司令官代理
ザクスは部隊長や兵長たちを集めて、会議を始めた。しかし、バルバトーレ司令にも召集をかけたが、応じてもらうことはできなかった。そのため司令不在での会議となる。
「集まっていただき、ありがとうございます。特権兵のザクスです。よろしくお願いします」
ザクスはまず、挨拶をし、話をつづけた。
「まず、僕はこの地に初めてきました。これまで、この地で戦ってこられた皆さんにお聞きしたいのです。われこそが司令官代理にふさわしいと名乗り出ていただける人はいますか?」
ザクスは名乗り出た人に司令官代理を任せようと思っていた。しかし、なぜか、誰も名乗り出ず、顔を見まわすと、皆に顔を背けられた。そして、一つ溜息をつき言葉をつづけた。
「この地で戦ってこられた方は誰も司令官代理に名乗り出ていただけないようですね。何か理由がありますか?」
幾人かの人に問いかけるといろいろとこの戦地の難所が浮彫になった。バルバトーレ伯爵は良い人材を引き寄せる何かがあるらしい。しかし、彼が意図して行っているのではなく、また、引き寄せた人に適材適所の役割を与える力も指示する力もないこと。すでにこの部隊に駐留していた長と名のつく人たちは司令官代理か、補佐か、参謀を経験済みで、1か月から半年で匙を投げたか、解任させられ、その時の経験からこの地では再び士官したいとは思っていなかったという事だった。また、攻撃目標に砦があるが、その砦は街道の関所の役割を果たしており、道や砦の両側には大きく深い森が存在していた。現在の野営地から森の間の街道を半日行軍した先に砦があるため森を通らない限りは丸見えで良い的になり、森には非常に強い魔物や罠がたくさんいるとのことだった。そして、その魔物たちは街道にも顔を出し襲撃してくるため、行軍で敵の攻撃のほかに魔物の襲撃にも備えないといけないという悪条件があった。最終的に広げたい領地はこの街道の先の砦のさらに先の街を越えた先の砦だという。聞けば聞くほど先が長い。
これらを理解したザクスは参謀になりえる人の候補を探した。新着任の部隊の中から立候補者がいたので、任命し、彼の助言から、ザクスは数人を連れ、森に数日間通うことになった。サバイバル能力にたけた4人を部隊長たちに選んでもらい、ザクスは森に探索に行く。
「ここの魔物は…ローレム村の魔物と強さに大差がない。でも、魔物の種類がかなり違うし、片寄っている。でも、これならいい調合材料が集まる」
森の散策により、『森の魔女』より教わった調合がいろいろできることを確認した。しかし、魔物の気が強く、魔物の索敵範囲が、ローレムの地域よりは広いことを体感した。そして、軍に所属していた者たちは王都の周りの魔物かドートロスでの魔物の強さの情報しか知らず、ザクスの生まれ故郷のローレム近辺の魔物の強さを知らなかったので、中弱の強さの魔物で力を発揮できるスキルのように思われていた。それでも、ザクスとその同行者は森では一切戦闘を行うことなく、歩き回り、罠をかけて、魔物を捕まえたり、野草や鉱石などの素材を採取したりしており、同行者は各部隊の長たちの意向により入れ替わりで連れて行ったので多くの者達からは『魔女の弟子』の『ノーエンカウンター』の力はこの地でも有効だと噂が広まり、その噂の広まる速度は早かった。ただ、数日たった時にザクスが呟いた独り言の生まれ故郷の魔物と大して強さの差がないと言葉を耳にした者達から、追加の噂がされ、それらを耳にした野営地では彼を鍛えた環境に脅威を覚え、エンドラント地方の森の魔物と同じ強さの森で子供のころから『森の魔女』に鍛えられた司令官代理は特別な存在として部隊の者達から認識されるようになった。
数日たった後に再び部隊長や兵長たちを集めて、会議を始めたが、司令官代理の立候補は現れず、ザクスが司令官代理をすることを全員が受け入れ、指示に従うことを表明した。それによって、ザクスは司令官代理を正式に就任することになった。そして、司令部で書類と格闘することになった。
「軍での運用や事務の訓練や指導なんて受けてないのに僕がこんな承認して問題はないのでしょうか」
ザクスが抱いた一番初めの疑問がこれだった。
「こちらで数人の確認を終えてからここに持ってきているので、可否判断だけしていただければ書類による不備はありません。そのつもりで内容を理解していただければ」
「えっと、この森の魔物の名前と種類が少し違うのと、あと、敵の砦とその先の距離も記載と僕の測量とでは異なっているように思います」
「えっ!?本当ですか!?」
「ええ、昨日、報告は上げたはずですが」
「確認してきます!」
というやり取りはあったものの、それ以降の指摘は特に見当たらず、可否判断をするだけで問題となる役割はなかった。ただ、問題は書類ではなく、戦術や戦略、砦に対する攻略手段だった。




