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072:恋愛成就の天使アンジュ様こそが真の主役だよぅ!

<スタックの街 領主邸 来客用寝室>


 俺はベッドに転がりながら、ぼんやりと天井を眺めていた。


「つーか、アイツら寒さに弱すぎだろ……」


 ルルーさんの屋敷でもう一泊するかと思いきや『こんな寒いトコで寝るのはもうイヤだよぅ!!』とか言い出すバカ天使と、その言葉に同調した仲間たちの多数決によって、今日もリーリアの実家にお邪魔しております。


 ちなみにルルーさんをteleportスキルで一緒に連れてきたところ『これは一体どういう原理なんですか!?』とか『私にも使えませんかっ!!!?』などなど、凄まじい質問責めに遭ってしまい、俺はもうクタクタです。


 まあ、管理者権限が無ければteleportが発動出来ないと伝えた時のルルーさんの『そう……ですか(・ω・)』は正直、可愛かったです。


 などと考えていると……



『そんなのアリですかぁぁぁぁっ!!!?」



 屋敷内に響くリーリアの絶叫に慌てて部屋を飛び出したところ、アンジュがロロと共に外へ出て行く姿が見えた。

 システムコンソールの時刻は……21時過ぎ。


「おいおい、お前らこんな時間から外出かよ。子供はネンネの時間だろ?」


『んぃ? ああ、ロロが夜のギルドに行ってみたいらしくてね』


 アンジュの言葉に『うむ!』とか言いながらロロがうなずく。

 夜のギルドは飲み屋としても機能するのが世界の常ではあるが……。


「お前らの容姿じゃ酒も売ってもらえんだろうに。他の客につまみをせびるような恥ずかしい真似はするなよ?」


『そんなコトしないよぅ! 私だって多少はお金を持っているのさっ』


 アンジュが不思議なことを言う。


「まさかお前、前々から天使らしくないとは思ってたけど、ついに人様のカネに手ぇ出しやがったか……」


『人聞きの悪いコト言わないでよぅ!! ……というか、聞き捨てならないセリフが聞こえた気がするよ? 誰が天使らしくないだって? アァ?』


 まるで極道のような顔で凄んでくるアンジュに負けじと睨み返しながら、俺はハッと気づいた。


「こんなコトやってる場合じゃねえ、リーリアがっ!」


 俺の言葉を聞いてアンジュがニヤリと笑うと、俺の肩をポンポンと叩いた。


『グッドラック!』


「何がだよっ!?」


 俺のツッコミをスルーしたまま、アンジュはロロと仲良く出て行ってしまった。


「ったく、よくわかんねーな。……まあいいや、おーいリーリア~」


 俺はリーリアの寝室のドアをノックした。



~~



『おいおい、あんな面白そうな展開なのに見て行かないのかい?』


 ロロが慌てた顔で私に話しかけてくる。


『甘いね。君が私のコトをヘタレと呼ぶのを訂正したくなるくらいタケルは色恋沙汰に関して超絶ヘタレなんだよ?』


『キミがヘタレなのはこの命尽きても訂正する気は無いけど、やはりタケルは奥手だったのだなぁ……』


 まだまだ私のコトをヘタレと呼び続ける気満々なロロを見て溜め息を吐きつつ、私は言葉を続ける。


『だから下手に私たちがついて行くと、ヤツは余計恥ずかしがって話を茶化そうとする可能性が高いんだ。それならリーリアが変なテンションと勢いに負けてタケルを押し倒して、一線越える可能性に賭けようかと』


