第八話「賢者のクリスマス」
第八話「賢者のクリスマス」
コンビニ「長崎屋」を経営する高木国男さん、五十八歳。
通称、長崎屋国兵衛 (くにべえ)。若いころは長崎に住んで
いたそうで、その思い出から滋賀県なのに「ながさきや」
なのだそうだ。色が黒くて、ほほになぜか深い傷跡があり、
笑うと「凄み」があって、時代劇の悪徳商人のように見え
るので、時代劇風に長崎屋国兵衛というアダ」名がついて
いる。
この国兵衛が俺と桃ちゃんがクリスマス・イブのとある
午後、喫茶店でカフェラテを飲み、プレゼントの交換をし
ようとしている時に、「みーつけ」などと幼児のようなこ
とを言いながら乱入してきたのだ。
「国ちゃん、今日はお店の稼ぎ時じゃないの。こんなとこ
で油売っても仕方ないでしょ」
桃ちゃんが注意すると、
「遅い昼飯食べて、店に戻ろうと歩いてたら、お二人の姿
がみえてね。こりゃ、邪魔するっしかないっしょ」
と今度は、あと二年で還暦のくせにえらく若い言い方を
した。
「国兵衛さん、せっかくクリスマスプレゼントの交換会を
してるんだから、邪魔しないでくれよ」
俺が言うと、
「まぁ気にするなよ、メタボン。私もさっきバイトの女の
子からプレゼントをもらってね」
と俺の横に座ってポケットからマッチ箱くらいの大きさ
の丁寧に包装されたものを取り出して、乱暴に包装紙を破
ると、でてきた小箱から中身を取り出した。
ネクタイピンだった。
「良いのもらったね」
桃ちゃんが声をかけると、国兵衛は気難しい顔になって
独り言のように言った。
「贈り物は中身が問題ではない、大切なのは贈り主の心だ
と聞き飽きたようなことを、みんな言うが、大間違いだ。
私は五十八年生きてきて、けっこう若い奴らをバイトで使っ
ているから、クリスマスにはいろんなものをもらうが、そ
の場しのぎで買ってきたような物ばかりだ。このピンなん
て五百円で桃ちゃんがレジしてる安売りの店に売ってるよ
ね」
桃ちゃんは頷いた。
国兵衛は憎憎しげに言った。
「むかつくような贈り物をするものだ。私が五百円で喜ぶ
と思っているのか。贈り物は心だなんて大ウソだ。贈り物
は「中身」なんだよ。もし相手に真心があるなら、相手を
見て、それなりの品物を考えて贈るはずだよ。こんなクズ
くれやがって・・・・・・。まぁいいか。桃ちゃんとメタ
ボンには関係ない話をしてごめんな」
そういうと勝手に千円をテーブルに置くと帰っていった。
俺と桃ちゃんのカフェラテ代をおごってくれたわけで、
桃ちゃんが、
「国ちゃん、ありがとう」
と店を出かけた国兵衛に声をかけると、
「オウッ」
と軽く手を挙げながら出て行った。
出て行く時に、店のゴミ箱に、さっきのネクタイピンを
捨てていった。
「国ちゃん、寂しいのかも」
桃ちゃんは、国兵衛の贈り物に対する傲慢な考えに、ム
カツクどころかそんな発言をした国兵衛の心の「乾き」を
心配した。
俺は、
「いやな野郎だ」
で終わった。
そのあとはプレゼントの交換会。
俺は、三千円のサンダル。冬にサンダル贈るかよだが、
桃ちゃんの要望だから仕方がない。桃ちゃんからは、桃ちゃ
ん自身が編んだ毛糸の帽子だった。
桃ちゃんと別れたあと家に戻ったが、国兵衛の考えが気
になった。
贈り物は心が大切だが、本当に心があるなら中身もそれ
なりにきちんとしたものを贈るはずだ、という国兵衛の考
えは正論かもしれない。
国兵衛はそれなりの金もあるだろうし、地域の顔役でも
ある。五百円のネクタイピンは屈辱と思えたのかもしれな
い。
だが、贈った本人の五百円の価値が、国兵衛の五百円の
価値と同じとは限らない。もしかしたら国兵衛の一万円の
価値と同じかもしれないのだ。そうなると、心と中身は比
例するという国兵衛の理屈も怪しくなる。
借金してまで、クリスマスプレゼントにカネをかけるひ
とはそういない。
クリスマスとは、イエス・キリストの降誕(誕生)を祝
うキリスト教の記念日である。「神様が人間として産まれ
てきてくださったこと」を祝うことが本質である。十二月
二五日がこれに当たるが、昔の暦では日没を一日の境目と
しているので十二月二四日夕刻から次の日の朝までをクリ
スマス・イブとして祝う。
新約聖書では、イエスの誕生時にやってきてイエスを拝
み、黄金などを贈り物としてささげた東方の三博士 (と
うほうのさんはくし)が紹介されているが、三賢者とも言
われる彼らがクリスマスに贈り物をするという習慣の起源
になっている。
彼ら賢者は、黄金をささげてイエスへの贈り物としたが、
それを天空から見ていた神様は、別に贈り物の中身など気
にしなかったであろう。神様がカネに汚いとか、物欲まみ
れになっているとか聞いたことがない。
ということは、クリスマスの贈り物はもともと宗教的な
もので、別によほどの失礼にあたらぬ限り、神様だって怒
るような贈り物をしない限り、金銭の多寡に関係なく贈り
物はしてよいことになる。
国兵衛にネクタイピンを贈ったバイトの子は、きっと国
兵衛のことを真面目にイメージして、喜んでもらおうと、
財布から五百円を出したはずである。なにかしら相手に喜
んでもらいたいという気持ちが、贈り物にこめられた贈り
主の「こころ」だろう。
ここまで読んでこられた人なら、桃ちゃんが俺にサンダ
ルを「要望」したことは、物をせがむ行為で、贈り主の心
を無視したもののように見えるかもしれない。
桃ちゃんがプレゼントをリクエストしだしたのは七年前
からだ。
その前の年のクリスマス。
ホテルの鉄板焼きの店で食事をして、それから喫茶店で
コーヒーを飲みながら、同時にプレゼントを出したところ、
なんと俺が文庫版の四九八円の「星の王子様」、桃ちゃん
が大型版の千七百円の「星の王子様」を出したのだ。
お互いに笑いあって店を出たがその時、「来年から桃ち
ゃんはリクエストしてね」と俺が言ったのだ。
桃ちゃんの車で帰るために、俺たちは店の駐車場にむかっ
た。
その夜は、トナカイが凛として駆け抜けて行きそうな冴
えわたった夜空に、満天の星が輝いていた。
第八話終了




