お風呂…
「奏、最近変わってきたよね」
お風呂の中で、茜ちゃんがそう言った。
「どうせ私は怒りっぽいもん」
散々からかわれた私は、少し…普通に…かなり…拗ねていた。
「ごめんってば、調子に乗りすぎたってば。
いい加減、機嫌直して」
茜ちゃんは少しだけ焦りながら謝っていた。
私はまだ頬を膨らませたままだ。
そんな私を見て、もうというように呆れていた。
自分でからかってきたくせに…
私は内心イライラしながらそう思っていた。
「でも、さっき言ったのは、そういう事じゃないよ。
奏、本当に変わって来たと思う」
突然、茜ちゃんは真顔になってそう言った。
これには私も驚いて、ちゃんと答えようと思ったが、
「そう…なのかな…」
私には思い当たる節がなく、むしろ、先日優斗君が倒れた時に自分の無力さを痛感したばかりだったため、返事が言い淀んでしまった。
「そうだよ。
前よりも、感情を素直に出すようになったし、それに、強くなった」
「……私はそうは思えないな…。
確かに、前よりも色々敏感に感じる気はするけど…」
私は自分の感じるものを素直に答えてみた。
「それは、絶対に優斗のせいだね。
あ、変な意味じゃなくてね。
良い意味で、だから」
茜ちゃんはちょっと慌てながら付け加えていた。
その言葉は、本当かどうかはわからないけれど、とても嬉しく感じた。
「優斗君のおかげかぁ…。
本当にそうだったら良いなぁ…」
私ははにかみながらそう言って、お風呂に顔を浸けた。
優斗君のことを考えたせいでさっきの事を思い出したからだ。
現在、私達はお風呂に浸かっている。
優斗君の熱が下がり、ひと安心したため、自分たちの汗を流してから寝ようということになったのだ。
この家のお風呂は、古い割りには広く、浴槽が木でできていた。
風呂場を見るなり、茜ちゃんが大声で、
「檜じゃん!」
と言い出したのには驚いた。
直ぐ様浴槽にたまった埃を洗い流し、お風呂を沸かし出したが、さすがに古いだけあって、風呂が沸くまでかなりの時間がかかる。
なので、先に食事をとる事にした。
「じゃぁ、おじいさんのところに、手伝いに行こうよ」
「うん、それがいいかもね。
でも、奏は着替えてきた方がいいよ。
それだと、さすがに風邪引くし、ちょっと目のやり場に困るから…」
そう言われて、自分の胸元を見ると、
「きゃっ!」
あまりの痴態に、恥ずかしくなって悲鳴をあげてしまった。
前の部分だけ胸からズボンの股にかけて、びしょ濡れになり、下着が透けて見えていた。
慌てて手で隠すがもう遅いと悟る。
「それに気づかないなんて、さすが奏だよ。
ほんと、優斗がここにいなくてよかったね」
私は、熱い顔を全力で縦に振った。
「とりあえず、着替えておいで。
私は先におじいさんのところに行ってるから」
首を縦に下げ、荷物のある部屋に向かう。
ここで、1つの問題点に気づいた。
リュックサック…、優斗君の寝ている部屋だ…
私はどうしようか迷ったが、恐らく優斗君は未だに眠ったままだろうと考え、サッと入ってすぐに着替えてしまう事にした。
うん、これなら大丈夫だよね…?
私は優斗君の寝ている部屋の前で、心を落ち着けた。
下着はリュックサックの底、ショートパンツは左側、シャツは右側の奥…
服のしまってある場所を思いだし、心の準備を完了した。
よし、いける…!
そして私は、扉を開けた。
自分のリュックサックを確認し、静かに近寄る。
あった…!
先ほど確認した場所に、服は全てしまってあり、すぐに取り出すことができた。
よし、あとは着替えるだけ…
私はこのとき頭が回っていると思っていた。
けど、後から思い返すと、浅はかな、そして、致命的な考えだった。
何故思いつかなかったのだろう。
服だけ持って、別の部屋で着替えるという事を…。
下をサッと脱いだ私は、シャツに手を伸ばし、脱ごうとした、その瞬間…、
優斗君と目があった…。
「き…、きゃぁぁぁーーー!!!」
「おふッ」
私は手にしていた服を全力で投げつけた。
「優斗君、こっち見ないで!!」
「は、はい」
優斗君が顔を隠している間に全速力で着替える。
その間にも私の体温が、急激に上昇しているのがわかった。
優斗君に見られちゃったよー…
私は半泣きの状態でようやく着替え終わった瞬間、
「まッ…、違ッ…!」
何事かを叫ぼうとした優斗君と目があってしまった。
どれくらいの時間が過ぎたかわからないが、私達は互いに目をそらせずにいた。
私は思考停止寸前まで追い込まれ、倒れてしまいそうになった時、救世主ちゃんが現れた。
「……何やってんの、あんた達」
茜ちゃんは手に食べ物を持って、部屋にやって来た。
「あ、茜ちゃーん」
うわーんと、私は茜ちゃんに抱きついた。
「ちょ、ちょっと、奏。
いったい何なわけ?」
二人は私が落ち着くまで待ってくれて、その後、4人で茶の間へ行き、食事をとりながらさっき起きた事を茜ちゃんに説明する。
それを聞いた茜ちゃんは、大笑いして、私をからかってきた。
そこに、蒼ちゃんまで参加し、私と優斗君はひたすらそれに耐え続けた。
食事が終わる頃には、私はかなりいじけていたが、
「はい、じゃぁ、お風呂入ろうね~」
と、茜ちゃんに無理矢理連行されてきたという事である。
初めは二人とも無言で、体を洗い流し、風呂に浸かった後も静かだった。
それに耐えかねてかはわからないが、茜ちゃんが先ほどの、私が変わった発言をしてきて今に至るのである。
確かに…、
優斗君に見られたのは嫌じゃなかったけど…
そう考えた瞬間、お風呂に浸けていた顔が真っ赤になるのを感じた。
何考えてるの、私…?
今の考えを消すために、お湯でバシャバシャっと顔を洗った。
その行動を見ていた茜ちゃんが、どうしたの?っと尋ねて来る。
私はすぐに手を止めて何でもないと答えた。
「それにしても、あの中で何があったのかな…」
すぐに、“あの中”が“公民館”を指していることがわかった。
「お風呂から上がったら、聞こうよ。
優斗君なら、ちゃんと教えてくれるよ」
「……そうだね」
私の言葉に、茜ちゃんは優しい顔で返してくれた。
やっぱり、茜ちゃんも優斗君の事…
自分からは聞くことができないでいる疑問が、私の頭の片隅に残る。
もしそうなら、自分から話してくれるよね…?
私はとても身勝手な信頼を、茜ちゃんに押し付ける。
それは、とても酷い事だと気づいていながら…。
そして、私達は優斗君から公民館で何があったかを聞くために、お風呂から上がることにした。
二人とも、何も言い出せないままで…。
読んでお気づきの通り、葬儀をやる前までのお話しです。(勿論、わかって頂けましたよね?^_^;)
とりあえず、自分の中の奏ちゃん像をイメージして書いてみました。
お楽しみ頂けたら幸いです。
誤字・脱字報告頂けましたら恐縮です。
では、また(@^^)/~~~




