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051:鈍感系主人公と鈍感男の話

『なるほど、獣神ティーダに会いたい、と?』


 俺たちの目的を伝えると、ラフ……もとい、フィーネさんが応接テーブルにティーカップを並べながら教えてくれた。


『獣神ティーダは他者から正体を暴かれる事を嫌いますから、そういった露骨な真似をせずに、自然と出会えるように心掛けるコトが大切だと思いますよ』


 ……あれ?


「アンジュが、獣神ティーダなんて神様は見たことも聞いたことも無いって言ってましたけど?」


 俺の疑問に、フィーネさんはニコニコ笑顔で答える。


『この世界で新たに生まれたばかりの新人、もとい新神しんじんさんですからね。まだ天寿が残ってますし、神として天界に上がるのはまだ先でしょう』


 なるほど、神様にも色々あるんだなぁ。

 ちなみにアンジュはその説明を聞いて、目が点になっている。


『神様って後から成れるモノ……なのですか?』


 恐る恐る尋ねるアンジュに対し、フィーネさん笑顔のまま肯いた。


『もちろん。アンジュさんはこちらの天使ではないのでソードアンドソーサリーの世界では駄目ですけど、あちらの世界で現役の神を上回るほどの最高実績を上げれば神の座を得ることも可能でしょう』


『うおおおおっ! すげーーー!! マジですかーーーっ!!!』


 アンジュはガッツポーズで立ち上がった。

 ……俺は率直な疑問を口にする。


「今の神って……?」


『アフロディーテさんですね。ヴィーナスと呼ばれるコトもありますよん』


 あー……。

 自分の世界に入り込んで『うおーっ!』とか叫んでいるアンジュはこちらの会話が聞こえなかったみたいだけど、現実を突きつけるのは残酷過ぎるので黙っていてあげよう。



◇◇



 しばらくお店で団らんしていると、一組の男女が入ってきた。


「ただ今、戻りましたー」


「フィーネ、お疲れ~」


 このお二人の名前は、リベカさんとカトリさん。

 カトリさんは本業が商人ながらその腕を買われて臨時の広告デザイナーとして働いており、リベカさんは何とお店の経営者らしい。

 リベカさんは見た感じ二十歳程度で俺と同じくらいの若さに見えるのだけど、その若さでお店を持つとは、きっと凄くやり手なのだろう。


『ぶっふぉっ! リベカがやり手っ、げふぉっ!!』


 よく分からないけどフィーネさんがいきなり吹き出して、せてしまった。

 その横では、リベカさんとレンが親しそうにしている。


「レンちゃん、お友達いっぱい出来て良かったねー」


「はいっ! その節は大変お世話になりましたっ」


 親しそうにと言うか、飼い主と犬っぽい感じがして仕方ないのは何故だろう。


『その認識で、概ね合ってます……ごほっ』


 いちいち心を読んで回答してくるの、ちょっとイヤだなぁ。


「しっかしまあ、女の子ばっか連れてハーレムとは、旦那なかなかやるねぇ~」


 カトリさんが俺の背中をバシバシしてきた。


「貴方も、両手に花じゃないですか~」


「ははは、残念ながら二人とはそういう関係じゃないよ」


 カトリさんが謙遜して返事をすると、横の方でピシッ!という不思議な音が……。

 そちらを見ると、フィーネさんのティーカップの持ち手が粉砕されていた。

 ……どゆこと?


『なんでも……ありませんとも……うぅ』


 フィーネさんが涙目のまま、カトリさんを睨んでいる。

 ままままま、まさかっ……!!?


