夕日の下で…
珍展開も過ぎ去り、無事に家族の再会を果たす。
「よかった…、よかった」
しきりに呟く男性が奥さんと子供を抱きしめて、涙を流している。
それを見た俺達3人は、互いに顔をあわせて笑った。
奏なんかは涙を溜めていた。
やはり家族の再会はいつ見ても感動するもんなんだなぁと感じた。
よく見ると茜も目尻を濡らしている。
その姿を見た俺は先ほどの半泣きで震えていた茜を思い出した。
仔猫っぽかったな…
ぼんやりと浮かんだ思考に、ちっこいのがお約束をいれてきた。
優斗、ふるふる震える姿にときめいちゃったかな…?
どっちどっち…?
やっぱり奏…?
それとも…
ちっこいのはニヤニヤ顔で、茜をちら見した。
絶対にわかっててやってやがる。
俺がおそるおそる茜の方を見るとそこには…、
いつもの澄まし顔を真っ赤にしている茜がいた。
「あんた、なに考えて…。
ちょっと、お手洗い行ってくる」
茜は猛ダッシュで保健室を出ていった。
「あ、茜ちゃんっ!
待って!」
茜を追いかけて奏も保健室から駆け出す。
再会を喜んでいた3人も、何事かとこちらを窺っている。
俺は何でもないですから、お気になさらずと声をかけて保健室を出た。
蒼、ちゃんと後で茜に謝れよ…
うぅ~、確かにやり過ぎた感はあるけど…
いつもいじり役のため、茜には免疫がないのだ。
知らない人がいる前であれはやりすぎだ。
呆れた俺は煮え切らない蒼に、ちゃんと謝るよう説得する。
俺達だけだったらいいかもしんないけど、知らない人の前でやるのはなしだろ…
だから、茜が戻ってきたらちゃんと謝れ…
……わかったよ…
蒼は珍しくしゅんとしている。
ちょっと強く言い過ぎたかなと思い、俺は言葉を付け足す。
まぁ、さっきのことは俺にも原因があるから、俺も茜に謝るからさ…
うん、ありがとう、優斗…
俺はお礼を言ってきた蒼の頭を撫でた。
いいってことよ…
俺はそう言って、しょぼくれた顔をしている蒼に笑顔を向けた。
それを見た蒼は少し照れながら、もう一度ありがとうとお礼を言った。
それにしてもどこまで行ったんだ、あいつら…
そうだね、お手洗いそこだし…
さっき茜はお手洗いに行くと言って出てったが、トイレは保健室の真ん前にあるのだ。
当然、茜を追いかけていった奏もここにはいない。
「全く…」
まだ、あの虎を倒したわけではない。
この状況で俺から離れられると、万が一の時に対応できない。
なぁ、蒼、あの虎が近づいてきたら、わかるんだよな…
うん、あれは特に強く感じるから…
蒼によると、紅い光は感じる度合いが高まるらしい。
病院に襲撃してきたやつもそうだが、紅い光帯びているやつは段違いに強い。
俺は先ほどの虎達の強さを思いだし、俺は奥歯を噛み締める。
こちらへの牽制。
蒼が感知できない真下からの奇襲。
隙のない連携。
現状、これといった打開策は浮かんでいない。
どうすりゃいいんだろ…
そうだね…
蒼と虎対策を考えながら、俺は二人を探しに歩き出す。
▼▼▼
「茜ちゃん!」
屋上についた私は、空を見上げ立ち止まっている茜ちゃんを呼んだ。
もうすぐ日が沈みそうな空は、綺麗な茜色に染まっていた。
私の呼びかけが聞こえているはずの茜ちゃんは、何も答えずにいる。
「さっきの…」
私が話を切りだそうとした時、らしくない静かな声で茜ちゃんが呟く。
「違うから」
茜ちゃんの言葉を鵜呑みにできずにいると、さらに言葉を付け加えてくる。
「奏が考えてるようなのとは違うから。
私はただあいつが馬鹿な事を言ってるのに、呆れて恥ずかしくなっただけだから」
茜ちゃんの言葉は、まるで、自分自身に言い聞かせているように聞こえた。
さっきの蒼ちゃんの発言は特に深い意味はなかったはずだ。
ただ単に、私達がGに怯えてた姿が面白かったってだけだと思う。
だけど、蒼ちゃんの発言を聞いた茜ちゃんはそうは捉えていなかった。
私の目を見て、とても申し訳なさそうな顔をしていた。
それが何を意味しているのかわからないはずがない。
なのに茜ちゃんは、“違う”と言った。
そういうことではないと言った。
なんでだろう…
茜ちゃんの言葉に、私は自分がイライラしているのがわかった。
「………ずるいよ」
私は自分の口が勝手に動いていると感じた。
茜ちゃんが、ハっとした顔でこちらを見た。
その顔を見て、私はもう自分を止める気はなくなっていた。
「なんで、なんで正直に言ってくれないの?
私に気をつかっているから?
だったらそんなのいらないよ。
茜ちゃんが私に嘘ついて、自分にも嘘ついて、そんな気の使われ方、迷惑だよ!
はっきりと優斗君が好きだって、そう言ってくれればいいのに!」
「ち、違…、私はただ、奏に…」
茜ちゃんが少し怯えた声で言い訳してる。
でも、それは私が聞きたい言葉じゃない。
そんな上部だけの言葉なんていらない。
私は茜ちゃんの言葉を遮って、さらに自分の言葉を、自分の気持ちを言い続ける。
「それを言ったら私が茜ちゃんを嫌うとでも思った?
