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束の間の休息…

「はい、これ、坂倉さんの分ですよ」

「………ありがとう」


一言だけお礼を言って、看護婦さんから、今日の分の配給を受け取る。


俺は今、病院のロビーの座席に座っていた。

格納庫で数日が過ぎた後、地下のシェルターに避難していた人達が、病院内の泥達の有無を確認した後、各シェルターを回って助けてくれた。


だけど、俺は助けられた自分の命をどうすべきか、これから何をしたらいいのか、わからなくなっていた。

あのおっさんは大切な奴なら何がなんでも探し出せと言っていたが、意味はないだろう。

生き残っているはずがないのだから。


手にした食料を食べるため、憂鬱な気分のまま屋上へと向かう。


そういえば、さっきの看護婦さん、格納庫で手当てしてくれた人だったな…

まだ、あの時手当てしてくれたお礼、ちゃんとしてないや…


配給を食べた後、お礼に行こうかと考え、やっぱり止めておく事にした。


忙しいだろうからな…


本当は別の理由だったのだが、その思考からは目を背ける。

余計な事を考えることをやめ、屋上に出る


屋上では、同じように配給を受け取った人達が食事をしていた。

一人の者や、家族連れの者など様々だ。

だが、その数は少なく、みな同じように重い目をしていた。

俺はなるべくそれを見ないようにして、手すりまで歩き出す。


………コロコロコロ


足下に、ピンク色のボールが転がって来た。

それを拾いに小さな女の子が駆けよって来る。

そのボールを拾いあげ、その子に手渡す。


「はいよ」

「ありがとう」


女の子はボールを受け取った後、とても可愛らしい笑顔でお礼を言った。

その笑顔に、俺は目を反らしてしまう。

女の子は不思議そうな顔で俺に話しかけてきた。


「どっか痛いの?」

「いや、そんな事ないよ」


前を向きなおし、笑顔を作って応えた。


うまく笑えてっかな…


不安に思いながらも、それがでないように気をつける。


「そっか、よかった。ありがとね、お兄ちゃん」


そう言って、女の子はお母さんのもとへと駆けていく。

お母さんから会釈をされ、慌てて返し、手すりへと歩いていく。


手すりにもたれ掛かり、配給のパンを取り出すと、それにかじりつく。

格納庫から出た後は、ここで食事をするのが日課になっている。


ここから見える景色は、凄惨たるものだ。

泥が通り過ぎた後の臼黒い残骸、動物の死骸など様々なものが落っこちている。

倒壊した家屋、乗り捨てられた車に、焼落ちた図書館など、見るに耐えない有り様だ。

正直、見ているだけで気分が悪くなる

なら、なぜこんなところにいるのかと問われれば、なぜだろうな。

自分でもよくわかっていない。

もしかしたら、あの川の先からひょっこり一弥が現れるんじゃないかという希望にすがり付いているのかもしれない。


そんなはずがないのに…


何度も繰り返されてきた思考のループ、その終着点、

それは変わることがなかった。


思考を切り替えるためにさっきの女の子の事を思い浮かべる。

あの女の子、笑顔が向井さんに似ていたな…


一度だけ見た彼女の笑顔を思いだし、頭を振って無理矢理その追憶を止める。

これ以上考え出すと、自分が保てなくなると感じたためだ。


くそッ…


食事を終えた俺は、心の中で毒づきその場を去る。





下まできた俺は病院の前にあるテントで、今日の担当となる作業場所を聞きに行く。

何の作業かというと、先ほど屋上から見えた泥やら何やらの残骸の撤去作業だ。

物資は有限であるのだから、いつまでも病院内に籠っているわけにもいかない。

それゆえ、危険をおかして街中の使えそうな物や、食べられそうな食料を瓦礫の下からかき集めているのだ。


午後になると動ける人間はこのテントまで来て作業場所に振り分けられる。

それがここで配給を受ける為の条件なのである。

勿論、女性や子供もいるので、他にも作業はある。

物資の運搬や小さい子供の世話、病人の看病など様々だ。

一応希望も聞かれるが、特に希望もなく、いつも割り振られる撤去作業を坦々とこなしていた。


あの日以来、泥達はやって来ていない。

何かしらの原因で死んだのか、それとも、他のところに移ったのか、皆目見当がつかないが、いなくなったのならそれでいい。

そのおかげで、病院の外での活動ができているのだから。


あれは結局なんだったんだろうな…


考えても仕方が無いことだと、頭から追いやる。

泥達がいなくなった生活が始まり、すでに一週間程経過している。

今も警戒はしているが、以前よりピリピリした感じが薄くなっている気がする。


一部の人達は絶対にまた襲ってくると言い張り、シェルターの近くから離れようとしないのだ。

それで作業もせず、配給を寄越せと言うのだから冗談じゃない。

まぁ、そんなのにいつまでも構っていられるほど、物資も心も余裕はないので、今では放置されている。


「あ、坂倉君。今日の君の担当場所はここから川沿いに上って行った先にある図書館だよ」

