少女捜索隊~一気飲み、ダメ。ゼッタイ。~
眩しい日差しで目が覚める。
って眩しい日差しってことは寝過ごしたのか!
一人で焦っていると、タールがむくりと起き上って、
「おはよう、メクルって早起きなんだね」
目をこすりながら言った。
「おう、おはよう。まだ早い時間なんだ」
「うん。この辺りは太陽を遮るものがないから眩しいんだよね」
「おお、僕の疑問に気づいていたのか」
「ふん、国家代行者を甘く見るなよ?」
タールはあっというまに仕事モードになりふんと鼻を鳴らす。
「メクル……それよりこんな朝から酒場に情報収集にいくのかい?」
「ああ、酒場で情報収集って冒険者のセオリーじゃなかったっけ」
タールは困った顔をしてから
「うん。冒険者はそれでいいんだけど、僕は情報屋に聞くのがいいと思うんだよ」
情報屋……心当たりはない。
「いや、別に情報屋に聞くのが代行者の常識ならいいんだけどね」
タールは少し考え、言った。
「うーん、じゃあ日の出ているうちは情報屋当たって、夜になったら酒場でいいんじゃない?」
「そうだな」
宿の食堂へ行き、干し肉と黒パンとモーメーのミルクを朝食として流し込み宿を出る。
「モーメーって何?」
タールおすすめの情報屋にて聞いてみた。
こんなところで聞くべきでな言ってのは分かっているけど、合言葉らしいよ。
合言葉ミスったらボコされるけど、代行者いるのだから返り討ちだ。
「お?タールの坊主とあんたはだれだ?」
ここは裏路地の奥。
この国では珍しい丸刈りの中年男性と僕らふたりは対峙している。
「僕はメタリクルと申します。メクルとお呼びください」
初めての相手には低い姿勢で接するべきだってばっちゃが言ってた。
仮にこっちのが強くても。
タールもこっち見て呆然としている。
「情報屋なんだからかしこまらなくてもいいんだよ?」
「そ、そうだ。おじさん調子狂っちゃうぞ」
情報屋のおじさんは何かが引っかかったような顔している。
「でだ。坊主とメクルさんはどんな情報を所望かな」
おじさん、さすがベテランだ。仕切り直しましたね。
僕も見習いたいね。
「え、ああ。ここの忌子、パークス・メリーヌについて知っていること、全て吐け」
タールは突然尋問口調になり、適当なお金を叩きつけた。
「メクルさん、坊主はカッコつけたいお年頃なんだ。あと3年もしたらベッドで足バタバタだ」
「あ、そうなんですか」
国家代行者っぽいなと思ったけど、カッコつけただけか。
背後の殺気は何でしょうかね。
「まあ、この町の忌子だ。俺もよーくしっている」
「ほう」
タールは殺気をおさめ、聞く体制に入る。
おじさんはお金をにぎりつつ、情報を吐いてくれましたよ。
忌子であること。
女であること。
人族でなく魔族であること。
戦闘能力が極めて高いこと。
住んでいるところは不明。
「戦闘能力が極めて高いこと、か。一応対策しておくか」
タールは銀貨を一枚渡して言った。
「口止めな。よろしくー」
タールはまた荒れた町に足を向けた。
僕も追っかけなくちゃな。
でもその前に、
「情報ありがとうございます」
おじさんに頭を下げてからいった。
後ろから、
「ああ、元第三王子さんか」
と聞こえた気がする。
太陽はもうてっぺんまで登っている。
昼になり横の道にいる物乞いたちも増えてきた。
「まず、適当な装備でも買おうか」
タールが唐突に提案してきた。
「え? 良いけど、国家代行者の装備よりいいものなんてあるか?」
「いや、僕はこの慣れている装備の方がいいし、ここにはこれ以上の装備は売ってないけど、メクルはね」
タールはチラリと僕の装備を見た。
僕も自分の装備を確認。
ふふん。某ゲームで旅人の服と呼ばれているようなものをきているぜ!
剣は苦手なので武器はショートナイフのみ。
「僕のか……分かった」
苦笑いしてしまう。ん?タール君も苦笑いしている?
宿屋やギルド、店などが多くなるにつれて、物乞いたちも減っていった。
「忌子が魔術使えたら厄介だね」
タールは鎧やローブを見繕いながら呟く。
魔術とは錬金術てエネルギー操作を融合した新技術だっけ。
「魔術か。アトラクト大陸の南端に魔術の町ってのが有るらしいよ」
いつしか王城で家庭教師に習ったことを自慢げに言ってみる。
ふふん。
「あー! 知ってるよ。俺もいつか行ってみたいな」
お、おう。
なんだかショックだ。
「ん! メクル。これいいんじゃない?」
赤いスカーフに青いコート、黄色のズボンに緑の靴。
却下だ。
僕は無言で、無表情で、タールの手からそれらを取り元の棚に戻してくる。
ん、このスカーフいいかも。
そして何事も無かったかのように適当な物を選んでくる。そして購入。
赤いスカーフ、茶色の何かの革で作られたコート。動きやすそうなズボン、足が疲れないという靴。
合計金貨一枚、銅貨三枚ふぉう!
