060:巫女さんと聞いて期待してしまうのは仕方がない
―――― 濡羽色のつややかな長い黒髪。
―――― 白装束に身を包んだ汚れ無き身体。
―――― そして……ゴツゴツした胸板に、死んだ魚のような眼。
「どうしてこんなことに……」
俺は今、祭壇の上に置かれた籠の中で「破壊神ラフィート」が出現するのをじっと待っていた。
………
……
…
「生贄の巫女……ですか」
次のフラグ回収条件を聞き、リーリアは怪訝な顔をする。
『なんだ、200年も経ったというのに人間共はまだそんな原始的な呪いを続けていたのか? 同胞の命を供物にするとは、全く持って理解しかねるよ』
『ホントホント。そんなヘンな死に方されると、ただでさえ面倒な転生処理がさらにややこしくなって超メンドクサイんだからねっ!』
ロロとアンジュもぶーぶーと文句を言っている。
……って今このクソ天使、面倒とか言いやがったな。
「フラグの回収条件がそうなってるんだよ。しかもわざわざトープ村の、って場所までご指定だ」
『巫女さんということは、この村のどこかに神を祀る建物があるにゃりね』
クローがぴょんと俺の肩に乗ってきた。
「うっし、そんじゃいっちょ情報収集だ!」
◇◇
「なんとまあ……」
俺たちは唖然としながら目の前の建物を眺めていた。
山頂の田舎村に不釣り合いな外観は、小さいながらもまるで宮殿のようで、その佇まいから信仰心の強さは明らかだった。
『噴水前にあるブロンズ像は……多分、ラフィート様だね』
どうやって山頂の村で噴水を維持しているのかは謎だが、建物の前に置かれたブロンズ像は長い髪の乙女が空に両手を挙げた姿で……おっぱいは実物よりも7割増しくらいで大きかった。
『あの巨乳っぷりは、グローラの描いた絵が元になってるみたいにゃりね……』
クローは呆れながら呟いた。
「まあ女神様のおっぱいの話は置いといて、ここの巫女さんを助けるわけだが……」
俺が本題を言い掛けたその時……!
「お前を生贄にするなど、そんなもの絶対に認めぬぞっ!!」
「いいえ、この村を護るためですもの! この責務、必ず果たして見せますわ!!」
建物の中から一組の親子が現れた。
「そんな神託があってたまるものか! いくら我らが神の忠実なる僕だとしても、そんなこと!!」
「……お父様、これは神からのお告げなのです。従わねば、この村は滅び……私だけでなく全ての民が苦しむことになるのですよ……」
娘の言葉に父はへたり込むと、地に膝を付けて泣き崩れてしまった。
何だか、凄いところに遭遇してしまったぞ……。
とか思っていたら、空気読めないレベルMAXのアンジュがトコトコと近づいていった。
『あの……すみませんー。話から察するに、このお嬢さんを生贄にしろと神からお告げがあったみたいですけど、多分それ悪魔とか悪霊のイタズラですよ? 正直、天界はそんな理由で人間に死なれると凄く迷惑なんですけど』
行ったーーーーっ!!!
すんごいストレートに行きおったーーーーっ!!!
「「………は?」」
『は? じゃなくてね。生贄を捧げられても神様も困っちゃうというか~……』
固まる父と娘に対して再び同じ内容をリピートするアンジュに、一同は騒然。
『あの子、凄いな……。洞穴の一件でも薄々は思っていたが、あそこまで堂々と入り込まれると確実に主導権を握られるだろう。交渉手段として、とても参考になるよ』
「アイツのアレは病気みたいなもんだから、よい子は真似しないでくれ……」
何故か感心するロロに忠告しつつ、固まった父娘に俺から話しかけることにした。
「いきなり連れがバカ言ってすまない。何だか込み入った話みたいだけど、事情を教えてくれないか?」
俺の問いかけにハッとなった父親は、俺に飛びついてきた!
