003:天使にラプソディを
< はじまりの街 スタック >
『あれぇっ?』
気づいたら街のド真ん中に立っていた。
なるほど、剣と魔法の世界『ソードアンドソーサリー』を選んでみたけど、予想通りRPGっぽい感じの街並みだ!
『あれっ? あれれっ? あれれれ~~~???』
試しにシステムコンソールを呼び出すと……
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NAME:ヤマダ タケル (Administrator)
TYPE:Human
HP:9999 SP:9999
STR:999 AGI:999 VIT:999 INT:999 DEX:999 LUK:999
GOLD:0
ITEM
布の服
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うはははは! おもしれぇっ!!
初めてプ○アクションリプレイを使った時を思い出すなぁ。
ただ、効果が分からなくて全部FFで埋めた64ビット値に関してはステータスに表示されておらず、特に外見的な変化も無いみたいだ。
でもLUK:999というコトは……!
表、表、表、表、表、表、表、表、表、表、表っっっ!!!
「すげえ! 何度コインを投げても狙った通りの面が出る! 無駄に面白い!」
俺が声を上げてはしゃぐと、目の前の女の子がビクッ! と震えた。
「よ、ようっ?」
『わーーーーんっ! ココどこーーーーっ!!』
「うわっ、いきなり泣くなっ」
◇◇
『えええぇぇっ!? 転生システムをハッキングしたぁ!?』
目を白黒させて驚いているのは、俺を応対した天使のアンジュ。
転生システムのデバッグモードの質問6で表示されたパートナー名の中にそれっぽい名前があったので、冗談半分で選んだところ、見事にコイツが釣れてしまったのである。
「そもそも俺の生前がどんな人間だったのか知ってたくせに、ノートPCを渡したまま席を離れたお前が悪い」
『そんなぁ! 普通、借りたパソコンにそんなコトしないでしょ!?』
「俺は親だろうと友人だろうと、容赦なく入力収集トラップを仕掛ける男だ!」
『そんなコト自信満々で言わないでよぅ!!』
やいのやいの。
アンジュと言い合いをしていると、街の人たちが集まってきた。
「と、とりあえず、この場を離れよう……」
『う、うん』
◇◇
『事情はだいたい分かったよ……』
俺とアンジュは、中央広場のベンチに腰掛けている。
「さっきからシステムコンソールでそこら辺の人達の能力値を見てるけど、STR…たったの5か…ゴミめ」
このセリフ、一度言ってみたかった。
『こらこら、普通に暮らしてる人達がそんなに強いわけ無いでしょうに。ゴミとか言っちゃダメだよ』
残念ながらアンジュは元ネタが分からなかったらしい。
それにしても……
「何だか通行人が俺たちをジロジロ見てるような……?」
『間違いなく見られてるのは私だろうね……』
確かに、真っ白な服を着た金髪の女の子が、弓を抱えてベンチに座っている姿はとてもシュール。
しかも俺と二人揃って街中で素足なうえ、アンジュの頭の上には謎の輪っかがプカプカ浮いていて、背中には白鳥みたいな翼まで付いている。
これじゃ目立って当然だ。
「仕方ねぇな……」
『何か良いアイデアがあるの?』
俺は大きく息を吸い込むと……
「この子の衣装はコスプレなので気にしないでください!!」
『なっ!?』
俺の言葉を聞いた通行人達は「そっかー、コスプレか~」とか言いながら去っていった。
『それで納得しちゃうのっ!?』
◇◇
『私、これからどうすれば良いんだろう……』
「国へ帰るんだな。お前にも家族ガイルだろう」
なんかキッ! と睨まれた。
やっぱりコイツにはその手のネタは通じないらしい。
『帰れるならとっくに帰ってるよぅ! キミ、私のコトをパートナーに選んだでしょ?』
「ああ、知ってる名前がアンジュしか無かったし」
