表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/29

名前…/自分…

俺達三人は病院を出発し、二人が話していた公民館へ行くことにした。


「本当に二人はついてきてよかったの?

俺と一緒にいたら、もっと危ない目に遭うよ」


俺はさっきまで話し合っていた(二人を説得していた)事を、もう一度だけ口にしてみる。


「いいんだよ。

私達がついていくって決めたんだから、坂倉は何も気にしなくていいの」


「お邪魔じゃなければ…。

それとも、優斗君は私達が一緒でご迷惑でしたか?」


ずるい…


さっきもそうだが、俺は奏のこの捨てられた仔犬のような目にやられてしまった。

これをやられては、何も返せない。

本人に自覚はないようで、だからこそ効果は抜群だ。


そんな言い返せなくなっている俺に、小林と蒼華はニヤリと勝ち誇っていた。


く、くそ…


このアウェイはどうしたことか、完全に多数決の原理でやられている。


いや、俺は男だ…!


ここは危険なんだから、ビシッと言ってやる…!


そう考えて、向き直った俺は言ってやった。


「いや、邪魔なんかじゃないよ。

むしろ、嬉しいくらいだよ」


はい、私はへたれです。

後ろでニヤニヤしてる二人の目が鬱陶しい。

そして、声をかけられた本人は、とても嬉しそうにしている。


「ありがとう」


くッ、笑顔が眩しい…


そんな俺達を見て、二人は白けた視線を送ってきた。


「はい、ピンクの異空間作ってないで、先行くよ…」


チッ、リア充爆発しろ…!


