ヴェニスの商人(塩味)
(´・ω・`)チョコット遅刻。
それから五日目に帝国軍の足並みが揃い。
所属不明の軍団に対し威嚇を行うコトになった。
そうだ、有利にコトを運ぶには。相手を驚かさなければならない。
工兵隊には事前に陣地の構築を命令していたが。隠蔽しながら作れと命じていた。
相手を刺激するとよくないからな。
その甲斐も在って、構築された陣地は隠蔽されている。建物も無い。
上空からは低木の森か湿地にしか見えない。
日が落ちてから一斉に軍を動かし、道中隠した加工済み資材を持って陣地に移動。
ひので前迄に組み立て完了して、一夜城が三つ。
そのほか際外延部には、後方かく乱用の部隊の隠蔽された補給基地もある、敵?が前進した場合の小隊規模で長距離浸透攻撃を行う為の重要な拠点だ。
太陽が昇ると目に見えて敵?陣地の動きが慌ただしくなった。
コレだけで半分は成功したと感じた。敵?は我々の動きを察知していなかったのだ。
敵?は遂に陣地を出て展開した。
悪魔軍の飛行兵による偵察だと、”目標は、全力出撃だと思われる”だそうだ。数は一万は居ないとの話だ。
コチラは四万弱だ。防衛戦なら負けない。
相手に出血を強いれば良いだけだ。その間に、浸透攻撃部隊が相手の補給路を叩いて餓死を待つだけで良い。
膠着した戦場に動きが在った。
敵?の集団の中央が割れて。その花道を三人の竜人が歩いてくる。先頭の一人に旗を持った二人が続いている。
先頭の者が権力者で在るコトは間違いないだろう。
一番前に出た竜人は赤銅色の鱗を露出させ、前の長い越中ふんどしの様な下穿きと丈の長い法被を肩に掛けている様だった。
最前線に立った赤銅色の竜人は法被を脱ぎ捨て、拳を両手に高く上げ。そのままゆっくりと自分のコメカミの位置に置いた。
不敵な笑みを出しながら。
「ほう、やるな…。ホルス将軍、ココは任せた。」
御神輿の玉座から飛び降りると、そのまま駆け出す。
くそう、異世界の空気が重い。衝撃波で服が粉々になる。
衝撃波を身にまといながら。
竜人の…。そう、魔王と言うにふさわしい者の前に立つ。
赤フン一丁で。
いきなりダブルバイセップス・フロントだ!
赤銅色の竜人は驚きの表情を隠さない。
そうだ!!コレがお前の追い求めていたポーズだ!!
そのまま、流れるように、ラットスプレッド・フロント、サイドチェスト、サイドトライセップス。に移行する。
もちろん、笑みと白い歯を見せる。各部の個別に脈動する筋肉!!
俺は、今、最も輝いている!!
どうだ!!答えろ!!
コレが究極の美だ!!
お前がどれほど上背とバルク(キンリョク)を誇っても。
計算しつくされたこのカットとプロポーション!そしてこの動き!!
ラットスプレッド・バックからダブルバイセップス・バック
そして、アドミナブル・アンド・サイ!!
どうだ!!この白い歯!!この笑顔!!このテカテカ!!
お前の求めていた物はココにある!!
モスト・マスキュラー!!
そうだ!答えろ。お前の心で!!
お前の心が欲している物を!!
