絶望…/優斗君…
「女性と子ども、病人、怪我人はシェルターへの避難誘導、男性は用意してあるホースをもって入口へ集まってくれ」
医者の指示に各自素早く動いていく。
「俺も入口へ行きます!」
「あぁ、お願いするよ」
奴らを迎え撃つため、俺は入口へ駆け出す。
もうイメージしておいた方がいいよ…
「わかった。それなら走りながらでも何とかなると思うしな」
俺はできるだけ具体的にイメージを開始する。
護りたい…
あの女の子の笑顔を…
向井さん、小林さんを…
看護婦さんや医者、皆を…
護りたい…!
いい感じに集中できてるよ、そのままもっとイメージして…
俺のイメージの高まりに、蒼華が更なる集中を促す。そして俺は、そのまま入口へと向かう。
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「私達も行こ!」
このフロアの避難誘導を終えた茜ちゃんが突然言い出した。
「茜ちゃん、行くって、まさか」
「決まってるじゃん。
私達が水に弱いかもしれないって言ったんだよ。
私達が見届けなきゃ。
それに坂倉君を放っておけない。
彼、もし水が効かなかったとき、皆が避難しきるまで一人で何とかするつもりだと思う」
茜ちゃんの意見はその通りだと思う。
けれど、その反面、私達が行っては却って邪魔になるのではと考えた私は何とか茜ちゃんを説得する。
「でも、私達が行ったら邪魔になっちゃうんじゃ…」
「怖いなら、奏は避難していいんだよ?
私一人でも行くから」
そう言って、茜ちゃんは入口へ駆け出していく。
「ま、待ってよ、茜ちゃん」
私も茜ちゃんを追って入口へ向かう。
ごめん、坂倉君、蒼華ちゃん…
説得するどころか、結局自分もそこへ向かってしまっている現状を、今戦っているであろう二人へ謝罪する。
何で私はいつもこうなんだろう…
自分の意志の弱さに腹立たしく思いながら、今はそんな場合ではないと必至に茜ちゃんの後を走っていく。
▼
俺は、泥に水が効かなかったときのことを考え、集まった人の先頭に陣取っていたが、杞憂に終わった。
「これなら大丈夫そうだな」
だね…
けど、気は抜かない方がいいよ…
蒼華の助言に、俺はきを引き締め直した。
だが、あまり必要はないと感じていた。
男たちが手にしている極太のホースから発射されている水は、泥たちをどんどん溶かしていく。
たまに当てそこねたり、間に合わなかったものを俺が斬っていくだけで、みるみる数が減っていく。
まぁ、これなら大丈夫だろ…
俺がそう思ったとき、そいつが現れた。
「な、なんだよお前!
おい、そいつに近づくな、食われるぞ!!」
そう誰かが叫んだ。
そこにいたのは、俺と同じくらいの背丈のやつだ。
その人物は漆黒の布を頭から被っており、顔が見えないので、男か女かもわからない。
黒いやつは泥へと近づき、不意に手を前にかざすと、紅い光が泥を包む。
「おい、なにやって…!」
黒いやつの行動を止めようとした男の人は、最後まで言葉を発する事が出来なかった。
彼の胴体が、下半身から吹き飛ばされ、宙を舞っている。
誰も声を出すことが出来なかった。
何が起きたのか理解できない。
だが、事態は待ってくれない。
紅い光を取り込み、全体が紅くなった泥が、他の人に近づいていく。
「……げろ。
…逃げろ。
逃げろッ!!」
俺は、力を振り絞って叫び、泥が近づいている人へ逃げるよう促す。
だが、恐怖で指一本動かす事ができなくなっている男性を見て、そちらへ全力で走り出す。
それも間に合わず、男性の頭が宙を舞う。
「……ッ!くっそーーーッッッ!!!」
今度は何が起こったか見えた。
紅い泥が恐ろしい速度で一部を薄く伸ばし、刃物のように人を切断したのだ。
落ち着いて、優斗…!