そんなわけない。
そんな簡単に茜ちゃんを、自分の親友を嫌いになったりしないもん!
私は、茜ちゃんが正直に話してくれない事も嫌だし、私に気を使うのも嫌だ!
けど一番嫌なのは、茜ちゃんがそんなことで私に嫌われるんじゃないかって思う事が一番嫌!
だから、話してよ。
茜ちゃんが本当はどう思ってるか」
私は一息に言いきった。
茜ちゃんは俯いて黙ったまま、何も答えない。
私は自分の気持ちは全て伝えた。
これ以上は、何も言う気はない。
暫くの沈黙の後、茜ちゃんが口を開いた。
「奏の方がひどいよ…」
「え…?」
茜ちゃんがゆっくりと私に対する気持ちを口にする。
私はそれを全て受け止める。
「私にどうしろっていうの?
仮に私が優斗を好きだったとしたら?
そんなの知ったところでどうにもならないでしょ?
それとも、私が優斗を好きだってわかったら、告白して私に見せつけたいの?
もうほっといてよ!
どうせ優斗は奏が好きなんだから、それでいいじゃん!」
涙を流しながら、茜ちゃんは心のうちにあるものを聞かせてくれた。
半ば強制的に言わせたが、私はこれでよかったと思ってる。
これで、私の秘密を打ち明けられるのだから。
「あのね、茜ちゃん。私ね…」
私は茜ちゃんの前で歩み寄り、笑顔を作って秘密を話し出した。
▼▼▼
「本当にあいつらどこ行ったんだよ」
俺は探し疲れて、愚痴をこぼす。
飛び出してった二人を探しに出たのはいいが、これといった当てがない。
なので、とりあえず1階からしらみ潰しに教室を回った。
全部の教室を回るのは、案外疲れる。
最初の方は、こんな教室あったんだという発見もあり、面白かったのだが、正直飽きた。
この階にもいなかったねー…
若干蒼の声もトーンが落ちている。
廊下も突き当たりまで来たので、またひとつ階段を上る。
「あッ…」
階段の途中で奏と茜に出くわした。
「お前らどこ行ってたんだよ」
俺はしかめっ面をして、二人に問いただす。
「ちょっと屋上に涼みに行ってただけだよ」
奏は笑顔で答えた。
なにか二人の様子が少しおかしい。
茜は目が赤いし、奏はどことなく元気がない。
だけど、なぜかそれを尋ねる事は憚られた。
俺が言葉を発せないでいると、珍しく大人しくしていた蒼が謝罪の声を出す。
あの、茜…
さっきはごめん…
蒼の言葉に、奏と茜が顔をあわせて目を丸くしている。
俯いていた蒼が顔をあげると、二人が同時に笑い出した。
「いつも澄まし顔の蒼がすっごいくらい顔してる~」
茜がそんなことを言いながら、笑い続けている。
そ、そんなに笑わなくても…
蒼は凹んでさらに下を向いた。
「ごめん、ごめん。
なんかこう、蒼が凹んでるの新鮮で」
「茜ちゃん、フォローになってないよ。
蒼ちゃん、折角の可愛い顔が台無しだよ」
奏が指先で蒼の頭を撫でた。
奏の後ろから、茜が顔を出す。
「もう気にしてないよ。
まぁ、優斗は少し気にした方がいいかもしれないけど」
ニヤァと顔を歪ませて、茜が俺を見てくる。
「悪かったよ。
反省してますんで、お許しください」
俺は両手をあげて、降参する。
正直、俺が悪いのか?とも思わなくないが、折角蒼が素直に謝っているのだから、今回は俺が折れることにした。
まぁ、この先も俺が折れざるを得ないと思うけれど。
ありがとう、二人とも…
蒼の感謝に二人は、もう一度顔をあわせて笑った。
謝罪を終えた俺達は、保健室に戻った。
そこには、男性しか見当たらない。
「奥さんとお子さんはどちらにいらっしゃるんですか?」
俺と同じ疑問を感じた茜が真っ先に質問した。
「家内と娘は食料を取りに行ってるよ。
ここに来たとき、家庭科室の冷蔵庫を使わせてもらったんだ」
なるほどとは思うが、頼むからじっとしていて欲しいというのが本音だ。
考えても仕方ないので、俺は奏と茜を残して家庭科室へ向かうことにした。
「じゃぁ、俺、見てきますんでここにいてくださいね。
二人もどっか行かないでくれよ」
ん、これ、さっきも言った気がする…
どうでもいいことを考えつつ、二人の了承を得て俺は保健室を出た。
日が沈み、暗くなった廊下は恐怖心を煽ってくる。
俺は慌てて廊下の灯りをつけた。
雰囲気出るね~…
灯りはついたものの、廊下の窓からは薄暗い山と校庭が見える。
それはさっきとは違った恐怖心が芽生える。
案外、優斗はビビりだね…
「ぅグッ…」
調子を取り戻した蒼が、さっそくからかってきた。
「べ、別に怖くないし」
俺は何でもないように取り繕う。
だが、効果はないようだ。
ふ~ん…
ニヤニヤ全開の蒼を無視する。
今日はもう何も起こらないでくれ…
何かと散々な気がする1日にため息を漏らし流しながら、俺は家庭科室へと歩き出した…。




