英雄志願(片道)
「あの~?もしもし?聞いてますか?」
目を閉じてボージングをしていると。若い女性の声で。割り込まれた。
「ほう、お嬢さん、ボディビルに興味が?」
僧房筋を強調して、個別の筋肉を動かす。
「ヤダ。凄い、アレナニ?」
という雑音で興に乗ってしまい、さらにポージングをキメる。ダブルバイセップス・フロントをキメる、腹をへこませ左右のバランスが重要だ。
笑顔で白い歯を見せると。
異様な場所に居ることに気が付いた。
「お嬢さん。ココはドコだ?」
「いえ、今ソレを説明していたところです。聞いて頂けなかったのですか?」
目の前の女性が答えた、周りに甲冑を着た者も数人、後輩のカッポーも居る、建物の中らしく薄暗い中に照明が壁についている、見たこと無い部屋だドコの学部だ?
「君たちは何者だ?姫同好会の者か?西洋甲冑サークルか?」
姫同好会は元は服飾サークルだったが、数年前からコスプレ集団の巣窟になり。
近年は古今東西ありとあらゆるタイプのお姫様ドレスを作ってキャンパス内を練り歩き、一部のズカファンも合流して無駄なほどキラキラを振りまいている。
西洋甲冑サークルは元々は自動車板金同好会だったが、かなり以前に学園祭での技術見本として、鎧を作成して注目を集め。
その後、日本甲冑派と西洋甲冑派、さらに刀剣派にサークルが分裂。
日本甲冑と刀剣派に近年”歴女”が大量参加して。勢力を拡大中だ。
一方、西洋甲冑は少数派でキャンパス内の建物の影でフルプレートで、模擬戦闘をしている。
「私は、この国の王女ミネルバと申します、召喚の儀を行い勇者さまをお迎えにまいりました。」
モスト・マスキュラーポージングと表情も真剣になり、相手を威嚇する。
「ナニを言っているのかは解らんが、君たちは演劇部の者か?その新入生は我々、ボティビルサークルが目を付けていた者だ、横取りは辞めていただきたい。」
演劇部は、姫サークルとも板金同好会とも親和性が高く、よく小道具&衣装を頼まれ作っているようだ。
「いえ、あの、先輩?どうやら僕たちは異世界に勇者として召喚されたようです。」
カッポーの男子の方が答える、女子のほうは不安そうに寄り添っている。
「ナニ!!演劇部のドッキリ勧誘ではないのか?」
「さっき、魔法を見せてもらいました。マジ物の異世界みたいです。」
「なんと言うことだ…。」
腰に手をあて片手でコメカミをマッサージして首をふる。
魔法だと…。そんなムー的な話が。しかし…。勇者だと…。
「まて、勇者が必要な状況と言うのは何らかの戦闘が行われているのか?」
王女が答えた。
「はい、魔王が我がサムソン王国に宣戦布告してきました。一部で散発的な戦闘が行われましたが、魔王の軍は強兵でかなりの被害を出しましたが撃退には成功しています。かつての伝説の召喚の儀を行い勇者さまを御呼びしたしだいです。」
「それで、もうしわけ在りませんが。勇者さまのステータスを確認したいのですが」
いかにも魔法使いと言ういでたちの少女が声をかけて来た、この声は”凄い”って言った子だ。
「よし解った。そのステータスと言うものを測っていただこう。」
アドミナブル・アンド・サイのポーズで答える、ほほう、魔法少女、生唾を飲み込んだな。どうやら肉体美に造詣があるようだ。
「ステータス!!」
叫ぶ魔法少女、持っているA4ぐらいの石版からナニかムー的な怪光線が出て俺のボティを舐める。
「成功しました。」
声の踊る魔法少女が石版を王女に渡し。
王女が石版を見て絶句する。
「こ、これは…。」
「ほほう、どれどれ、」
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名前:江頭 三郎
年齢:19
種族:ハイヒューマン(Lv1)
職業:学生/道化師
HP 120/120
MP 10/10
スキル:鋼の肉体
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「いまいち高いか低いか解らんな。」