「よし、買えたよ」
満面の笑みだぜ!
「え、なんで戻しちゃったんだよ」
「いや、なんでってコーディネートがボロボロだよ。道化かよ!」
「うー、そこまで言うか。でもスカーフのセンスは良かったのかね」
「返品しようか」
「それ、俺の見立てでは昔魔王と勇者が戦ったとき魔王側についた暗黒騎士の治めていたブルーム大陸に住んでいた何でもない小農民の元に誕生した少年が暗黒騎士を潰すために作り出した反暗黒騎士団に属していた……」
「もう、分かったよ」
あまりの鬱陶しさにこの僕ですら耳をふさいでしまったよ。
耳を塞げばって言うし。
「……の吸血鬼の持ち物なのさって話聞こうよ」
タールは拗ねているのだろうか。
一応僕より年上なくせに。
仕方無いので僕はあからさますぎるが、機嫌を直してもらうことにした。
「武器、どうしようかなー」
「選んであげるよ」
光の速さで立ち直りました。
「うーん、メクルは剣苦手なんだよね……」
と言っているくせに重そうな剣を振り回し、これくらいなら軽くていいかな。なんていっている。
僕はと言うと店の端っこにあった特殊効果付与武器を眺めていた。
ポイズンダガー。ふーん毒か。
はやぶさの剣。だめだ。
マジックサック。エネルギー操作、錬金術を稀に無効化にする。金貨三十枚って高いな。
勇者の剣……のレプリカ。要らないな。
剣剣ステッキ。ネーミングはあれだが、持ち主の考えにあった形状になるらしい。
ゆっくり一つ一つを物色しているとあの男がやって来た。
「これいいんじゃない!」
子供の練習用の剣のようだ。馬鹿にしているのかな?
「子供用か?」
「え、なんで怒ってるの。まあいいや。これはかなり軽いけど相手が帯びるエネルギー、物質生成力が強ければ強いほど一太刀の威力が強くなるっていう剣さ」
刃が丸出しのまま放ってくれました。
危ないだろ!と言おうと思ったがあまりの剣の軽さに驚いた。
「軽い……」
そのまま素振りしてみる。剣自体は軽いのでヒュンヒュンと言う音がした。
「ヒュンタ」
突然タールは訳のわからない言葉を発した。
「何?」
「だからヒュンタ。剣の名前だよ」
「ああ、名前自分でつけたかったか?」
「武器に名前なんて付けるの?」
「語弊があったかな。その剣の銘だね」
銘か……随分適当なネーミングだけど……。
「よろしくな。ヒュンタ」
少しヒュンタが輝いた。
「そろそろ酒場に冒険者達が帰ってくるはずだ」
「そっちについてはメクルの方が詳しいと思うからメクルについて行く」
といってからはや二時間。
あの時沈み始めた夕日は今では欠片も見えない。
月が出ている。
周りの店は随分と派手そうな物が多い。
「ねぇ、メクル。見つからないんだけど」
「うう、そうだな」
僕は普段あまり鍛えていないのできつくなってきた。
タールは涼しい顔をしている。
ズルズル重たい足を引きずっていると、見覚えのある人物に出くわした。
「おっ! タールの坊主にメクルさんじゃないか」
情報屋のおじさんだった。
「早く宿帰らないと盗賊に身ぐるみ剥がされんぞ。まあ、代行者が居たら返り討ちされるから誰も狙わんだろうが」
そういえば、今日は初日と違い狙う目線を全く感じなかった。
代行者さまさまだ。
「こんばんは。突然で申し訳ないですが、この辺に酒場ってありませんか」
「何言ってるんだ? いい女がいる所の間違いだろ?」
「いえ、女じゃなくて酒場です」
「おい、タールの坊主。なんでこんな所にいるんだ」
おじさんは困った顔をして尋ねる。
「え?何故って酒場探しに決まってる」
タールは訳が分らないと言った顔をしている。
僕だって分からないよ。
「気づいてないらしいから言うけど、ここは風俗街だぞ?」
「はぇっ!」
タールも唖然としている。
「ちょ、ど、え」
「酒場は宿泊街と商店街にしか無かったはずだぞ」
タールは僕を引っ張りながら、いや、引きずりながら
「ありがとう」
と言った。
「ありがとうございましたーーー」
僕もちゃんとお礼をした。
礼儀はちゃんとしているよ、僕も。
「もうはいってくるなよー。大人になったら紹介してやるからな」
おじさんは踵を返していった。
宿泊街に着いた。