目の前で起こった惨事に、俺は怒りや恐怖で頭がいっぱいになっていた。
「うおぉぉぉぉーーーー!!!」
ドガァッ!!
そのままの勢いで斬りかかろうとした俺を、花弁の1枚が体当たりで突き飛ばしてきた。
俺は吹っ飛ばされる瞬間、紅い泥が俺のいた空間を通過しているのが見えた。
ズザぁぁァァ……
俺は着地出来ずそのまま地面に転がる。
あのまま突っ込んでたら…
俺は自分の想像に、身震いをした。
「ありがとう、蒼華」
………か…
蒼華の様子が変だ。
花弁は俺を護るように、俺と紅い泥の間を動かないが、珠だけが俺の方に近づいている。
さっきの衝撃で、剣もいつのまにか花弁に戻っていたようだ。
「……蒼華?」
呼び掛けた俺に蒼華は…
馬鹿優斗ーーーーー…!!
盛大に怒鳴り付けてきた。
君が死んじゃったら、私はどうしたらいいの…?
また、一人で誰かが現れるの待ってるの…?
寂しいんだよ独りは…
もう止めてよ…
泣きそうな声で蒼華がそう言った。
俺は蒼い珠を掌で包み込む。
「ごめん」
全く、今度やったら承知しないから…
俺の謝罪に、蒼華は許しをくれた。
お陰で頭が冷えた。
紅い泥は今もこちらへ近づいてはいるが、移動はそんなに速くない。
いつのまにか黒いやつも消えている。
どんだけ頭に血がのぼってんだよ…
自分で自分を一喝する。
「医者!!
皆を紅いやつに近づけさせないで!!
こいつは俺が何とかするから!!」
俺は大声でそう指示をすると、すぐさま泥と向かい合う。
こいつにはあれしかない…
だね…
俺の思考を読み取った蒼華が同意してくれた。
俺は集中を高めイメージする。
護りたい…
ここにいる皆を…
こいつから護りたい…!!
今までよりずっと多くの蒼い光が俺から溢れている。それを蒼華が吸収し、剣となった。
だが、そこでは集中を止めない。
剣を左下に引いて構える。
剣がどんどん光を集めていく。
今できうる限界まで高め、いけると感じた瞬間、それが聞こえた。
[滑稽だね…]
紅い泥から口が現れ、言葉を発した。
「なッ…!」
突然のことに、俺は集中を乱す。
惑わされないで…!
蒼華の言葉に、もう一度集中を試みる。
だが、紅い泥は構わずしゃべりかけてくる。
[君は自分が回りを護って、ヒーローにでもなったつもりかい?]
「……ッ!」
俺は泥の言葉に動揺を隠せない。
別にそうなりたいわけではない。
それは事実ではあるが、人を助けていることへの自己欺瞞がないわけではない。
俺の動揺に構わず紅い泥は続ける。
[本当の理由を知りたくないかい?
何故ここが何度も襲われるのかを?]
嫌だ、聞きたくない…
俺は、剣を手放し耳を塞ぐ。
[もうわかったよね、本当の理由。
それはね…]
嫌だ、やめろ…
紅い泥はニヤニヤと醜悪な面持ちで言った。
[君がいるからだよ]
その言葉は、俺の心壊した。
「あ、あぁあああっぁぁぁぁぁぁ゛ぁ゛」
悲痛な叫びが木霊する。
[そこにいる人も、その人も、前に死んだ人も、みんな、君のせいなんだよ]
「うわぁあぁっぁぁぁぁぁ!!」
優斗…!
気をしっかりもって…!
優斗…!
蒼華の呼びかけも虚しく、俺には届かない。
そこに、俺の頭に空き缶が飛んできた。
「ふざけんな!
お前のせいでみんな死んじまったんじゃねぇか!!
