幼き日の記憶
「お兄ちゃん..お兄ちゃん...お兄ちゃゃぁん...」
毛布を天井に蹴飛ばし、体中汗まみれになりながら岬は深い眠りから目を覚ました。
ふと窓の外を見るとまだ空は暗闇に包まれていた。
彼は体中の汗を洗い流すため、シャワー室に入った。
「また、あの夢だ。昔から度々みるけど最近は特に頻度が多い。」
岬は、なにかを察したかのような表情で今の夢のことを思い詰めている。
しばらくして、シャワーから上がりTVをつけると岬にとっては聞いては避けれないニュースが放映されていた。
「8年前に突如全世界に開かれた異世界への扉、世界各地にひろがるこの現象による行方不明者の数は今だ数万人どのケースも異世界からきた何者かによる拉致と考えられています。」
しばらくして、ニュースの放映が終わると岬はTVをリモコンで消して、布団の上に横たわった。
「今の成績じゃ真香を助けるどころかパーティーさえ組んでくれるやつすらいない」
岬はため息をしながら、頭の中では先の心配ばかりが頭をよぎっていた。
「そうあれは8年前俺がまだ幼い頃だった。」
突如世界各地に謎の門がひらき、人間とはちがう魔物や悪魔などの異世界の生命体がこの地球に降り立った。
異世界からきた生命体は、人間を貴重なサンプルとして捕らえては自分の世界に連れ去っていった。
真香もその被害者の一人だった。
「真香、ゲームしようぜゲーム」
「お兄ちゃんったらちゃんと勉強もしなきゃだめだよ?明日小テストでしょ?」
「真香は先生みたいだな将来先生にでもなりたいのか?」
「お兄ちゃんそれどういう意味?」
真香はまるで、怒ったような口調で岬に質問の意図を問い正した。
こんな普通の兄妹の会話ができたのは、これが最後だった。
「緊急時ニュース、緊急ニュースです。突如世界各地に謎の空間の狭間が世界各地に発生しました。いまだこの現象による被害は出ていませんが、このような狭間を見かけたら近づかないようにご注意ください。」
岬はニュースが終わると驚きのあまり、しばらくボッーとしていた。
「真香今の見たか?あんな現象始めてみたぜ!お前もそうだよな?おい真香聞いてるのか?」
真香にいくら声をかけても返事はなかった。
岬は恐怖のあまり、全身汗をかきながら恐る恐る後ろに振り向いた。
そこに立っていたのはローブを纏った骸骨と蛇を首に巻いた女だった。
「お、お前らはなんなんだ!真香をどこにやった!」
岬は恐怖心を押さえながら、その得たいの知れない怪物たちに問いかけた。
「つくづく、この世界の生物は生きがいいですなあ。勝てないと分かっている相手でも言葉遣いを曲げない関心関心。それほど妹さんが大切だということですかね。」
骸骨の怪物は笑いながら話始めた。
「デミウル様もうすぐお時間です。急がねば門が閉まってしまいます。」
蛇を首にまとった女が骸骨の怪物に語りかけた。
「それはそれは残念デスネェ..この世界には貴重なサンプルがたくさんいるというのに。」
骸骨は少し悲しそうに部屋の回りを見つめていた。
「お前、人の質問に答えやがれ!真香をどこにやったときいているんだ!」
岬は話を無視され続け怒りのあまり、自我を失いそうになっていた。
「おっとこれは失礼。私の名はデミウル・マンサー。この世界とは別の世界からやってきました。あなたの妹さんは極めて魔力が高く将来的に我々の戦力になると判断したため我々と同行してもらうことに致しました。何卒ご容赦を。」
骸骨の怪物は不気味な体つきの割には紳士的態度であった。
しかし、岬にとってはそんなことはどうでもよかった。
岬は妹が居場所が知りたいのであり、この怪物の自己紹介なんぞに微塵も興味がない。
「真香はどこだ!今すぐ居場所を教えろ!」
このとき岬の怒りは最骨頂に達していた。
「やれやれデスネェ..分かりました。少しだけ妹さんとお話をさせてあげましょう。」
そういうとデミウルは、ローブの中から水晶をとりだした。
そこには、妹真香の顔が写っていた。
「お兄ちゃん...お兄ちゃん...お兄ちゃゃぁん...」
その水晶のなかで真香は必死に俺のことを呼んでいた。
「真香、真香、お兄ちゃんが絶対助けてやるだからお兄ちゃんを信じろ。」
俺は真香を少しでも落ち着かせようとした。
だがしかし、今の彼に彼女を助ける力などなにひとつない。
「さてさて、妹さんとの最後の顔合わせも終わったことですし、我々はおいとまさせていただきましょう。」
「そうですわねデミウル様。異界と門の接続が切れる前に帰らないと」
首に蛇を巻いた怪しい女はそういうと謎の呪文を唱え始めた。
「深淵の闇に染まりし悪魔の魂たちよ今ここに召喚の理に乗っ取りここに降臨せよ魔竜デスクート。」
そう女は唱えると突如床に魔方陣があらわれおぞましい竜がその中から姿を現した。
龍が現れるとともに暴風が吹き荒れた。
窓ガラスは割れ、竜の翼は天井を破壊し、異様な威圧感を放った。
「さあ行きますわよデミウル様。あ、自己紹介を忘れてたわね私はメデューヌ。この世界ではメデューサという名で崇められているみたいね。ま、人を石にすることはできかねるけどそれに近いことはできるわ。こんなこと少年に話してもしょうがないわね。」
彼女はそういうと、魔竜の上に乗り出発の準備を始めた。
「それでは岬君、ここでお別れです。」
デミウルもそういって魔竜に乗り、メデューヌは竜を華麗に操り二人を乗せた竜は空へと飛び立った。
岬はただこの光景を見ていることしかできなかった。
そんな考え事をしているうちに日が上っていた。
岬は制服に着替え、腕時計を度々確認しながら学園にいく準備をしていた。
すると突然行きなり寮の扉が開き、小柄な女の子が元気よく声をかけてきた。
「岬ー用意できてるなら一緒に学園にいこーよ。」
この小柄ながら元気がいい女の子は、近衛 峰子
、幼馴染みであり彼と同様8年前の事件により家族を失っている。
「あーもー、朝からうるさいな、今いくから少しは待つってことを覚えろよ。」
「なによー、もう美少女が、一緒に学校行こうって誘ってるのよ、もっと素直になりさいよ!」
彼女は顔を膨らませながら腹を立てている。
俺と近衛は今、異世界で戦うための人間を育成する特別な学校、勇者選抜学校の銃野学園に通っている。
俺と近衛はそこの学校の二年生だ。
俺は妹を救うためにこの学校に入り、異世界で戦う力をつけるため、日々努力している。
しかし、このときは思いもしなかった俺の実力はまだ天秤にすら乗っかっていなかったことを。