058:リトル・ケーブ・アドベンチャー
洞穴の最深部の壁面には、システムコンソールをさらに30年くらい巻き戻したような超レトロなスクリーンが表示されており、黒い背景に白いカーソルがずっと点滅している。
Command ?
□
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- 1234567890-^\
- QWERTTYUIOP@[
- ASDFGHJKL;:]
- ZXCVBNM,./\
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『コマンドを打て……というコトだろうねぇ……』
アンジュが呆然としながら呟くものの、ここで何を打てと?
とりあえずCommandの文字の下にあるQWERTYキーボードに触れると文字が入力できたので、俺が普段触っているシステムコンソールのもっと原始的なモノのようだ。
ls
[syntax error]
dir
[syntax error]
su
[syntax error]
rm -rf /
[syntax error]
「……駄目だこりゃ」
困惑する俺を後目に、アンジュがスクリーンに向かっていった。
「お、おい……っ!」
『多分、こんな感じじゃないかなーっと』
ADVENT
[ようこそ。君の前には壁がある]
□
『うっし正解っ』
「ええええ、どゆことっ!?」
全く意味が分からないまま立ち尽くす俺を置いてけぼりのまま、アンジュは黙々とタッチパネルを操作し続ける。
LOOK WALL
[違う]
LOOK AT WALL
[違う]
PUSH WALL
[ひんやりと冷たい壁だ]
KICK WALL
[乱暴はいけない]
『地味に反応が細かいのがウゼェな……』
「あのー、アンジュさん? いつもと口調が変わってません?」
画面の雰囲気から察するに、何か英文……というか、英単語の組み合わせで何かイベントが起こるっぽいけど……。
「壁があるって言ってんだから、何か道具探して掘るんじゃね?」
『ア゛ァっ?』
「ごめんなさいごめんなさいっ!!」
まるで弱酸性ホニャララの大納言様のような顔で睨まれて思わず謝ってしまった。
あなた、あのときの人じゃないっ、どうしてっ!
『道具か……』
LOOK FLOOR
[SHOVEL がある]
GET SHOVEL
[SHOVEL を得た]
すると、目の前の壁にもう一枚スクリーンが現れて、シャベルっぽい見た目のアスキーアートが表示された。
「おー、すげー……」
『うーん、懐かしいねぇ。もうちょっとゆっくり表示されればもっとリアルだね』
何だかアンジュが妙に年寄り臭い発言をしたけど、気にしないことにしよう。
USE SHOVEL
[違う]
DIG
[カキーン。堅い壁にSHOVELは使えない]
『ちっ、クソが……』
この天使、コワイヨー!!
ゲーム中や運転中にそいつの本性が出るとは言うけど、アンジュの場合は前々から暴言を吐くコレが本性なんだろうか。
時々『天使として○○は許せないっ…』とかそれっぽいコト言ってるけど、その制約が無かったら大変マズいことになりそうな気が……。
この手の天使は、大抵は最終回で堕天して最強の敵で現れるパターンだったりするものなので、それよりも前に改心してほしいところである。
『うっしゃ、通った!!』
嬉しそうに声を上げたアンジュの方を見ると……
GET DYNAMITE
[DYNAMITE を得た]
ダイナマイト……?
正面を見ると、いつの間にやらいくつもスクリーンが表示されており、鍵、箱、ツルハシ、扉、金庫、斧がズラリと並んでいた。
俺がちょっと考え事している間に一体、何があったというのか。
訝しげにアンジュとスクリーンを眺めていると、イベントが先に進み始めた。
MOVE FRONT WALL
[壁の前に移動した]
PUT DYNAMITE
[DYNAMITE を置いた]
……何だか嫌な予感がする。
さっきから行動する都度にオブジェクトが表示されてるのに……なんで『壁に関する情報』だけ無いんだ?
そのダイナマイトを発火させたら、何が起こる?
