始まる地獄… (2)
ぎゃぁぁぁぁァァァ!!
眠りについた俺たちのもとに悲鳴が届く。
「なんだよ、今の声!」
飛び起きた俺におじさんが声をかけてきた。
「今のはグランドの方から聞こえてきた。おじさんはちょっと様子を見てくるから、君たちは保健室の方へ行って、先生達と合流してくれ!」
そう言って、おじさんは駆け出していく。
「一弥、行くぞ!」
「いや、まだ朝じゃねぇし…ふへっ、スクミズ…」
こんなときに、すっげー嬉しそうな顔で寝てんな。
見てたら無性にムカついてきたので、全力のチョップで起こして、俺たちは保健室へ向かった。
保健室にいくと、先生と女子二人はすでに目を覚ましていた。
一ヶ所に固まっていた先生達のところへ駆け寄っていく。
「優斗君、一弥君!おじさんは?」
先ほどの悲鳴が聞こえた後、おじさんが俺たち二人に此方へ行くように指示を出し、おじさん自身はグランドの方へ向かったことを伝えた。
「では、私たちは動かずに待機していましょう。何かあってもいいように窓の鍵は開けておきましょう」
「せ、先生…、何かって、何ですか…?」
怯えきった様子で髪の長い女子、向井 奏が尋ねた。
大丈夫よと、先生ともう一人の女子、小林 茜は彼女を落ち着かせている。
しかし、先生の顔には緊張の色が伺える。
「俺、様子を見てきます」
一弥が、そう言い出して、先生の静止も聞かぬまま飛び出していく。
「お、おい、一弥!」
「優斗は先生達のそばにいろよ!女だけじゃ、何かあったときやばいかんな!!」
などと、勝手なことを言いながら、グランドの方へ行ってしまった。
チッと、舌打ちをして掃除用具のロッカーへ近づき、箒を取り出し、毛の部分だけを外す。
「ひ、優斗君、一体何を?」
「用心のためです」
言葉だけで返し、ドアに半身になって顔だけを出し、外の様子を伺う。
正直、もしあの泥襲ってきたのだとしたら、こんなものでは駄目かも知れないけれど、無いよりはマシだろうと考えた。
それから少しの間沈黙が続く。
誰も口を開かぬまま、時だけが過ぎて行く。
緊張に耐えかねて、先生に声をかけようとした瞬間…
うわぁぁぁぁァァァ!!
グランドの方から、一弥の叫び声が聞こえてきた。
「一弥ぁ!!」
そう叫びながら、俺はグランドへ駆け出していた。
グランドへたどり着くと、そこには尻餅をついている一弥と、巨大な塊があった。
「な、なんだよ、これ」
「お、おじさんが…」
一弥の指し示す方へ目を向けると、巨大な塊からおじさんの腕が出ていた。
「お、おじさん!!」
おじさんを助けようと駆け出そうとした瞬間、塊の中から出てきた目玉を見て、足が止まってしまう。
その目玉も俺を見て、嘲笑の目を向けてくる。
「ひ、優斗…、これって、お前が言ってた…」
一弥の言葉を遠くに聞きながら、立ち尽くす俺。
頭は逃げろと警鐘を鳴らしているのにもかかわらず、全く体が動かない。
塊が動き出す。
ぐにょぐにょと蠢いていた塊は複数の小さな山へと分裂した。
これ、あの泥が集まってたのか…!?
10体前後に分裂した泥達はニヤニヤとした目を向けて、近づいてくる。
「優斗!!」
いつの間にか俺の後ろにいた一弥に肩を掴まれ、全身の感覚を取り戻す。
「走れ!!」
一弥の言葉に従い、全力で走り出す。
怖い…
さっきまではおじさんがどうなったのか気になっていたが、今はそんなことを気にする余裕が無くなってしまった。
いや、とてつもない恐怖が俺を支配していたため、ここから離れることしか頭になかった。
不意に隣で走る一弥が叫ぶ。
「此方だ!」
反射的に一弥のいる方へと体を動かす。
びゅッ!べちゃッ!!
さっきまで俺のいた所へ泥が降り注ぐ。
「くっそッ!」
徐々に迫ってくる泥達に焦りを感じ、悪態をつく。
校舎に入ると保健室とは反対の方へと駆け出す。
「優斗!俺が引き付けるから、お前は回って保健室へ行け!!」
そう言うや否や、一弥は反転し、泥達の近くにある階段を上っていった。
泥達のほとんどは一弥の方へと向かったが、2体ほどこちらを追ってくる。
このまま保健室へ行くのはまずいと思った俺は、開いていた窓から外に出て、泥を撒くことにした。
木の隙間をくぐり抜けながら、走り続けようやく泥が見えなくなった。
「ハァ、ハァ、ゥクッ。撒いたかな…」
荒い息を整えながら、後ろを確認する。
泥は追ってきていないようだ。
気付かれないように背を低くしながら、学校裏の森を保健室へと移動する。
外から保健室の窓を叩くと、先生達がビクッと体を震わせた。
向井さんが声をあげそうになっていたので、慌てて自分の口元に指をたてると、先生と小林さんがわかってくれたようで、すぐに向井さんの口を塞いでくれた。
開けてあった窓から入り、小声で今の状況を説明する。
(木の隙間を通って、学校の裏から山を降りて下さい
)
(あなたはどうするの、優斗君?)
