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074:愛の形は人それぞれ

 翌日の夜、私たちは再び冒険者ギルドに集合したわけだが、皆が到着した頃にはテレジアは完全に出来上がっていた。


「うぇぇぇぇんっ! こんなのあんまりですぅぅぅ!!!」


 名家の御嬢様が泥酔しながら泣き崩れる姿はまさに見るも無惨。

 レンが泣きじゃくるテレジアをなだめているものの、この騒ぎに周りの冒険者も困惑している。


 結局、シグルドとかいうホビットの男は脱兎のごとく逃げ出してしまったわけで、それはつまり私のホーリーアローが効かなかったコトを意味している。


 ホーリーアローが効かない条件は『使うまでも無いほど相手が好き』か『使ってもフォローしきれないほど相手が嫌い』のどちらか。


 テレジアの話を聞いた限り、さわりを聞くだけでも反吐へどが出るレベルのイジメを繰り返していたらしいので、今回のケースは……言わずともがな。

 もしここが元の世界であれば目の前の女に天罰を与えているところだけど、さすがに依頼人を攻撃するわけにはいかないので、ぐっと我慢して、私は笑顔でテレジアに語りかけた。


『哀れな子羊よ、過去の過ちがいつか自分を苦しめるということを若いうちに知っておくのは、決して悪いことではありません。悔いて神に祈りを捧げなさい』


 私が手を広げながら優しく諭すと、テレジアは『ヴォアアア!』みたいなよく分からないことを叫びながら、ガンッ!と音を立ててテーブルに突っ伏してしまった。


『心に傷を負った人間をここぞとばかりに神道に勧誘とか、やはり神の使いはいつの世もやり方がえげつないねー』


 ロロが苦笑しながら私を見る。


『えげつないとは失敬な。迷える人間の魂を救うのは天使として当然だよぅ!』


 私の抗議を軽くスルーしたロロは、そのままテレジアにゆっくり近づいて肩をポンポンと叩いた。


『ねえ、キミキミ』


「……ばび?」


 はい? ……と言いたかったみたいだけど、嗚咽おえつで上手く発音出来なかったようだ。


『ボクに良い考えがあるんだけど、試しに乗ってみるかい?』


 泥船に? ……と喉元まで言葉が出そうになったけど、どうにか我慢して事の成り行きを見守ることにした。


『どっでみどぅって?』


 乗ってみるって? ……と言いたかったらしいけど、鼻水で(以下略)。

 不安そうに上目遣いで見上げたテレジアに、ロロはニヤリと笑った。


『まずは情報収集さっ』



◇◇



 ツギノヒー。


「あのさー、さっさと天界に帰りたいから先にドンドン行こうとか言ってたはずのお前が既に3日も足踏みって、一体何事だ? ヤバいコトに首突っ込んでないだろうな?」


 朝から外出しようとする私を、ジト目で見てくる男がひとり。


『ちょっと困ってる人が居たからそれに協力してるだけだよぅ。乙女のプライバシーに関わるコトだから、タケルは付いてこないでね』


 私の言葉に怪訝けげんな顔をしてブツクサ言いながらタケルは外に出て行ってしまった。

 そんなタケルを見送ってから私は約束の場所へと向かっているわけだが、今回は冒険者ギルドではなくテレジアの屋敷の近くにある別宅(金持ち!!)で集合だ。


『みんな、お待たせ~』


 最後にやってきた私を見て、ロロが待ってましたとばかりに杖を振りかざす。


『それじゃ、私から離れないようにね~』 


 その言葉に3人がうなずくと、ロロは呪文を唱え始めた。

 あれ? このワードは……。

 私がロロの使おうとしている魔法の正体に気づくと同時に詠唱が完了した。



『silentwalk!!』



 私たちの周りに薄い光の膜が現れ、そのままゆっくりと包まれる。

 本来、私に対してスキルを使っても無効または無害化するのだけど、コイツは例外だ。


『これで私たちの姿は誰にも見えないし、話し声も周りに聞こえなくなったよ。でも大きい声を出すと解除されちゃうから、気をつけてね』


 あっけらかんと言うロロに私たちは再び肯いたが、私の内心はあまり穏やかではない。


『……ロロはその魔法、誰から聞いた?』


 私の問いかけにロロは首を傾げる。


『んー? 元々知ってたよ。前も言ったと思うけど、私は最初からウィザードとして生み出されたから、基礎知識は最初から修得済みだったんだよ』


 再びあっけらかんと言うロロ。

 世界のことわりに干渉する管理者レベルのスキルを『最初から』ね……。

 それはつまり、200年前に倒された魔王とやらは、この世界に『代理管理者を創れる権限があった』というコト。


 しかも、そんなヤツを圧倒的な力で倒した『勇者一行』も居たらしいし、一体この世界で200年前に何があったのか……。


『珍しいね、ヘタレがそんな真剣な顔をしているなんて、もうお腹がすいたのかい?』


『何で私が真剣な顔をするイコール空腹なんだよぅ!!』


 憤慨する私を見てロロが笑う。

 ……ちょっと気を使わせてしまったかな。

