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我が家…

「ここが優斗君のお家…」


奏がぐしゃぐしゃになった家屋中で、ひとつだけ不自然に綺麗なまま(・・・・・)の俺の家を前にして、小さく呟いた。

回りはビルやマンションなどの大きな建物ですら、ボロボロに変わり果てているにもかかわらず、俺の家だけ無傷のままなのだ。

もちろん、壊れずに残っていてくれたのは素直に嬉しいが、同時に、薄気味悪さも感じてしまった。


「偶然…なわけないよな…」


俺は自嘲気味に薄笑いを浮かべながら、そう呟いた。


俺達は今、坂倉という人物の家の前に来ている。

何を隠そう私目の家でございます、はい。

ここに来る事を決めたのは、昨晩、俺が作った夕食を食べ終えた後の事であった。

自分の覚悟とその空振りに、喜ぶべきか悲しむべきかわからず、その時の事を思い出した。






「一弥の言葉通りに、俺の家に行って、色々確かめたいと思う」


夕食を食べた俺達は、一息ついた後、今後の相談をしていた。

俺の提案に二人はすぐに頷く。


…と、思ったら、二人ともなぜか俯いて、顔を赤くしている。


(優斗君のお家…) (優斗の家…)


二人同時にボソっと何かを呟いた。

だが、小声過ぎて何を言ったかまでは、聞き取れなかった。


「どうしたんだ、二人とも?」


俺が問いを発した瞬間、二人はびくっと体を震わせた。(つられて俺も震えてしまった)

そして、顔を真っ赤にしながら、首を全力で横にふる。


「「な、なんでもない!!」」


「お、おう」


吃りまで完璧にハモった。

俺は驚き過ぎてしまい、それ以上何も言えなくなった。

暫しの沈黙が訪れる。


あはははは…!!


突然、蒼が腹を抱えて大笑いを始めた。

俺達は目を丸くして顔を合わせる。

少しだけ間をおいた後―


「「「ぶっ、あははは」」」


俺達は盛大に笑った。


奏が咳き込み少しだけ本気で心配した後、再び話題を戻す。


「俺の家はここからそんなにかからない。

かかっても、30分程度だから」


俺は紙に地図と道順を書いて、二人に説明する。


「へぇー、意外と絵が上手い」


「優斗君って、字も綺麗だね」


予想外の称賛に、少しだけ照れる。


「普通だろ、普通」


なんでもない風を装い、首を横に向ける。

だが、それは悪手だった。

顔を向けた先には蒼がニヤニヤと待ち構えていた。

ばっちり目があった瞬間、その小悪魔は俺を奈落へと突き落とす一言を口にする。


ふっふっふっ、お主、照れとるな…


図星をさされた俺は( 元々、心が読まれているのだから、さされて当たり前だが)狼狽を隠せずグッと、呻き声を漏らす。

目も首も動かしていないが、正面に座っている二人が声を出さずに笑っている事が、手に取るようにわかる。


「と、とにかく、一弥の言ってた事が本当かどうか確かめる。

それから、親父(おやじ)に会いに博物館へ行こう」


俺の言葉に沈黙が生まれた。

その理由を遅まきながら理解した。

だが、俺は自分の提案を引っ込める気はない。

そう決断した理由を、自分の中に探しているとき、茜が沈黙を破る。


「信じるの…?

その、一弥って奴の事…」


茜の言いたい事もわかる。

紅い光の力を使ったという事は、一弥は敵かもしれない。

いくら助けてくれたとはいえ、得体の知れない奴の言葉を信じるのか?

