069:お掃除しちゃうぞっ!
『昨夜はお楽しみでしたね』
「生殺しでしたけどね!」
すっかり打ち解けた感のあるルルーさんの言葉にツッコミを入れつつ、俺は早速本題に入ることにをした。
「んで、ルルーさんのなくし物について詳細を教えて欲しいのだけど……」
『あら、もっとお話を膨らせたかったのに残念です~』
おいおい。
『私が探しているのは御先祖様の残した一冊の魔導書なのです』
お、ファンタジーRPGのイベントっぽい感じの話になってきたぞ。
「埃をかぶってて、黒とか茶色のハードカバーで表紙に魔法陣が書いてあるみたいな?」
俺のコメントに対してアンジュが首を傾げた。
『タケルの想像する魔導書ってそんな感じなんだね。私は封印の帯とかカギが付いてて、開かなくなってるヤツのイメージだよ』
うーん、ジェネレーションギャップなのかしら……。
だが、そんな会話をしている俺たちに対し、ルルーさんが首を左右に振った。
『魔導書と伝えられて先祖代々継承してきたそれは、本の形をしていないのです』
「『本の形をしていない???』 」
俺とアンジュの反応に、今度は頭を縦に振った。
『はい。そうですね……手のひらに収まるほどの小さな円盤で、魔法を唱えることで目の前にページが現れるようになっているのです。恐らく他の種族に秘術を奪われないため隠蔽する目的でそういう仕組みになっているのではないかと……』
「なるほどねぇ。でも、どうしてそれを無くしてしまったんだ?」
俺の言葉にルルーさんは恥ずかしそうに俯くと、色白の頬が真っ赤になった。
『この広いお屋敷を掃除するために自動掃除魔法を唱えたところ、その効果で魔導書まで片付けられてしまったのです。しかも、その魔法を唱えるには魔導書が必要なので……』
こんな雪原にそびえ立つデカい屋敷をどうやって独り暮らしのルルーさんが掃除しているのかと思ったら、なるほど、そういうカラクリだったのか。
しかも自分の意思とは無関係に整頓されてしまって紛失とはいやはや……。
いわゆる「カーチャン! 勝手に俺の部屋掃除すんなって言っただろ!!」のアレである。
「んで、俺たちが協力してそれを見つけ出すことが出来れば万事解決ってワケだな。8人で探せば何とかなるだろう」
『本当ですかっ! ありがとうございます~~~!!』
そう言いながらルルーさんが俺の手をガシッと握ってきた。
……おおぅ、さすがエルフ、綺麗な手だなっ。
『コホンッ』
俺のフィアンセ(という設定)のメリーザが俺をジト目で睨みながらわざとらしい咳払いをしてきたので、俺は慌てて手を解いて、皆の方を振り返った。
「うっし、そんじゃ手分けして探すぞ!」
◇◇
<ルルーの屋敷 1F倉庫 タケル&クロー>
『8人……仲間はずれは寂しいにゃー』
俺の肩に乗っかったクローがぶちぶちと文句を垂れる。
「悪かったよ! だけどルルーさんの前でお前のコトがバレたら絶対騒ぎになるぞ? あんな知的好奇心の塊みたいな人に喋る猫だなんて知られて、解剖されても知らねーぞ?」
俺の解剖という言葉にクローがブルッと身震いする。
『でも、私と二人きりで行動というコトは、やっぱりアレを使って探すんだね?』
クローの喋り方がいつも通り素に戻っているコトに苦笑しつつ、俺は頷きながら脆弱性解析ツールを起動した。
「どうせ魔導書とか円盤に因んだオブジェクト名になってんだろうから、そいつにちょっかいをかけて屋敷に起こった変化をチェックすりゃ良いんだろう」
そう言いながら黙々と解析ツールのテキストエディタを眺める俺。
……むむむっ、これはっ!!?
『むっ、タケルくんがなにやら不思議な顔にっ! 何か見つけたのかニャ!?』
肩の上のクローが期待の眼差しで俺の顔を見てきた。
そんな俺の目の前に現れたコードは……
----
# サビ残で屋敷のコード書けとかネブラまじで死ねばいいのに。
# あ、これ読んだヤツに忠告。この職場絶対辞めた方がいいよー。
# 働いたら負け!
call objset(5000,2000,900,Cabinet01)
call objset(5900,2000,900,Cabinet02)
----
『何だかスゴイ表情してるけど、一体何が書いてあるんだいっ!?』
「て……天使が神に対して反逆しようかと葛藤する様子かな……」
『にゃんとぉっ!?』
嘘ではないけど、何とも言えない。
これが噂に聞くデスマーチ中のプログラマの呪詛というヤツなのだろうか。
まあいいや、先へ進もう……。
そして俺は再びコードを読み始めた。
◇◇
<ルルーの屋敷 2F寝室 アンジュ&ロロ>
『というわけでエルフのお嬢さんの寝室だよ!』
『ボクたちが子供っぽいからと思って油断したのがルルーさんの運の尽きだね。他の娘達とは違って、ボクたちは容赦なくプライバシーを暴いてみせるよ』
『そ、そこまでするのはどうかと思うんだ……』
確かにエルフの独り暮らしの秘密とか結構気になるけど、天使の私としてはロロの意見に賛同するわけにはいかない。
とか思っていると、ロロが独りでスーッと動いてクローゼットの前に立ち、眠そうな目のまま扉に手をかけた。
『ばーんっ!』
『最悪だこの女っ!!』
有無を言わさずクローゼットを全開にしやがったっ!