 そんなコトを考えている私を見て、ロロはさらに優しく微笑んだ。

 ちぇー、私の方が年上なのになんだか少し悔しいぞ。


『うっし! そんじゃ、ここからの指揮は任せるよ!』


『おうともさ!』


 そして私たちがやって来たのは、二日ぶりのシグルド宅。

 ロロは一切躊躇することなく玄関からズケズケと入っていった。


『さすが魔王四天王、ド直球だね』


『回りくどいのは趣味じゃないんだ』


 堂々と歩くロロ、呆れながら後ろをついて歩く私とレン、そして恐る恐るシグルド父母の横をすれ違うテレジアの4人パーティは、シグルドの部屋に忍び込んだ。


「これがシグルドさんの部屋……ドキドキ」


 意中の相手の部屋に入ったからか、それともその背徳感からか、テレジアはキョロキョロと落ち着かない様子。

 ターゲットは……ベッドに寝ころんだまま天井をぼーっと眺めている。


『この男、お日様が登ってんのに部屋でグータラとは、怠惰たいだだねぇ』


「うーん、怠惰というか物思いにふけているように見えるのですが」


 私とレンがそんな会話をしていると……



『テレジアちゃん……』



 シグルドに自分の名前を呟かれたテレジアが声を上げそうになり、慌ててロロが制止する。


『落ち着いて。彼はキミを見て呟いたわけじゃないよ』


 少女とは思えぬ冷静なまなこで諭されたテレジアは再び大人しくなった。


『……さて質問です』


 ロロの問いかけにテレジアは首を傾げる。


『そこのヘタレの放った恋の矢が効かない条件は、心底嫌いもしくは既に大好きな場合のどちらかです』


「……はい」


『キミがこの男と同じ立場だと仮定しよう。キミは自室で物思いにふけながら、心の底から毛嫌いしている相手の名前を呟くかい?』


「っ!?」


『パンツを脱がされて湖に投げ込まれたり、すれ違いざまにビンタされたり、焼きそばパンを買ってこいとパシリにされたり、靴に画鋲を仕掛けられたり……』


 ロロが『~~たり』と言うたびにテレジアが頭を抱えて悶えている。

 私にえげつないだの何だの言っていたけど、コイツも容赦ないなぁ……。


『それでも彼は、魔法をかける必要が無いくらいキミのコトを少なからず想っているようだね』


 ロロと言葉に、シグルドを見つめながらテレジアは小さな涙をひとつこぼした。


『ボクの見解から導き出された結論を言うよ。彼は……』



◇◇



「やっと出発だよっ! なんだか1ヶ月以上ぼーっとしてた気がする!! 時間の流れがおかしい気がするぞっ!!!」


 ぶちぶちと文句を垂れるタケルの後ろを着いて私たち一行は旅を行く。

 ……厳密には、買い出しから戻ったらリーリアの屋敷からteleportで飛んで行くんだけどね。


 そして街中を歩いていると、例の二人の姿が見えた。

 一見しただけでは姉と小さな弟にしか見えないが、人間とホビットのカップルである。


「こんにちはっ!」


 レンが声をかけると、テレジアはこちらを振り向いて会釈してきた。

 その仕草はまさに御嬢様。

 冒険者ギルドと酒場で涙と鼻水でグジョグジョだった人とは思えない。


「お前らの知り合い? ……って、ああ、なるほどね」


 タケルは自己解決して納得した様子。

 この男とは性格の不一致によるケンカが絶えないものの、こういう時に察しが良くて事がスムーズに運ぶのは大変ラクチンで助かる。


 そしてテレジアとシグルドの眺めていた棚には……馬車馬用のむちと飼い犬用の首輪、そしてロープが。

 それを見たレンが一瞬目を見開いたものの、すぐに不自然な笑顔でそらを眺めながら口笛を吹き始めた。

 ロロは満足げな顔で『うむうむ』とか言っているが、それをいぶかしげな顔で見ていたエアリオがふとレンを見て、ギョッとした顔に変わる。


『レンすげー汗っ!! この後、また雪だらけのトコに行くのに大丈夫なのかよっ!?』


「え、ええええ、だ、だだだだ大丈夫ですっ。ちょ、ちょっと心の準備が……」


 挙動不審なレンを見てエアリオは不思議そうな顔をしつつも、レンのおでこをハンカチでぺたぺたと拭いてあげていた。

 その様子を見て苦笑しつつも、ふと横にいるタケルを見ると腕を組んだままウーン……とか唸っている。


むちと首輪とロープとか、良からぬコトを考えちゃうなー、なんてねハハハ」


 タケルは何の気無く言ったつもりのようだが、それを聞いたレンが直立姿勢のまま地面にぶっ倒れた!!


「おおおおおおおいぃぃぃっ! どうしたレンっ!!?」


 慌てて駆け寄ってきたタケルに抱き起こされたレンは動揺して顔を赤らめつつも、すぐにピョンと飛び上がり全力疾走でどこかに走り去ってしまった。


「えええええ、一体なんなんだよ……」


『うら若き乙女は、愛の奥深さに困惑しているのだよ……」


「?????」


 私の言葉にタケルは不思議そうに首を傾げたままだった。

お察しください。

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