茜が、いや、茜達が言いたいのはそういうことだろう。

正直、俺自身迷っていた。

友達を、蒼を道具だって言う一弥を信じていいのか。

だけど、あいつだって俺の友達なんだ。

だから、俺は…


「信じる」


俺はまっすぐ三人を見て答えた。

三人とも目を見開いて驚いている。

ふっと、三人の肩の力が抜けた。


「それでこそ優斗君だよ」


「だね。

まぁ、馬鹿だけど」


本当に馬鹿だね~…


「ぅぐ…」


自分ではそこまで馬鹿ではないだろうと思っていたのに、茜と蒼には連呼され、奏は否定してくれないなんて…。

結構本気で凹んだ。


「ほ、褒めてるんだよ?」


何故吃りながら、疑問形なのかはわからないが、一応奏のフォローに頷いた。


「そうそう、褒めてあげてるんだから、感謝してよね」


感謝感激で泣き崩れてもいいんだよ…?


とりあえず、奏のフォローは台無しだ。


「お前らはなんでそう…。

とにかく!!

明日は俺の家へ行くってことで決まりな?」


三歩進んで二歩横にずれていく会話を強引に前へ進めた。

ふぅと溜め息をついていると、神妙な面持ちで俯いている奏が目に入った。


「何か心配か?

まぁ、こんな行き当たりばったりで、不安にならないはずがないけど」


奏は俺の言葉に対して首を横に振り、一つの懸念事項を口にした。


「…あのね、とっても言いにくいんだけど…、隣の街や、村があんなになっちゃってたよね?

もしかしたら、優斗君の家もあんな風に…」


奏の言葉はしりすぼみになって、保健室はしーんとした空気に包まれていた。

奏の言ったことは本当に有り得るというか、十中八九そうなっている可能性が高い。

自分でもそうだろうなとは思っていたが、できるだけ考えないようにしていた。

自分の帰る家がないなんて、誰も考えたくはないだろう。

だが、奏はあえて口にしてくれたのだ。

何かの手がかりがあるにしても、家が倒壊していては、探すだけで一苦労となると。


「ごめんなさい。

私…」


俺は咄嗟に手を前に出して、奏の謝罪を止めた。


「謝る必要なんかないよ。

確かに家が崩れてた時の事も考えとかないとな」


俺は自分の不安が二人に伝わらないように、無理矢理笑顔を作った。


「とりあえず、もし家が崩れていたら、手がかり探しより先に、その近くで隠れられる場所を探そう」


俺の提案に三人とも了承してくれた。





「で、実際来てみれば、こうなってたわけだが…」


早朝、学校を出発して、一時間弱でついたはいいが、倒壊していると思っていた家が、まさかの無傷である。

肩透かしもいいところだ。

奏と茜も不思議そうな顔で眺めている。


「なんでここだけ無事なんだろうね?」


「本当にねー。

まぁ、無事だったんだからよかったじゃん」


奏の疑問に、茜が笑顔で答えた。

ただ、蒼だけは神妙な顔で、じっと家を見続けている。


「どうしたんだ、蒼?」


俺の問いに、奏と茜も蒼へと顔を向ける。

当の本人は微動だにしないまま、視線もそらさない。

俺達が静かに待っていると、不意に蒼が口を開いた。


ここ、壁みたいなのが張ってある…


驚いた俺達は一斉に振り向き、家を見る。

だが、蒼の言う“壁みたいなの”は見えない。


「本当にあるの?」


蒼を疑っている訳ではないが、自分達には見えないため、代表して奏が問いを投げ掛けた。

蒼はいつもと違い静かに、それでいてどこか厳かな雰囲気をただよわせながら答えた。


ある…

この壁もわたしと同じ…

想いの力でできてる…

でも、優斗が出しているものよりずっとずっと強くて…

それでいて優しい力…

なんでだろう…

懐かしい感じがする…


蒼の説明を聞き、いくつか気がかりなことがあるが、今はとりあえず、ひとつだけは聞いておかなければならない。


「この中に俺達は入れるのか?」


蒼は少しだけ考えて答えを出す。


大丈夫だと思う…

多分だけど、この壁はあの怪物達から家と優斗を護るためにあるんだと思う…


「家と…俺…?」


わからないことが増えていく一方だ。

何故、俺の家にそんなもんがあるのか?

