月のひつじ(皿ではなくうさぎ)
(´・ω・`)
ついに、浄水路が完成したので落成式をすることになった。
もう、夏も終わりつつある。
完成したといっても、町の中の三ヶ所に飲用水の噴水が在るだけだ。
住民はココまで水汲みに来なければならない。
しかし、沸かさず飲める水はダークエルフ領では画期的らしい。
試験運用中なのに、皆、水瓶を持って長蛇の列だ。
もう既に。六ヶ所の工事計画が持ち上がっている。
みな、お金を出し合って、自分の区画に浄水路を通そうと活気付いている。
式典では試験給水を一旦止め、俺が給水開始を号令し、噴水から出た水をジョッキに受け飲んで。
完成の式典が終わり。そのまま、一部を残して、帰還する帝国軍と共に運河でこの地を離れると言う演出だ。
この演出のためにホルス将軍以下将兵が、不断の努力を行っているらしい。
そんなに大げさにしなくても良いのだが…。
そのほかイロイロ困ったコトが起きた。
シハル嬢が長老会に”ココは鳥取か?”と話したことが伝わったらしい。
大した問題では無い。ココまでは。
しかし、ダークエルフ達に”鳥取”という音は新鮮に聞こえたらしく。
若い者たちから”皇帝が鳥取みたい。と言ったから鳥取記念日。”
等と頭の沸いたバブルヘッドのスイーツ脳的なコトを言い出し。
暫定名称、ダークエルフ領から、鳥取領への名称変更ムーブメントが起きていた。
知らなかった。
落成式前日に、長老会から、名称変更の申し出があったとき、思わず聞いた。
「本当によいのか?」
「皇帝陛下、次世代の若い者達の感性に託したいと思います。」
「正直、アレだぞ?」
「私も、個人的には良い響きだと思います。」
こうして、俺たちが旧ダークエルフ領を立つ日に、名前が鳥取領に替わるコトが決定した。
正直、しらんぞ。
当日、晴天の空の下。
「給水開始!!」
の号令の元、信号弾が上がり。
泉から水が溢れた。
渡された金色のジョッキで水を受け、飲み干した。(将軍からは飲むマネだけして下さいと言われていた)
空になったジョッキを掲げると。
「「「エガシラ、コーティールイーガー」」」の大合唱である。
片腕を上げると皆、静かになる。
『ここに浄水水路は完成した!この地を皇帝エガシラは”鳥取”と名付ける!!』
「「「トートリ、イーガー!!エガシラ、コーティールイーガー」」」の民衆の声の元。
この地を離れる将兵たちは皆、装備を磨いてピカピカになっている。
町の広場に列を作る帝国軍は、帝国軍旗の下、行進する。来た時より旗のはためきが弱いのが皆の勝利の証だ。
帝国軍の列は、運河に向かい。新たなる配属先に分かれて、ナロウボートに乗り込む。
行は長い列だったが。帰りは計画的に輸送したので大変そうに見えない。
まあ、馬車と船では搭載量が全然違うからな。
ナロウボートに乗り込むとき、最後に鳥取の皆に別れの手を振った。
各所から信号弾が上がり。町の方々から。民衆の声が聞こえた。
「「「エガシラ、コーティールイーガー」」」
ナロウボートのキャビンでは皆が揃っていた。
「シハル、付いて来てくれるのだな。」
「いややわ~、さんざん女にしといてそんな冷たいこと言わんといて~。」
皆の見る目が冷たい。
「くっ!わらわをこのような目にあわせておきながら更に贄を望むのか…。」
「だにゅうの、ちじょめ。ほろびろ」
「あ、ああ、あのひと、あんなことできちゃうんだ…。」(ボー)
「ふっふっふ、女たちの戦いだにゃ~。」(カキカキ)
船は進んでゆく。行は気が付かなかったが。砂丘の陰に草が生えれいる。
「さいきん、井戸水があんまりしょっぱくなくなった~言っとったで。」
「そうか淡水の地下水位が上昇しているんだな。」
「そんで、砂漠に草がたんと生え始めて、ツノウサギが沢山獲れるって、みんな大喜びしとる。」
「なに?農業被害が出そうだな。」
「え?農業被害?てなんなん?」
「砂漠が草原化したらウサギの大繁殖するが、捕食者の猛禽類や狼の類はすぐに増えない。草原内に収まっていれば良いが、縄張り争いに負けた固体が移動して農地の作物を食い荒らすだろう。」
「え?狼なんておらへんで?」
「そのうちやってくるだろう。餌になるウサギが居るんだ。」
「狼なんて困るわ~。どうしたらええん?」
「農地にケダモノ避けの柵を作る必要がある。今のうちに大規模な捕獲方法を考えねばならない。肉も食べれるし、革も売れる。なめす塩にも輸送にも困らない。うまくやれば産業になるだろう。」