「頼むっ! 娘を助けてくれっ!!」
◇◇
『破壊神んんんんっ!!?』
アンジュが素っ頓狂な声を上げると、気まずそうに娘の父……リッグスさんは口を開いた。
「ああ。この村では創造神ラフィート様が若い娘を求め、それに従わぬと災厄を起こす破壊神とされていてな……」
まさかのラフィート様の百合疑惑に少々驚いているが、従わぬと災厄を起こすという点に関しては普通に受け入れてしまう自分が居る。
以前アンジュと一緒に食らったアイアンクロー、すっごく痛かったし……。
『そんなの、絶対おかしいよっ!』
女神ラフィート様を破壊神呼ばわりされたことにご立腹なアンジュだが、それを見た父娘が「一番おかしいのは貴女のコスプレでは……?」のような表情をしているのがとてもシュールです。
初対面でかなりぶっ飛んだ発言をしやがったので、今更『私、実は天使なんです!』と言ったところで信用してもらえまい。
しばらくして、巫女である娘……カナさんが口を開いた。
「ですが、私はこれまで何度もラフィート様から神託を授かっているのです。声を聞き間違えるはずがありません。でも、今までは演舞を捧げるだけで良かったのに、今回は突然……清き生贄を捧げよと……」
ふーむ、巫女さんがここまで自信をもって言うくらいなのだから、本当にラフィート様がガチレズなのかもしれないと少し不安になってきた。
『清き生贄って、どういう意味だ?』
エアリオが首を傾げてメリーザに尋ねた。
『毎回返答に困るコトばかり聞いてくるのねアナタ……。えーっと、その、それはね……』
コウノトリさんが赤ちゃんを運んでくると信じているエアリオの夢を壊さないようにと、必死に言葉を考えるメリーザ。
うっかり「ユニコーンの角で突き殺されない条件を満たした女性」とでも言おうものなら、さらにややこしいことになるだろう。
悩みに悩んだメリーザの出した回答は……!
『結婚してない人を生贄にしろってコトよ! 片方だけ連れて行かれると、残された方が可哀想でしょう?』
よく頑張った!
ちょっと苦しいけど、何となく説得力はある(気がする)よっ!
俺とメリーザが息を飲んでエアリオの反応を待つ。
そしてエアリオの反応は……
『二人とも連れて行けば良くね?』
『うあーーーーっ!!!』「ダメかーっ!!」
エアリオのツッコミに、メリーザと俺はふたりで頭を抱える。
だが、それを聞いたアンジュが『その手があったかっ!』と声を上げて急に立ち上がり、頭を抱えていた俺の右手を掴んだ。
『清い生贄だよっ! 性別書いてないよっ! ここに適任が居るじゃないか!!』
…
……
………
その結果がこれである。
何故アンジュが黒髪のウィッグやら、俺が着れるサイズの白装束を持ってるのかなど、気になる点は多々あるのだが……。
「性別指定が無いからって、清い生贄と言われて成人男性を捧げるとか、天罰で村ごと焼き払われたりしないか?」
アンジュをジト目で睨みながら呟く俺の言葉を聞いて、リッグスさんとカナさんは不安そうにブルブルしている。
『大丈夫っ! そもそもラフィート様がこんな馬鹿げた要求するわけないし、現れたインチキ野郎をタケルのチート攻撃一発でノックアウトしちゃえYO!』
YOじゃねーよ。
「つーか、今回の条件で適任っ! ……とか言われるのは正直、傷つくんだけど」
『童貞でしょ?』
「ストレートに言わないでくれるっ!? せっかく濁して表現してるんだからさっ!!」
しかも、俺たちの後ろの方でエアリオが『どーてい?』とか言いながらリーリアに頭を撫でられていて、何だか既視感がすごい。
そしてその横では……
『生贄を差し出せなどという不届き者は私達が成敗してさしあげますわ』
「その通り! 女の子を奴隷だの生贄だのモノ扱いする輩は許せませんっ!」
元奴隷のメリーザと、その手の話題が大嫌いなリーリアの二人はやる気満々である。
「はぁ……。んじゃ、このまま犯人が来るのを待ちますかねぇ……」
こうして、俺は夜更けまで籠の中でじっとすることになってしまったわけだ。





