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第6話 スーキヌムの賞玩

エンディングは決まっているのに無駄な描写を書いてしまって進まないんです_(-ω-`_)⌒)_


 最近黄色いのが以前にも増して近付いている……気がする。

 同じく付き人であるアルフレドもフィトも過ごす時間が増えているが、それは多分お友達になったからだ。いつかは忠さんのように友人として酒を酌み交わしたいと思っている。だけど黄色いのは友達じゃない。だから不思議だ。

 黄色いのは私の服を選ぶ係りの付き人だ。服を選ばないときは傍にいなくても良いのに、何故それ以外の時間も近づいて来るのだろう?


 彼は私のワンピース(貫頭衣の類でなければ私は着衣に時間がかかりすぎる)を選んで、髪を梳かすのもやってくれるし、毎朝私の空いた耳にピアスを付ける。フィトに教えてもらったのだが、これは呪術的な意味合いがあり、私が何処に居ても分かるようになっているらしい。迷子にならなくて済んで大変便利そうなアイテムだ。


 「今日は琥珀にしようか」


 「こはく……。中に虫が居ますね?」


 鎖を摘んで目の近くまで持ち上げる。オレンジ色に澄んだ綺麗な石の中に、虫が時を止められて固まっていた。


 「気持ち悪い? ごめん、でも我慢して。綺麗な橙色だろ?」


 「いえ、虫は好きです。この虫は何て言うんですか?」


 「……名前は分からないんだよね。何世紀も前の生き物だから。さ、もう行ってもいいよ。外が好きなんだろ?」


 頷いてバルコニーに出る。そういえば久々の外出だった。アルフレドに「元の世界に戻る方法はこの国の敷地内にありますか?」と問うてからは、外出しようとするたびに止められるのだ。


 私は久々の空に笑い声を上げて水の香りがする方へ飛んだ。今日はまた素敵な湖を探して、ついでに図書館とやらに行ってみよう。






 「ミスズ、また会ったな」


 「ラインハルト、また会いましたね」


 これでラインハルトと会うのも十回目である。弟トカゲは見る度に元気になっており、私は嬉しい。

 隣り合って座り、私は外套一枚を羽織って湖に足を浸す。そうして歓談するのが私たちの通例だった。


 「以前は惑星について調べていましたが、今は龍の巫女についての本を読んでいます。ラインハルトは何か知っていますか?」


 「……龍の巫女か。ああ、知っている。恐らくこの世の誰よりも、な」


 「そうなんですか? では、龍の巫女って何をする職業なんですか?」


 そう、私は召喚されてからというもの、何もせずにゴロゴロしたり本を読んだリ、城下に遊びに行ったりしているだけで、何の仕事もしていないのだ。忠さんはあんなに毎日頑張っていたのだから、『お仕事』は本来もっと大変なことのはずだというのに。


 「龍の巫女の仕事は……基本的には、存在しない。ただ一度の役目を終えるとその身は永遠の眠りに就く」


 「……永遠の眠り?」


 「そのままの意味だ。龍の巫女は契約者には逆らえない。彼女たちは命令に従い身篭ると、子を産み落とし――深い眠りに就く。その天命が尽きるまでに目覚めた者はただの一人も居ない」


 そんなことは何処の本にも書いていなかった。が、ラインハルトはこの世で一番詳しいと言っていたから、きっとそうなんだろうとぼんやり思った。何だかいきなりすぎて、頭が付いていかない。

 番い? 無理やり番わされるのは嫌だ。相手のオスとよく話し合ってから決めたい……。それに、忠さんが相手を探してくれていた。あの努力を無下にはしたくない。


 「しかし、どうしてそんなことを聞く? 龍の巫女にお前の興味を惹くような要素は無いと思うが……」


 「私は自分のことを調べていたんです」


 「は?」


 「ドラゴンってとても強いですよね。空も飛べますし、耳も良くて、それに今の私なら忠さんとお話も出来る。きっと役に立てます」


 「おい……何を言って、」


 「私は――忠さんの為に生きたいです。だからあんまり、永遠の眠りには就きたくありません。ラインハルト、ありがとう御座います。もっと頑張って調べてみますね」


 生まれてから今までのトカゲ生で、今が一番心が高ぶっている。理由は分からない。ただ胸が熱くて、思うままに声が零れた。そうだ、私はずっと忠さんの為に生きるのだ。死ぬのだって忠さんの為ならば吝かではない、が。どうでも良い誰かの為には死にたくない。


