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044:ずっとメリーザがメインヒロインのままで良い気がしてきた

 というわけで、メリーザとユリアンナの服を交換し、姫のふりをしたメリーザと共に皆で王城へ訪問したところ……


「ひっ、姫様っ!?」


「王女殿下が戻られたぞーっ!!」


 すぐに城内は大騒ぎになり、そのまま飛んできた人たちにメリーザが連れて行かれてしまった。


「……い、意外と気づかれないものですね」


 死神装束のフードを深々と被ったユリアンナが目を見開いて驚愕している。


「よくよく注意して見れば違いは分かるんだけどな。姫様に近づいて顔をまじまじと見るような無礼なヤツは居ないだろうから、しばらくは大丈夫だと思うよ」


 俺は楽観的に答えたものの、リーリアだけはまだ少し不安そうだ。


「でも、せめて国王と王妃にだけは事情を伝えた方が良いと思います。さすがに顔と声が似ているだけじゃ、ご両親には気づかれるかと……」


「なるほど……」


 リーリアの提案にユリアンナは頷き、こっそりと国王と王妃のところへ向かっていった。

 それから、なんちゃら大臣(忘れた)から「姫を説得して頂いた御礼を……」と言われたので、街中の宿が予約いっぱい困っていると伝えたところ、快く城内の客室を使わせてもらえることになった。



◇◇



「後は、明日の本番を待つだけか……」


 久しぶりの個人部屋でまったりと過ごしていると……


 コンコンコンコンッ。

 おお、4回ノックとは珍しい、誰だろう?


「どーぞー」


 そしてガチャリと開いたドアから顔を覗かせたのはメリーザ……ではなくユリアンナだった。

 部屋のドアを開け、緊張の面持ちでユリアンナがこちらを見つめている。


「あの……少しお時間よろしいでしょうか?」


「あ、ああ……」


 メリーザとそっくりな顔立ちではあるけど、漂う気品がお姫様のそれなので、何だか緊張してしまうな。


「俺に何の用事かな?」


 実は貴方様を一目見た時から……的な展開を期待しちゃうのは男の子だから仕方ないのでござる。

 まあ、そんなコトはまず無いのだけどね。


「一目見た時から気になっていたのです」


 そんなコトあったああああああっ!!

 春かっ! 春ですかっ!!

 でもアンジュを天界に帰してやらないと行けないので、駆け落ちとかもアリですかねっ!?


 頭の中でそんな妄想をグルグルさせていたのだが、ユリアンナの表情は明らかにそれとは違うものだった。


「大鎌使いの紫髪の少女……」


 ボソッと呟いた言葉に、ドキリとした。


「大剣使いの銀髪ダークエルフ、異形の刀を持つ黒髪の格闘家。あと一人、赤髪の魔女が足りませんけど、私の言っている意味……分かりますよね?」


 先程までとは異なる鋭い目には、警戒の色が含まれている。

 かつてリーリアが俺を疑っていた時と同じ目だ。


 マズイ……このお姫様、俺たちの正体に気づいているっ!

 だが、ここで焦ってボロを出すわけにはいかない。


「姫様に、ひとつ伝えておかねばならないことがある」


 俺が意味深に言うと、ビクッと震えた。


「赤髪の魔法使いというのは初耳だった。ありがたく参考にさせてもらうよ」


「参考……?」


 不思議そうな表情を浮かべたユリアンナを見てニヤリと笑ってから、俺は椅子から立ち上がり、バッと手を広げた。


「実は俺たちはハロウィンという異国文化を広めるための旅をしているんだ!」


「???」


 困惑したままの姫様に、モンスターや天使などに仮装して練り歩くイベントであることや、お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ! 的なルールなどを説明しつつ、エアリオとメリーザとレンが魔王四天王にソックリなことについては、オースの街の考古学研究所で専門家の助言で再現したなど、嘘八百を見事にでっち上げて説明した。


 我ながら完璧である……!

 ドヤァ!!


「な、なるほど? タケル様がリーダーで、皆様が仮装パーティを広めるための布教活動をしている、という事でよろしいのですかね???」


「まあ、そういうことだ。このまま世界中巡ろうと思っているんだわ」


 そう伝えると、姫様はスッと立ち上がり、深々と頭を下げた。

 ……王族ってこんなに簡単に平民に頭を下げて良いものだっけ???