だいぶ夜も更けてきているが、これからが酒場の時間だ。
少し歩くとユウバリという酒場があった。
「メロン?」
「何言ってるのメクル。それよりやっと見つかったんだし入ろうよ」
タールに促されて僕らはユウバリに入った。
そこは僕の知っているような酒場だった。
ギルドで受けた依頼や、力試しに秘境を冒険してきた者たちが酒を呷り冒険話に花を咲かせる場所。
「やっぱ酒場の雰囲気はいいね」
僕は適当な席に腰掛ける。
タールは彼らをもの珍しそうに見てから席に着く。
「メクル、ここへ来たのは情報収集のためだからね。お酒の飲みすぎでぐでんぐでんになっても知らないよ」
「分かってるよ。んじゃ僕はその辺のグループにでも交じってこようかな」
「はいはい。いってらっしゃい」
タールに見送られ席を立った。
茶髪の二十代位の男性が大きな身振り手振りで示す。
「それで竜王は強かったよ。ホント金がかかっても魔術師は入れておくべきだ。転移ができなかったら俺ら死んじまってたよ」
「魔術師ですか。やっぱり時代は魔術師なんですかね」
僕はとあるパーティーに交じって会話をしていた。
「分かってるなあ。坊主」
「僕も出来るようになりたいですよ。魔術」
魔術師の少女はジュースを飲んでいる。
「あなたでも、できる」
「ははは! 応援してほしいですね」
彼らのパーティー名は「リミットブレイド」と言うらしい。
メンバーは身振りの大きいリーダーの剣士、ルーズリー。
魔術師の少女、ミッシェル。
トイレでもどしている戦士、ランドルフ。
どこか別のテーブルにいるらしい錬金術師、メル。
ミッシェルの横で寝ているエネジニア、ユリーヌ。
の五人編成らしい。
「あ、そういえばルーズリーさん知ってますか?」
「へ、このルーズリー様が知らないことなんて無いわ!」
ルーズリーは胸をバンバン叩いている。分厚い胸板だこと。
「ルーズリー、いちばん、しらない」
ミッシェルはユリーヌの髪の毛を逆毛にしながらぽつりと言う。
「ミッシェルよー、お前水差すなよ」
「水差してない、しんじつ」
ルーズリーはミッシェルの頭をぐりぐりした。
それから、こちらに向き直る。
「んで、メクルは何が知りたいんだ?」
「この街に水色の髪の少女がいるじゃないですか。その子の居場所とか知りませんか」
単刀直入に聞く。回りくどいやり方をしても、きっと理解してくれないだろうし。
ルーズリーは顎に手を当て少し考えていたようだが
「んー、あの忌子のことか。俺はあんまり知らねえな。すまない」
ですよねー。
「あはは、謝らないで下さいよ。なんだか変な気分になるんで」
「わたし、知ってる」
僕が急いで機嫌を損ねないように言葉をつないでいると、ミッシェルがこちらを見て言った。
「ギルドで聞いた。町から出てすぐにある、森林の洞窟にすんでるって」
「本当ですか!」
「わからないけど確率はある」
僕はこの酒場で顔見知りを作ることと有力な情報の確保に成功した。
「それは、パーティーみんなでいる時だった。ルーズリーも、聞いてた。だけど忘れてたの」
ミッシェルはしれっと言ってはならなそうなことを言った。が
「しゃーねーだろ。俺は頭より体だからな」
腕を振り回して笑った。
寛大な心をもっているんだな……
感心感心。
「そろそろ僕帰ろうと思います」
そのあとしばらく話してから席を立つ。
「おう、そろそろ坊主は寝る時間だ。森林の洞窟行くんなら気を付けろよ。一応あそこも秘境だ」
「わかってます。少女を見つけて、魔導石でも持って帰ってきた日には祝いでもしましょう」
「ふ、待ってるぜ。三日くらい」
よし、期待に応えて三日以内に片付けてやる。
新品のスカーフをしめなおしてタールの元へ戻った。
タールの居た席に帰ってくる。
なんだか様子がおかしいぞ。
「タール大丈夫? べろんべろんだけど」
顔が真っ赤になっている。
「う~ん。だいじょうぶ~一気飲みたいかいにさんかしただけー」
耳も赤い。
「おい、タール。一気飲みダメ。絶対。だろ」
タールを担ぎ上げ店を出る。
お金払ったよ。
泥棒じゃないからね。
森林の洞窟にいるかもしれないって話は、明日しよう。
今話しても多分無駄だ。