「……図書館なんかに食料なんてあるんですか?」

彼処(あそこ)は食堂なんかもある大きい所だからね。

……それに、本があれば子供達や動けない人達の気が紛れるだろうしね」


成る程…


少し寂しそうな顔で教えてくれたおじさんに、ありがとうございます、行ってきますと言い、図書館へと歩き出す。


本当に酷いな…


道路は車が通れるように、ある程度は片付けられているが、

全てに手が回るはずもなく、泥や動物の死骸が残っている。


さすがに、人のものはないか…


人の遺体は全て、病院から少し離れている葬儀場の近くに集められている。

数があまりにも多く、ほとんどの遺体が誰のものか判別もつかないため、街の復旧作業が進み、落ち着いた後まとめて焼いて弔うのだと教えてもらった。


おっさんもちゃんと成仏させてやりたいな…


自分を犠牲に、俺を助けてくれた院長もあの中にいるだろう。


ホント、勝手なおっさんだよな…


格納庫の中で俺が目覚めてから、地下の人達に救出されるまでの間に、あの看護婦さんから少しだけ院長の話を聞いた。

なんでも、数年前に、あの川の近くで通り魔に息子を殺されたらしい。

その時一緒にいた院長は、息子を助けることができず、自分だけ助かった罪悪感から休憩や食事をするときなど、いつも一人で川の近くに行っていたのだとか。

それで俺が流されて来たのを発見したそうだ。

俺の救命をした後も、休憩時間なんかを使って、必死に俺の看病をしてくれたらしい。

理由を聞いたら、院長の息子も生きていれば俺くらいの歳になっていただろう、これも何かの縁だと、真剣な面持ちで言っていたと、看護婦さんは優しい顔で笑っていた。

だが、その瞳の奥に哀しみを見てしまった。

あのおっさんはみんなに好かれていたらしい。


そんなおっさんを俺は…


誰かを助ける力も、守る力も、治す力もない俺なんかを助けて死んだ。


あんたが生き残ればよかったのに…


助けてもらっておいて言えたことではないが、どうしてもそう思わずにはいられなかった。





しばらく歩き、図書館に着いた俺は、そんなどうしょうもない感情を脇に置いた。

入り口の前にいた土方姿のおっちゃんが、此方(こちら)に気づき、俺を呼ぶ。


「お、今日は坊主か。早くこっちこい」


近づいていくと俺以外にも、何人かの人が集まっていた。


「これで全部だなぁ。よし、それじゃぁ、そこにある軍手とヘルメットをつけろ。ちゃんとしろよ!なんかあったときの命綱だからな!」


おっちゃんが威勢よく言うと、俺達はそれに従い動き始める。


「とっとと動けよ。時間は限られてるんだからな!」


そのまま中へ入り、一人作業を開始する。


うっせぇな、あのおっさんとか、隣のヤンキーがぶつくさと呟いている。

やはり、全ての人が協力的にやっている訳ではないのだろう。

それはある意味仕方が無いことなのかもしれない。

だが、どうしても、こんなやつより一弥やおっさんが生き残っていて欲しかったと思ってしまう。

そんな事を考えていると、ふと、そのヤンキーと目が合う。


「あん、なんだてめぇ、文句でもあんのか?」

「……いや、何も」


ヤンキーが睨み付けて来るが、おっちゃんから、また声がかかる。


「おい、さっさとしろ!」


おっちゃんはそう言うと、これだから最近の若いもんはと口にしながら作業に戻る。

そんなおっちゃんに毒気を抜かれたのか、舌打ちをして、他の人達に続いて中へ入っていく。

俺も他の人達の邪魔にならないように、中へ入り、作業を開始する。



やっぱ、きついな…


作業を開始して数時間、体に力が入らなくなってきている。


「よし、それじゃぁ、休憩だ。

各自やすむように。

ただ、遠くへは行くんじゃねぇぞ!」


おっちゃんの声にみんな手を止める。

疲れたなどの声を、口にしながら休憩に入る。

俺も休憩しようと、集めた物資の前を横切り外へ出ようとしたとき、1つの新聞に目が止まる。

おっちゃんに読んでいいか確認し、それを手に取って外へ出る。

一人になった俺は、破れないよう気を使いながら、新聞を開く。


やっぱ、読めないか…


かなり傷んでいた新聞は文字を読むことができないほどだった。

そんな新聞に俺が気になったのは、1つの写真が目に入ったからだ。


これ、あの珠だよな…


白黒のため、色までは判別ができないが、十中八九、親父のお土産である、蒼い珠とおなじものだった。


あの珠、やっぱ川に落ちた時、流れてっちまったんだよな…


俺を看てくれた看護婦さんに確認したところ、川から引き上げられたときには、すでに持っていなかったそうだ。


あれがあったら、おっさんのこと、助けることができたかもな…


もう終わってしまったことに、思考が沈み始めたとき、それは聞こえてきた。




「奴らが来たぞーーーーーッッッ!!!」




………世界は再び、地獄と化す

お読みいただきありがとうございます。

次回は主人公が頑張ります。

多分、頑張ります。

応援したってください。

ではまた。

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