ!!!?」


「……Zzz..」


 あれ?


「寝てる???」


『魔力が尽きてしまったみたいですね。人間ひとりを死の運命から切り離すほどの魔法ですから……』


 リーリアが抱きかかえていたスペルブックをササッと自分のカバンに戻したルルーさんは、目線をベッドに向けた。

 俺もそちらを見ると……


「お……かあさん……?」


「メアリー! メアリーーーーっ!!!」


 眠そうな顔で不思議そうにしている娘と、泣きながら娘を抱きしめる母親の姿があった。



Flag No.22 (緊急)原因不明の病に倒れた少女を救え! CLEAR



◇◇



 その翌日。

 顔を真っ赤にしたレンが走り去って行く姿を呆然と眺めていた俺の横にリーリアが並んだ。


「レンちゃんが膝をちょっと擦りむいていたのが気になります……」


 いつもの「みんなのおねーさん」なリーリアの言葉に俺は思わず笑う。


「伝説のハイエルフ様なんだから、ぱぱっと魔法で治しちゃえば良いんじゃない?」


 俺の言葉にリーリアはちょっと頬を膨らせた。


「その呼び方は何だか他人行儀でイヤです……。それに、すっごく疲れたので、もう懲り懲りですよ」


 メアリーの病素を一撃で消し去った後のリーリアは"SP0"……つまり、チート状態でSP9999だったものをたった一回で枯渇させる程の負担だったわけで、ポンポン連発するのは不可能だろう。


「まあ、今回は本当にありがとうな」


 俺の言葉に膨らせていた頬の空気が抜け、代わりに頬を紅くしながら「えへへ~」とリーリアは嬉しそうに笑った。


「あっ!」


 突然声を上げたリーリアの目線の先に居たのは、笑顔で手を振るメアリーと、深々と頭を下げる母親の姿。


「……もう懲り懲りですけど、とても満足しています」


 そう言うと、満開の向日葵ひまわりのような笑顔でリーリアは手を振った。

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