 ばさり、と外套を足元に落とすと、ラインハルトはバッと目を背けた。人間が何故か私の『人化』した裸から目を背けるのはもう知っていた。

 ぴちゃりぴちゃりと湖へ浸かっていき、ラインハルトから離れる。あんなに近くで龍に戻ったらきっと踏み潰してしまう。ラインハルトは私が深部へと進んでいることに気づき、溺れるとでも思ったのか、湖の淵へ駆け寄って手を伸ばした。


 「ミスズ――」


 だけど私は知っている。ラインハルトは水が怖いのだ。

 彼とはいつも水辺で出会ったけれど、ラインハルトが水に触れる瞬間は一度としてない。ほら、今だって持ち上げた足は硬直し、ラインハルトは苦しそうに立ち止まる。


 私は最後に彼に振り返り、忠さんがいつもしてくれたように手を振った。


 「ばいばい」


 笑いかけて手を振ると、ラインハルトは何かを振り切るように水に飛び込む。苦しそうながらも近づいてくる彼に、私は慌てて龍に戻り空へ飛び立つ。

 ばさばさと羽ばたき、ラインハルトを風で湖から陸地へと吹き飛ばしてやった後、私はいつものように天高く飛び上がった。






 街が見えた辺りで、近くの森へ降り立って外套を羽織る。大きめなお陰で凡そ全身を隠せているが、普通の人間が着る服とは大分違う。怪しまれてしまうだろうか? 人間はトカゲにも本を貸してくれるだろうか?

 私は不安を隠し、なるべく堂々とした姿で街の図書館へと歩いていった。


 無事に本を借りて椅子へ座る。本というのは不思議なもので、私の時間を瞬く間に奪ってしまうのである。私はページへ目一杯齧りついた。すぐに読み終わってやるからな、という気持ちで。

 手始めに手に取ったそれは、龍の巫女の伝説について書かれた本だった。


 この国は昔色んな国に狙われており、それを龍の巫女が救ったらしい。王は彼女に感謝を示し、美しい宝玉を用いた"耳飾り"を与える。龍の巫女はそれを喜び、その返礼として"十三"の祝福を国へ与えた。

 今はもう何処にあるのか分からなくなってしまった十三の祝福の地だが、その内の一つの上へ国王は王城を建てた。残り十二の祝福は国を潤し、未だに人々を救っている……。


 二冊目に手を伸ばす。そこには召喚の儀について書かれていた。


 初代龍の巫女は祝福を与え、この地を去った。しかし国は再び危機に晒され、国王は再び龍の巫女を呼ぼうと、祝福の"結晶"を生贄として儀式を行った。すると龍の巫女は再び現れ、また国を救った。彼女もまた至上の宝玉で作られた"耳飾り"を与えられた。


 三冊目に手を――。


 「ミスズ、ダメだろう? そろそろ夕刻だよ。国王様の門限を守らないと」


 「……あ」


 きょとん、と見上げると、そこには黄色いのとその護衛の騎士が居た。本へ伸びた私の手は黄色いのに絡め取られ、三冊目の本は騎士が素早く棚へと戻してしまった。


 「どうしてここに居ると分かったんですか?」


 「何でだろうね?」


 ッパと離された黄色いのの両手が、私への敵意が無いことを示すように彼の頭まで上げられる。ハンズアップをしたかと思うと、彼は私の右耳に触れた。琥珀のピアス――耳飾りに。


 「あの黒い男、アイツにはもう近付かない方が良いよ。会ってることも、俺の他には言わない方が良い。特にアルフレドなんて、知ったら失神しちゃうかも」


 パタパタ、と振られた手を目で追う。黄色いのは身振り手振りが矢鱈と多い。何故だろう。私が人間の表情が分からないことを気遣ってくれているのだろうか。しかしその割には、感情が読み取りにくいのだが。

