030:タイフーンと台風どちらが語源だったか思い出せない
『っつはっ!?』
あまりの衝撃に一瞬意識が飛んだっ!
「おいっ、アンジュ! 大丈夫かっ!! おいっ!!」
『ぅ………』
しかし返事が無い。
「くっそ、衝撃で気絶してんな。それに、酸欠もあるか……」
台風で車や人が飛ぶ、と話半分で聞いたことはあったけど、なるほどこういうコトなのだなぁ。
恐怖が限界を越えると妙に冷静になってしまうのだと、初めて身をもって知ったよ。
しかし上空がこの状況ということは、軒下のテーブルの上で待機してたクローは飛んでいってしまったんじゃなかろうか……。
街を救うはずが、これが原因で壊滅して廃墟になりました、みたいなバッドエンドは嫌だぞ……。
って、そんなコトを考える前に、まずは自分が生還せねばっ!
だが、システムコンソールからスクリプトを打とうにも……
cccdsaappuyereee
くそっ! 風圧で手がブレて全然キーが打てねぇ。
タッチパネルはこれだから!!!
「くっそー……。最初から緊急帰還専用のスクリプトをセーブしておくべきだったな。今更言っても遅いんだけど」
どうにかシステムコンソールのスキルウインドウを開いてみたものの、空を飛べる魔法は見当たらない。
アンジュと初めて会った時に、ヒューマンは飛べないって言われたもんなぁ。
俺はチート持ちでVIT999なので、墜落しても助かるかもしれない。
だけど、生身のアンジュは……。
天界に見捨てられたアンジュは……死ぬと、どうなるんだ?
『………』
俺の背中には、失神しながらもギュッとしがみついた女の子の姿。
俺は、両手で自分の頬を思いっきり叩いた!
「っしゃあっ!! やったるわっ!!!」
右手の人差し指の皮を噛み切った俺は、一張羅のシャツの左肩から左手首にかけて血文字でスクリプトを記述する。
左手首まででは足りなかったので、左胸から続きを記述する……。
capture ta
rget. move
type fly.
set original
-position.
(対象者とパーティメンバーを、飛行方式で、元の場所に戻せ)
か、書けた……!
コレを実行すれば俺の帰るべき場所、つまり仲間の元に戻れるはず!!
「うっしゃああああ! スクリプト実……ゴファッ!」
『にゃわあぁっ!!!』
そこまで言ったところで、突然、俺の鳩尾に黒い毛の塊が突っ込んできた!
そいつを両手で持ち上げると……
『うにゃーん……』
クローでした。
しかも大雨の中を飛ばされたため、びしょ濡れの毛玉は見事にモップ状態になり、(文字通り)俺の血と汗の結晶を洗い流してくれやがった。
既にかなり低い場所まで落下しており、足下にはオースの街外れの砂漠地帯が見えている。
こんな砂漠では、運良く湖にバシャーンッみたいな展開も無さそうだ。
もうスクリプトを書く時間は無いし、俺のびしょ濡れの服にはもう文字を書くスペースなんて残っちゃいない。
「あ、詰んだわ……」
地面に向かって減速無しのまま二人と一匹は墜落……
『見つけたああああアアアァァァッ!!!』
叫びながら猛スピードで走るアイツは……!!
「エアリオっ!!!」
エアリオは俺を見て嬉しそうに笑うと、両手を広げた。
『魔王様! 愛してますっ!!!』
なんでこのタイミングで愛の告白なんだよっ!?
そしてエアリオが俺たちの落下地点に先回りして振り返り、魔法を唱えた。
『ダークプリズン!!!』
◇◇
あの後、クリスタルの塊になった俺たちは地面に突き刺さり、かなり深いところまで埋まってしまったらしいが、仲間たちが頑張って掘り出したらしい。
それからダークプリズンを解除したエアリオが俺に抱きつこうとしたものの、全身血塗れで右手から血を流す俺を見てメリーザと一緒に大泣き。
クローにヒールをかけてもらってようやく落ち着いたそうな。
ちなみに、幸いにもオースの街で死傷者はゼロ。
猫が飛ぶ程度に屋根や塀が崩れる程度の被害はあったようだが、研究所の貴重な資料も全て無事だったそうだ。
そして俺たちは、研究所に戻ってシステムコンソールを見ているのだけど……
Flag No.09 オースの街を洪水から救え! CLEAR
Flag No.14 別の術者からスクリプトの効果を受ける CLEAR
Flag No.26 高度5000m以上から単身ダイブ CLEAR
Flag No.28 空中でスクリプトを記述する CLEAR
Flag No.29 血文字でスクリプトを記述する CLEAR
「なんだこれ???」
『今まで順番通りだったのに、なんで今回だけムチャクチャなんだろ?』
順番がムチャクチャというより、No.26に至ってはもはやクリアさせないための嫌がらせとしか思えない。
No.28と29はどう考えても後から何か空中戦をやるはずだったものだと思われるが、それを今回の一件で思いっきりすっ飛ばしてしまった様子だ。
俺とアンジュが不思議そうにシステムコンソールを眺めていると、突然画面に『ALEART!』というメッセージが表示され、動画が流れ始めた。
そこには人相の悪い中年男性の姿。
それを見たアンジュの表情で、コイツが何のなのか一発で分かった。
『ワタシの名前はネブぅぅラァ。君を大冒険に招待した者さ』
「『死ね』」
俺とアンジュのコメントがシンクロした。
『そして今回もクエスト攻略おめでとウ! でもまあ、君のパートナーが空を飛んで雲の下から光魔法で雲を晴らすだけだし、退屈だっただロー?』
……なんですと?
『なるほど、その手があったか!』
ポンッと手を打つアンジュ。
「なるほどじゃねえええ!!!」
『ひゃめへぇぇ! ほっへたひっはらはいへぇえっ!!!』
アンジュの頬を引っ張りながら再び画面に注目する。
『でも、次回から再び君の知識が活躍デキるからお楽しみにネー!』
そう言い残すと映像は消え、再びシステムコンソールは静かになった。
「……結局、俺たちは無意味に超アクロバットな方法で挑んで、ヤツの予想を斜め上に突っ走ってしまったわけか」
『確かに、地上から人間ロケットを打ち上げるようなムチャなことなんて、考えるわけひゃひっへ、ひっはゆのひゃへーっ!』
俺はアンジュの頬をもう一度引っ張った。
◇◇
「やっぱり長生きはするもんじゃのぉ~」
エルダ爺さんが満足そうに笑っている。
「一応、俺たちのコトは秘密にしておいてもらえると……」
「魔王と家来と天使がやってきて雨雲を吹き飛ばし、神の悪巧みからこの街を救った ……誰がこんな話信じるもんかい。また酒場でホラ吹き呼ばわりされたらかなわんっ!」
爺さんの冷静なコメントに、一同は思わず笑ってしまった。
「それじゃ、達者でな」
エルダ爺さんと別れた俺たちは、次の目的地を目指して旅立った。
Next FLAG ..
No.10 迷いの森で迷い子を救う