何故、それは家だけじゃなく、俺も護ろうとするのか?

そして、それは誰が張ったのか?


「一弥の言う通りなら、少しはなんかわかるのかな…?」


ふぅと溜め息をついて俺は三人に向き直る。


「それじゃ、上がってくれ」


俺は二週間ぶりに我が家へ帰った。


「ただいまーって、言っても誰もいないか」


玄関から見える廊下には、うっすらと埃がたまっているのが見える。


「うわー、掃除してー」


愚痴を漏らしながら俺はスリッパに履き替える。


「ほら、二人とも玄関の前で止まってないで中入れよ」


そう言いながら、俺は二人のスリッパを用意する。


「ほ、ほら、奏」


「う、うん」


何故か緊張した面持ちの二人は、恐る恐る中へと進む。


「埃っぽいのは勘弁な。

誰も掃除してなかったみたいだし、外に比べたら全然マシだからな」


俺の言葉に奏が慌てて首を横に振る。


「ぜ、全然そんなの気にしないよ。

ね、茜ちゃん」


「そ、そうね。

こんなの気にするほどでもないわ」


二人とも、明らかに挙動がおかしい気がする。


もしかして、日頃の疲れが一気に来てるのか…?


あり得なくはない。

いつ襲われるかもわからない中で、ずっと休める間もなかったのだから。

そう考えた俺は二人にある提案をする。


「なぁ、今日一日はゆっくり休まないか?」


二人がキョトンとした顔でこちらを見てくる。

俺はそれに構わず、理由を説明する。


「今までゆっくりできる時間ってほとんど無かっただろ。

だからさ、一日くらい休んだってバチは当たらないだろ?」


「でも、久賀君が残した手がかりを探すんじゃ…」


「手がかりは逃げたりしないだろ。

だからさ、気にせずゆっくりしてようぜ。

むしろ、俺が休みたい!!」


奏の反論を一蹴して、強引に提案を押す。


ちょっと強引過ぎたかな…?


チラッと蒼の方を見ると、しょうがないなぁという表情で俺を見ていた。


「優斗がそんなにサボりたいんじゃ、今日無理矢理手がかり探しさせてもサボっちゃうだけだもんね。

まったく…。

いいんじゃない今日くらいゆっくりしても」


前半は俺に向けて、後半は奏に向けての茜の言葉。

凄くけなされた気がするが、ここはあえて耐える。

茜の顔が凄く嬉しそうだからだ。

観念したように奏が返事を返す。


「じゃぁ…、今日はお休みで…」


本当は奏もゆっくりできると聞いて、嬉しかったのだろう。

努めて出さないようにしているが、表情が緩んでいる。


「じゃぁ、今日は一日お休みで決定!」


「「やったー!」」


二人が嬉しそうに今日の予定を話しているのを見て、休みにしてよかったと胸を撫で下ろす。

ふと、二人の会話が止んだ。

二人ともこちらへ向いて気を付けをしている。


「優斗君、お世話になります」


奏の言葉を合図に、二人が一斉にお辞儀をした。


「や、やめろよ、仰々しいな」


「それじゃ、お邪魔するね~」


俺の狼狽をよそに、茜が何事も無かったように内に上がった。

そして、俺の横を通りすぎようとしたとき、小声で囁く。


(エロ本探しはしないから安心してね)


「なッ!!」


片目を閉じながら、舌を出した。


「どうしたの優斗君?」


不思議そうな顔で奏が尋ねてきた。


「な、何でもないから!」


慌てて首を振り、リビングへと進む。

振り向かなくても、奏と茜がそれぞれどんな顔をしてるか手にとるようにわかる。


茜め、覚えてろよ…


いつも通りな感じで始まった一日を、俺達は初めて休日として過ごす。

それはこのあと知る真実を知らない俺達にとって、

とても幸せな事だった…

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