「うわ~おじいちゃんに手紙書こ~。」
「そうしたほうが良いな、ああ、取りすぎると居なくなるから、減らない程度の数を取るのが一番だ。長く稼ぐには程々が一番良い。」
「書いておくわ~。皇帝陛下、何から何までありがとうございます。」
シハル嬢の肩を抱き白い歯を見せココは決める。
「俺のモノなんだ、大事にするのは当たり前だ。」
「ほ~皇帝は新しい女には随分と優しいのですね。わらわにはそんな声を掛けてもらったコトはありませんのに。」
「ま、魔王は何時も声を掛けると機嫌が悪そうじゃないか!!ちょっと前から夜も嫌がるし。」
「機嫌も悪くなります。ココにはムリヤリ授けられた皇帝陛下の子がおります。」
へそのあたりを手でさする魔王。
「な!なんだと!!いつのまに!!」
「わたしもできたにゃ、これで乳母としても働けるにゃ。」
「な!!なに!!」
「やればできるにゃ。魔王が妊娠したので替わりしてたにゃ。なにも考えずにアレだけパコパコしてたらできるモノもできるにゃ。」
ジズとリリンが冷たい目で見ている。シハルが笑顔で答えた。
「皇帝陛下、わたしはもんだいないで~。気にせんといて~。子供生まれたらおじいちゃん喜ぶで~。わたしらで育てるし~。」
「俺が…。父親か…。」
リリンとジズが能面のような表情でボソボソ話あっている。
「ジズ、もうだめだ、覚悟を決めろ。時間が無い」
「は、はい。リリン、わたしやります。」
馬に引かれるナロウボートは船だまりに付いた、ここから先はインクラインだ。
魔王領へ戻る我々は、ココで乗客は一旦降りて船を水に沈んだ台車に舫を結び、台車ケーブルカーで丘の上に引き上げる。
船は中腹で鳥取行きの船とすれ違う。重量バランスを取る為にバラストに水を使う。その為の給水塔もある。
ロープが切れたときの事故防止に自動ブレーキ付きだ、事故は勘弁して欲しいが何時かは起きるものだ。
引き上げた台車と船は馬に引かれてスロープへと運ばれ。ウィンチを使って台車ごと運河に入っていき。舫を解く。
船が出た後は、待っていた鳥取に向かう船が繋がれる。
ナロウボートの船体は全て帝国造船所で製造しており全て規格化した。
船長と係員立会いの下、型式船体番号と、船の喫水の深さ四ヶ所を測り(目盛りが付いている)重量を二名で計算して船体と木片に書き込む。
バラストの量や、ケーブル耐加重の計算の元になる。重要な数字だ。
かなり大掛かりで金が掛っている。通行料も割高だ。
早く、迂回運河を作るべきだが。暫くは予算が無い。
降りた乗客は馬車に乗って船だまりに向かい。また船に乗る。
人が行き来するので、宿屋や売店が出来ていた。
一応重要拠点なので、兵も駐屯している。
かなりの賑わいだ。来た時は何も無かった丘に町一つが出来てしまった。
ここまで大きくなると、迂回運河作ったら反対運動が起きるかも。
皇帝が来ていると噂になり、野次うし、野次ぶた、野次悪魔にダークエルフまで集まってきた。
憲兵と兵隊が群集をコントロールしている。
手を振ると歓声が上がった。
パンダにでもなった気分だ。
「わらわの時はこんなに歓迎されなかった…。」
お腹をさする魔王に、エルムが答える。
「しかたにゃいですにゃ。皇帝陛下は皆に食べる物と住む所と仕事を与えてくれたんですにゃ。」
「うん?魔王が支配していた時代は開発してなかったのか?」
「わらわの仕事は、村同士の争いや、異種族同士の争いを収めることが仕事であった。こんな人種が違う者が集まって村を作る様なことは無かった。」
「今となっては、市町村に対する法令や、取締に判断基準を設けている。憲兵の仕事だ。そのうち憲兵では対応できないような問題が起きるだろうから。その為の独立機関が必要になるだろう。」
「最早、わらわの居場所は無いのか…。魔王は必要ないのか…。」
随分と落ち込む魔王。
「こーていへいかは何をするんですか。」
「皇帝の仕事か…。考えたことは無いな。今までは好き勝手していただけ。だったからな。しいて言えば倫理における絶対的な礎石だろうか?帝国臣民の倫理の象徴だろう。」
「皆を、空腹から救ってくれたにゃ?それも好き勝手だったのかにゃ?」
「救う方法を知っていただけだ。だから命令した。」
「もしか、わたしら、ダークエルフを救ったのも?」