竜人、いや、探求者は手を差し出た。
何も疑問の無い。我々は同じ道を行く者なのだ。
固い握手を交わした。
ココに帝国対竜王会戦の幕は閉じた。
後日、帝国と竜王国との修好友好条約が調印された。
竜王国の官僚は悪魔だったので以外とすんなり話がまとまった。細かいことは魔王ベルゼーに任せっぱなしだ。
国境が谷の中央にしようと言う竜王国と、谷の入り口1:9を叫ぶ帝国で喧々諤々だったらしい。帝国1で竜が9だ。
維持管理費が一番掛る場所だったので国境の擦り付け合いになったのだ。
結局、俺の裁量で5:5にした。ただし、
”竜魔王軍が設営した陣地は帝国に引き渡す。”
”竜魔王軍は連絡員を残して速やかに退去する。”
”双方の谷の出口には関所を設ける。”
”通行料はお互いの合意の上で決める。”
”大きな災害の場合は共同で対処する。”
等の条件をつけた。
祝賀パーティーにて。
「あの、どうやって竜魔王様と会話が出来たんですか?」
竜王国の官房長官が”個人的な質問です”、と断って聞いてきた。背の高い悪魔族の女だ、髪が長い。
「そうだな…。しいて言えば心が通じ合ったのだ。」
「ぜんぜんわかりません。」
「そうか?よく観察すれば解かるぞ?」
首を傾げる悪魔の女、竜魔王がグラスを持って来た。
「…。」
「おお、竜魔王殿どうされた。」
「…。!」
「なに、酒が無い。良い酒を持ってきておる。エルム、鳥取のワインを!!」
「はいですにゃ~。お注ぎしますにゃ~。」
「…。」(ゴクゴク)
「ほう、酸味が無くて良いが、もっと強いのが良いと。では、他の酒を…。」
「…。」
「ほう、エルム御代わりだ、注いであげなさい。」
「了解しましたにゃ~♪もっともって来ますにゃ~。」
「…。」
「気に入って頂けましたか。帝国領の鳥取は南の方で冬でも雪が降りません。しかし、風が強く肌寒い土地です。北の大地では無い一風替わった味のワインが出来ます。」
「…。」
「はっはっはコレからも商隊が行き来すればこの様な物は幾らでも。」
「なんで、会話が成り立つの?」
悪魔の女は頭を抱えている。
一方実務者レベルでの悪魔領責任者ベルゼーはどん底であった。
竜王国の話を纏めると。
農家の若者であった竜人レオアムはある日、空を登って行く五つの流れ星を見て神の啓示を受けた。
勇気を示したレオアムは北の町をまとめ、ドラゴンと戦うべく、軍団を作り魔王を名乗って回廊の回復を行った。
途中に回廊を歩いてやって来たという長い悪魔を歓待すると。
長い悪魔は
”わたしは南の町の代議士でゲス。塩が必要なら前金で金貨100枚。有れば馬車一杯の塩を持ってくるでゲス。ソレまでには回廊が出来ているだろうから回廊の出口で引き渡す出ゲス。”
と言い、取引した。
結局、悪魔は期日になっても現れなかった。
竜王国は、ドラゴンの襲撃に備え防衛陣地を構築してドラゴンを待った。
南の町の人は言葉が変わっており、会話は不可能であった。
日が昇ったら、いきなり、大軍が居たので驚いた。
初めてドラゴンは討伐されたと知った。
前金分だけでも塩をよこせ。
「あ、あの、塩を持ってくるって言った長い悪魔って…。」
「くそ、あの時、殺しておけば…。」(ギリッ)
憤る娘たちを見て、魔王ベルゼーは肩を落とし椅子に座った。
「馬車一杯分の塩か…。どうすれば…。ココでは一財産だ。」
度重なる戦役で悪魔領の経済はガタガタだ、あの、逃げ出した議員たちは、悪魔領では大店の店主や資産家の家の者が多かった。
税収は激減した。
悪魔軍は、ほぼ解散した。
単純に現金が無い状態で、から手形で国を回している。
元々食料自給率の少ない悪魔国では経済が止まると致命的だ。
我々が、帝国軍経由で物資を受け取っているので不平をいう者は居ない。だが、不満はあるだろう。
