070:ルルーのルー
「やっと見つけた……」
作業開始から4時間半が経過。
ここの屋敷を形成しているコードをひたすら解析していた俺は、ようやくアイテム一覧らしき配列を発見した。
book_magicwords_01,52905,1800,1680,
book_magicwords_02,52945,1800,1681,
book_magicwords_05,53031,1800,1681,
(中略!)
...
*
「連続するオブジェクト名とXYZ座標、そして終端に番兵でアスタリスクとは、ずいぶんと古くさい書き方してんなぁ……。動的にアイテム数が増えるシステムだから仕方ないのかもしれんけども」
『タケルくんが言ってる意味がよく分かんないにゃー』
肩に乗っかったクローが「こんな顔(・ω・)」でぼやいてるのを見て、とりあえずにゃんこさんの頭をポンポンしておいた。
さて、アイテムテーブルを見つけたところで、後はココから円盤型の魔導書を探せば良いわけだが、行数から判断したところ屋敷にある総物品数は何と21万9528点!
リストを毎秒10行読む程の驚異の速読術を実現したとしてもぶっ続けで6時間以上かかってしまうし、もし誤って読み飛ばしたら最悪だ。
そんなモンいちいち全行読んでられないので、とにかくそれっぽい単語をアイテムワークエリア内限定で、文字列検索で引っかけるのを狙うことにした。
「book……は腐るほど掛かるから無理、disk、disc……もダメだな。本の映像が出るっぽいコト言ってたし、Projection、Display、Monitor……うーん、違うなぁ」
思い浮かぶ限りの単語を片っ端から入力するものの、該当ゼロもしくは数百、数千もの候補が出てくるため、なかなか絞り込めず。
うーんうーん……と悩んでいると、クローが俺の頬をぐにぐにと押してきた。
『にゃーにゃー、タケルきゅんー』
きゅんって言うな。
前にカレンさんにオネエ疑惑を突きつけられた古傷が痛むだろうが。
「はいはい、なんでございましょう?」
俺が気怠そうにクローに返事をすると、クローは少し申し訳なさそうに口を開いた。
『ちょっと話は変わってしまうのだけど、さっき言ってた"天使が神に対して反逆~"……というくだりが気になってにゃあ。その後、どうなったんだい?』
さっきから俺の顔をずっとチラチラ見てたのは、それが知りたかったからか……。
「しばらくコードを見たけど、それっぽいコメントは見つからなかったよ。多分その後すぐに仕事を辞めちゃったんじゃないかなー」
『うぅ、残念にゃー。じゃあタケルくんが今見てるトコは別の誰かが書いたモノなのかな?』
「かもなー。いきなり新人が事情を知らされないまま修羅場に放り込まれて地獄を見る~、みたいな話を聞いたことあるわ。デスマーチだとか何だとか」
そもそも俺は仕事でプログラムなんて組んだこと無いし、噂でしか聞いたこと無いのだけどね。
『つまり共同執筆みたいなものかにゃ?』
「ああ、確かにそれに近いかもなー」
俺の返答を聞いて、クローが微妙に苦い顔をした。
『それは後任者はさぞかし大変だったろうね。共同で書くとなると、記法を統一したり矛盾や重複が起こらないように配慮しないといけないから……。私も前に書いた事があるけど、私のライバルを自称するバカ呪術師がその辺を全然考慮してくれなくてムチャクチャ書いてて、凄く大変だったよ……はぁ』
おーい、猫じゃない方の素が出てんぞー……ん? まてよ……もしも、後任のヤツがちゃんと前任者の記法を準拠せずに好き勝手書いているとしたら?
「もしも後任のヤツが、全く実務経験の無いド素人だとしたら……」
俺はダメ元でひとつの検索キーワードを入力してエンターを押した。
【該当件数 1 】
「ははは、マジかよ……」
『タケルくんっ!?』
俺はこの結果を見てその場に崩れ落ちた。
頭上に表示されたシステムコンソールの検索窓に入力した文字列、それは……
"madousho"
「こんなのアリかよ……」
◇◇
『この度は本当にありがとうございましたっ!』
俺に深々と頭を下げたルルーさんの手には、キラキラと光るCDのような円盤が握られている。
「いやいや、無事に見つかって良かったよ。それにしても、それが魔導書とはねぇ」
『ええ、コースターにしか見えませんよねぇ。子供の頃にジュースの入ったコップを乗せてムチャクチャ怒られた事があります~』
おいおい……。
まあ、実際に食器棚の中から見つかったので、お掃除魔法がコースターと勘違いして収納してしまうようなデザインなのだけどね。
『せっかくだから使うトコを見てみたいね』
ロロがニヤリとしながらつぶやくと、ルルーさんが少し笑ってから詠唱を始めた。
『ふふふ~、ホントはダメなんですけどね。特別大サービスで……Start bootloader!』
んんん? ブートローダー???