「先輩。すいません参考までにボクのステータスです。」
男子のほうが石版を渡してきた
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名前:五藤 有一
年齢:18
種族:ハイヒューマン(Lv10)
職業:学生/異界の勇者
HP 1500/1500
MP 1000/1000
スキル:剣術、気合、連続攻撃、動態視力+2
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「ほう、五藤君と言うのか。」
「あっ、はい、五藤ゆういちと言います。教育学部です。」
「む、工学部土木工学科二年、ボティビルサークル所属、江頭三郎だ、君も俺と一緒に肉体美の探求者を目指し一緒に汗を流さないか?」
「江頭先輩、申し訳ありませんがボディビルには興味が無いので、お断りします。」
差し出した手を固く握手した。女王の後ろに居た甲冑女が”キマシタワー”とつぶやいたがナニが来たのかは不明である。
「まあ、いいだろう、だが覚えておいてくれ。ボティビルへの扉は何時でも開いている、もし君が望めば何時でも俺を訪ねてきてくれ。」
「キモイ…。」
ドン引きの表情で女子がつぶやいた。まるで、ゴキブリでも見たような表情だ。
「む?」
「あ、同じ学部の霧島みゆきちゃんです、僕たち同じ高校出身なので。」
「そうか、霧島さんもボティビルで美しい肉体を手に入れないか?」
「いえ、いりません。」
手を差し出したが一歩引かれた。
「そうか、効率の良いダイエットやスリムなプロポーションの維持の為にもボティビルは有効だ、悩んだら相談に乗ろう。心配なら友達を誘って来ても良い。」
「えっ、ボディビルと言うものはダイエットに効くのですか?」
王女が話に食いついてきた、よし、ココで筋肉のスバラシサを語ろうと息を吸い込むと。
「王女殿下。今は…。」
魔法少女が声をかけて、話は戻された。
「え、あ、では霧島さまのステータスを…。」
嫌そうな表情だが石版を差し出した。
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名前:霧島 深雪
年齢:18
種族:ハイヒューマン(Lv8)
職業:学生/異界の勇者
HP 1000/1000
MP 1500/1500
スキル:魔力感知、魔力効率+1
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「むう、皆、四桁だな。」
「はい、一般成人が100前後、新兵で150ぐらい、古参の騎士で500ぐらいです。」
魔法少女が答える。
「うーむ、一般人か…。コレでも身体は鍛えていた方なんだが。」
「ええ、それは見れば解ります。」
「職業?道化師とは…。」
「…。」
魔法少女の目を見るが視線をそらされた。心なしか焦っている様子だ。
「ええ、それは…。」
言いにくそうな王女。
「えー。巻き込まれ系ってヤツ?」
サクッと明るい声で答える霧島女子。
「みゆきちゃんそれはちょっと…。」
「えー。だって弱いじゃん。足手まといだよ。」
「うむ、その様だな。」
「先輩!!」
「王女さま、俺を日本に帰すコトはできるのか?」
「申し訳ありませんが、準備に数年は掛るとしかお答えできません。」
「時間が在れば可能なのだな?」
「はい。」
「五藤君、どうやら俺は君たちの戦いに付いて行く事が出来ない様だ。後輩を危険な戦場に出すのは心苦しいが俺は銃後の守りとして君たちの力になれる様に努力する。そして、もし、レベルが君たちに追いついたら。いつか一緒に戦おう。」
「先輩、すいません。必ず魔王を討ち取って見せます。」
俺は固く勇者と握手した。その後ろで魔法少女が「レベル??なにそれ?」と呟いたが気にしなかった。
才能ある有望な後輩に先に進まれるのは慣れているからな。
(´・ω・`)次回閲覧注意。
嫁入り前の娘さんはここらでお帰り下さい。