不平不満は帝国の命令で押し通している。誰もが帝国、いや、皇帝を怖がっている。
わたしだって怖い、あの恐ろしいドラゴンを素手で倒すのだ。
どんな名剣も魔剣、魔法で在っても傷つけるコトすら出来なかった。
皇帝の魔法弾はドラゴンすら貫く。
噂での魔王をたおした話では、強力な魔法障壁すら貫く。恐らくウソではないであろう。
唯一の救いが帝国軍が国内開発に積極的なコト、ソレは無論、帝国の支配の為の投資なのは解かっている。
帝国側の街道が出来て。農業開発が進んできた。新鮮な山羊のミルクが市場に出回り始めた。
その矢先に、この騒ぎだ。
逃げ出した者も多い、動き出した経済が又、止まってしまったのだ。
「こ、皇帝陛下にお願いしましょう。」
「ダメ、ジズ!!悪魔領の失態はお父様の失態よ!!ソレがあの糞野郎のせいでも!!」
「ど、どうしよう。」
「わたしの全てを売り払ってもそんな量の塩は買えないだろう。」
「お父様!ダメです!!必ず何か手が在る筈です!!」
「リリン、ジズ。お母様達を頼むよ。」
「「お父様!!」」
娘たちを抱きしめる。
娘達には辛い思いをさせてばかりだ。
父親失格だ。
わたしは次男だったので、本来は魔王を継ぐつもりは無く冒険者をしていた。
旅の途中に会ったエルフと恋に落ち、一緒になった。
リリンが未だお腹にいるころ、議会で兄が罷免され追放になった。
わたしが呼ばれ泣く泣く、魔王になった。
他に妻を娶るつもりは無かったが、周囲に押されて新しい悪魔族の妻を娶った。
新しい妻はやさしくおっとりした性格だったので、未だ幼いリリンとも仲良く家庭内でいざこざはおきなかった。
ただ、周囲の悪魔族の子を望む圧力はすざまじく、ジズが生まれてみなホッとした。
それからは平穏だった。
しかし、いきなり隣の国が帝国になり、国境を作った。
始めは何のためなのか理解できなかった。
ただ、景気が良い様なので、商人たちは喜んでいた。
国境検問や税金徴収、身分証の法整備が整うと、商人たちは途端に不平不満を言い出した。
議会は帝国に宣戦布告を決議した。
戦争計画付きで。
悪魔国では議会決議した内容は拒否できない。
悪魔の皆は戦争に勝てると思いきっていた。
帝国軍にドラゴンをぶつけ、国内では内乱を起こす計画だ。
計画は進み準備が整うと宣戦布告した。
当初、10日で国境を越えると考えていたが帝国軍はなかなか現れなかった。
国境は完全に封鎖されて潜伏した悪魔達とは連絡が取れなくなった。
偵察によると国境防衛に力を注いでいるようだった。
戦時体制が長引き日に日に国庫が減っていった。
一ヵ月後、ようやく、国境に帝国軍の大軍が現れた。
それと同時に、帝国に潜伏した悪魔の一人が逃げてきた。
報告では”殆どの悪魔が捕まった。協力者は全て監視下に置かれているか捕まった。何人かがバラバラに逃げた、捕まっていないなら悪魔領まで逃げ遂せたハズだ。”一人しか戻ってこなかった。
議員たちは”未だドラゴンを嗾ける作戦が残っている。大丈夫だ。”と楽観していた、だが、帝国軍はなかなか国境を越えてこない。
皆が、不安になってきた。国庫の状態を知っていたわたしは顔が青くなっていた、無論、皆に覚られない様にしていた。
このままでは戦う前に国が破綻してしまう。
あと数日と言うところで、遂に帝国軍が進攻した。各員手筈どうりに動いた。
ドラゴンの誘導にも成功した。
議会会場で魔道具に映る像に皆が、将軍や議員達が釘付けだった。勝利を確信した。
しかし、一人の男の魔法弾でドラゴンが墜ちた。
全裸の男がドラゴンを素手で締め殺していた。魔法弾を撃ったニンゲン族だ。
いや、ひ弱なニンゲン族がドラゴンを倒せるだろうか?素手で?
