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親友…

「くっは…ふぁ~ぁ」


お早う、優斗…


目を覚ました俺に、蒼が朝の挨拶をしてきた。


「あぁ、お早う、蒼」


久しぶりに柔らかいソファーの上で眠ったため、少し体が軽く感じる。

ソファーじゃ疲れがとれないだろと言う人がいると思うが、

今まで外で寝袋という生活をしている俺にとっては、快適な寝床だ。


なんか、嬉しそうな顔してるね…

いい夢でも見れた…?


「あぁ、そんなとこ」


俺は起き上がり、奏と茜が寝ている保健室へと向かう。


昨日はいろいろと大変だった。

泥の虎に襲われるわ、Gに出くわすわ、茜怒らせるわで本当に散々だった。

まぁ、その後はあの家族のおかげで、いつもより豪華な夕飯を食べられたけど。


「なぁ、虎倒すいい戦法、なんか浮かんだ?」


だめぇ~、そんなほいほい浮かばないよ~…


俺は上を見ながら、う~んと唸り目を瞑る。


それにしても今日は珍しいね…


「ん、何がだ?」


俺は首を傾けて蒼を見る。


いつもは声に出さないでしょ…?


「あぁ、そっか」


俺は蒼の疑問に一人で納得した。


ねぇ、なんで、なんで…?


黙って歩く俺に、俺の耳を引っ張りながら聞き続けてくる。

俺はどうでもよさそうに言う。

実際、本当にどうでもいいことなのだが。


「今、誰もいないだろ。

だからだよ」


俺の答えはお気に召さなかったようで、蒼はさらに突っ込んでくる。


別に、奏と茜は私のことわかってるんだから、二人の前でも声出して話していいんじゃないの…?


俺はどう答えるべきか暫し考える。

納得するかわからないけど、考えついたことをそのまま言ってみる。


「他の人には蒼の声は聞こえないからさ、一人言言ってるみたいでやなんだよ」


…そっかぁ…


蒼は少し悲しそうな顔をする。

蒼が何かを口にしようとする前に、俺が続きを話す。


「それと、蒼との会話は俺らだけの秘密っていうか、なんかこう、なんて言えばいいかな…。

二人だけで話すのは楽しいからさ。

だから、他の人には聞かれたくないっていうか」


微妙な沈黙がうまれ、俺がまずったかなとか思ってると、蒼が話しかけてきた。


そっかそっか…


さっきとは違い弾んで感じる蒼の言葉に、驚いた俺は蒼の方を見る。

そこには、嬉しそうな顔で飛び回る蒼がいた。


ふふん、優斗は私との会話を二人だけの秘密にしたいんだね~…

なんか乙女チックだね~…


すっごくいいニヤニヤ顔だ。


「うっせ」


そのあとも蒼にからかわれながら、俺は保健室へとゆっくり歩いていく。


保健室に入ると、既に二人は朝食の準備をしていた。


「お早う、二人とも」


お早う…


俺達が声をかけると、二人は顔をあげて挨拶を返してきた。


「お早う、優斗君、蒼ちゃん」


「…お早う…」


奏はいつも通り笑顔だ。

だけど、茜はなぜか不機嫌だ。

俺が訝しんでいると、それに気づいた奏が近づいてきた。


(昨日、優斗君が校長室に行った後、茜ちゃんと女の子が喧嘩しちゃって。

それからずっとこんな感じだから、放っておいてあげて)