 そうして考えていると、気づいたことがあった。目の前でくるくる動く手に集中していると、彼の顔の変化への意識が疎かになりやすいということだった。


 「本当に、自分の顔を見られるのが嫌いなんですね」


 差し出された手に引っ掛けるように私の手を乗せて言うと、彼はぴしりと全身固まってしまった。私はエスコートを受け入れる体勢のまま首を傾げる。


 「……? あ、もしかして体調が悪いんですか?」


 「ああ、うん。そう、そんな感じかな」


 「そうなんですか。ならどうぞ此方へ」


 私は乗せていた手をひっくり返して、黄色いのの手を逆に握り締める。エスコートを待つのはやめて、椅子から立ち上がって図書館の外へと出た。


 「あの、ミスズ? 何するの?」


 「少し離れてくださいね」


 龍の姿に戻り、目の前で唖然とする黄色いのへと爪を一つ伸ばす。

 何故かびくり、と怯えたように身を固めた黄色いのだったが、恐る恐ると私の手に手を乗せる。うむ、これぞエスコートだろう。


 手の平に黄色いのを乗せて、頭の角の辺りまで持っていくと、黄色いのは漸く自分が上空300メートルの空の旅へと誘われていることに気づいたらしく、ぎゅっと私の角に全身でしがみ付いた。


 「ミスズ、俺のこと乗せてくれるの?」


 「そのつもりです。これなら一っ飛びですよ」


 「俺……女の子にエスコートされたのも、空を飛ぶのも生まれて初めてだよ」


 「貴重な経験ですね、きっと」


 少ししゃがみ込んで勢いをつけてやると、普段より緩やかに上昇が始まる。黄色いのは体調が悪いようだし、まあこのくらいの速度だろう。


 「ミスズ――なあ、凄いよ。とても、気持ち良い……!」


 「ふしゅしゅ、そうでしょう。私も初めて飛んだ時は空の青さに驚いたものです」


 御機嫌になって答えると、黄色いのはうんうんと何度も頷いて、空へ歓声を上げた。






 バルコニーに降り立ち、頭をゆっくり地面に下ろすと、黄色いのは興奮で頬を赤らめて飛び降りた。身軽そうな動きは今まで見たどの貴族とも違って、私はちょっぴり驚いた。


 「ミスズ、ありがとう! すっごく自由な気分だったよ! スカッとした! ねえ、お礼がしたいな。この後に時間はある?」


 「お礼、ですか? では今日のディナーは黄色いのと食べます。アルフレドにそう言っておいてもらえますか? 私は、このっ、服を着るのに、手間取り……っ、そう、なので」


 四苦八苦しながら侍女に渡された服を着る。人間は賢いが、毎日こんな面倒くさいものを着るのだけは頭が悪いと思う……。

 そして服を頭から引っ被った辺りで、っあ、と口を開けて固まる。つい癖で黄色いのと呼んでしまった。フィトが、名前を間違えてしまった際はかなり怒っていたのを思い出し、私は情けない顔になってしまう。

 危ない危ない。『トリヒキサキノカタ』の名前はとても重要なのだった。


 「黄色いの、ごめんなさい。貴方の名前を教えて貰えますか? 今度こそ覚えます」


 「……俺の名前、ヨハン・エストラーダ」


 「ではヨハンとよびますね」


 「ヤダ」


 「えぇ?」


 「俺、ミスズには黄色いのって呼んでもらいたい。ヨハンは嫌なんだ」


 何を言っているのだこいつは。流石の私でも黄色いの呼びは不味いとフィトの授業で学んだというのに。言わば、忠さんが私のことを黒白の、と呼ぶのと同義である。それはいけない。


 「……では、黄色つながりで、アマリージョからアマリと呼びます」


 私は精一杯頭を使ってあだ名を捻出する。あだ名なら、お友達間ではおかしくないとテレビが言っていた。


 「アマリ、アマリ……うん、悪くない。寧ろ良い響きだ! ふふ、俺はアルフレドにディナーの件について言ってくる。ちょっと待ってて。じゃあね……じゃないか。ばいばい、ミスズ」


 バイバイと手を振ると、アマリは異様に早い速度で廊下を走っていく。彼は運動が得意みたいだ。そういえば私からも振り下ろされなかったし。


 もたもたと着替えていると、鏡の中の琥珀の虫と目が合った気がした。これって何だか面白い。中身が生きているのだろうか。


アマリージョ……スペイン語で黄色


ラインハルト以外の名前はスペイン系です

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