061:姉妹作で重要な方も、異世界ハッキングではネタ要員です
籠の中で待つこと数時間、こっそりと隠れて出したシステムコンソールには午後10時12分と表示されている。
当然ながら山頂の田舎村でこんな時間まで出歩く者は居らず、街灯も無いのであたりは真っ暗だ。
皆の姿は見えないが、恐らく周りの物陰に隠れているだろう。
「………」
息を潜めて待っていると……
ガサガサッ
「っ!?」
近くから物音がした!
草むらをガサゴソしながら女神様が出てくるとは考えにくいし、これは黒で間違いないだろう。
近づいてくる気配に意識を集中する!
3メートル(だと思う)……。
2メートル(くらい)……。
1メートル(たぶん)……。
「オラァっ! 覚悟せいやあああああっ!!!」
俺は、思いっきり籠を投げつけたっ!
『っうゃにゃ!!?』
犯人は一瞬驚いたものの、鋭利な何かで籠を切り裂いた!
クソッ、武器を持ってるのか……。
「みんなっ、手加減無しだ! 全力でやれっ!」
俺の掛け声と同時に、物陰から皆が一斉に飛び出したっ!
「えっ、えっ!?」
困惑しながら周りをキョロキョロする犯人に皆が一斉に飛びかかると、あっさりと捕縛に成功した。
「ムグーッ! ムムムムグーーッ!!」
猿轡を噛ませ、簀巻き状態で地面に犯人を転がすと、ロロが近づいていった。
『さあ、これからステキな尋問タイムだ。別に黙秘しても良いけど、今までボクの拷問に耐えられたコは誰一人として居なかったと予め伝えておくよっ!!』
「ムグゥゥゥゥーーーーーッ!!!」
ロロのセリフに犯人は首をブンブン振って暴れている。
「いきなり拷問とか物騒すぎるわっ! とりあえず灯りを点けて顔だけでも確認しよう」
俺の提案に、ロロが杖を振るうと辺りが明るく照らされた。
うーん、ウィザードは便利だなぁ……。
「ムーーーッ!? ムムムッ! ムーグーンーッ!」
犯人は……ワラント国の獣人のようなネコ耳&ネコ尻尾を付けた、パジャマ姿のおねーさんだった。
……あれ? この人、どっかで見たことあるような???
俺がおねーさんを見ながら首を傾げていると、すがるようにアイコンタクトがバシバシ飛んでくる。
こりゃ間違いなく面識ありそうだけど、うーん、うーん……。
『死の宣告ぅ!』
必死に思い出そうとする俺の気もつゆ知らず、あっさりとメリーザが奥義をぶっ放してくれた。
『私は奴隷商だとか生贄を要求する輩だとか下劣な人間が大嫌いですの。貴女の命はあと20分……死して自らの咎を認め、天に祈りなさいな』
……だが、カウントダウンは表示されない。
『はて? ……死の宣告っ!』
改めて放つものの、おねーさんの上で光の壁のようなものが一瞬輝くだけで何も起こらない。
「アンジュよーい」
『はいはいー?』
俺の問いかけに、アンジュがトトトっと俺の前にやってきた。
「確か、お前も死の宣告が効かなかったよな?」
『んぇ? ああ、神様や天使は最初から聖なる力に護られてるから、そういった呪いの類は効かないよ』
「誰や誰に効かないって……?」
『神様や天使、だね』
俺と面識のある天界関係者は、ラフィート様とアンジュ、そして………うわーーーっ!!
「今すぐにその方を解放しろおおぉぉっ!!」
◇◇
「うぅ……酷いよー……」
俺たちの前でシクシクと泣いているのは、可憐庭の店主さんこと、カレンさん。
「いや、ホントすみません……」
カレンさんはネコ耳をふにゃりと下げて、ネコ尻尾の毛がボワッと膨らんだ不思議なスタイルになっている。
どう見てもこの耳と尻尾は……。
「あの、その耳と尻尾は……?」
「作り物っ! 作り物だからっ!! ホ、ホンモノな訳ないでしょうっ~!?」
俺たちは苦笑しながら、カレンさんが手をバタバタする姿を眺める。
「でもタケルくん酷いよー。私が必死に目で訴えかけてるのに、ギリギリまで私だと気づかなかったでしょ?」
それは貴女がすっぴんだからです!