皆、理解できなかった。一人も声を出せなかった。
悪魔軍からの報告あるまで。
”全ての帝国軍はドラゴンを倒し国境まで撤退しました。ドラゴンは持ち帰った様子です。”
その日の夕方までに議員の全員が辞職した。
わたしは一人でこの国の敗戦と戦後を乗り越えなければならなくなった。
官僚を連れて停戦交渉をすることになった。
リリンには事情を話した。
帝国軍の陣地に赴くと。帝国軍幹部が”皇帝が直接面会する。”と言った。
助かった交渉が早くなる。明日には噂が広がって悪魔領は大混乱だ。停戦できれば混乱は回避できるだろう。
しかし、皇帝はあのドラゴンを倒した男だった。ほぼ全裸でドラゴンの屍の前でドラゴンの肉を焼いて喰っている。
あれは、ヒトの形をしたバケモノだ。ニンゲン族のハズが無い。
エガシラと名乗った皇帝は悪魔国の現状を良く理解している様子だった。
交渉してもしなくても悪魔は滅びる。そんな態度だった。
何とか交渉するために、娘たちを差し出した。最早、父親としても最低のひとでなしだ。
悪魔国は無条件降伏して帝国の一部に成ったが、町も悪魔も無傷で残った。
ただ国庫は空っぽだ。帝国軍の軍政の元、経済の建て直しは順調だった。
竜人族が来るまでは。
頬を伝った涙が塩からい。
娘を抱きしめるのはコレが最後になるかもしれない。
皇帝は”キャッチボール”と言う処刑をやりたがると聞く。
どんな恐ろしい処刑なのだろうか。恐怖に手が震える。
「お~、魔王ベルゼー飲んでおるか?紹介しよう。これからも、長きに渡り朋友として通商を行う竜魔王レオアム殿だ、こちらは、帝国悪魔領の領主魔王ベルゼーだ。」
「…。」
「そうか、実務者会談で合ったか。」
「…。」
「ナニ。塩?」
(ギック!!)
「…。」
「ほほう、塩の払いか。」
(ガクガクブルブル)
「おい、ホルス将軍はおるか?」
「はい、ココに。」
「焦土作戦用の塩は有るか?」
「はい、厳重に保管しております。」
「必要分だけ、いや、3ハイ分、ベルゼーに渡せ。」
「了解しました。」
「…。」
「ああ、申し訳ございません。いざ負けがこんだ時は土地に塩を撒いて、焦土にしてから取り返すつもりでした。」
「…。」
「もちろん、そのような手段は最後の奥の手でございます。」
「…。」
「ああ、塩はございますので、必要な分はすぐにでも。」
「…。」
「ははは、馬車一杯?、船5隻分持ってきております。」
「…。」
「ほう?それはいけませんな。では。専売業者を決めて入札で。いやいや、お互いの為でございます。」
「HAHAHAHA!!」
「わははははは!!ああ、ジズ、後でレオアム殿がドラゴンを見たいとおっしゃるので出してくれ。」
「は、はい、わかりました。」
「魔王ベルゼー、塩の引換券の発行許可をやろう。但し、塩が無くなりしだい終了の悪魔領内のみ有効だぞ。」
「皇帝陛下!!ありがとうございます。」
「…。」
「レオと呼べと?では、俺もエガちゃんと呼んでくれ。」
固い握手をする筋肉と筋肉。
ココに帝国と竜人との固い同盟が結ばれた。
トップダウンの信頼を元に。多くの商隊が行き交い悪魔領は後々まで栄えた。
魔王ベルゼーは傀儡と言われつつも、その職務を果たし、その後、次世代の魔王に任せてベッドの上で生涯を終えた。
悪魔領では未だ議会の召集は行われていない。
お爺さんに言われた小路を進むと”堤防内関係者以外立入禁止”と書かれた大きな看板があり、大きな堤防に突き当たった。
堤防に添って道は左右に伸びている。
あれ、道はどうなっているんだ?間違えたのか?
よく見ると看板の下には後で書き足され様な雰囲気で”←軍港、漁港 = 水源→”と殴り書きしてある。
漁港の方を望むと確かに堤防が途切れている様だ。
もちろん漁港のほうへ進む。
海からの潮の香りと風が強くなってきた。
ああ、海に向かっているんだな。
堤防が途切れると一面の海と砂浜だった。波が高い様な気がする。
「海は異世界でも変わらないんだな…。」
馬鹿なコトを呟く。
浜辺に捨てられたペットボトルや漁具も無い。やはり異世界なんだ。いや、ゲームかも…。
こんなに良い浜辺でサーファーが居ないのが異世界の証拠かもしれない。
砂浜には丸太をくり貫いた様な古いボートと、公園で見るようなボートが並んでいる。
あとは砂浜の奥にバラックの様な小屋が並んでいるだけだった。
煙が出ているのが浜焼きの店と聞いていたが。
確かに一軒だけ、白い煙を出している小屋がある。
ちょっと騒がしいので、人が何人か中に居るようだ。
入り口はドコだろう?