慌ててロロの横に行き、クローゼットの中を見ると……服が無造作に投げ込まれていた。
正直、コレをタケルが見たらルルーさんはヒロイン候補から脱落が決定するだろう。
『まあ独り暮らしの女性ってこんなモンだよね。ボクも片付け苦手だったし』
『私は全寮制の職場勤務だったから、こういうコトすると寮監さんにめっちゃ怒られるんだよね……』
そういえば、タケルにムリヤリこの世界に連れて来られてから半年以上が経っているけど、私の部屋はどうなってるのだろう。
引き払われて荷物が全部捨てられてたらイヤだけど、手持ちのアレやアレやアレが実家に送り返されて、それを家族に見られたら、それはそれでイヤ過ぎる。
現状維持のまま放置しててくれたら……あーー、炊飯器の中のご飯が心配だ。
せめてナマモノだけ処理して、他をそのまま置いててくれますよーに!!
『ヘタレちゃんが不思議な顔をしている……』
『ごく自然に私をヘタレと呼ぶのをやめてほしいと突っ込むのもそろそろ疲れてきたよ……』
『前回は突っ込んでくれなかったけどね?』
『えっ、前回っ!? えっ、えっ!』
そんなやり取りをしながら私とロロは捜索を再開した。
◇◇
<ルルーの屋敷 別棟の空き部屋 エアリオ&メリーザ>
『自動掃除魔法ってこんな別の建物にまで片付けてくれるのか?』
『私が知るわけないでしょう……』
私の問いかけにメリーザは、ブツブツと文句を言いながら本棚や木箱の中を探している。
とりあえず別の棚を調べながら、前々から気になっている事を尋ねてみた。
『ところで、クローはなんでいつもメリーザの方を見てんだ?』
『何の話ですの?』
私の質問にメリーザが首を傾げた。
『いや、クローっていつも魔王様にベッタリしてるように見えるけど、いっつもお前の方ばっかり見てんだよ』
『そうですの? 死の宣告をかけたり、生け贄にしようとしたり、恋敵だったり……思い返せば恨まれても仕方ありませんし、命でも狙われているのでしょうか』
『おいおい……』
あっけらかんと言い放つコイツを見て私は溜め息を吐いた。
確かにクローは散々メリーザに痛めつけられているけど、アイツがそれを恨んでいるようにはとても見えない。
むしろ、いつも向けている目線は慈悲というか、子供を見守る大人のそれと似ている。
まあコイツは大人びているだけでまだまだ子供だし、この歳でそういった雰囲気を察知するのは難しいのかもしれない。
『実はクローとは私らが四天王の頃に出会ってたりしてな~』
私の言葉に今度はメリーザが溜め息を吐いた。
『それはありえないでしょう……。聞いた話によると、にゃんこさんが封印されていたのは約100年前。それまでは普通の人間として暮らしていたそうですから、200年前に封印された私達と出会っていたら計算が合いませんわ』
『あー、そっか~~』
せいぜい50年くらいで死んでしまう人間が100歳も生きた上で封印されて……というのは、ちょっと無理があるな。
そこまで考えて、もっと重大なコトに気づいてしまった。
『そうか、魔王様は……私達よりもずっとずっと早く死んでしまうんだな』
『………』
私の言葉に、メリーザは少し不機嫌そうに黙ってしまった。
うーん、ちょっと軽率だったか……。
しばらくして、ゆっくりとメリーザが口を開いた。
『魔王様なら……きっとどうにかしてしまいますわ。だって、あの方は神様と同じ力を持っているのですから、きっと大丈夫ですわ』
『なるほど、確かに』
メリーザの言うように、魔王様ならそのくらいやってしまうかもしれない。
でも、前に一度マンドラゴラで死んだ時は……そう口に出しそうになって、言うのをやめた。
これ以上は何だか話しても不毛な気がするから。
『私達は、勇者という名の鬼と戦い滅びるはずだった運命から生還し、今は皆と楽しく過ごしている……それで良いでしょう? これ以上の幸せを望むのは傲慢ですわ』
メリーザの言葉に私は強く頷いた。
◇◇
<ルルーの屋敷 地下物置 リーリア&レン>
「うーん、年代物の骨董品がいっぱいですねー。ここから探すのは大変そうですっ」
大変そうだと言いながら三角巾とマスクを付けてやる気満々のレンちゃんを見て私は微笑んだ。
「お掃除魔法のおかげで埃はあまり付いてないみたい。ということは、この近辺は魔法の射程範囲内だと考えられます。レンちゃんは床周りを、私は上棚から探しますね」
「はい! よろしくお願いします!」
力強く返事をしたレンちゃんは手際良くテキパキとなくし物を探し始める。
うーん、それにしても……
「レンちゃんって……もの凄く強いんだよね?」
「ふぇっ!?」
私の問いかけに驚いたのか、可愛い反応でこちらを振り向いてきた。
「あ、急にごめんね。前に四天王で誰が強いってお話してるときにレンちゃんが2番目って言ってて、こんな優しそうな子なのに凄いなーって」
私の言葉にレンちゃんは苦笑する。
「確かに私は俊敏さがエアリオやメリーザを上回っていることを理由に、戦闘力に関しては昔の魔王に2番目と言われていましたが、そんな力だけの順位に意味なんてありません。人として……と言いますか、心の強さで見ればきっと私は皆の中で最弱ですよ」
それを言われてしまうと、上っ面だけでタケルさんを疑った私が最弱になってしまうのですが……。
「そうやって自分を客観的に判断出来るだけでも凄いと思うけどなぁ。私の方が年上なののに、何だかレンちゃんの方がお姉さんみたいだよー」
「そうですかねぇ? エアリオが強がったり猫かぶったりせず、頭を撫でられたり身体を預けられるだけでも、私から見れば凄いことなんですけど……。私の知る限り、あんなエアリオの姿は初めてですよ?」
「うーん、気づいたらこうなってただけなんだけどなぁ」
私の言葉に、レンちゃんは嬉しそうに笑った。





