封殺
ザクスは国王とフィレイアの祖父と孫の会話についていけずに呆然と立ち尽くす。
「ザクス様は真面目でしっかりなさっているのです。皆の事を心配され色々頭を悩ましていたり、気を配り声をかけて下さったりもするんです」
「ほう?」
フィレイアの話は止まらず、孫の嬉々とした喋りに愛しい孫を見る目で優しく微笑みながら相槌を打つ。
「訓練の時も声をかけてくださりアドバイスをいただきましたし、部屋の菜園スペースでご一緒させていただき、色々と薬草や食用植物の手入れの仕方についてお話しできました」
「それは善くして貰えているようでよかったな」
フィレイアは本当に嬉しそうに話している。
国王が視線をフィレイアからザクスに向けたことでザクスに緊張が走る。
フィレイアも気が付き、話を止める。
「で、充分良好な関係を築いているようだが、何かあるか?」
完全に封殺された形になったザクスは「いえ」としか言えなかった。
国王は楽しそうに微笑む。
それは新たに弄りがいのある相手を手に入れ浮かれている様子が見てとれた。
ザクスは形勢が不利だと思い撤退を試みる。
「申し訳ありません。今日は帰らさせていただいてもよろしいでしょうか?」
ザクスは再び膝をつき、礼を拝する。
「もうですか?」
フィレイアが残念そうに、また、名残惜しそうにザクスの言葉に反応する。
「別にフィレイアは一緒に帰る必要はないだろう。ここに来るのも別だったのだから」
ザクスはフィレイアを残して帰ろうとするが、フィレイアが待ったをかける。
「私も一緒に帰ります。お爺様、今日はここまでで失礼いたします」
フィレイアがゆったりと別れの挨拶をして、振り返るころにはザクスは既に部屋を出た後だった。
「ザクス様、待ってください」
フィレイアがザクスを追いかけて急ぎ部屋を出て行った。
「相変わらず、固いな。もっと柔軟に考えればいいものを」
国王は今回のザクスとの会話から感想を一つ零すと、寝室の方へ移動していくのだった。
ザクスが、軍施設の部屋に帰ると、アニタ、ラァン、ローム、ブイット、ハンディが出迎える。
「おかえり、今日は大変だったみたいだね」
アニタがザクスに言葉をかけるが、奴隷の3人は浮かない顔をしていた。
「あぁ、本当に大変なのはこれからだよ」
ザクスはアニタの出迎えに返事を返しつつ、部屋の奥、リビングの方に移動する。
皆、ザクスを出迎えたあとは各々思い思いの事をするために散っていくが、ザクスがソファに腰を下ろし、一息ついたところで、ザクスの後ろをついてきていたロームがザクスにまだ、伝えていないことを報告する。
「ザクス様、ザクス様のご家族は健在で特にお変わりは無いようでした」
「そうか、分かった、ありがとう。バステの件もすまなかった」
プレスタとハナカとガンムが倒れたことに整理をうまくつけられず浮かない顔のままのロームにそれ以上の報告はもういらないと報告を打ち切らせ、ロームを気遣う。
気遣われたロームは少し落ち着いてからザクスの前から立ち去った。
ロームが立ち去るのを見送った後で、ザクスは腰を落ち着けたリビングのソファで魔女の呪いについて考えを巡らせる。
「(被害はどこまで広がったんだろう? 魔女の呪いは血縁や契約、婚姻を通して伝染しているように見える。距離は関係ないだろうな。そうじゃなきゃ、ブレーンドレスト地方から王都にまで届く理由は成り立たない。そうすると被害は王国中? それとも国外までか? 僕が動けるとしても国内までだろう。それ以上は面倒は見切れない)」
ザクスは自分に呪いが効かなかった理由についても考える。
「(かなり前だったけど、呪いの魔女に僕の呪いは未成熟だと言っていた。もしかしたら成長しているのか? 彼女の言い方じゃ熟成か? )」
ザクスは2年前の話を思い出す。
今回の事件ではその熟成した呪いが役に立っている。
だが、その呪いの熟成が進んでいなかったら、自分が死んでいたかもしれないと思うとぞっとする。
嫌なことを想像してしまったことで一旦考えを切り替えようと言葉を口に出す。
「今日はもう疲れた。明日は朝から、ブルーンドレスト地方の2つの砦の呪いを処理する。食べたら寝るよ」
「ザッ君……うん。食事は準備できたよ」
ザクスは誰にとは特定せずに話しかけると、アニタが返事を返す。
それはアニタが家事をしながらも、ザクスのことを帰ってきてからずっと気にしていたことがうかがえるような対応だった。
久しぶりの投稿です。……そうはいってもまだ3日ぶり。一週間に2度の更新目標を守れる範囲!
いつも読んでくださりありがとうございますです。
誤字がありましたらご連絡ください。
修正頑張ります。
今週中にもう一話分は投稿予定です。