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デーモンロード  作者:
2/2

決心

続きです



「アキラ、ごはんよ」


「わかった」


 母が用意してくれたご飯を食べる。コメと、肉、そして山菜。出来立てであったかい。


「お父さん、帰ってこないわねえ」


「……そうだね」


「いい年して、迷子かしら」


「……そうかもね」


 母は、狂ってしまった。


 無理もないだろう。集落の人はみんな殺され、捕まった女たちはヒューマンの兵士に犯されたのだから。その中で、俺と母だけが生きていた。母も生きていたことは奇跡だと思ったものだ。だから、それでいい。


「ごちそうさま」


「はい、おそまつさま」


 にっこり笑う母の目に、以前の輝きはない。


 ○ ○


「……いるか?」


「……はい」


 森の中、俺と母の住む家から少し離れた一軒家の扉を叩き、声をかける。


 扉がぎこちなく開く。


 出てきたのは、薄い茶髪の少し年上のヒューマンである。


「どうぞ」


 家の中に招かれる。


 この少女との邂逅は、あの戦いの後にまでさかのぼる。


 ○ ○


「フーッ、フーッ」


 気炎を吐く。おさまらない体内の炎が、肺を登って口から外に出ようとする。それに逆らわない。落ち着く気がするのだ。まだまだ暴れたい、暴れたりないと言っている窯が、収まる気がする。


 がさり。


 瞬間、音がしたほうを振り返る。そこには、少女がいた。薄めの茶色の短髪、小柄だが女性らしい体。気づいたら、襲い掛かっていた。


 押し倒し、馬乗りになって両手を拘束する。


 はっ、と我に返る瞬間、少女が口を開いた。


「“治癒”」


「――っ」


 攻撃されたと思い、警戒して離れる。少女の手から生まれた淡く青い光は俺の胸に吸い込まれ、窯に水をかけたように鎮めた。


 少女と目を合わせる。琥珀色の瞳。また、口を開く。


「……オーガ?」


「!!」


 そうだ、敵だ。俺たちの集落に襲撃してきたヒューマンの兵士と同じ紋章をしている。


 体中の闘気を高める。赤い蒸気が立ち昇る。


「ま、まって! 話し合いましょう!」


「話し合い?」


「そうです。見たところ、お互い、やりたくてやったことではないのではないですか?」


 そうだ。殺したくて殺しまくる奴なんか、いるのがおかしい。だが、戦争をやっている国もあると聞く。おそらく今回の襲撃もその一環なのだろう。俺は頭よくないからわからないが。そんなことを言って俺を討ち取ろうとしているのか?


 わからない。わからないのなら、聞けばいい。


「騙し討とうとしてる?」


「いいえ、純粋に、生き残ろうとしています」


「?? どういうこと?」


「……私にも、事情があるんです」


 彼女は話し始めた。とある遠い村から徴兵されたということ。珍しい魔法が使えるということから、ど

んな任務にもできる限り出るようになっているということ。彼女の国は様々な国と戦争をしていてで、今は停戦中だが、その分国内の異民族狩りや反乱鎮圧などに力を入れていること。などなど、多くのことを知ることができた。