何故、(あお)(小林が命名、曰く呼びにくい)がそんな言葉を知っているかはおいといて、俺と奏は全力で否定する。


「そんなの作ってない!」 「そんなの作ってないよ!」


「「あっ」」


うん、見事にあっまでハモった。


余計に白けた目で二人が見てくるが、気まずさのあまり互いにそっぽを向く。

呆れた小林が、ため息をついて歩き出す。


「置いてくよ」


「ま、待って、茜ちゃん」


慌てた奏が小林を追いかける。

そんな二人の後を、俺と蒼が続く。


なかなかにおモテになりますね、旦那…


うっせ…


ニヤニヤとちゃかしてくる蒼に悪態をついて、前の二人へ歩み寄る。


日がくれて、歩くのは危険と判断した俺達は、川沿いで二つのワンタッチテントを張ることにした。

公民館への道は、そこまで遠くない。

だが、泥の襲撃を警戒している俺達は、川沿いに進んでいるため、どうしても回り道になる。

公民館へたどり着くまでの日数は、最短で三日といったところだろう。


これは余談だが、夜は蒼が見張ってくれている。

通常、蒼は睡眠が必要ないらしく、泥が近づいてくるのを感じとれるため、役割としてはうってつけだそうだ。

ただ、俺が蒼を起動すると、大量のエネルギーを消費するため、少しの休眠が必要になるそうだ。

この辺りのメカニズムはよくわからないが、化け物に襲われた後は、見張りを女子二人に任せざるを負えないようだ。


話がそれたが、とりあえず、公民館まで時間がかかるということだ。

今は食事をとりながら、雑談していた。


「前回、公民館から病院にたどり着くまで、まるまる1週間かかったよね」


「うん、あのときは本当に疲れたし、怖かった」


小林の言葉に、奏が同意する。


「俺は川に流されて、1日でついたけどな。

にしても、あのときはよく生きてたよな、俺」


あ、それ助けたの私…


「………ッ!」


今更知った真実に、俺は驚愕する。


やり方はいろいろあるんだよ、いろいろ、フフフ…


うん、命の恩人 (?)はめっちゃ悪どい顔で笑ってる。


「蒼ちゃんは凄いね」


いえいえ、それほどでもあるよ…


奏の称賛に嬉しそうにしている。


「まぁ、なんにせよ、助けてくれてありがとな」


どういたしまして…


蒼は俺の謝辞を素直に受け取った。


「そういえば、坂倉って、なんで私は苗字で、奏は名前呼びなの?」


小林の唐突な切り出しに、俺は言葉を詰まらせる。


私も聞きたいなぁ…♪


ニヤニヤしながら蒼が煽ってきた。

若干むかつく。


「そ、それは、なんとなくだよ、なんとなく」


苦しい…


俺の思考が読める蒼はますますニヤニヤを増していく。


「ふーん、なんとなくねぇ」


小林がちらっと奏の方を見た。

それにつられて俺も目線が動く。

そこには耳まで真っ赤になってる女の子がいた。


やっちまった…


見なきゃよかったと後悔する俺に、小林は命令してきた。


「じゃぁ、私のことも名前で呼んで、こっちも名前で呼ぶから」


その命令に俺は逆らうことができず、素直に承諾する。


「改めてよろしく、茜、奏、蒼」


「こっちもね、優斗」


「私もよろしくお願いします、優斗君」


うん、よろしく~…♪


改めて挨拶をした俺達は、食事も終えて、その日は休む事にした。

因みに、テントは男女別々となり、必然的に一人になった俺は、若干寂しさを感じながら眠りについた。

寝る間際に、


大丈夫、優斗には私がついてるよ、フフフ…


という声が聞こえた気がしたが、俺は無視するように意識をたった。


▼▼▼


私は激しく動揺していた。

何故自分はあんなことを言い出したんだろう。

それが自分でもわからずにいるのだ。


「あぁもう、なんなのよ…」


私は今、川辺にいる。

奏を起こさないように、こっそりテントから抜け出してきた。

それは、先程の会話のせいで眠れなくなってしまったからである。


茜っち…


不意に、名前を呼ばれて、慌てて振り返る。

そこにいたのは、やはり蒼だった。


「蒼…」


声をかけると、蒼は私の鼻先に飛んできた。


みんなから離れると危ないよ…


「あ…」


蒼は、自分を心配して来てくれたのだ。


「ごめん」


素直に謝ると、いえいえと返してくれた。


こんなところで何してたの…?


「ちょっと眠れなくて…」


そうですか…


私たち二人の間には、沈黙が訪れた。

静かな夜、虫の鳴き声すら聞こえず、月明かりに照らされた蒼は幻想的に思えた。


そんなにじっと見られると、恥ずかしいな…


「あ、ご、ごめん」


あやまってばっかだね~…


フフフと、二人で笑った。

少し間をおいて、蒼がもう一度尋ねてきた。


本当に、こんなところで何してたの…?


私はなんと答えようか、少し考える。

だが、私が答える前に、蒼が言葉を発した。


優斗のこと…?


びくりっと自分の体が震えるのがわかった。


「私の心を読んだの…?」


私は少し蒼に対して、恐怖心が芽生えそうになっていた。

しかし、蒼は首を横に振って、答えた。


私は心を読めるんじゃない…

私と深く繋がっている優斗の声が聞こえてくるだけ…


「なるほど」


私は自分の中で納得したことで、蒼への恐怖心は霧散した。


「じゃぁ、なんで私が優斗のことを考えてると思ったの?」


今度は、私が問う。

蒼はすぐに答えてくれた。


優斗は優しいからね…


その言葉で、半分わかった気がしたが、半分はわからなかった。


「なんで、優斗が優しいと私が優斗のことを考えてると思うの?」


それは、蒼の言葉をほとんど肯定しているのだと、自分でもわかっていた。

だが、私はそれを聞かずにはいられなかった。


茜は優斗のこと気になってるでしょ…?

じゃなきゃ、名前で呼んでなんて言わないもん…


蒼は優しい顔でそう答えてくれた。


「……だめなんだよ」


………?


私の呟きは、蒼に伝わらなかったようだ。

私は蒼にもわかるように、言葉を付け足す。


「優斗には、奏がいる。

奏にも、優斗がいる。


私は、二人の邪魔をしちゃいけない。

私は、奏が大切だから…」


私の声はだんだんと小さくなっていくのが自分でもわかった。

蒼は、私の周りを飛び回り、笑いながらこう言った。


考えすぎだよ…

私にはわかる…

優斗は確かに奏を大切に思ってる…

でも、茜のこともちゃんと護ろうとしてる…

どっちも同じくらい大切に…

だから、茜は自分に正直にしていればいいんだよ…

今日の夕飯のときみたいにね…


そう言った蒼は、いたずらっぽくウインクをした。

私は、ぽかんとしたまま、数瞬、固まってしまった。


「………ぷっ、あははははは」


私は、思いっきり笑ってしまった。

今度は、蒼が呆然としている。


「…ふぅ」


しばらく、笑った後、一息ついた私は、蒼に向き直った。


「蒼も優しいね。

でも、多分、蒼が思ってるのとは少し違うよ。

私はね、優斗に、ううん、奏に憧れてるだけだと思う。

だって、二人は、まるで物語りに出てくる勇者とお姫様みたいなんだもん。

そんな二人に、ただいいなぁと思ってるだけなんだと思う」


私は、自分の気持ちを語り終えると、とてもすっきりした気分になれた。


うん、間違ってない。これが私の気持ちだ…


何も言わずに聞いていた蒼は、静かに口を開いた。


茜がそう言うなら、私はそれでもいいけど…

もし、本当に優斗を好きになって、奏に譲ったりしたら、それはむしろ、二人に失礼だからね…

ちゃんと気持ちを伝えて、向き合わなきゃだめだよ…


「蒼はお姉さんだね」


私の返しに、蒼が笑顔でそうなのですと答えた。


蒼と話すことができてよかった…


そう思った私は、蒼に向き直りお礼を述べる。


「ありがとう」


フフフ、どういたしまして…


言葉を交わした私たちは、顔を見合わせて笑った後、テントへと戻る。


うん、私はちゃんと私のままでいられる…


こう思えることを、私の前を照らしながら飛んでいる蒼に、こっそりと感謝した…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