煙を目印に向かったので店の裏に来てしまった。表に回ると。
開けはなれた観音開きの引き戸の中で数組のダークエルフのオジサン達がコンロを囲んでいた。
皆、びっくりしている様子だ。
ダークエルフのおねーさんが出てきた。店の人だろう。エプロンのようなものを着て髪を後ろで一つにまとめている。ポニーテールの様だ。スタイルが良い。
「イーナーホ。パーロー。ムーシロー。」
「あ、すいません、ここ、食事できますか?」
「ああ、みゃーさん帝国の人?食事できる店やよ。ココが空いとるで座って。」
席に着く店内は騒がしかったのに静かになっている。
「ああ、良かった。浜焼きの店と聞いてきたのですが。」
「そうやね、キホン獲れても売れん様な小魚や、痛みの早い魚が食べれるね。あと貝とかも。食材の持込もええよ調理したる。ただ、皆に振舞うコトに成るけど。」
「そうですか。何が在りますか?」
「今日は…、ああ、イロイロやねえ。取り合えず焼きにする?汁にする?」
「焼き?汁?」
「ああ、鉄板で焼くのにするか。鍋で煮て汁にするかやね。」
「えーっと、焼きにします。」
店内を見渡すと皆コンロで焼いている。一人鍋じゃつまらないし。
「飲み物どうする?スイカ汁と水は同じ値段。お酒はカストリとスイカ酒しかないで。」
「カストリ?スイカ酒?」
「カストリはワイン作った後の残りカスを蒸留して作った強いお酒。みんな、何かで割って飲むもん。スイカ酒はスイカジュースを発酵させた弱いお酒。」
「スイカ酒一つ。」
「スイカサワーイー。」
「あいよ~!スイカサワーイー。」
おねーさんがコンロを持ってテーブルの上に置いた。手をかざす。魔法を使っている様だ。
そういえば炭か無いのに、鉄板が熱くなるのが解かる。
「どれだけ食べる?」
「え?あの?どれくらいって?」
「ああ、カゴ一杯で銀貨1枚。半分なら大銅貨5枚、そんなかで干物入れるか貝入れるか。まあ、後で追加しても良いよ。」
「え?あ、半分で、貝と干物入れてください。」
「ハンヤキモン。ホシモン、カイイリ。」
「あいよ~!ハンヤキモンイー。ホシモン、カイイリ。えーと!スイカサワー出ます!!」
スイカが店の奥から飛んできておねーさんがキャッチ、ナイフで穴を開けるとエプロンのポケットからストローを出して刺した。
「はい、スイカサワー。」
ただのスイカジュースにしか見えない。
そういえば、さっき飲んだばかりだったスイカとスイカが被った。
一口飲む、冷たい微炭酸だ、確かに仄かにアルコールっぽい。
なるほど、こういうものなのか。
しまった、つい勢いに任せて、昼真っからお酒を頼んでしまった。
周りをみると店のお客さんの注目を受けている。ジロジロ見られているわけでは無いが、凄く場違いな気がする。
店の中はダークエルフしかいない。皆酒を飲んでいる。こんな昼真っから飲んで、なんの仕事をしている人たちなんだろう?