……と言うと本気で襲いかかってきそうなので、笑って誤魔化すことにした。
『それにしても貴女ともあろう方が生贄を求めるなんて……一体、何事ですの?』
メリーザの質問に、カレンさんは首をブンブン振った。
「何それ知らないよっ! 夜寝てたらいきなりラフ……知り合いに叩き起こされて、気づいたら草むらの中だよっ! 寝ぼけたまま歩いてたら簀巻きだよっ!!」
なるほど、女神ラフィート様から直々の依頼でやってきたのか。
カレンさんは依頼主の秘密を守ったと思っているようだが、そもそも北西の大陸から海を渡った南東の山頂にカレンさんをワープさせて送り込んできた時点で、言い訳が不可能なレベルの『神の御業』なのだけどね。
「カレンさんを送り込んだ依頼者から何か聞いてます?」
俺の質問に、カレンさんはポンっと手を打った。
「えっとね、意味は分からないんだけど……」
それからカレンさんは、慈悲のこもった眼差しでゆっくりと語った。
「今までの事は許してあげますから、もう神託がどうとか嘘を吐くのはお止めなさい。このようなことで貴女が居なくなると、残されたお父様はどうなるのですか? これからも巫女として精一杯務めを果たし、村人のため、そして恒久的な平和の為に祈り続けなさい。それが貴女の使命です」
カレンさんの言葉に、カナさんがハッとした顔になり、それから泣き崩れた。
「ごめんなさいぃぃーーーっ!!!」
◇◇
改めて振り返ると、今回のフラグ回収はとても単純な話だった。
つまり、カナさんは最初から女神ラフィート様の声なんて聞こえておらず、これまで授かってきた神託とやらは全て虚言だったのだ。
「巫女として生まれて、村人たちの期待に応えようとして嘘を吐いたら、そのままエスカレートしてどうしようも無くなっちゃったんだなぁ……」
そこでカナは、ラフィート様が生贄を要求したことにして、そのままコッソリ村から姿を消そうと計画。
しかし、いざ実行に移す直前で俺たちがやってきた……と。
『まあ、フラグ回収も出来たし、カナも救われたし、今回は文句ナシだね~』
アンジュも満足そうなニコニコ笑顔だ。
夜が明けてからリッグスさんは、カナさんを連れて村人たちの前で深々と頭を下げ、今回の経緯を一通り説明した。
だけど、皆の反応は一言……
「とっくに気づいてたよ」
……というのも、これまで『破壊神ラフィート様』が要求してきた内容が、神託と言いながら『村人同士で仲良くしましょう』とか『整理整頓を心がけましょう』などなど、神託というより町内会の標語みたいな内容ばかりで、田舎娘っぽさ全開だったのだ。
父娘揃ってそのコトに全く気づいていなかったとは、いやはや……。
「女神様の名を騙ったと言っても、それを私利私欲に使うのではなく、信仰と村の幸せの為に使ったのだから、女神様も許してくれたのでしょうね」
リーリアも嬉しそうに笑っている。
今回のフラグ回収条件である「トープ村で生贄の巫女を救出」とは、生贄を救うのではなく、これから訪れるであろう不幸から未然に救うという意味だったのだなぁ。
……と、キレイにまとまって話が終われば良いのだけど、ただ一人だけ「最初から最後までずっと不幸」だった可哀想な方が居ます。
「ぶーぶー、私だけやられ損なのが気に入らないよぉー」
簀巻きにされたうえ、恫喝までされてしまい、一人だけ痛い目を見たカレンさんです……。
さすがに今回ばかりは気の毒すぎて、俺たちが悪いわけではないのだけど、何だか申し訳ない気分になる。
「アナタたち冒険者なんだから何かお宝持ってるでしょ? お店で売れそうなお詫びの品でも寄越しなさいな」
そう言いながら勝手に俺の鞄に手を突っ込んでゴソゴソしてきた。
ワラントの信者さんたちにはとても見せられない姿だなコレ……。
「別に大したもんなんて……」
俺がそこまで言い掛けたところで、カレンさんが驚愕したまま固まってしまった。
「この石は……?」
カレンさんの手には、ロロか封印されていた洞穴の坑道で手に入れた黒い宝玉が握られていた。
「この山の中腹あたりにある炭坑跡で見つけた石ですね。カレンさんは、この石について何か知ってるんですか?」
だが、俺が質問しても呆然としたまま反応が無い。
しばらくして、凄く真剣な目でこちらを見つめてきた。
「ゴメン、ちょっとコレを貸してくれないかな……?」
カレンさんの表情は焦り……いや、恐怖に近い色が浮かんでいた。
この石が何だと言うのだろうか?
凄く気になるのだけど、カレンさんの雰囲気に圧倒されて、どうしても聞くことが出来なかった。
「ええ、俺たちが持ってても使い道が無いんで、持っていってやってください。買って頂けるとありがたいんですけど」
俺の要求に、カレンさんは苦笑する。
「ごめん、私じゃとても値段が付けられないよ」
まるでイベントアイテムを店で売ろうとした時のNPC店員みたいな反応に、俺も思わず笑ってしまった。
まあ、買い取り不可だと分かるだけでも今は十分だろう。
「……そ、それとねっ!」
カレンさんが困った顔で俺を見つめてきた。
うーん、年上のおねーさまから見つめられるとちょっとドキドキしちゃうよ。
「私を家に帰してほしいなーって……」
「ですよねーっ!」
というわけで、久々に使ったスクリプトのMOVEコマンドで獣神……もとい、カレンさんにお帰り頂きました。
FLAG No.17 トープ村で生贄の巫女を救出せよ! CLEAR
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No.20 天才画家の子孫の恋愛を成就するべし!