俺に耳打ちした後、すぐに朝食の準備に戻った。

茜はかわらず不機嫌なままだ。


全く、小さい子と喧嘩って…


ぷっ、茜もまだまだ子供だね…


俺達の思考に勘づいたのか、茜が睨んできた。

俺と蒼は即座に目を逸らす。


まぁ、奏の言う通り放っておくしかないな…


そんなことを考えながら、俺も朝食の準備を手伝った。


朝食を食べ終わった後、俺は二人にあの家族の居場所を聞いた。


「知らないわよ」


茜はまだ機嫌がなおらないらしい。

代わりに奏が答えてくれた。


「体育館の方で寝るって言ってたよ。

扉が頑丈だから、あっちの方が安全だろうって…。

一緒に保健室で寝た方がいいって、言ったんだけど…」


奏は少しだけ苦い顔をしている。

あの虎達も泥でできていた。

扉の隙間から入り込むのは造作もないだろう。

それに、体育館の二階部分はただの窓だ。

割って入ることもできる。

だが、それは保健室でも同じ事だ。

奏が言ってるのは、俺のそばにいた方がいいという事だろう。

はっきり言わせてもらうと、俺もその方が都合がいい。

まぁ、既にそちらにいるなら、言っても仕方のない事なのだが。


俺達が話をしていると、不意に蒼が羽根をピクつかせる。


優斗…

その体育館の方に何か近づいてる…


今の思考は、二人にも聞こえたらしく、俺と同じ険しい顔をしている。


「二人は校舎裏の川へ行ってくれ」


二人が頷いたのを確認し、俺は立ち上がって体育館へと駆け出す。


体育館へつく前に、剣を出しておこう…


俺の提案に蒼が同意してくれた。


そうだね、前回の事もあるし…


こうして、体育館へ向かいつつ、俺は意識を集中させていく。



▼▼▼



「こっちだよね」


私は走りながら、横にいる茜ちゃんに同意を求める。


「うん、そのはず」


茜ちゃんの顔は強ばっている。

それもそのはずだ。

直接聞いたわけではないが、前回の戦いはかなり苦戦したらしい。

今回もあの家族を護りながらの戦いになる。

それはかなり厳しいかもしれない。


「大丈夫」


表情から私の考えを感じた茜ちゃんが、笑顔をつくって声をかけてくれた。

どう考えても無理矢理つくっている笑顔だが、私はそれを指摘するようなことはしない。


「そうだよね。

優斗君なら、大丈夫だよね」


私は自分に言い聞かせるように返した。

そろそろ川につくはずだ。

私の心は安堵と心配の狭間で揺らいでいる。


ふと、見えてきた川辺に3人の人影を見つけた。


「茜ちゃん、あれって…」


「うん」


茜ちゃんも気づいたらしい。

間違いなくあの家族だ。


「お、君たち。

どうしたんだい?」


女の子が茜ちゃんを見て、女性の後ろへ隠れた。

けれど、今はそんな事に構っている余裕はない。

茜ちゃんもわかっているようで、目線で大丈夫と、合図を送ってきた。

私は男性に昨日の化物がまた学校を襲撃してきたことを簡単に説明した。


「泥は水に弱いみたいなので、絶対に川辺から離れないでください」


私はそう言うやいなや、体を反転し学校へと駆け出す。


「待って、奏!

どこへ行くつもり?!」


茜ちゃんの問いかけに、私は振り返り様に返答する。


「あの人達がここにいることを知らせに行くの!

じゃないと、優斗君はあの人達を探し続けちゃうと思う」


そう言ってふたたび駆け出そうとしたとき、ドォンという音が鳴り響いた。

この音は間違えなく蒼ちゃんを使った音だ。

私はそれを聞いて、いっそう焦る気持ちが膨らんでいく。


「待って、奏。

私も行く」


茜ちゃんも私の後を追って、走り出した。

私達は体育館には誰もいないことを知らせるために、体育館へと向かう。

その矛盾と浅はかさに気づかぬままに。



▼▼▼



「……くッ」


突進してきた虎を俺は剣で受け止める。

光が足りないのか、虎を両断するどころか、傷をつける事すらできていない。

やはり、紅い光を帯びている泥は硬い。


優斗、右から来てる…!