「は~い、おまたせ、ハンヤキモン。たれはソコにあるでお好みでね。これ、蒸し用のフタ。」
「あ、ありがとうございます。」
お礼を言ったのにおねーさんはちょっとびっくりしているようだった。
カゴの中には目を見張る白身の魚の干物と蠣の様な貝と…サザエでは無いが大きな巻貝?螺貝?二つずつある。なんだろ巻貝に蓋がない、どうやら一度取り出してさばいてある様子だ。身がまだ動いている。
後は小魚が数匹、何だろ、アジっぽいのが一つと、ベラ?コチ?それぞれ10cmぐらいの魚が頭を落として背開きで内臓がないぞ。ヒレも落としてある。種類は幾つか在る様子だ。
調味料は、三つある素焼きの薬味入れだ、フタを開けるとスプーンと、黒い液体。ソースか醤油?まさか、スプーンに付け一滴指にたらして味見する。
う~んなんだろ?塩からいけど醤油のようで醤油でない。この後味はダークエルフの料理でよく使うモノらしいが原液をなめたのは初めてだ。
もう一つは黄色っぽい透明な液体。これも味見する、すっぱい。酢か?いや、フルーツっぽいからレモン汁かもしれない。
さいごのは、緑の粉、コレはハーブの粉だ、食べたことある。
何故か鉄串が割り箸のように置いてある。数は少ない、数本だ。細いので箸では無いと思う、四人がけテーブルだから爪楊枝なのだろうか?楊枝として使うモノかもしれない。
焼肉ではないけど、難しい問題だ。
さて、どうしよう。ちらりと店内を見渡す。
みな、魚の尻尾を持ってかぶりついている。ひとり鉄串の先に何かを刺して口に運んでいる。
なるほど、そういうルールか…。
まず先に時間の掛る貝を焼こう。
二つずつ鉄板の上に置く、ひっくり返らないようにゆっくりと…。置いて、螺貝の一つに醤油の様な物を入れる、少しだ。そしてフタをする、素焼きのフタだ。ぴったりだ。
鉄板の半分はフタに占領された。
空いた場所に、早く焼ける小魚を一枚置く、皮を下にして…。
あ。しまった、反りかえって来た。身を下にするのが正解のようだ。
あわててひっくり返すが。ああ、完全に反りかえった。接触面が少なくなった。焼くのに時間が掛りそうだ。
そうだ、蒸し焼きにしよう。素早くフタの中に入れる。
今度は身を下にした。うわ、白い煙がスゴイ、魚から脂がでている。あの白い煙はこれか…。
熱で魚の身がうねうね動く。ああ、反りかえらない。
焼きあがるまで早そうだ、こっそり横目でダークエルフ達を観察する、熱そうに手で尻尾を持って骨と身を外して尻尾に近い所で骨を折って外す。そのまま皮ごとかぶりついて食べる。
よし、できそうだ。
8割ぐらい火が通ったら。ひっくり返す。皮は焦げ目が着いていた方が好きだ。
皮と脂が焼けてキューキュー言い出した。すこし皮が反り始めている。良い具合に背骨と身が剥がれ始めた。
もう良いだろう。
尻尾を持つ。熱い。あちち、と呟きながら。背骨を頭のほうからつまみ尻尾の近くで折る、簡単に骨が外れた。
一口齧る、あつい、いや、魚の脂が乗っていて美味い。白い身から脂が流れて輝いている、うーん、なんだろ?アジかな?サンマかな?良く焼けている。
塩加減も良い。生臭さが無い。醤油のようなものはいらないな。
いや、醤油が有れば最高なのかも…。白いご飯がほしい。ああ、ぼくは日本人なんだ…。
次の魚を焼く、フタから微かに蒸気が出ている。ああ、気が付かなかったが蒸気穴が付いていたんだ。もう少し蒸らそう。
「お~い、ニイチャン、随分と魚の食べるのに慣れとるが、ほんと帝国のヒトか?」
後ろの席に座っていたダークエルフのオジサンが声を掛けてきた。酔っている様だが、そんなに威嚇しているようすではない。
「いえ、出身は帝国ではなくて外国なんですけど。中途半端に海の近くに住んでいたので。魚は良く食べました。」
「ああ、そういうことかね?いや、外のヒトがこんな所のに来るなんて珍しいなとおもってな。」
「こんなところってナニ言うてんの?オッチャン、外国のヒトに絡まんといて。」