「アレは大変だった。今までの知識を総動員しての実験だった。今、思えばもう少し上手くやれたのかもしれないと思う。しかし、俺の失敗は二世代後に問題となるだろう。それまでに対策を考えなければならない。」
「え、あの、皇帝陛下はこの国がどうなるか知っているのですか?」
「知らんが、先は判る。そのうち人口爆発が起きて、生産量が上がる、銭の量が足りなくなり物価と流通の足かせになる。その為、物質的な空間が無ければ人口は自然に下がるが。その過程で物価を下げる為に、混乱しながら金本位から信用通貨に換わるとか、通貨の切り下げも行うかもしれない、新通貨単位に変更するかもしれない。」
「こーていへいかは全てを見通しているのですか?」
「全ては知らない、ただ、人は失敗を積み重ねて完成へと到るのだ、人はソレを経験工学と言う。我が祖国は全ての失敗を繰り返し成長したのだ。唯それだけだ。」
これから起こるであろう困難に頭が痛い。
とりあえず近い将来に、いや、もう既に起きているであろう。
ベビーブームに対応しなければならない。
学校を作らなければならない。
教師を集めなければならない。
資金が必要だ…。頭が痛い。
馬車が船溜りに付いた。船がひしめき合っている。
大量の物資と人が移動しているのだ。
もう、帝国はだれにも止められない。
皆が明日はもっと良くなると信じている。
俺が前に進めと示したのだ。
彼らを正しく導かねばならない。
ぼくたちは遂にダークエルフの里に着いた。
辛かった。
町の入り口の衛兵はぼくらを見るとこう言った
「トートリ、イーナーホ。」
「え?何て言ってるんですか?」
「え?あ~おみゃ~さんら、アレかね?。よう来やったなトートリに。」
「あの?トートリ?」
「そうやで?ココは前はダークエルフの里やったけど、今は帝国領のトートリやで?」
「あの、この町に入るのはどうすれば?」
「おみゃーさんら、帝国納税証明書もってるかなも?帝国軍人票でもええで?、無いならココで納税証明発行するで。」
「あの、ギルドカードは有るんですが…。」
「あ~この型式は見たこと無いからつかえんで~。悪いこと言わんで、納税証明受けたほうが良いで~。」
「あの?納税証明ってなんですか?」
「外国人が帝国領内で商売や狩猟するのに税金がかかるんや~。税金証明書が仮の身分証明書になるんでお買い得や~、運河にも駅馬車にも貸し馬のサービスが受けられるで。ただし、商人と猟師は利用区分と値段とサービスが違うで堪忍して。」
「いくらですか?」
「一年間の納税が、商人で帝国金貨2枚、狩猟が帝国金貨1枚。継続の場合は半額になるけど、各村の自警団か近くの憲兵詰め所で更新すれば良いで。失効後二ヶ月越えたら逮捕されるで。気をつけてな。」
「あの、商人と狩猟って何が違うんですか?」
「商人は一年に一回、帝国へ帳面の提出をせなあかん、狩猟は、狩猟頭数の報告義務と地域の狩猟管理にしたがって猟をせなあかんで、現地の猟師に良く聞いて仕事せなアカン。」
「あの、狩猟でおねがいします。」
「おみゃーさんら全員狩猟やな?ひいふうみい…。金貨5枚やで。」
「あ、ハイどうぞ。」
「ひいふうみい…。おお、ええでな、もうしわけな~が、ココにみな名前、記入してな。」
「鑑札を渡すで、コレで身分証の変わりになるから無くさんといてな。落として悪用されると痛くない腹をさぐられるでなも。細かいことは狩猟ギルドで聞いてんか~。」
「あ、ありがとうございます。あ、あの…。」
「ハイハーイ、次の方どうぞ。」
すんなり町に入れてしまった、もう夜も遅いのにスゴイ活気だった。
「とりあえず宿を探そう。久しぶりに身体を拭いてベットで眠れるかもしれない。」
「そうね…。ゆういち。」
「よい、考えですわ…。勇者さま。」
「それより、飯を…。勇者殿。」
「もう疲れました…。フラフラです。」
通りを歩くと、皿とフォークとナイフの看板が見える。
食堂だ、中を覗くとソコソコ混んでいる、意を決して声をかける。
「ぼくたち、五人なんですが、座れますか?」
お店の店主らしきダークエルフがカウンターで皿を洗いながら答える。
「ちょっとまってな~、小テーブルなら少し窮屈だで座れるで~。ほい、おみゃあさん、したくして。」
「お客さんらこっちきて~。ココがええで座って。」
進められた円卓に腰を落ち着ける。
「何がお勧めですか?」
「お客さんら、お酒飲む?エールとワインしかないで。覚えといて、水とスイカ汁は同じ値段やで、勘弁してな。」