『……文句あんの?』


「い、いえ……」


 こえええええーーー…。


 しかもカトリさんはそれに気づいてないみたいだし、まるで鈍感系主人公みたいだ。

 ヒロインが告白しても「え、何だって?」って言っちゃうアレです。


 ウチの面々は恋愛フラグは立ってないし、俺に好き好き言ってくるエアリオとメリーザの態度は、単に魔王フラグの効果だもんなー。

 見ててとても分かりやすいし、俺が鈍感系主人公になる心配は無いだろう。


『ん?』


 そんなコトを考えながら仲間たちを眺めていたら、俺の目線に気づいたメリーザがこちらを振り向いて微笑んだ。



◇◇



「クリスさん達は……やっぱりまだ帰ってきてないですよね」


「あぁ、アイツらはしばらくこの街には戻ってこないと思うよ」


「うーん、残念です……」


 レンがしょんぼりしている。


「他にも知り合いが居たのか?」


「はい、クリスさんといって、まだ子供なのに凄い聡明な方が居まして。私がここで働けるように計らって頂けたり、私がお店で働いてる時も色々と助言を頂いたりと大変お世話になったのです」


 へぇ、天才少年みたいな感じみたいだな。

 もし会えたら是非とも旅費の工面について助言を頂きたいところだ。



◇◇



『まずは、このお店に行ってみると良いでしょう』


 別れを惜しみつつも、俺たちはフィーネさんの助言に従って街の南西へ向かった。


『……それにしても、あのおねーちゃん何者だ?』


 店からしばらく離れた場所でエアリオがボソッと呟いた。


『魔王様やアンジュにいきなり掴みかかってきたし、ムカついたから斬りかかろうと思ったのに何故か動けなかったし、訳わかんねえ……いたっ』


「いくら俺に無礼な事をしたからと言って、逆上すんな」


 物騒なコトを言うエアリオの頭を軽く小突いた。


『はぅー……』


 フィーネさんは当然のごとく管理者権限を持ってるだろうし、エアリオにとっては魔王が二人いるような認識になっちゃうんだろうなぁ。


『魔王様に対する無礼な態度に関してはわたくしも不愉快でしたけど、あの方と敵対するのはあまり望ましいとは言えませんわね』


 メリーザはいつも通りの淡々とした口調でエアリオを諭す。


「……まあ、お前なら気づくよな」


『出来ればもう少しスマートに出会いたかったですわね……』


 数日前に凄くカッコイイ演出で皆の度肝を抜いておきながら、ファーストコンタクトが「店員さんの姿でアイアンクロー」なのだから、メリーザ的にも釈然としないのだろう。

 あの女神様、立場的にものすごく偉いはずなのに、妙に人間臭いというか大雑把おおざっぱだよなぁ。



◇◇



 そんなこんなで会話をしながら歩いていると、目的の場所に到着した。


「たぶんこの辺りだと思うのだけど。えーっと、大通り右手の家具店の隣だから……うわぁっ!!」


 思わず叫んでしまった俺の目に入ったのは、やたらキラキラしたファンシーグッズが並ぶお店だった。

 世界観ガン無視しまくりなデザインは、明らかに浮きまくっている。

 この店に一体何があると言うのだろうか……。


『何だか……ステキですわね』


 ワラントでメリーザの感性が毒されてしまったのか、この店を見て第一声がそれである。

 この子の将来がちょっと心配になってきたなぁ。

 その一方で、俺と同じくこの店の美的センスが全く理解できないエアリオが、いぶかしげに店を眺めていた。


『こんな派手なモン付けてたら、狩りの時に邪魔になりそうだけどなぁ』


「エアリオはもうちょっと女らしくしないと、タケル様に呆れられますよ……」


 レンのツッコミを受けて、エアリオがハッとこちらを向いた。


『こ……この店、チョー可愛い~!』


「いや、無理すんな……」


 俺はダークエルフのキャラクター性を大事にしてあげる大人の男なので、今まで通りキミはボーイッシュ路線で行ってください。


「まあ、店先で騒いでても仕方ないし、入ってみようぜ」


 そして俺たちは魔境……もとい、ファンシーショップ『可憐庭かれんてい』に足を踏み入れた。

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