凄く聞き慣れた言葉を口にしたかと思ったら、ルルーさんの目の前にシステムコンソールが現れた。
「マジかよ……」
思わず本日二度目の言葉を吐いてしまった俺の気もつゆ知らず、ルルーさんは慣れた手つきで本のアイコンをタッチした。
スクリーン上に『Wordsworth version 1.0』とメッセージが表示された後、画面にハードカバー風の本が表示され、ルルーさんはフリック操作でパラパラとめくる。
『凄いですよねぇ~。御先祖様は一体これをどうやって作ったのか、全く見当も付かないんですよ~』
そりゃそうだろう。
作ったのは天界関係者だろうし、御先祖様は恐らく発明者ではなく利用者だ。
俺はルルーさんの横に立ち、右手をスクリーンにかざすと、試しにいくつかの操作を試してみた。
「ピンチインピンチアウトは未実装か。フリックは使えるみたいだな……ダブルタップズームはあるけど、かなり初期のバージョンっぽいな……」
『っ!?』
俺がボソッと呟いた言葉を聞いて、ルルーさんが身構えた。
あ、やべっ。
『……どうしてタケルさんは、この魔導書の使い方が分かるのですか。私、今まで誰にも見せたこと……無いのですよ?』
不安そうに俺を見つめるルルーさんの目が、前に俺を疑っていた時のリーリアそっくりで、なんだか胸が苦しくなる。
この目で見られると何だか凄く申し訳ない気持ちになってしまうのだが、もしかすると、エルフが相手の本音を引き出すために身につけたパッシブスキルなのかもしれない。
まあ、ここまで来て隠し通す必要は無いだろう。
俺はさっきのルルーさんのように少し笑ってから、魔導書のスクリーンの横にシステムコンソールを出現させた。
『うわあっ!?』
「コレが予言書だよ。まあ、頭に浮かぶのじゃなくて実際にはいつでも見られるんだけどさ。そこは騙しててゴメンな」
俺の言葉に、ルルーさんは口をパクパクさせたまま絶句。
「んで、今回のも……」
Flag No.21 氷の魔女のなくし物を発見せよ! CLEAR
「読めないだろうけど、ココにはルルーさんのなくし物を見つけた、と書いてあるんだよ」
『………………っ!』
呆然とシステムコンソールを眺めたルルーさんは、突然走ってリビングを出て行ってしまった。
「うーん、怒っちゃった……のかなあ? エルフは嘘を付かれるのが嫌いとか???」
「まあエルフで無くとも嫌いだとは思いますけど、でも今の流れで怒るとは思えませんが……」
リーリアも首を傾げている。
しばらくして、上の階からゴソゴソとかガシャーンとか色々とひっくり返す音が聞こえてきて、それからドタドタドタッ! と戻ってくる足音が聞こえてきた。
『お待たせしましたぁ~!』
ルルーさんは防寒装備に身を固め、背中には大きなリュックサックを背負っていた。
『凄く面白い旅の話を聞かされて、しかも予言書を見せつけられて、はいはいサヨウナラ、またお越しください~~……って、私がそんな事を許すと思います~?』
ルルーさんの言葉に皆に動揺が走る。
『やべー、またライバルが増えるのかよ』
『私はフィアンセですからヘッチャラですわ』
「その設定をまだ続ける気ですかっ!? 私としては、ハーフエルフとエルフでキャラが被る方に問題ががが……!」
確かにリーリアはアイデンティティに関わる問題ではあるなぁ。
『私は……負けにゃい!』
クローは早くペット枠から出られると良いね。
んで、一方の賛成派の方々は……
「私はタケルの嫁候補が増えるコトに関しては喜ばしいから文句なしだよ。我が身の糧となれぇ~」
天使のくせに死霊王みたいなコト言ってんな。
「私は旅の仲間が増える事に関しては楽しくて良いと思いますっ」
『ボクは新たな知識が得られそうで楽しみだよ』
こっちの四天王二人は、目的は違えどルルーさんのパーティ加入を歓迎しているようだ。
まあ、仲間が増えるに越したことは無いしなぁ。
俺は少し苦笑してから、ルルーさんの方を向いた。
「んじゃまあ、よろしく頼むわ」
『はい~、末永くよろしくお願いしますね~』
末永く、の言葉に仲間3人がビクッと反応したのを見て、俺とルルーさんは笑った。





