054:好きです、ゲームクリエイター列伝
毎度おなじみ爆弾解体のコーナー!
もとい、クソ天使野郎の仕掛けたトラップ問題のせいで、ファンシー雑貨屋さんが爆破解体の危機です。
店主のカレンさんは錯乱状態のまま何故かアンジュに肉体言語を浴びせており、さっさと解かないと危険が危ないっ!
……それはともかく、改めて問題を見てみよう。
『問題 次のコードを解析し、実行しなさい』
[28 36 32 B0 B9 B2 90 34 34 BA 10 36 B2 97]
実は末尾の"97"をヒントに、ほぼ答えは分かっている。
ここから答えを導き出すまでに少し時間がかかりそうだけど、その前に発狂しちゃったカレンさんを落ち着ける方が先決だ。
「とりあえずお店が爆発するリスクは回避出来たと思いますんで、そこの空気読めない子を解放してやってください……」
「お、おぅ。あ、はい……取り乱してすみません……」
俺の言葉に冷静さを取り戻したのか、カレンさんはチョークスリーパーでグッタリしているアンジュをポイッと投げ捨てた。
今は突っ込む時間は無いけど、あまりにも可哀想だし、後で労ってやろう……。
さて、気を取り直して俺はひたすらシステムコンソールに0と1を並べて記述している。
末尾から逆算すると97は012E、は164+1、36は6C+1……。
「……んんんんんんんんっ!?」
なんかオカシイ単語が出てきたぞ。
「ease……あ-、上7文字は解読の必要すらないのか」
ブツブツと独り言を呟く俺の隣にリーリアが心配そうにやってきた。
うーん、うーん……。
「あの……叫んでいたみたいですけど、何か問題が……?」
一番適切なアンジュはカレンさんに投げられて失神してるし、魔王四天王トリオは拒否するだろうし、クローに至ってはもはや論外、というか猫だ。
かと言って初対面のカレンさんにこれをお願いするのはさすがにちょっと……。
となると、今回のミッションで一番現実的な協力者はリーリアになっちゃうんだよなぁ。
嫌がるだろうけど仕方ない。
「リーリア……」
「はい?」
「今からオレを……殴ってみろ!!」
「っ!?」
世界いちぃぃぃなゲームメーカーの開発室であったとか無かったとか言われるセリフを吐いた俺を見て、リーリアはあわあわと困惑している。
「どどどどど、どうしてタケルさんを殴らなきゃならないんですかっ!? どうしてタケルさんが殴られなきゃならないんですかっ!!」
微妙に言い回しを変えながら非難の声を上げるリーリアの肩に手を置き、俺は首を左右に振った。
「これが今回のフラグ回収の答えなんだよ……」
「そ、そんなぁ!」
ガクリと悲しそうにうなだれたリーリアの頭を撫でながら、俺はタイムリミットを目視した。
03:13……03:12……
「もう3分しか無いんだ……頼むよ」
「嫌です! 絶対に嫌ですっ!!」
我慢出来なくなったのか、リーリアがわんわんと泣き出してしまった。
う、うーむ……。
「この店は……」
そんな俺たちを見かねたカレンさんがついに口を開いた。
「人と人の縁を繋いで、皆に幸せになってもらうために始めたんだ。その前に凄く辛い事があって、みんな苦しかったけど、それでも頑張って、私の親友夫婦も凄く喜んでくれた、そんな思い出もいっぱいあるんだ。だから、このお店を無くしたくない……だから、お願いだ。助けて……」
リーリアに深く頭を下げるカレンさんの言葉に、とうとう観念したリーリアが俺の正面に立った。
「私、怒ってますからね! ぷんぷんっ」
「すまない……」
「……これが終わったらプレゼント、期待してますよ」
「っ!? わ、分かっ……」
そこまで言ったところで、リーリアの全力ビンタが炸裂し、辺りにパァンと音が響いた。
『ホントはこんなもんじゃ許せないんだけどね』
一瞬、不思議な声が聞こえた気がしたけど、今はそれどころじゃないっ!