『うぅ……名乗らなきゃ良かったよぅ……。でね、キミがムチャクチャやったアレは、本来は神様が使うためのモノなんだよ』
まあ、デフォルト選択肢に管理者権限が表示されてる時点で、そりゃそうだろうなぁ。
『つまり神様が天使を引き連れて来るのが前提で、天使には自力で帰る力なんて無いんだ。神様なら空をビューンって飛んで、この世界の果てにある世界樹から天界に戻れるんだけど……』
「俺、飛んだりできないの?」
俺の質問に、アンジュは深く溜息を吐いた。
『キミ人間! 種族ヒューマン! 背中に羽が無いでしょ! 飛べると思うっ!?』
なるほど、言いたいコトはよく分かった。
「じゃあ、お前が空を飛んで俺を空輸するのは?」
『今すぐ私のステータスを見るべしっ!!』
なんかアンジュが変な口調になったけど、とりあえずシステムコンソールを開いた。
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NAME:Ange
TYPE:Angel
HP:527 SP:238
STR:1 AGI:1 VIT:30 INT:40 DEX:1 LUK:1
GOLD:0
ITEM
恋愛成就のショートボウ
天使のローブ
天使のリング
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「INT-VIT極っ!? マゾ過ぎるわ!!」
『マゾとか言わないでよぅ! でも、キミを抱えて空を飛ぶより歩いた方が早いのは間違いないだろうね』
………あれ?
「別に、おまえ一人で行けば良くね?」
俺の的確な指摘に、アンジュの目元に涙が溜まる。
『鬼ぃ!! 悪魔っ!! 人でなしっ!! クソッタレ!! そもそも管理者権限を持つキミが居ないとターミナルが起動出来ないよ!! それに、私をこんなトコに連れてきて捨てるとか!! ひどいぃぃぃ~!!! わ~~~~んっ!!!』
泣き叫びながら俺の首を絞めてきやがった!
さすがに能力差がデカ過ぎて全く苦しくないのだけど、通行人からの視線がヤバい!
しかもさっきと違って、見られているのは確実に俺!!
「あんな小さい子を捨てるって……ヒソヒソ」
「鬼畜よ鬼畜……ヒソヒソ」
「可哀想に……ヒソヒソ」
ファアアアアアアアッ!?
俺はアンジュを抱えて、中央広場から逃げ出した。
◇◇
中央広場の通行人からの視線に耐えかねた俺は、街のはずれにある大きな建物の前に来ていた。
「うーーーむ……」
『うぅ……グスッ……』
背中にアンジュをおんぶしたまま、システムコンソールに表示されたマップを見て途方に暮れる。
「世界の果てって、マジで遠いじゃないか……」
目的地である世界樹を中心にマップは描かれているのだが、俺たちは南西の端っこに居た。
世界樹までの経路を見ると、大平原や砂漠、雪山などなど、どこをどう見ても大冒険なルートが「最短」と表示されていて、俺の背中で泣いていたアンジュもそれを見て目が死んでいる。
『ははは……。私もう一生、天界に帰れないのかなぁ……ぐすん』
「この街でのんびり暮らすのもアリかもなぁ」
『のんびり暮らすにしても、一文無しで家も無いけどねー……』
「ははは、わろす」
まさかステータス最強チートを適用して管理者権限まで持ってるのに、いきなり詰んでしまうとは。
やはり所持金ゼロというのが致命的過ぎる気がする。
「そういえば、この世界はどうやってお金を稼ぐんだ? モンスターを倒したら宝石に変わって、それが売れるとか?」
『そんな都合の良い世界なら良かったのだけどね。普通に狩猟して、素材として売り払って稼ぐの主みたい。私は殺生が出来ないから何も手伝えないけどね』
「でも、モンスター退治で資金を稼げるなら良かった。何だかんだで俺は最強チート持ちだし、そこら辺のモンスターを乱獲しまくって荒稼ぎしてやるっ!」
こうして、俺とアンジュは街の外へ向かった。
……裸足のままで。