(俺は一弥の所へ行って、二人で、ここから離れます)
俺を行かせたくないようで、渋い顔をしていた先生だが、あまり足は速くないようで、俺に任せてくれた。
(なるべく腰を屈めて頭をあげないように。暗いから足下に注意してください)
彼女達に気をつけるよう言い、すぐさま一弥の所へ向かう。
そういえば、森の中で箒落としちゃったな…
ある程度落ち着きを取り戻した俺は自分の手から箒が無くなっていることに気づく。
一弥の所へ向かう途中にあった掃除用具から、再び箒を手に取る。
こんなもん、通用するとは思えないけどな…
ぶっちゃけ何ももたずに、あの泥達の所へ向かう勇気が持てなかっただけだ。
役に立ってくれるといいけどな…
そんなことを思いながら、再び一弥の所へ走り出す。
廊下を曲がった向こうから、何かが動く気配がしたため、壁に張り付きそっと顔を出す。
泥…、だけか…
一弥は何処だろうと、廊下の奥を見回すことに夢中で、俺は背後から近づいてくるものに気がつかなかった。
がッと肩を掴まれ、慌てて振り返り声をあげそうになると口を塞がれる。
(みんなはどうした?)
一弥だった。
(…脅かすなよ)
(わり、けど、そんなことよりみんなはどうした?)
一弥の質問に答えた俺はすぐにここから離れようと提案する。
一弥も同意し、警戒しながら階段を降りることにした。
階段を降りた所で、一弥が問いかけてきた。
(お前、携帯持ってないのかよ?)
(そういえば、家に置いてきちゃったな。でも、何でだ?)
そう聞き返した俺にしかめっ面をする一弥。
(携帯持ってると思ったから二手に別れたのにさ、出ねんだもん)
一弥の的外れな言葉に頭痛がした俺。
(お前…、俺がもし携帯持っててサイレントにしてなかったら、どうなってたと思う?)
その問いに数秒考えた一弥は、サッと青い顔になり、両手で俺の肩を掴んでくる。
(携帯、持ってなくてよかったな)
(アホ)
そう言って、一弥の手を振りほどき、再び辺りを警戒する。
泥達は上の階にいるとはいえ、まだ安全とは言えないのだ。
その時ふと携帯に関することで1つ思い出した。
(あ、そういえば、俺がここに来る前に電話してきたか?)
(いや、してないけど…)
不思議そうな顔をしている一弥を横目に、あの電話のことを思い出す。
本当になんだったんだあれ…
その時、俺は話に夢中で頭上に張り付いていた泥に気づけなかった。
「優斗!!」
俺は一弥に突き飛ばされ、俺のいた場所には、一弥にのし掛かる泥がいた。
一弥を助けるために箒で殴りかかるが、泥は意に介さず、箒が触れている部分から泥を絡み付かせ、箒を折ってしまった。
そのまま引きずり込まれそうになり、慌てて手を離し、尻餅をつく。
「うわぁぁぁぁ!!」
「一弥!」
痛みに悲鳴をあげる一弥を見ると 、泥に生えた口から、絵に書いたようにギザギザの歯が肩に刺さっていた 。
「くっそたれッ!どけよッ!!」
焦った俺は泥を殴るが、全く効いていない。
「くッ…、優斗…、早く行け」
痛みに耐えながら一弥が言葉を紡ぐ。
「…ッ!ふッざけんなッ!お前置いて、行けるわけないだろ!!」
怒りに刈られ、泥を殴り続ける。
そんな俺をさすがに鬱陶しくなったのか、泥が俺に向かって一部分だけをつき出してきた。
「ッ!カハッ!」
壁に叩きつけられ、うつ伏せに倒れる。
「…か、ずや…」
痛みに朦朧となりながら、一弥に手を伸ばす。
何で俺は何もできないんだ…
ふッざけんな…
友達1人助けらんねぇのかよ…
くっそ…
自分の無力さに、歯を噛み締める。
ふと、伸ばした手に何かが当たる。
親父のお土産か…
何が御守りだ、何もなんねぇじゃねぇか…
くっそ…
俺が、俺が一弥を助けるんだ…!!
「うおおおォォォあ゛あ゛あ゛ァァァ!!」
俺は蒼の珠を握りしめ 、叫びながら立ち上がる!
「一弥を、離しやがれぇぇぇッッッ!!!」
珠を握りしめたままの手で泥をぶん殴る!
その瞬間、泥に触れた手から蒼い光が漏れる…
ぎぃヤぁぁァァァあ゛あ゛あ゛………
甲高い断末魔とともに、泥が消滅した。
余りの光に閉じていた目を開けると、肩から血を流し、倒れている一弥がいた。
「一弥!おい、一弥!!」
「………、ふっ」
うつ伏せになっていた一弥は…
「はははははは!」
狂ったように笑い出した。
「すっげぇじゃん、優斗!なんだよ今の!?」
笑いながら、喋りかけてくる一弥を見て、
俺は泣きながら笑った…
どうもお読みいただき誠にありがとうございます!!
毎度お馴染みの道楽者です♪
いやぁ前回は長くなって申し訳ありません。
とか言ってるそばから、さらに長くなってしまいました(^_^;)
まぁ、こんなもんでしょ(開き直り)w
いやぁ、ホントすんません<(_ _;)>
これからもよろしくっすw
では、コメントお待ちしております♪
またお会いしましょう♪