呆然と手のひらを眺めるリーリアを見て 、俺は慌てて肩を揺すった。
「お、おいっ、大丈夫か?」
緊急事態だったとはいえ、良家のお嬢様に無理矢理に暴力を振るわせたのだから、そりゃ精神的な負担もあるだろう。
「えーっと、その……。ちょっと……スッキリしました……ドキドキ」
負担どころか、顔を紅潮させております。
そういえば自分の耳の形をバカにしたヤツに木刀で報復したとか言ってたし、メリーザとはまた違う方向性に将来が心配だなぁ。
そんな俺とリーリアを見て、カレンさんが爆笑している。
「うははは、やっぱこの世界は楽しいねぇ! あと、助けてくれて本当にありがとうっ。このお礼はまたいつかさせてもらうよ」
何だか凄くスッキリした表情でカレンさんがニコリと笑うと、再びシステムコンソールが自動で立ち上がってきた。
『フラグNo.23回収おめでとうございます』
「へいへい、どーもどーも」
クリア報告アナウンスを適当にあしらっていると、カレンさんの持ってきた箱がパカッと軽い音を立てて開き、システムコンソールに砂時計と推定完了時間が表示された。
「なんだコレ?」
『脆弱性解析ツールをインストールしています……』
え……?
今、何かヤバいアナウンスが聞こえたような。
何、脆弱性???
『インストールが完了しました。管理メニューのツール一覧から実行可能です』
淡々と流れるアナウンスに呆然としながら、指示通りシステムコンソールを操作する。
「うっ……!」
そこにはプログラムコードのような英文と、16進数ダンプリストが表示されており、画面下部には[Step]や[Break]といった名称のボタンが並んでいた……。
◇◇
可憐庭を出た俺たちは、神都ポートリア北教区の宿を目指して歩いている。
『何だか散々な目にあったよぅ……』
アンジュが俺の背中におんぶされながらグッタリしているが、何だかんだで赤いリボンの髪飾りは気に入ったらしく、さっきから指先でツンツンしたりポフポフ触ったりしている様子。
ただ、今回のフラグ回収でひとつだけ納得いかないコトがある。
「なんでシステムコンソールの追加プラグインが、獣神ティーダにありがたいお言葉を賜るコトになるんだ? フラグ回収条件が全然意味わかんねぇ」
首を傾げる俺を見て、メリーザがクスッと笑った。
はて、どういう、意味だ???
『獣神ティーダの言葉は、この世界は楽しい、ですわね。全く、神託と言うくせにシンプル過ぎますわ』
『よくわかんねーよ、さっさと教えろよー』
ぶーぶー文句を言うエアリオにメリーザはニヤリと笑って答えた。
『この街では神様が二人もショップ店員だなんて、全く神都とは言ったものですわね』
メリーザの言葉に全員が絶句する。
それはつまり……。
「おいおい、なんであの人が獣神ティーダって言い切れるんだ???」
俺の疑問に、メリーザはくるりと振り返り、楽しそうに答えた。
『ふふふ。女のヒミツですわっ♪』
Flag No.23 獣神ティーダにありがたいお言葉を賜る CLEAR
~ あとがき ~
というわけで、毎度おなじみ暗号解読の解答です。
まず問題を見てみましょう。
[28 36 32 B0 B9 B2 90 34 34 BA 10 36 B2 97]
これを一度全て2進数に戻します。
00101000 00110110 00110010 10110000 10111001 10110010 10010000
00110100 00110100 10111010 00010000 00110110 10110010 10010111
そしてこれを112ビットのブロックとして1ビット左シフトします。
01010000 01101100 01100101 01100001 01110011 01100101 00100000
01101000 01101001 01110100 00100000 01101101 01100101 00101110
再び16進数列に戻すと下記の16進数列が得られます。
[50 6C 65 61 73 65 20 68 69 74 20 6D 65 2E]
これをASCII変換すると…
『Please hit me.』
元ネタは週刊少年マガジンでかつて不定期連載されていた「ゲームクリエイター列伝」第1巻収録の「バーチャファイターを創った男達(鈴木裕)」の名ゼリフ「今からオレを殴ってみろ!!」です。