「あの、食べ物はなにがありますか?」
「今日は、ツノウサギのテリヤキと、白身魚の一夜干し、タラの甘塩焼きと、濱貝の塩蒸ししかないで、後は定番の、カボチャの蒸し焼きと、茹で芋のショッツル掛け。マスの塩焼き。」
「あの、テリヤキと、一夜干し、と茹で芋下さい。人数分。」
「おきゃくさんら、スゴイ食べる人?そんなに食べれんなら、三人前で、追加注文して~な。」
「あ、では、とりあえず、エール5と、その他3人前。」
「ハイ注文入ります。エール5、テーリ、サン、ムーシローサン、ユデモンサン。」
「「ハイ!!テーリ、サン、ムーシローサン、ユデモンサン。」」
「エール5入ります。」
ビールがすぐに来た。
「「「「カンパーイ!!」」です」わ」
「この町に魔王が居るかどうかわからないから。慎重に探そう。この町は活気があって。平和そうだ。」
「そうですね勇者殿、この町は治安も良い様子です、町の中に腐敗の匂いがしません。」
「む~、悪の帝国に強いたげれられる人々が居ない…。面白くない。」
「ココの領主はかなりのヤリ手ですわ。民衆に活気があります。テニイレタイデス」
「ルービーサイコー」(ゴクゴク)
「はーい、おまちどうさん。湯で芋やで~。薬味はテーブルに有るでお好みで~。」
いきなり大皿で山盛りの芋が三つ来た。皮は剥いてあり、ソースが掛かっている。
「あの?すいません、ちょっと教えて下さい。」
「なんやね?おにいさん?」
「ココはダークエルフの里なんですね?」
「そーやで?今は帝国領トートリやけどね~。」
「あの、何で帝国なんですか?」
「あー、去年の不作で皆、喰いモンに困って。帝国に助けを出したら。皇帝陛下が、エライ男義を出してな~。」
「あの、良くわかりません。」
「助けて欲しければ、帝国の一部に成れってもう、カッコイイこと言ってな~。」
「え?、強制されたんですか?」
「もう、長老がこうべを下げたら。皇帝陛下が軍隊つれて来て、アッと言う間に不毛の大地が大農園やで。み~んな、今まで苦労しとったのがアホみたいな。」
「あの、ココに魔王が来てるって話を聞いたんですが?」
「魔王?、ああ、皇帝陛下となんか居ったなあ。」
「魔王は、居ないんですか?」
「もう居らんとおもうな~。皇帝陛下が帰った時に、帰ったんちがう?」”ムーシロデマス”「はいはい、おにいさんちょっとごめんな~。」
「魔王はもう居ないっていってた?」
「ゆういち、もういいから今日は、英気を養おう。」
「そうですね、勇者殿、今は皆、疲れております、休息は必要です。」
「もぐもぐもぐもぐ(勇者さま大丈夫です)。」
「ブツブツ(ココを占領した暁には王国の直轄地が相応しいでしょう)。」
雑音の食堂の中に、新たなる来店者が来て客も店員も凍りつく、魔物だ、武装している、テーブルの下の剣を握る。
「コレはようこそご来店ありがとうございます。」
ぞろぞろ入ってくる魔物は、オークとミノタウロスの魔物だ。
「コレで皆に出せる酒と食い物を頼む。」
何かを受け取る店主。
「ハイ判りました。ひい、ふう、みい…。お一人様エール2本とタラの甘塩焼き&茹で芋になりますがよろしいでしょうか?」
「良いだろう。大盛りで頼む。コレは員数外配給品だ調理してくれ。」
「お~、これは立派な一角ウサギですな。コレなら、大歓迎です。」
「乾杯したい、先に酒を出してくれ。」
「はい、かしこまりました。エール12カイカイ」
「エール12カイカイデー!!」
あわただしく、店員が動くと、大人しくテーブルに座った魔物たちは厳かにジョッキを掲げた。
「帝国軍と皇帝陛下に!!」
「「「ッガシーラーコーティルイガー!!」」」
ほかの、食事をしていた、皆がジョッキを掲げて。答えた。
「「「トートリイーガー。ッガシーラーコーティルイガー!!」」」
どうやら彼らが帝国軍らしい。
しかし、ダークエルフたちは怖がってない様子だ、いや、尊敬の視線を送っている。
ココは魔王の支配するところではない国なのだろう。
とにかく、普通の食事が久しぶりに取れた。
店の店員に聞いたら、安くて綺麗な宿屋も教えてくれた。
ココは、良い町だ。
湯で身体を拭いて久しぶりにベッドで寝ることになった。
ぼくは、ベッドに倒れて、そのまま、深い沼に落ちていった。
「トートリ・サイコー。」
(´;ω;`)申し訳有りません。これ以降は不定期更新になります。