「疑うような真似をして申し訳ありませんでした。そもそも、本当に魔王四天王が集っているのであれば、とっくにこの城を襲撃しているでしょうし、メリーザさんが私の身代わりになろうなんて提案しませんものね」


 そう言いながら笑うユリアンナを見ていると、少し心が痛む。

 だが、せっかくのチャンスなので、さらに話を逸らさせてもらおう。


「そのコトなんだけど、俺もメリーザの演技力がどうなのかちっとも知らないんだよな……。本当に任せて大丈夫なのか、正直不安だよ」


 苦笑する俺を見て、ユリアンナは先ほどとは違って明るく笑った。


「うーん、なんだか大丈夫な気がします。私の勘は結構当たるんですよっ? ……さっきは外しちゃいましたけどね。てへへ」


 ……外すどころか見事な的中でしたけどね。



◇◇



 ユリアンナが部屋から出て行ってしばらく経った頃。


 コンコンコンッ


 ……今度はノックが3回鳴った。


「どうぞー」


 するとゆっくりとドアが開き、そこに居たのは再びユリアンナ……ではなく、今度こそメリーザだった。

 ただし、その姿はいつもの黒装束ではなく、艶やかな薄桃色のドレスで、まるで絵本から出てきたかのようなお姫様だった。


『あの、失礼します……』


「あ、ああ……」


 恐る恐る俺に近づいてきたメリーザが、俺の前で立ち止まった。


『ど、どどどどど、どうですかっ!?』


 顔を真っ赤にしながら、上目遣いで尋ねてきた。

 どうですかと言われても……まあ姿を褒めるべきだよなぁ。


「えーっと、何というか、すごく綺麗だよ。いつもの黒装束もカッコイイけど、個人的にはこういう服の方が似合ってると思う」


『はっ、はわっ!?』


 率直な意見を伝えたところ、さらに顔を真っ赤にしながらフラフラと部屋を出て行ってしまった。

 え……服の感想を聞きに来ただけなの?

 明日のお披露目の相談とかじゃないの???


「い、一体何だったんだ……」


 メリーザの行動の意味を理解することになるのはもう少し先の話なのだけど、この時の俺は知る由もなかった。



◇◇



 コンコンッ。


 ……なんか、やたら来客が多いな。


「何のようだアンジュ?」


『なんで私だけドア開く前から分かるのっ!?』


 トイレノックするのがお前だけだからだよ……。

 ガチャリとドアを開けたアンジュが、ニヤニヤしながら部屋に入ってきた。


「お引き取りください」


『なんで私だけ門前払いなんだよぅ!?』


「そりゃニヤニヤ笑いでいきなり入ってくるとか不気味過ぎるわ……」


 溜め息を吐く俺を見て、手を広げてヤレヤレのポーズを取るアンジュ。


『んで、タケルは入れ替わり立ち替わり女の子を部屋に連れ込んでたわけだけど、いつの間にか随分とやり手になったんだね』


「人聞きの悪いことを言うな!」


 俺のツッコミを聞いてアンジュはさらにニヤリと笑った。

 この野郎、わざと言ってやがるな……。


『でもまぁ、私的にはタケルが誰とくっついても応援するし、一夫多妻狙いで全員に手を出すのも否定しないよっ』


「お前に天使らしい発言は期待してないけど、もうちょっとマイルドに言ってほしいよ」


 俺の呆れた顔を見て、シシシシ~と笑いながらアンジュはくるりと振り返った。


『これからも精進したまえよ~。そんじゃ、また明日っ!』


「へ?」


 そのまま、初めて会った時のようにビューンと去って行ってしまった。


「……いったい何なんだ???」



◇◇



 その日の夜。

 なんだか寝付けなかった俺は、何となくベランダに出てみた。


「こういうデカい部屋をひとりで使うのは落ち着かないなぁ」


『ふふふ、魔王様らしいですわね』


 独り言のつもりが、左上から声をかけられた。

 姿は見えないけど客間の斜め上がどうやらお姫様の部屋のようだ。


「なんだ、メリーザも黄昏たそがれれてたのか。お姫様用のベッドが豪華すぎて落ち着かないのかい?」


 ちょっと茶化しながら言うと、再び『ふふふっ』と笑い声が聞こえた。


天蓋てんがい付きベッドで寝るなんてどれくらいぶりでしょうね。ホント落ち着きませんわ』


 それはつまり、かつては寝ていたというコト。

 さすがに深入りしない方が良さそうだけど、メリーザは口調からして明らかにお嬢様だもんなぁ。


「まあ、その、なんだ。明日はお前の思うとおりにやればいいさ。愚民共がなんと言おうと、俺たちはお前の味方だからさ。なんてな」


 うーん、俺としたことが格好付けようとして照れてしまった。

 俺の心情を察したのか、またまたメリーザの笑い声が聞こえた。


『……はい、ありがとうございます。魔王様の顔に泥を塗らぬように頑張りますわ』


「ああ、宜しく頼むよ」


 そして夜は更けていった。

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