蒼の助言に俺は花弁を動かして、なんとか凌ぐ。

一対一であれば花弁で防ぎながら、光を溜める事もできる。

だが、この虎達はその隙を与えてはくれない。


「このッ…!」



無理矢理剣を振り、虎を引き剥がす。

俺は剣を構え直し、虎達は俺への威嚇を続ける。


今俺は体育館の入り口前で、虎を食い止めている。

体育館の入り口は校庭側と校舎側の二つがある。

ここは、校庭側の入り口に当たる。

俺が食い止めている間に、あの家族にはさっさと逃げてほしいのだが、

知らせに行けるような余裕はない。

となると、俺に残された選択しはひとつだけだ。


「何とかして、こいつら倒すぞ、蒼」


うん、頑張ろう…


俺は三枚の花弁で虎達をそれぞれ牽制し、一枚は自分の身を守るように残した。

その状態で、俺は剣意識を集中していく。

虎達は花弁をかわそうと動き回っているが、俺は引き剥がされまいと追走させる。

そのおかげか、三体とも俺に近づくことはできていない。

だが、花弁を操りながら剣に意識を集中するのは至難の技で、

光が集まる速度はとても遅い。

頭が焼けそうなくらい熱くなるが、それでも俺は何とか意識の集中を深めていく。


もうちょっとだよ、優斗…

頑張って…


蒼の声援を受け、光の吸収も徐々にペースが上がっていく。


「…くッ、これで…」


剣に光が集まりきろうとしたその瞬間―


「優斗君っ」


「なッ!」


体育館から奏に呼び掛けられ、俺は虎達から注意をそらしてしまった。


優斗、前…!!


蒼の声を聞き、反射的に前を向くがすでに一体の虎が目前まで迫っていた。

俺は咄嗟に花弁を動かすが、あっさりとかわされてしまった。


「くそッ」


俺は剣を横にして虎を向かえうつが、俺に当たる直前で虎は止まった。


「なッ!?」


俺が動揺して思考を止めた刹那、背後から強烈な衝撃が俺の体を貫いた。


「がはッ」


優斗…!