『あの地味子ちゃんは更に奥手っぽいし、さすがに今回はキミの能力強化を期待出来そうにないね。……おっ、いたいた。おーいっ』


 ロロがいつも通りの眠そうな目で私を諭しながら、前方に見えた人影に手を振った。

 その人影も同じようにロロと同じように右手を振っているが、その手首にはヒモで出来た輪っかがヒラヒラしていた。


「アンジュちゃんもロロもお疲れ様です。……でも、どうして私だけ別に合流なのですか? 一緒に屋敷を出れば良かったでしょうに」


 いぶかしげな顔で私とロロを見るレンに、私は両手を左右にプラプラさせながら笑った。


『君はタケルに溺愛されているからね。私達と同行するなんて言おうものなら、子供をそんなトコロに連れて行っちゃいけません! とか言うに決まってるよ』


 そもそもこの国において飲酒に年齢制限が無いのに子供も大人も無いって話なんだけどね。

 ヤツはレンにだけは純粋かつ従順で居て欲しいと願っている節があるけど、さすがに夢見過ぎだろう。


「うーん、確かに私は最年少ですが。とはいえタケル様に子供扱いされるのは……ぶつぶつ」


 ゴニョゴニョと濁しているけど、要はタケルから女性扱いされないコトが不満なのだ。

 当人はそれがどうして不満なのかは自覚してないみたいだけど、乙女心は複雑で大変だねぇ。


『まあ3人揃ったことだし、今日も張り切って行こう!』



<冒険者ギルド スタック支部>



「いらっしゃいませアンジュさん。依頼人の方はもう来られてますよ」


『ありがと。それじゃ今回も成功報酬ということで』


「はい、宜しくお願いしますね」


 ギルドの受付員の言葉に頷いてから、私は酒場の隅に居るフード姿の女に話しかけた。


『貴女が今回の依頼人だね』


 私の言葉に女は驚いた顔になる。


「幼い姿をしているとは伺っていましたが、まさか本当に子供だとは……」


『……ロロ、よろしく』


『あいよー』


 私の言葉と同時にロロはタケルと瓜二つの姿に化けて、それを見た女はさらに驚きの表情に変わる。


「なるほど、子供の姿なら相手も油断しますものね……。さすがです」


 勝手に解釈して納得してくれたようで、その言葉を聞いてロロは再び元の姿に戻った。


『んで、貴女は身なりからして結構良い家のコだと思うけど、誰と一緒になりたいの?』


 私の質問に、女は一瞬頬を染めた後に手帳から一枚の写真を取り出し、それを見たロロが『ほほぅ』と声を出した。

 続いて私が写真をのぞき込むと……そこに写っていたのは小さな男の子だった。


『さすがにこれは犯罪では?』


「おおおおお、同い年です! 幼馴染みですっ!! あの、その、人間じゃ……なくて」


 あー、なるほど理解した。

 同時にロロとレンも状況を察したようだ。


『ホビットだね?』


 ロロの言葉に、女はコクリと頷いた。

 ただ、それを見たレンが首を傾げながら口を開く。


「でもどうして私たちに依頼を? 領主夫妻も異種族同士ですし、肩身の狭くなる理由は無いと思うのですが……」


 レンの年齢だとその辺を察せというのは難しいよねぇ。


『このひとは身なりからしてそこら辺の庶民ではなく、名のある家の者だろう。領主夫妻がどうであれ、立場的に他種族との交際は難しいんじゃないかな』


 私の言葉に女は肩を落として俯いてしまった。



◇◇



 依頼人の名はテレジアと言い、予想通り名家のお嬢様だった。

 一方相手のホビットの男の子はシグルズという名前だそうで、テレジアが幼い頃に引っ越してきたんだそうな。


 そしてそんな彼の家柄は……まあ、平民である。

 わざわざ人里に移り住むような変わり者なのだからホビット族としての立場も微妙だろうし、テレジアの家柄と比較するのは雪と墨を比べるようなものだ。


『ここまでの身分差がありながら彼に惚れ込むなんて、一体どんな事情があったんだい?』


 ロロが首を傾げながらロマンの欠片も無い言葉を口にした。

 恋愛成就の天使としてはコイツに恋愛とは何たるかを叩き込んで、いつかタケルの嫁候補らしく育成せねばなるまい。


「事情……ですか」


 テレジアが困った顔でしばらく考え、そして手をポンッと打った。


「優しいところですね!」


 その回答を聞いて、私は一抹の不安を感じたのであった……。

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