何が護るだ、この疫病神!!」
あのヤンキーが、俺に罵声を浴びせる。
それをきっかけに、次々と罵声が飛んできた。
みんな、こんな状況にストレスも限界だったのだろう。
そこに、こんな状況を作り出した元凶がいるのだ。
これが、当然の成行だろう。
「家族を返せ!!」
「お前なんか死んじまえ!!」
「みんなお前のせいだ!!」
次々に浴びせられる罵声を、俺はひたすら聞き続けた。
中には、医者やおっちゃんのように止める人もいるが、一向に止まらない。
その間、紅い泥はニヤニヤとしたまま、動く気配がない。
まるで、この状況を楽しんでいるようだ。
いや、本当にその通りなのだろう。
全部俺のせい…
院長や多くの人が死んだのは…
一弥がいなくなったのも…
全部俺のせい…
そこで、思考が停止した。
蒼華の必至の叫びも全く聞こえない。
もういいや、なんでも…
俺は、剣をもって紅い泥に突っ込んだ。
ニヤニヤした泥はわざと俺に解るように、ゆっくりと刃物とかした泥で俺を刺しに来た。
あぁ、これで死ぬのか…
まぁ、いっか…
どうでもいい…
俺の体は泥に貫かれる。
はずだった…
「……ッ!何で…」
俺が見たのは、俺を横から突き飛ばし、俺の代わりに泥に突き刺さる向井さんだった。
▼
入口についた私達が目にしたのは、剣を手放し、罵声を浴び続けている坂倉君だった。
「何でこんな…」
みんな、狂気にかられ、すべてを坂倉君に押し付けている。
そんな分けない…
坂倉君が悪い分けない…
全部、あの化け物のせいじゃないか…
私は自分でも気づかないうちに叫んでいた。
「止めてくださいっ!
坂倉君は何も悪くありませんっ!!」
私の声に驚いていた茜ちゃんも、私に加勢してくれた。
だが、罵声の嵐は一向に止まない。
私は自分の喉が痛くなるほど叫び続けた。
不意に、みんなの様子が変わった。
その方向を見ると、坂倉君が力ないまま剣を拾っている。
私は全身にとてつもない悪寒が走った。
駄目っ…!!
そう考えた瞬間には、体が勝手に動き出していた。
「駄目っ!優斗君!!」
どんっ!
私の力でも、今の坂倉君は簡単に突き飛ばすことができた。
だが、次の瞬間…
ドスッ!
私のお腹を何かが貫き、痛みよりも熱いという感覚が全身に走る。
あ…
私はその瞬間、自分の“死”を悟った…。
▼
シュッ!
泥が引き抜かれ、向井さんは倒れこむ。
俺はすがり付くように、向井さんを抱き締める。
「…コホッ。…よかっ…た」
「あぁ、あぁあああ」
狼狽する俺に、向井さんは声をかけてくる。
「…ち…がうよ。
優斗君の…せいじゃ…ない…よ。
優斗君は…みんなを…護ろうと…必至…だった…だけ。
だ…から…自分を…責め…ないで」
口からも、貫かれた腹部からも血があふれでている。
にもかかわらず、向井さんは言葉を止めない。
「私ね…、ずっと…怖かったんだ…。
こんな…世界になって…あんなのが…出てきて…すっごく…こわ…かった…。
で…もね…、女の子を…助け…る…優…斗君を…見て…、この人は…私の…ヒーローだって…思ったんだ。
優斗君は…ヒーロー…だから…、負けちゃ…だめ…なんだから…」
「もう、もういいから、もうしゃべんなくていいから!!」
俺の必至の声も、もう彼女には聞こえていなかった。
「ごめん…ね…、もう…何も…感じ…ないや…。
もう…一度…、見た…かった…な。
私の…ヒー…ロー」
「嫌だ。やめろ。逝くな、まだ逝くなよ!!」
俺の声に意味はない…。
向井さんはそこで声も出せなくなったが、まだ俺に何かを伝えようと口を動かしている。
「嫌だ…。嫌だぁァァッ!!」
その瞬間、俺の中で、何かが産まれた…。
書いてて自分で熱くなってしまった…
早く続き読みたい…
そう思っていただける方がいたらいいなと思う今日この頃でした。
誤字・脱字ありましたら、ご報告いただけると恐縮です。
では(@^^)/~~~