「――それで、その異種族狩りの一つとして」


「ここが狙われた、ってことだな」


「はい。……ほかに、聞きたい事はありますか?」


「うん。その、珍しい魔法って何?」


「これです。“治癒”」


 手のひらから青い光が飛び、俺の右手を包む。すると、敵の大将を殴って血が滲んでいた右の拳が、じ

わじわと、ゆっくり、きれいになった。


「……治った」


「はい。生きていれば、正常な状態に戻す魔法です」


 魔法。ほとんどすべての種族が使えるとされる法術。自身の魔力を使い、世界に変化をもたらすもの。基本的な属性魔法は得手不得手があるものの、すべて使える者が多い。


「凄いな」


「……そうでもありません」


「……そうか」


 気が付けば日が沈んできており、憂いた表情の彼女に日があたり、それがとても綺麗で、見とれてしまう。落ち着いた体に冷たい風が当たり、心地よかった。


 そのせいか、自然と彼女に尋ねていた。


「俺、アキラ。きみは?」


 彼女は呆けたような表情で、


「……レイン」


 ○ ○


 その後、レインに見守ってもらいながら、集落の人たちの供養をした。一番広い、祭りをする広場まで遺体を持っていき、家族、友人は近くなるよう、埋めた。


 その途中、母さんの息があるのを確認して、レインに“治癒”してもらった。


 そして今に至る。


「お母さん、どう?」


「変わらず、あの日はなかったことになってる」


「……そう」


 レインは名前を交換し合ってから少し砕けて話すようになった。そして、今日は相談しに来たのだ。


「レイン。俺は、母さんを殺そうと思ってる」


「え?」


「あの姿のまま、生かしておくわけにはいかない。それに」


 殺して、もう殺して、と、寝言で漏らすことがあるのだ。今も母さんは苦しんでいる。


「解放させてあげたいんだ」


「……アキラが精いっぱい考えて、それで出した結論なら、いいと思うよ。私には、何も言う権利はない」

 頭を下げる。決心を手伝ってくれた、お礼の印として。そしてもう一つの議題を提示する。


「それで、レイン。旅に出ないか?」


「……なんで?」


「レインの事情は、推測でしかないが、わかってるつもりだ。俺も一人になった。なら、一緒に、どこか、俺たちを排除しないところに行こう」


「……」


 レインの村は、おそらくもうない。レインの表情を見ればわかる。村のことを話すときは、いつも泣きそうだ。家を訪ねると、いつも疲れていやになっている。そんな顔をしている。


「……いいよ」


「本当か……!?」


「うん」


 よかった。拒まれたら、どうしようかと思っていた。この森に第二陣が来ないとは限らないから、安心した。そして誓う。


「俺は君を守るよ。なにがなんでも」


「じゃあ私は、傷ついたら治してあげる。暴走しても、大丈夫だから」


 微笑みながら言う彼女は、とても愛らしかった。


 ○ ○


 レインと別れ、家に帰る。最後に、やらなきゃいけないことがある。そうしたら、旅に出るんだ。


「……あらアキラ、お帰り。ご飯はもうちょっと待ってね」


 母さんは縫物をしていた。後ろから忍び寄る。手には刀。窯は、熱くなってない。


「母さん」


「なーに、アキラ」


「ちょっと、来てほしいんだ」


「どうしたの、突然」


「いいから」


 少し強く急かしてしまう。母さんはぶつぶつ文句を言いながらも、支度をして、ついてきてくれた。


 ついた場所は、みんなの墓地。


「アキラ? 何の用なの? こんなところに」


「母さん」


 きょろきょろしている母さんに向け刀を持ち上げ、振り下ろす。


「ありがとう」


「アキ――」


 鮮血が噴き出る。地面に膝をつく母。横に一閃。首を断ち切る。


「――ラ……?」


 視界が真っ赤に染まる。いや、俺自身も。


 暖かいよ、母さん。母さんのおかげで、凍えることはなかった。時に父さんに嫉妬すくらい、暖かい家庭だった。


 ありがとう母さん。


 ○ ○


 ぼうっとしていると、レインがやってきていた。


「大丈夫?」


「大丈夫」


「……手伝おうか?」


「いや、自分でやる」


 手で穴を掘る。体全部が入るくらい大きな穴を、父さんの、隣に。


 そして埋める。初めて持ち上げた母さんは、驚くほど軽く、衰弱しきっていたことを思わせた。


 手を合わせる。


 ごめんなさい。今までありがとう。父さんによろしく。


「……父さんに怒られそうだな」


「……私も」


「……」


 これから守っていく人を見る。


「行こうか」


「うん」


 夜の森を抜け、受け入れてくれる地を目指して。




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