蒼が慌てている声が遠くから聞こえる。

奏が青ざめた顔をして入り口で座り込んでいるのがかすんで見える。

その隣にもう一人、おそらく茜が。


「……にげ…ろ…」


俺は途切れ途切れの声で二人に逃げるように促す。

それが二人に聞こえているかすら、今の俺にはわからない。

その直後、俺の期待を裏切るように茜が行動した。


「優斗から離れなさいよっ!」


下に落っこちている石を拾って、虎へと投げつけたのだ。

虎はまるで気にしたそぶりもなく俺のほうへと向かっていたが、うっとうしくなったのか突如方向を変えた。

俺は心の底から恐怖し、口から震えた声が漏れる。


「グッ…、奏…、茜…」


俺の目の前で虎達が二人に近づいて行く。

俺は痛みを忘れて怒声を張り叫ぶ。


「二人に…、近づくんじゃねぇよ…」


いくら声を出しても、体が動かない。

痛みで蒼に力を与えることも出来ない。

俺は床に這いつくばったまま、二人が襲われる光景を見る。

三体の虎が同時に、二人へ飛び付いた。


「やめろッ!」


俺が声を張り上げた瞬間、ガァンという、とてつもない衝撃音が鳴り響いた。

動かしていないはずの、いや、動かせる状態ではないのにもかかわらず、花弁が二人を護っていた。


そして、とても懐かしい声が聞こえた。


「だらしねぇぞ、優斗」


俺は声の聞こえてきた方向へと目を向ける。

そこには、一人の少年が立っている。

俺の口から、その少年の名前が自然とこぼれた。


「…かず…や…」


一弥はいつも通りのニカッという笑顔で俺を見る。


「優斗、これ借りるぜ」


一弥は1枚の花弁へ光を送り始めた。

だが、一弥の突然の乱入に動じていた虎達が、態勢を立て直し、一斉に一弥に飛びかかった。


「一弥、危ない」


咄嗟に声をかけたが、虎達は既に一弥の目前まで迫っていた。

だが、それでも一弥は余裕の表情を崩さない。


「慌てんなよ」


一弥の言葉とともに3枚の花弁が動き出し、虎達の横っ腹にぶち当る。

虎達は三体とも横へ転がった。

それを横目に、一弥は花弁が変化した杖を握った。


「聞いた通りだな。

ほらよ、優斗」


一弥は言葉を発すると同時に、杖に巻き付いていた蛇が俺の手に噛みついた。

蛇から蒼い光が流れ込んでくる。

そして、俺の体の傷はふさがり、四肢に力が入る。


「これでもう大丈夫だろ」


一弥はことも無げに言い放つ。

俺は驚きにうまく思考できていない。


「一弥…、お前…」


「おっと、質問は後だ。

さっさとこいつらやっつけちゃおうぜ。

俺と優斗なら余裕だろ」


一弥の言葉に、俺は虎達へと意識を戻す。

虎達はこちらを、いや、一弥を警戒していた。

俺は1枚の花弁へ光を流し込む。

いつもなら、ここで襲いかかってくる虎達も、先ほどの反撃を恐れてか、動かずにいる。


俺は剣となった花弁を手にとり、虎達へと構える。


「さっきの分は有効なはずだから、さくッと倒しちゃえ。

回りは気にすんな。

俺がなんとかするから」


一弥の心強い言葉に頷き返し、俺は高速で動き出す。


なんだろう、すっげぇ嬉しい…


心から力が溢れてくる…


一弥がくれた光と、俺の中からあふれでてくる光が混ぜ合わさる。

それはとてつもない光度となり、剣と俺自身を覆う。


「うぉぉぉおおおおおお」


雄叫びをあげながら、虎へと近づく。

虎は既に俺のことを捉えられていない。

俺は技名を叫び、虎を粉々に切り刻む!!


「蒼閃・電光石火ッ!!」


一体の虎が完全に消滅した。

俺は残った二体へと意識を向ける。

だが、二体の虎は俺にかなわないとみたのか、奏と茜の方へと近づいて行く。

それでも俺は焦ることはなかった。

何故なら―


「させッかよ」


今は一弥がいるのだから。

一弥は虎と奏達の間に三枚の花弁を移動する。

虎は隙間を抜けようとするが、一弥の方が1枚上手だ。


「そろそろ、いいか?」


「あぁ、オーケーだ」


一弥の言葉を合図に 、


俺は剣に溜めていた光を解き放つ!


「蒼閃・横一文字ッ!!」


蒼い斬撃が虎へと飛んでいく!

虎一体がもう一体を庇うようにして斬撃へと突っ込む。

斬撃に触れた虎は真っ二つとなった。


最後の一体は、真っ二つとなった虎をブラインドにして、赤い泥を飛ばした。

俺は連続で繰り出した大技に、体を動かせずにいる。

しかし、迫りくる泥の弾丸を見ても、不思議と恐怖はない。

今は一弥がなんとかしてくれると、心から信じている。

俺の気持ちに答えるように、一弥は花弁を操る。


「おらよッ!」


泥は花弁に遮られ、俺に当たることはなかった。

虎は怨めしそうな目で一弥を睨んでいる。

体が徐々に動くようになってきた俺は、ふたたび剣へと光を集める。


突如、不思議なことが起こった。

光を吸収していた剣が形を変えていく。


「こ、これ…」


驚きで光の流れを止めようとした俺を、一弥が叱咤する。


「大丈夫だッ!

信じろ!!」


何をとは聞き返さない。

自分を、蒼を、一弥の言葉を、俺は信じる。

剣の刀身に蛇の模様が走る。

それはまさに、杖に巻き付いていた蛇と同じものである。


俺はその剣を持ち上げ、


虎を目がけて一閃する!!


「蒼閃・縦一文字ッ!!」


とても巨大な光の斬撃が虎へと向かって行く。

それは4階まである校舎に迫るほどの大きさである。

虎はかわそうと動き出すが、速度も尋常なものではない。

さらに、虎の動きに合わせて斬撃は進む方向をかえる。

虎はかわせないと悟り、真後ろに走り出すが、もう遅い。

光は虎を包みこみ、跡形もなく消滅させる。

刹那、凄まじい光が学校全体を覆い、あまりの眩しさに目を閉じる。


次に俺が目を開けたとき、そこにいたのは、

抱き締めあってこちらへ顔を向けている奏と茜。

ニカッという笑顔で俺を見ている一弥。

疲れはてたという感じで俺の肩に止まっている蒼だった。


俺は空を見て、一言だけ呟く。


「あぁ、生きてる」


それは心の底からもれた一言だった…。

どうも、道楽者です。

ここまでお読み頂き誠に恐悦至極にございます。

最近、投稿ペースが遅れてしまい、大変申し訳なく思います。

楽しみにお待ちしていただいている読者の皆様、大変申し訳ありません。

1週間は開けないように、努力いたしますので、ご容赦ください。

これからもよろしくお願いいたします。

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