ダークエルフのおねーさんが小皿をオジサンのテーブルに持って来た。
「ははは、庁舎に申請に行った帰りに何か食べる所を探してたら。スイカ売りのお爺さんにココで海の物が食べられるって聞いて来たんです。」
「ああ、あのじっちゃんか。」
「あ~そうなん、どうりで。てっきりニイサン、帝国のヒトで軍港関係のヒトやとおもっとったわ。」
「ひさしぶりの海の魚なので、美味しいです。」
「ニイチャンこう言うのイケる?食べてみ?」
オジサンが妙にうれしそうに、小皿を差し出した、醤油の様な物に魚の切り身が入っていた皮はむいてある。
魚は半透明で艶がある。新鮮な刺身だ。ヅケかな?。
「刺身ですね、食べれますよ。頂きます。」
鉄串で刺して食べる。
コリコリして美味しい。臭みがすこし…。いや、たぶん醤油の様な物の臭みだな、レモン汁が少し掛けてあるようだ。いやな臭みではない。
「お~、ニイチャン。スゴイな。帝国に海は無いからそんなにうまそうに食べるヒトはおらんやろ。」
「え~ホントに海の近くでそだったんやね~。」
驚くダークエルフ達。
「はい、故郷では、漁師さんが良くこうやって食べていたそうです。こんな感じで魚料理を出す店もありました。」
「いやー、ニイサン。アレやなあ~ココラ辺のヒト(ダークエルフ)でも食べられんヒトがおるのに~。」
「ほー漁師がねえ、やっぱ海はつながっとるで。皆似とるんやなあ。」
納得するダークエルフのおねーさんとオジサン。
いや、たぶんこの海は繋がっていない。
しかし、刺身が食べられるとは思わなかった。
そういう意味では繋がっているのかもしれない。
食事が進んで蠣?の蓋が開いたようだ。フタを開ける。白い煙が立ち上ってよい香りがする。
一つだけ、醤油をたらす。貝の中で沸々したら食べよう。
丸まった魚の開きを忘れていた。
蒸し焼きになったが脂が落ちてあっさりしている。少し醤油?を垂らす。美味しい。身が崩れやすいのが難点だ。
螺貝の方はもう食べごろだ。レモン汁?と醤油?の両方が楽しめる。
醤油?の焦げた香りがする、匂いに吊られて、醤油?を先に手をつける。
鉄串刺す。やはりブツ切りにしてあった、身に弾力があるのが刺した感触でわかる。
これは美味そうだ。うん、やっぱり貝だ、弾力が在るが噛み切れる。噛めばかむほど口の中に旨味と焦がし醤油?の香りが広がる。
サザエっぽいがトコブシに近いかな?螺貝ぽくないな。苦味が無いのは肝が取り払われているからかもしれない。
レモン汁でも美味しい。しまった。先にコチラを食べればよかった。
味がぼんやりしてしまった。さっきの焦がし醤油?がレモン汁と喧嘩をしている。
スイカ酒を一口飲んで口の中をリセットする。なかなか温くならないな、このスイカ酒、不思議だ。
メインの白身の魚の干物を遂に投入する。20cmぐらいの見たいな魚で尾頭付の開きだ。頭まで開いてある。
身を下にして焼く。魚の二つの目が恨みがましく、コチラを睨んでいるようだ。
時間が掛るので、遂に蠣?に手を付ける。
ふたの開いた蠣?の身は白く乳白色に輝いている。
真珠色の貝の内側で汁が泡立ち小さな無数の真珠のように現れては消えている。
一方、醤油?を垂らしたほうは。その身が小麦色に色づいて。黒い真珠のようだ。
食べるには。少し冷まさなければならない。どうすればいいんだ?
横目で他のテーブルを観察する、どうやら各テーブルにフライ返しの様なフォークが置いてあるようだ。
ソレで蠣?を殻ごと取り上げて裏返したフタの上に置き冷ましているようだ。
だとすると、テーブルのドコかに…。あった。席の反対側に在ったので、こっちからは死角だった。
あぶない、コレが無いと危うく火傷するところだ。
慎重に、汁をこぼさないように、蠣?をフタに着地させる。
緊張の作業だ。
冷めるまで待つ間にさいごの一匹。コチのような魚を焼く。
白くて半透明。キラキラ輝いている、皮は剥いて裁いてある。
御頭が無いので何の魚か判断できない。キスかな?身の厚さではコチだろう。まさかフグとか?