猛烈な悪寒に耐えきれず俺は振り返ると、ロロの肩を掴んだ。
「お前が使える、"イチバン飛び切り強力な防御魔法"を唱えてくれ! 今すぐっ!!」
『えっ! あっ! はいっ!!』
俺の要望に目を白黒させながらロロは杖を地面に突き立てると、紅い髪をなびかせ、瞬時に防御魔法の詠唱を完了させた。
そして、それとほぼ同時にアンジュもエンターキーをタッチ……。
『エクス・リフレクション!!』
BOMB
[DYNAMITE を使った]
◇◇
「ったく、今後はお前ゲーム禁止な」
『うわーーーんっ!』
アンジュが後先考えずにBOMBコマンドを使った直後、それはもう見事な爆発が起こり、洞穴は完全に崩落した。
ロロの防御魔法のおかげで3人とも無傷ではあったものの、危うく生き埋めになりかけたわけで……。
「もし岩壁の向こうに坑道が無かったらマジで死んでたからな? 異世界での死因が"バカ天使がゲームに夢中になって生き埋め"とか、女神様に再会した時に何て説明すりゃいいんだよ」
『だってぇぇぇ!! テキストアドベンチャーなんて、デゼニ以来なんだもん! 懐かしくて仕方ないったらありゃしないよぅ!!』
デゼニって何だ……?
「まあ、秘宝っぽいブツは見つけたから良いんだけどさ」
そう言う俺の手には黒い玉がひとつ。
ダイナマイトで爆破した岩壁の向こう側は少し広いスペースになっており、そこでこんなブツを拾ったわけだ。
『個人的には三月磨臼が出てきてほしかったんだけどね……。それにしてもソレ、何だか禍々(まがまが)しい色だし、呪いでもかかってるんじゃないの? ホントに大丈夫???』
「呪われてるかどうか、ひとまずテメェで実験してみたいところだよ」
『やーめーてぇぇーーー』
宝玉をアンジュの頬にギュウギュウと押しつける俺を見て、ロロは不思議そうな顔をしている。
『呪われては……いないだろう。でも、何だか不思議。常に魔力が漏れ出しているのを感じるし、かなり強い力が込められているかもしれない。大事に持っておいた方が良さそうだね』
「まあ、こんな得体の知れない石なんて、店も買ってくれるかどうか怪しいしなぁ」
そう言うと、俺は宝玉を鞄に放り込んだ。
◇◇
しばらく坑道を歩いた俺たちは、ついに出口に到達した。
「なるほど、ここは山の中腹あたりだったんだなー」
システムコンソールのマップ情報で座標を確認した俺は、そのまま山頂の方角へ歩き出した。
『えええぇーー! 休憩無しで歩くのぉぉぉーーーーー!?』
「そりゃ崖登りのために、ほぼ手ぶらで来たからな。ここからなら、山頂の村まで2時間くらい歩けば到着するだろ」
『2時間っ! こんな土埃だらけで満身創痍な状態で2時間も歩くなんてアリエナイっ! とうっ!!』
散々文句を言った挙げ句、俺の背中に飛び移ってきた!
「てめぇ! 最近やたら俺の背中ばっかり飛び乗って楽するコトばっか覚えやがって!!」
『わたし、おにーちゃんの背中が大好き♪』
「そういうセリフはレンとかリーリアみたいな真面目キャラが言うから価値があるのであって、お前みたいなインチキ幼女が発言しても意味が無いんだよっ!!」
『イイイイイ、インチキ幼女だとぅ!!!』
やいのやいの。
山頂に向かって歩きながらひたすら口喧嘩を続ける俺とアンジュ。
そして……
『くすっ』
ロロが嬉しそうに笑った。
「うおおおぉ……これだよこれっ! この可愛いさだよ! これがギャップ萌えだよっ! 眠そうな目をしたクールなヤツが可愛らしく笑うだけでこの破壊力だぞっ! 反則的な可愛さであるぞっ!! オマエにコレが出来るのかっ! アァッ?」
『くそぅ! 新キャラの分際で古参を脅かすとはっ!』
俺に可愛いと連呼されたロロは顔を赤くしながらも、すぐにニヤリと笑みを浮かべ、俺の背中に居るアンジュの横にやってきた。
『大丈夫。ボクはヘタレの座を奪うような真似はしないさ。キミは一生ヘタレのままで居ると良いだろうヘタレ』
『ヘタレヘタレうるさいよっ!!』
涙目のアンジュをからかいながら、俺たちは山頂の村を目指して歩いた。
FLAG No.16 マウティ山に隠された秘宝を発見する! CLEAR
さすがに、この回を見て「懐かしい」と言う読者は居ないと思う…