半透明の身は白い大理石のような色になり、ホクホクした食感でスゴイ美味しい。フグに似ているような…。
さあ、遂に行くぞ。手のひらをかざして温度を確かめる。
だいぶん温度が下がったようだ。
先ずはレモン汁をかける。
熱くないか確かめながら慎重に貝殻を持ち上げ。汁を零さないように。口に流し込む。
するりと口の中に入る、濃厚な旨味が口の中に広がりレモンの酸味が舌の先をしびれさせる。そして、鼻に抜ける潮の香り。
うまい!!あっと言う間だった。味が走り抜けた。
ああ終わってしまった。しかし、まだ、黒い真珠が残っている。
醤油?に身を焦がした黒い真珠はその身に鈍い光沢を浮かべている。
まだ熱いので。息を吹きかけ冷ます。息を吸い込むと香りが食欲を掻き立て口の中を濡らす。
口の中に入った黒い真珠は濃厚な旨味と焦げた醤油?の香りが仄かな臭みになり潮の香りと混ざって何時までも口の中に旨味が残る。
フタの上に残った無残な殻に哀愁を感じる。
目をそらす。鉄板の上の目は白く濁っている。そろそろひっくり返そう。
さあ、ラスボス戦の開始だ。
食事も終わり。もう一杯、スイカ酒を頼もうか迷った。ちょっと塩辛かったから咽が渇く。
店の中も落ち着いて賑わいを取り戻している。やっぱりボクは異物だったんだ。
だが、もう皆、気にしない様子だ。
若いダークエルフのお兄さんが桶を持って入店してきた。挨拶している人も居る。顔なじみのようだ。
「いやー、今日は5匹しか獲れへんかったよ。」
桶には水が入っている様子だ。
「ああ、おっきいね~。」
おねーさんが出てきて対応している。
「買取でたのむわ~今日はスカばっかりや。」
ダークエルフのみなが桶を覗き込んでいる、”おっきいか?”、”おれのはもっとなあ”、”おめえ~はこれより負けるだろ”、”おいおいひでえな”
なにか、楽しそうだ。
覗いてみると。桶の中には海水と、抜き身のルマ○ド。いや、マテ貝だった。
マテ貝じゃ無いのかもしれない。ちょっとデカイ。ひとまわり以上おおきい、親指より太い。
昔、潮干狩りで捕ったヤツはもっと小さかった。
「なんて名前の貝なんですか?」
「お?こちらのお兄さんは?」
ダークエルフのお兄さんは驚いたように尋ねた。おねーさんが答える。
「うん?お客さん、外国の方。昔、海の近くに住んでたんだって。」
「この貝はなあ、砂浜の浪打際の深い所に居って。穴掘るのが大変なんよ。外れの場合もあるし。美味しいんだけど。取るのが大変で。」
「マテ貝そっくりですね。」
「マテ?」
「はい、故郷での呼び名。ココではなんと?」
お兄さんとおねーさんが目を合わせているびっくりしているようだ。しかし、どっから見ても、抜き身のル○ンど…マテ貝だな。
「えーっとなあ。」
「あ、ヤメ…。」
おねーさんが何か焦っている。言い難そうだ。
「これ、潮が引いたときに砂浜で取れるヤツですね。」
「そうやん。」
頷くお兄さん。
「砂浜の表面を引っ掻いて巣穴を見つける。」
「そうやん、ソレを掘る。」
「塩を一つまみ巣穴に入れて頭を出した所を掴む。」
「「「え?」」」
ダークエルフたちがびっくりしている。
「いや、この貝が故郷に居た貝かどうかは知りませんが。塩に敏感なので。巣穴に塩を入れると頭を出すんです。頭を摘む、引っ込もうと抵抗するけど。そのうち諦めて出てきます。」
皆がざわつく。”そんなやり方しっとる?”、”いや聞いたこと無いわ。”
「この、貝はなんと言う名前の貝なんですか?」
ダークエルフ達は一斉におーねさんの方を見た。
みなの注目を集めたおーねさんは観念したように、顔を耳まで赤くしながら呟いた。
「ち、ちんち○貝…。」
(´・ω・`)”下ネタ”タグがあるからコレくらいは許されると思っている
(´;ω;`)24(ツーフォー)は止めて~!!
彡(^)(^)答えはげっ歯類やで!!




